第42話 次なる時代へ、息吹を③
分かるはずないと思っていても、感情が次々と口から溢れ出す。
そうだ、初めのうちは違っていたんだ。この世界にやって来た当初は、この世界に居る人を心か憎んでいて、どうにかしなければならないと、考えてはいたんだ。
『人は変わらない。この世界にいるのはどうにもならないカスばかり。もう、この世界は終わっている。……だとしたら、終わり続ければいい』
思い返せば不器用な父だった。壊れていた。何もしてくれなかった。最後に向けられた想いさえ、ひどいものだった。
だからこそ、父は自分の真の想いをライルに託したのだろうか。そして共に生きて欲しかったのだろうか。
父のエゴだと言い切ればそれまでかもしれない。しかし、そうしてでも想いを伝えたかったのか。この
悪辣で、下品で、幾多も目を背けたくなるような内容だった。でも人類とはそういうもので、人類は幾度も罪を重ねてきた。だから、考えなくてはいけない。先人が築き上げた功績の裏にある深い罪と向き合わなければならない。
だから俺はこの世界に全ての悪意を、罪を閉じ込めた。変わらないまま、終わったまま、これ以上の変化を望まない事が一番の正解だと思っていた。これ以上、人類が罪を犯さないように。
しかし、目の前にいるコイツは容赦なく俺を責め立てる。俺のことを間違っていると否定する。いや、もしかすれば責めているのではないのかもしれない。否定しているのではないのかもしれない。この想いはきっと、願いはきっと、期待しているのかもしれない。
『お前が変りたいと願えば変わるはずだ!』
ライルはなお立ち向かう。苦しさを叫びで押し殺して、想いをフィリップへぶつけ続ける。高周波ブレードを懸命に振り続け、何度も鍔ぜり合う。だけれども、
『生憎、もうそんな青臭い願いは棄てちまったよ!』
そうだ。俺は諦めた。そして終わった世界を、罪を背負ったまま終わらせたかった。
でも、本当は諦めてはいけなかった。無責任ではならなかった。きっと、父はこの与えられた
でも、何もかも手遅れなんだ。
『お前の様な弱者が……この俺に口出しするなあああああああああ!』
ZENはありったけの力を込めて
『……弱くてなぜ悪い! 強くなくちゃいけない理由はどこにある? 弱くたって、できない事を補い合える……それが人類なんじゃないのかよ!』
どんなに偉くたって、強くたって、虚しいだけ。幸せであることが、楽しく生きていけることが一番なのではないだろうか。その力と力を誰かと分かち合うことが、大切なのだ。
『何でだ……!』
何で、そんな言葉を掛ける。俺ができない事ばかり口にする。俺も強者じゃないことくらい、分かっているさ。
『……弱いから俺は変えられなかったんだ。弱い俺だから誰ともうまくやれなかったんだ。俺がどう足掻いたってこの世界は変わらないんだよ! どうしようもなく腐ったこの世界は、このまま流れを止めるしかないんだよ!』
『誰がお前に一人で生きろと言った! 一緒になろうとしてくれた人がいたんじゃないのか?』
『そうだけれど……! それができなかったからこうしているんだってことが、分かれよ!!』
『この……分からず屋が!』
分かりたくもない。しかし、実際には分からないだけなのかもしれない。自分がどうするべきなのか、どうあるべきなのか。
『俺は……俺はッ……!!』
この戦いの果てに何があるのか分からない。何を得られるのか分からない。だから、なし崩し的にまたGENを破壊する。闇雲に世界を巻き戻す。その為に、ZENはまた武器を構えるしかなかった。
全て、言い訳だった。
家畜だから一緒になれないなんて、家畜のいる場所にしか生きられなかったなんて、そんなことは言い訳に過ぎないと分かっていた。分かっていたけれど、できなかった。いい奴だと分かっていた。けれど、できない自分が情けなかった。
『俺は……何もできないヤツなんだよ……!』
ゴメンなんて、今更になって口にできないと思っていた。
こんな酷い目に合わせたのに、ライルへ向ける言葉ではないと思っていた。
けれども、今言わなければ手遅れになる。GENの瞳の輝きは、前よりも明らかに弱まっている。あとは僅かな命を散らすだけだろう。それは、ライル自身が一番よく分かっていた。
だからなのか、ライルはか細い声でこう口にした。
『いいんだ……』
『何がいいんだ……何も良いワケがあるか……!』
『分かるまで……待っていてやるよ……』
俺はとんでもないことをした。どうしてこうなったのかは今の俺なら分かる。
けれど、それはライルも同じ気持ちなのだろう。自分だけのために生きたからおかしくなったことに。
『……ボクにできることがある……お前にできることがある……ボクがお前に心を開いて、お前がボクに心を開けば、きっともっと何かできたはずなんだ』
ライルは、薄れていく意識の中で、割れそうな頭の痛みを抱えながら、いろいろな事を考えていた。自分の想いが今になって次々に浮かんでくる。しかし、もうフィリップと話せる時間も、そう長くはない。
『この世界も……人もまだ変われる……』
『変われないからこんなことをしてたんじゃないのかよ……俺はッ……!』
そうでもしなきゃこんなことはしなかった。この世界の中でも、自分はゴミみたいな人間だったのだから。しかし、ライルは柔らかい口調で呟いた。
『変われるさ』
ライルも最初はただみんなと一緒にいたかっただけだった。みんなのためになりたいだけだった。その手段を自分だけで考え込んでしまったからおかしくなった。
『フィリップ……お前は間違っている。けれども……お前が世界を変えられることを、ボクは信じている』
『ライル……お前……』
『そのために……ボクがお前を変える。それだけのために……ボクは死ぬことを後悔しない。……だから』
そうして、今度はGENが高周波ブレードの切っ先をZENへ向けた。高周波ブレードの切っ先が向けられた先に、ZENの姿が見えた。
『ボクは……この世界を殺す……!』
ライルは最期の力を振り絞り、足元にある
対して、ZENは
抵抗しなければ殺される。しかし、攻撃すれば、その後はどうなる。
『ライルッ……!』
情けない声が漏れた。
『言うなッ……!』
一方、ライルはそう口にした。
力強いのだけれども、堪えるような声だった。
そうか、もう、そういう事なのか。
だったら、俺も、やらなくちゃ。
『
急接近する二つの機体。互いに構える剣と槍は交わることなく、互いの急所を捉えていた。次第に距離は縮まって、その度に嫌だという感情と、それでもやらなければならないという使命感が、加速的に増していく。
そして、
『いいかフィリップ……大事な人はな……!』
ZENのコックピッド内に強い衝撃が走って、警告音が鳴り響いた。前方のモニタから映像は欠損し、ノイズが混じっていた。どうやら高周波ブレードがZENの首に食いついていたらしい。
目の前では、GENが煙を上げていた。腹に穴を空け、ただ沈黙していた。
フィリップはその姿を見て、口を開こうとした時のことだった。たった僅かなタイミングのズレだった。それで、大切な時を失ったことは言うまでもない。
患部からは火花が散り、それは次第に音を増し、
『こうやって、殺すんだぜ』
かすかな声がして、激しい爆発音がして、連鎖的にGENの全身へ誘爆し、GENはこの広い
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます