第27話 戦闘制御装置―阿修羅⑤
「ボクたちは何をやっているんだろう……」
憎いんだか、憎くないんだかよく分からなくなってきた。殺したくもない相手を、どうして必死に殺そうとしなければならないのだろうか。
ライルはメイスと戦闘を続けている。メイスが背中の
ただ、ライルがすることと言えば、もう残すところ阿修羅にとどめを刺すだけだ。そうすればライルはもう自由になる。何物にも縛られず、自由に生きられる。だから、この戦いを終わらせるにはメイスを討てばいい。だが、メイスも最後の粘りを見せている。
また、GENが高周波ブレードで薙いでも、阿修羅はそれを紙一重でかわし、カウンターのパンチやキックを喰らわせる。威力こそ低いものの、そのダメージはアリスに蓄積していた。
後ろから聞こえてくるアリスの悲痛な声を聞いてライルは焦り、それもあいまって攻撃がうまく通らない。阿修羅にはひらりひらりとかわされてしまう。その様子を見るとメイスに遊ばれているかのようだった。お前の実力は、そんなものかと言うように。
「……くそっ! このままじゃアリスが死んじまうッ!」
口ではそう言いながらも、ライルはメイスを殺したくても殺せない。その理由に、メイスがどうしようもないほど強いことがひとつ。そしてもうひとつ、ライルがメイスと過ごす時間に名残惜しさを感じていることもあった。ただ、このままでは訪れるのは破滅だけである。
まるでそれは、地獄を見つめながら真っ逆さまに落ちている気分だった。このままでいれば終わりだと分かっていながら、落ちる感覚に身をゆだねずにはいられない。何故なら、このままでいれば楽だから。何も物事を決めずにうやむやなままで居たいから。誰かに嫌なことを押し付けたくないから。
そう、本当はライルとメイスのどちらも悪くないのだ。お互いに意地になってしまっていただけなのだ。きっともっとうまくできたはずだった。二人とも助かる手段があるはずだった。ただ、それができなかったからライルは悔しくて堪らない。ただ、一方でメイスはこんな事を口にするのであった。
『……情けない。それだけの立派な機体に乗っていながらその程度の実力なのね』
それはまるで、ライルの気持ちを蔑ろにするような言葉だった。ライルも思わず苛立ちを覚えてしまう。
「何をッ……!」
『きっとその程度の実力なら、他の
「何を言って……アンタが教えた技術だぞ……! アンタはボクの教え子なのに、そんなことをよくも平然と……!」
ライルは相手に声が伝わらないと分かりながらも、声を荒げる。
『どうして貴方がその機体に乗りたがったのか知りませんが、貴方には今、その機体に乗る資格など……無い!』
「ほざけよッ……ボクの気持ちも知らないで、責任から逃げた弱虫が……!」
ライルは感情のままに、GENに阿修羅を蹴らせるように操縦した。すると阿修羅は簡単に引き剥がされて、後ろに下がるのであった。ライルはこんなにも阿修羅は弱ってしまっているのかと驚いてしまう。阿修羅に残されている魔法力は確実に少なくなっている。
「……なんだよ……そっちこそ大したことないじゃないかよ!」
もうあとは、この高周波ブレードで阿修羅を貫くだけだ。ライルはGENに高周波ブレードを構えさせる。けれど、ライルはふと思いだしてしまったのだ。あの、あたたかな生活が頭の中をよぎる。そうしてあっけにとられているうちに、気がつけばもう、それが恋しくて堪らなくなっている。
不意にライルの視界がにじむ。
ただ、もう手遅れだ。二人のこの世界における立場はどうしようもなくなっている。だとしても、なんとしてでもこの結末を変えなければならない。
「…………何度言わせればいい……こんな事は無駄なんだッ! ボクがしたかったことはこんな事じゃないんだッ!」
変わらなくちゃいけない。変わることを恐れちゃいけない。
もう、誰かの言葉を待っているだけではダメなのだ。誰かに描かれた運命を辿るだけの人生なんてまっぴらだから、自分が、自分の意思で物語を紡がなければならないから。
