最終話 奇跡を信じているだろうか?
夏休み最後の週となった。
彼女のおかげで例年通り宿題と格闘することもな買った僕は彼女に会えると思って何回か山の広間に行ってみた。
けど彼女には会えなかった、別に約束していた訳でもないので仕方ないのだが僕は少しの不安を抱え日々を過ごしていた。
そして夏休み最後の日となった時彼女が山の広間に現れた。
「こんにちは、桜田君」
「こ、こんにちは雪村さん」
「隣いい?」
「う、うん」
「ありがとう」
「そ、そういえば最近ここに来てなかったけど何か用事でもあったの?」
「いいえ、特になかったわ」
「えっとじゃあさ今から映画でも見に行かない?最近公開したやつ気になってたんだ」
「行かないわ」
「え、えっと…」
「今日はお別れを言いにきたの」
「それってどういうこと?」
「そのままの意味よ」
「引越しでもするの?」
「違うわ」
「じゃあ、どういう意味なの?」
「私、今日死ぬの」
「えっ」
彼女が何を言っているのか分からなかった、死ぬ?彼女が?どうして?
「な、なんで雪村さんが死ぬの?」
「ここから飛び降りるからよ」
「な、え、どうして?」
「ただの罪滅ぼしよ」
「罪って…雪村さん何もしてないじゃないか」
「ううん、私は人を殺したの」
また意味が分からなかった、殺した?誰を?
「こ、殺したってそんな雪村さんがなんで」
「私が臆病だったから」
「雪村さん意味が分からないよ、殺したって言うけど誰を殺したんだよ」
「須藤朱音」
須藤…朱音?って誰だ?…いや待てよ須藤ってまさか…。
「雪村さんの親友の?」
「あら、知ってたの」
「前に岡部さんから少し聞いただけだけど」
「そっか岡部から聞いたのね、まあ説明する手間が省けたわ」
「いや、分からないよ雪村さん、雪村さんと須藤さんは親友じゃなかったの?」
「そうよ親友だったわ、小学校からずっと一緒だった」
「ならどうして?」
「言ったでしょう、私が臆病だったから彼女を見殺しにしたの」
「朱音はね今から3年前中学1年生の時、校舎の屋上から飛び降りて自殺したわ、理由は同級生によるイジメ」
「入学当初気の弱かった私がイジメを受けているのを助けてくれたの、でもそのせいで今度は朱音がいじめられるようになってしまったわ」
「それは一学期中ずっと続いたわ、私は心配で何度も大丈夫?って聞いたわでもいつも朱音は平気そうに笑っていたわ」
「それで馬鹿だった私は大丈夫なんだと思い込んでいたわ、そんなはずないのにね」
「そして夏休みに入りイジメは止まったように見えたの、私たちは何度も遊んで、私は楽しい夏休みをすごした気になっていたわ」
「でも全然違った、夏休みの間もイジメは続いていたの、それに先生の目がないのをいいことにさらに激化していたそうよ」
「そして3年前の8月31日の夜朱音からメールがあったわ「今から少し話せない?」って私はこう返信したわ「明日から朝早いしもう寝るわ、明日学校で話そう」ってそれが朱音からの最初で最後のSOSなんてことに気づかずにね」
「そして朝登校した時には朱音は飛び降りて死んでいたわ」
「親友だったのに朱音のことなんにも分かってなかった!朱音に何回も大丈夫って聞いておきながら本当に朱音が助けて欲しい時気づいてあげられなかった!私のせいでイジメられたのに、朱音は助けてくれたのに私はなんにもできなかった!」
「…朱音は私が殺したのよ」
彼女は出会ってから1番悲しそうな顔をていた。
「違うよ、雪村さんは悪くないよ!悪いのはイジメてた奴らじゃないか!」
「黙って見てるのだって同罪よ、それにイジメられた原因は私にあるのだもの、だから私は3年前朱音が死んだ日今日、死ぬのよ」
そう言って彼女が崖へと歩いてゆくそして申し訳程度のロープを越えて止まる。
「だ、駄目だよ雪村さん!」
駆け寄ろうとすると
「来ないで!それ以上来たら飛ぶわよ」
そんなこと言われたら止まらずにはいられない。
「待ってよ、雪村さん考え直して、須藤さんだってこんなこと望んでないよ」
「あったことも無いくせに朱音の何がわかるのよ!」
「や、やっぱり死ぬのは間違ってるよ、雪村さんが須藤さんの分まで生きなきゃ」
「そんなのただの綺麗事よ、他の人の分まで生きられる訳ないじゃない」
「で、でも…」
言葉が出てこない、僕には彼女を引き止めるだけの力がない。
やっぱり僕なんかじゃ駄目なんだ…。
自分すら信じることの出来ない僕に彼女を変えることなんて出来るはずがない…。
でも…それでも…僕にだって1つぐらいは信じることの出来るものがあるんだ!
「僕が!雪村さんに死んで欲しくないんだ!」
「僕はずっと自分のことも信じることが出来なかった、どうせ僕なんかがやっても上手くいくはずないだろって、そうやってずっと逃げてばっかりだったんだ!」
「でも、雪村さんは違った、皆見て見ぬふりする中で1人だけでも立ち向かって行って本当にすごいと思った、主人公みたいだと思った。」
「雪村さんがいてくれたから僕も少しずつ変わることができた、雪村さんだったから僕はあの時走り出せた、雪村さんと出会えたから僕はあの星空に向かって飛ぶことが出来たんだ。」
「雪村さんが僕を変えたんだ!」
「僕は雪村さんが好きなんだ!」
「だから、だからさ…死なないでよ!」
俯いているといつの間にか涙が頬を伝っていた、それは地面に落ち、弾けて無くなった。
「ありがとう、私もあなたの過ごしたこの夏休みとても楽しかったわ」
「…でもごめんなさい、もう決めていたことだから」
「さよなら」
彼女は笑う、とてもとても悲しそうに。
「待って雪村さん!!」
彼女の長い髪はまるで羽のように広がり、彼女は落ちてゆく。
駆け出し、飛ぶ。彼女の手をとるために。
顔にかかる圧に耐えながら彼女を見る、驚いた顔をする彼女の手をとり、引き寄せる。
「絶対、絶対死なせないから!大丈夫だから!」
「ごめんなさい桜田君…あなたまで巻き込んでしまってでもありがとう…」
優しい笑顔だった。
彼女を抱きしめるながら思う。
あぁ…まるで空を飛んでいるみたいだ…。
奇跡を信じているだろうか?
僕は信じている。
奇跡 理不尽な猫 @RioARIA
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