第4話 過去と花火と成長と
お盆は親戚の家に行ったり、お墓参りといった例年通りのお盆だった、だけどお盆が過ぎてから僕は彼女を今度の土曜日に開催されるこの町の花火大会に誘うと心の中で決意を決めていた。
二人の集合場所になり始めている山の広間に行くとやっぱり彼女はそこで景色を眺めていた。
「こんにちは、雪村さん」
「こんにちは、桜田君」
と笑いかける彼女に少し鼓動が早くなるのを感じながら隣に座る。
「雪村さんはお盆どうしてたの?僕は親戚の家に行ったりしてたけど」
「私もそんなに特別なことはしていないわ、親戚に挨拶したりとか桜田君と同じよ」
「でも雪村さんの親戚ってなんだか凄そうだね、お金持ちばっかりだったりして」
「そんなことないわ、普通よ。それより宿題は終わったの?」
「あと少しだよ」
「また見てあげましょうか?」
「あと少しだし大丈夫だよ、はは」
この前のことを思い出しつつ苦笑する、そんな僕を不思議そうな顔をしている彼女に本題を切り出す。
「あのさ、今度の土曜日って暇かな?」
「特に予定はないけどどうして?」
「夜に花火大会があるんだけど一緒に行けないかなって」
「私と?」
「う、うん」
やっぱりダメだろうか、普通に考えたら彼氏でもない男と二人っきりで花火大会ってのもおかしいんだけど。
「わかったわ、その日は空けておくわ」
「ほんと?ありがとう!」
馬鹿みたいに喜ぶ僕をまた彼女は不思議そうな顔で見ていた。
そしてその日はたわいもない話しかしていなかったけどドキドキしていた。僕は花火大会が楽しみで仕方なかった。
そしてまたベッドで考えを巡らせる、どうして彼女を花火大会に誘いたかったのか、何故ドキドキするのかでも答えが出ないうちに 今日もまた眠りにつく。
そして約束の夜がきた。
山の広間に浴衣を着た彼女がいた。水玉模様の浴衣にいつものロングヘアーを後ろ髪にまとめていた。
「こんばんは、雪村さん」
「こんばんは、桜田君」
いつものように笑いかけてくる彼女は普段より魅力的に感じた僕は思わず顔を逸らしてしまう。
「い、行こうか」
「ええ」
花火大会は僕達がいる場所の反対側にある神社の周りで行われていて、この山が1年で1番盛上がる日だ。
神社に続く山道を数分歩くと人々と屋台で盛りあがっている祭りの会場に着いた。
「この前勉強教えて貰ったお礼に何か奢るよ」
「いいわ、そんなの悪いわ」
「そんなこと言わずにさ、僕がしたいだけなんだから」
「そう、ならりんごあめ買ってもらってもいい?」
「もちろん、すいませんひとつ下さい」
「はいよ、400円ね」
屋台のおじさんに400円を渡し変わりにりんごあめを受け取る。
「はい」
「ありがとう」
りんごあめを受け取ると彼女は嬉しそうにペロペロと舐めていた。
それから僕達は色んな屋台を巡ったり、少し休んで雑談したりした、そうしているうちに花火が上がる時間になった。
基本的に花火を見る人は神社に続く石段の所かその下の専用スペースで見る人が多いだけど僕達は少し遠くなるけど人のいない神社の境内で見ることにした。
賽銭箱の手前で二人して並んで座る。
まさか女の子と並んで花火を見る日がくるなんて想像もしていなかった。
「実は花火大会来るの久しぶりなんだよね、毎年やってるけど最近はちゃんと見てなかったから。雪村さんは毎年行ってる感じ?」
「ううん、3年ぶりかな」
「そっか、でもお祭りっていいよね、人は多いけどすごく楽しいし」
「そうね」
突然夜空にヒューという音とともに光の線が上る、そして一瞬の静寂のあとに光の花が咲く。
それを合図に花火が一斉に上がり夜を照らしてゆく。
「すごいね、雪村さん」
隣いる彼女を見る。
彼女は光る夜空を目を輝かせて見ていた。
赤や緑、黄といった色に照らされる彼女の横顔を見た時気づいてしまった。
僕が彼女を見る時に心の端に現れるこの思い。
主人公みたいな彼女に憧れていたんだと思っていた、でもこの感情は幼い頃に抱いたものではなくて、僕がずっと答えを見ないようにしていたこれは。
