おまけのおまけ

「起きろー。ゆう君~? 朝だぞおら~!」


 頭にガンガンと響くような、やかましい幽霊の声で目が覚めた。


優凪ゆうな……もうちょい、静かに……休日なんだからさ」

「静かにしたらおきねーじゃんゆう君はー。いいから起きろっての~」

「あー、分かった分かった」


 のたりと起き上がると、元気すぎる幽霊と目が合った。


「おし、しっかり朝飯を食べろよなー? ただでさえゆう君は、あたしの存在を維持するのに無駄なエネルギー使ってんだから。よく寝てがんがん食べないと体もたないぜー?」

「分かってるよ。でもお前の維持は無駄じゃねーよ」


 優凪を取り憑かせて気がついたことなのだが、油断するとかなり体がだるくなったりする。

 凪音の時にはなかったことだが、どうやら本当の幽霊に取り憑かれると色々あるものらしい。


 健康的な生活をしていると割と平気なんだけどな。

 なんなら、沢山食べても太りにくくなったくらいだ。

 もしかして、大食いの人って霊感体質が多かったりするのだろうか?


「じゃー、今日も飯を作りますかねぇ」


 休日ってことは、もう一人分……いや、二人~三人分作っておいた方がいいかな?




 キッチンで調理を開始してすぐに、扉が開く音がした。

 合鍵を持っている者が入ってきたということだ。


「やっほー優人。おはよ!」


 朝からメイクをバッチリ決めた凪音が入ってきた。

 髪はまた明るく染め直して、少し長さも伸びてきている。

 なんでも、優凪と同じは嫌なんだそうな。


「おはよう。凪音」

「よっ」

「ん、優凪も一応おはよ」

「一応ってなんだよー? つーかお邪魔しますだろ~?」

「私は半分以上この部屋の住人だからいいのっ。調子のんな!」


 朝の挨拶一つで言い争いを始めそうな二人を無視して、調理を続ける。


「あ、私も手伝う。ちょっと待ってて!」


 凪音は俺の調理姿を見ると、ダッシュで部屋から出て行って、またすぐに戻ってきた。

 エプロン姿で。


「わざわざエプロンを取りにいってたのか?」

「うん。まぁすぐそこだし。そういや、楓ちゃんも起きてきてたよ」


 凪音と楓は、俺の部屋のすぐ近くへと引っ越してきていた。


 元はいえば凪音が俺の部屋に押しかけようとしていたのだが、諸々の体面上すぐに同居はどうだろう?

 と言っていたところで、楓が「私、実はもっと会社に近い所に引っ越したかったんっすよねー。凪音ちゃん、一緒に住みます? 美味しいご飯作ってくれたら手を打ちますよ!」とか言い出して、二人で越してきたのだ。


「そっか。じゃあ楓もそのうち来るな。つーか、なんか結局うちで飯を食うのが常態化してないか……?」

「いーじゃん、賑やかで」

「まぁな」


 楓も来ると、ほんっとに賑やかになるんだよなぁ。


「でっちもいると面白いよね~。 そういやさぁ……気になってんだけど、でっちと汐穂っちって結局どうなってんの?」


 優凪が、興味津々といった風に凪音に話しかけている。

 ふわふわ浮きながら。


「あ~、うーん。楓ちゃんは、実はかなりパニクり気味かなぁ。ほら、歳の差もあるし? でも、汐穂が思った以上にねぇ。こう、引かないっていうか」

「まぁ、凪音の妹だしなー?」

「半分はあんたの妹みたいなもんでもあるんだけど? てか、もし汐穂があっちの部屋に押しかけてきたら、私ここに移り住むからね?」

「それだと、あたしがゆう君と凪音のイチャつくところ見ることになんじゃんかよー」

「ふん。お互い様でしょ」


 なんか、聞き捨てならないことを言い合っている気がするが。

 俺は別に優凪とイチャついてるつもりとか、ないんだがなぁ。

 あくまで妹とか娘とか、その辺の範疇として――幽霊の頃の凪音と同じようなラインで接しているはず。


 しかし、汐穂ちゃんと楓もなぁ。

 まさかこういう事態になるとは……。


 うん。まぁ、あれだ。

 歳の差は俺と凪音もあるのだし、なるようになるのかもしれない。

 何しろ、彼女は凪音の妹なのだしな。


 それに、楓が困ったことになるようだったら、全力でもって助けるのが親友である俺の役目だ。

 どんなことがあろうと、その役割はまっとうしてやろうじゃないか。


「お邪魔するっすー!」


 お、噂の奴が来た。

 今のうちは精々、揶揄ってやろう。

 俺ばっかり弱みを握られたままなのもシャクだしな。


「おはよ。座っとけ。もうすぐできるから」

「今日は、私と優人の共同メニューね」

「お、それは期待っすね~」

「なー、でっちは料理の練習とかしないのかって聞いてみてくんねー? 汐穂ちゃんに胃袋握られるの時間の問題なんじゃねーの実際?」


 さて、今日も賑やかで穏やかな一日を……。


 と、思っていたのだけど。

 この後すぐに汐穂ちゃんもやってきて、穏やかさは吹っ飛んでしまったが。


 楓の奴、自分のことになるとここまで弱腰になるとはなぁ。

 まぁ、しばらくは面白いからこのまま頑張ってもうらうとするか。


「優人。他人事じゃなくて、あんたもいい加減腹くくんなさいよ?」

「えっと……何をだ?」

「とぼけないのー。結婚と子供、どっち先いく?」

「あ、結婚式とかするんなら私スピーチやるっすよ」

「子供かぁ。あ、凪音とゆう君の子供なら、あたしのこと見えっかもな~? そうしたら色々教えこもーっと」

「ダメに決まってんでしょ!?」

「姉さんが結婚できるなんて、正直意外です。それはそうと楓さん、私達の」

「あーあー! 今はまだ何も聞こえないっす~!」


 あ~……うん。

 まだまだ、賑やかになりそうだわなぁこりゃ。

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俺と人懐っこいJKのゆったり1.5人暮らし~幽霊と食べる飯はうまい~ 佐城 明 @nobitaniann

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