第2話 出会い再び

 それから三日後の昼前、僕が古本屋を出た時見覚えのある不良達が店と店の間の裏路地で怒鳴っていた。

 僕は前と同じように進む方向を変えようとした、そうさ、僕はこういう人間だ。

 そのはずだった。

 彼女だった、壁際で怒鳴っている不良を睨みつけていた。

 別に顔を見知りだとか、名前を知っているからとかそんな理由じゃないと思う、彼女が僕のクラスメイトだったとしても僕は見なかったことにしていただろう。

 だけど人間って言うのはどんな理屈や論理を並べても分からない突拍子もないことをしでかす、そう今みたいに。

 僕は50メートル走自己新記録を大きく塗り替えるようなスピードで不良に向かっていた。

「うわあああぁぁぁー!!」

 そんな奇声か叫び声か分からないような声を出す僕に不良が気づく。

 このまま不良の顔面にパンチを決めるはずだったけど、現実は漫画みたいにかっこよく決まらない、慣れない速さに僕の足はついて行かず足を絡ませて、不良の手前で勢いよく飛んだ、だけど僕の頭の着地点に不良の腹が重なり、結果的に頭突きをしたような形となった。

 不良を巻き込みながら、盛大にコケた僕はすぐに驚いた顔をしている彼女の手を引き反対方向に走り出す。

 打ちどころが良かったのか逃げる時にちらっと見た不良は腹を抱えて膝をついていた、周りの奴らも急な事態にオロオロしている。

 僕達は何回か角を曲がり、不良達をまいた、肩で息をしている僕に対して彼女は少し息が荒くしていただけだった。

「…大丈夫…だった?」

「ええ、ありがとう助けてくれて」

「そっか…それなら…よかった」

 ふぅ、と呼吸を整える、人間冷静になると色んなことに気づく、汗で服が背中にくっついていることや彼女の手を握ったままだということなど。

「あっ、ご、ご、ごめん雪村さん」

 慌てて手を離す。

「……」

 彼女が黙ったままさっきまで僕が握っていた手を見つめている、気を悪くさせたと思って、すぐさま謝る。

「ほんとごめん、僕なんかが手を握っちゃて、調子乗りすぎだよね」

「ううん、本当に助かったわ、ありがとう桜田君」

 彼女はそう言って僕に笑いかけてくれた、名前を言われたことにドキッとしたことは顔に出なかっただろうか。

「それじゃあ、私はもう行くわ」

 この時引き止めたいと思ったのは何故だろうか、その理由を見つける前に僕はこんなことを口走っていた。

「あ、あのお昼ご飯一緒に食べませんか?」


 どうしてこうなったのか、いや僕が誘ったんだけど、僕達は店員に案内された席で向かい合っていた。

「と、とりあえず注文決めようか」

 三枚折りになっているメニューを開く。

「雪村さんは何にする?」

「カルボナーラ」

「じゃあ僕は…オムレツにするよ」

 店員を呼んでカルボナーラとオムレツとドリンクバーを二つ頼んでセルフサービスのドリンクを取りに行く。

 僕はコーラを入れる、彼女は烏龍茶を入れて席に戻る。

 僕はこの沈黙にどう対処するかでいっぱいだったのだけど意外にも沈黙を破ったのは彼女よ方だった。

「この前」

「え?」

「山であった時、私もあなたも一緒みたいな話したでしょ」

「え、ああ、うん」

「訂正するわ」

「まぁ僕みたいなのが雪村さんと一緒な訳ないけど」

「違うのはあなたよ、あなたには人を助ける力があるから」

「そ、そんなことないよ、それに雪村さんの方がすごかったし僕のはたまたまって言うか偶然上手くいっただけだから」

「私のはただ見逃せば後悔するのが分かってたから、後悔したくなかっただけ、でもあなたはそんなこと考えずに助けてくれたそこが違うの」

 何か言おうとした時、料理が運ばれてきた、僕達はそれを食べながら当たり障りのない会話をして、ファミレスで別れた。


 宿題と格闘しているといつの間にかお盆前になっていた。

 僕は気分転換にお気に入りの本を持って山に向かったそこには初めてあった時と同じ服装の彼女がいた。

 白色のワンピースに麦わら帽子、黒のロングヘアーを風邪になびかせてベンチに座っていた、その姿に見惚れていると彼女がこちらに気づいたので声をかける。

「えっと、こんにちは」

 彼女は頷くだけだったけど、ベンチの端に移動してスペースを空けてくれたのでありがたく反対側に座る。

「雪村さんは宿題って終わった?僕は全然なんだけどさ」

「七月中に終わらせた」

「へぇ、やっぱりすごいね、僕なんてまだ半分も終わってないよ」

「宿題難しい?」

「え、まぁ難しいけどそれより僕があんまり頭が良くないってのが原因かな」

「見てあげようか?」

「へ?」

 一瞬、なんのことを言っているのか分からなかった、見てあげるっていうのは宿題のこと?それって勉強会ってこと?

「?」

 思考をまとめていると彼女が不思議そうな顔で見つめてくる。

「う、うんお願いするよ」

「じゃあ明日私の家でやろう」

「え?」

「明日また1時ぐらい来て、それじゃあ」

「え、あ、うん……え?ちょっと待って!」

 彼女はもう森へと消えていた、混乱した僕を残して。

 帰り道僕の思考回路はパンク寸前だった、えーっとつまり彼女の家で勉強するわけなんだけどどうしてこうなった。

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