第3話 ささやかなお茶会

 「おなかすいたよ……ルゥク……」

 あれから丸一日、何も食べていない。いつもはルゥクが朝から狩りに出て猪やら鹿やらを狩りに行ってくれるのだが、そのルゥクもいない。かといってご飯を食べる気にもならなかった。

 ルゥクと二人で暮らしていた家はなんだかすごく広く感じて、寂しさが体を包み込む。寒くて寒くて、動きたくなかった。そのせいだろうか。扉が開く音にさえ気づかなかった。

 「うわっ、死体?いや、ラオくんか?」

 その一言で狐になり、精一杯威嚇する。だが相手がシグレだと知って一層敵意を表に出した。

 「ラオくん、約束通り、君に今まで通りの生活をさせるために来た」

 「嘘つけ!僕からルゥクを奪ったくせに!」

 「それはその王制の事情で……って言っても十歳の君にはわからないか」

 シグレは困ったように頭をかく。

ん?ちょっと待て。今、十歳と言ったか?そんなこと、教えた覚えはない。

 「お前、なんで僕が十歳だって知ってるんだ。ルゥクを脅迫して吐かせたのか」

 「いや、ルゥクが教えてくれたんだよ。彼は今、私の監視下にあるけど、牢屋ではないし、暴力も脅迫も受けていない。どちらかというとお客人として扱われているよ」

 それを聞いて少しだけ警戒を解いた。ルゥクは自分より賢い。ちゃんと信用に足る人間か見極める。そのルゥクが自分のことをこの男に教えたということは、それなりに信用してもいい奴だということだ。おそるおそる聞いてみる。

 「ルゥク、元気?」

 「ああ、元気だよ。少し警戒されてるけどね」

  シグレは困ったように笑った。

 「なんでここに来たの?」

 「言ったろう。約束を果たすために来たんだ。君一人では満足に生活できないだろ?」

 どうやらラオの生活はお見通しだったらしい。シグレは黙って机に肉の塊と飲み物を置くと、ラオに座るよう促した。

 黙って座る。机の上の謎な料理からは今まで嗅いだことのない美味しそうな臭いが漂っている。

 「これ、何?」

 「ハクロウプラタっていう肉料理とカモミールティーっていう飲み物だよ。カモミールティーにはリラックス効果があるんだ。大丈夫だよ。毒とかは一切入ってないから」

 ラオが疑っていると、シグレは見本を見せるように一口飲んだ。ラオは真似をするように一口飲んでみる

 「あっつ!」

 「気を付けろよ。さっき作ってくれたばかりだからな」

 そういえば、シグレは昨日みたいに大勢の人と来なかった。ついでに今日はラフなコートとズボンという軽装備だ。どうやら私服で来たらしい。ラオは安心してシグレが持ってきたハクロウプラタとカモミールティーを楽しんだ。空腹は最高のスパイスというが、この時に食べたご飯は本当においしかった。

 「そういえばラオくん。相談したいことがあるんだが、いいか?もしかしたら危険に晒されるかもしれないが……」

 「なんのこと?」

 「ルゥクのことだ。あいつはいま危険な境遇に陥っている。といっても、その肩を一部持ったのは私なんだがな。とりあえず、会話を聞いてくれないか?」

 「うん!」

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