だから、ライルは震える手でコックピット内のコントロールパネルにあるスイッチのひとつをオンに入れる。
これからすることはとんでもないことだ。今までの出来事を何もかもをひっくり返すような滅茶苦茶な事だ。それでも、自分がやりたいことだからと、しなければならないことだからと、ライルはこんな事をする。
『……やっぱりだめだ……もう、こんな戦いは終わりにしようよ……メイス姉……!』
自分の立場を忘れ、この世界に向けて、ライルは自分のあるだけの想いを口にするのであった。見れば、コックピットのサブモニターは、外部スピーカーが機能していることを教えていた。
『……ライルあなたは……なんてことを……!』
メイスは驚いた様子だった。それもそうだろう。その宣言は、今までの作戦をむだにするものだったからだ。そして、これでライルは世界のつまはじきものになった。ただ、ライルは自分の存在を
『もう、ボクはメイス姉のことをうらんでなんていない……! だから……こんな意味のないことはやめにしよう……!』
何故だろう。こんなにも虚しいのは。こんなにも悲しいのは。
ライルはもう、戦いの中で、戦う意味を忘れてしまっていた。大切な人と対峙して、命をうばう虚しさを知ってしまった。もはや誰が悪いとか、悪くないだとか何もかもがどうでも良くなっていた。互いに押し付けられた痛みをなすり付け合うことを虚しいと思うようになった。それに、そんなことをしなくとも何とかなったことにも気が付いてしまった。
『帰るんだ……そうさ、ウチに帰ろう。もう、
話せば話す程に、あの頃がつい最近まであったように思えてくる。手に取るように、輝かしい思い出が頭の中によみがえってくる。
思い返せば後悔しかない。
この世界から抜け出したいとか、終わっているだとか、否定的になる必要は無かった。もっと、今を受け入れてあげればこんな事にはならなかったはずだった。積み上げてきた日常を、いままで通り大切にしてあげればよかった。なのに、どうして自分ばかり自分ばかりのことを考えてしまったのだろうか。自分がうまくいかないことを理由に、周りをわざわざ遠ざけてしまったのだろうか。
ボクのせいだ。もちろん、メイスにはボクの気持ちなんて分からなくたっていい。でも、もう分かったからこそ、やり直しをしてみたかった。まだ、やり直すには時間がある。こんどはもう自分だけのために生きはしない。だから、もう一度頑張らさせて欲しかった。
『甘いのよ』
だけれどもメイスは、冷たい言葉をライルに浴びせるのであった。
『そう……か……よ……』
ライルはがっくりしてしいると、機体に強い衝撃が走る。何だと思っていると、機体がうまく動かなくなっているではないか。よく見れば、メインモニターの端に何かが映っている。それは阿修羅の背中にあった
『くそがっ……!』
そして、阿修羅は地面にある何かを拾い上げる。それは別の虎徹が手にしていた槍だった。阿修羅は槍の柄から伸びるアーマードケーブルを接続してから拾い上げると、それを構えてGENの方へ向けた。そして、脚部から射出したアンカーを地面に打ち込んで身体を固定する。
『
メイスの声と同時に阿修羅の顔のスリットに灯る蒼い光が一層強くかがやいた。そして構える槍は唸るような音を出して回転をはじめ、槍の向く方向の空間にはいくつか魔法陣が展開される。
それを見たライルは焦るが、GENは身体を拘束されて飛ぶこともできない様だ。戦闘支援装置はしっかりとGENの身体に絡みつき、複数のワイヤーを展開させている。唯一動くのは、拘束されていない右腕だけである。もう助かるには、メイスごと魔法で焼き払うしかない。
だから、この右手を使って、貴方は
・殺しませんか?
(執筆準備中)へ移動(分岐ルート)
・殺しますか?(https://kakuyomu.jp/works/1177354054886947194/episodes/1177354054889216256)へ移動
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