火
奇跡はそれだけにとどまらず、火曜日、満点を取った者達という題で張り出された紙に、なんと僕の名前が載っていた。寝ぼけながら書いた回答が全て正解だったらしい。だが生徒たちの注目は僕ではなく、やはり空澄奏に集まっていた。僕が告白した空澄楓は、今回のテスト、さらに言えば前回のテストでも満点を取っている完全無欠の生徒会長だ。放課後である今、彼女の席の周りはとても賑やかだった。思えば、そんな彼女に告白したこと自体間違いであり、彼女の隣に僕がいるのは場違いなのだろう。
そんな憂鬱な気分になりながら階段を下りていると、後ろから声をかけられる。
「ごきげんよう、泉さん」
見れば朝比奈剣が見下ろすように立っていた。
「一緒に帰りましょう」
誰かと一緒に下校するのはこれが初めてだが、それは僕に友達がいないからではない。僕にとってはクラスメイト全員、既に友達なのだから。
「単刀直入に聞くけど、カンニングしてないよね?」
唐突に朝比奈剣が訪ねてきた。どうやら僕のテスト結果が信用ならないらしい。確かに、自分でも疑うような結果になったけれど、カンニングはしていない。
「なら、熱でもあったりする?」
体調はいたって普通だ。
「いくら渡したの?」
賄賂は渡していない。
「勉強は?」
していない。いやするべきなのだが、僕は勉強をするのが苦手なのだ。
「ならいいけど……。悩みとかあれば聞くからね」
その彼女の言葉は、失恋して傷を負った僕の心を癒してくれた。そんな時、彼女の口調が学校にいる時とずいぶん変わったことに気が付いたので、それはなぜか尋ねてみると、
「これが本当の私だから」
朝比奈剣はそう言って、おそらく家へと帰っていったのだった。
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