僕は雪村さんのことが好きなんだと。
「どうしたの?」
彼女が僕の視線に気づく。
「いや、なんでも、ないよ」
思わず顔を逸らす、彼女の顔をまともに見れない、顔が熱くなるのを感じる。
「花火ってこんなに綺麗だったんだね」
「そうだね、すごく綺麗だ」
花火を見ながら気持ちを落ち着かせる。
それから30分程僕らは黙って花火を眺めた。
「花火久しぶりだったかしら、とてもすごく感じられたわ」
「そうだね」
彼女が境内に寝転んだ、僕もそれに習って寝転ぶ、そこには花火の変わりに星が並べられていた。
「夜空なんて真面目に見たのなんていつぶりだろ、こんなに綺麗だったんだね」
「ねぇこうして見ていると、星も掴めるような気がしない?私は思うわ」
彼女が夜空に手を伸ばしていた。
「そうだね…よしっ!」
勢いよく立ち上がると僕は助走をとる。
「ど、どうしたの?突然」
不思議そうに見つめる彼女の横を僕は駆け抜け、思いっきり蹴って空に飛ぶ。
1番光っている星に狙いを定め、まっすぐに手を伸ばし、最高点なった時に思っきり手を握る。
「あでっ」
上ばかり見ていたせいで着地に失敗し、尻もちを着く、そしてそのまま地面に寝転ぶ。
手を開くともちろんそこには何も無かった。
境内で彼女が驚いた顔をしていた。
「星が掴めるような気がしてさ」
「……ぷっ」
「あははははっ、何それ、あははっそれで飛んだの?ふふっほんと面白い」
彼女はいつか見た写真のように笑っていた、出会ってから初めて見た顔だったけどそれが彼女の本当の顔のような気がした。
それが嬉しくて僕も笑う。
「はははっ、あははっ」
夏休み前の僕ならこんなことしなかっただろうでも彼女といると本当に出来るような気がした。彼女が変えたんだ僕を。
「やっぱり雪村さんはすごいや」
「なんのこと?」
「ううん、なんでもないよ」
永遠に感じられた時間も終わりがくる、僕達は神社をあとにした。
彼女の家に着くと笑いながら言って
「今日は楽しかったわ、誘ってくれてありがとう」
「こっちこそ僕と一緒に行ってくれてありがとう」
「それじゃあ、おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
彼女が玄関に入るのを見送ってから、僕も帰ろうとした、時誰かに呼び止められた。
「桜田直之様ですね」
「えっと、そうですけど」
「お初にお目にかかります、私は雪村家に勤めさせていただいてる
し、執事!この世に実在していたなんて。
「そ、それで執事さんが僕に何の用ですか?」
「少しばかりお時間よろしいでしょうか?」
「は、はい」
「ありがとうございます。実は最近加奈様と仲良くしていただいているとお聞きしまして、そのお礼を申し上げたくこうして呼び止めさせていただきました。」
「いや、お礼だなんて、こちらこそ雪村さんには色々と助けていただいてますし」
「いえいえ、桜田様と知り合ってからというもの加奈様は大変楽しそうで、3年程前からずっと元気がなかったので私達も心配していたのですが最近は笑うようになって。本当にありがとうございます」
「そんなふうには見えなかったんですが雪村さんって3年前に何かあったんですか?」
「…実は3年程前雪村様の親友の須藤様が亡くなって以来ほとんど笑わなくなってしまわれて、亡くなった当時はお食事も取られないほどでした。」
「そう…だったんですね」
机の上に置いてあった写真を思い出す、彼女が時折見せる悲しそうな顔はこれが原因なのかもしれない。
「ですから桜田様には本当に感謝しています、これからも加奈様をどうかよろしくお願い致します」
「いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「では、私はこれで」
そう言うと岡部さんは邸に戻っていった。
帰り道僕の心はモヤモヤしていた、彼女が何も言ってくれなかったことが胸に引っかかっていた。
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