第15話 (シイナルート)『今日もあなたと共に』①

 私はシイナ。名前の通り、実の無い子だ。


 そんな私でも、好きになった人がいます。


 好きになってしまった人がいます。


 彼はいつも困った私を助けてくれました。


 彼はいつも私に夢を語ってくれました。


 何もできない私にも、実が無い事を知っていても、乾いた心を満たしてくれました。


 その優しさに、私は甘えていたのかもしれません。


 私は受け取るだけで、自分で何かしようと考えていませんでした。


 彼と一緒に居られればいい。


 そんな甘い考えの下で生きていました。


 彼を失ってしまったら私はどうなるのか、何も考えずにいました。


 しかし、ある日気が付いてしまったのです。


 彼は、思っていた以上に人に愛されている事を。


 私に向けられていた愛情は、私だけのものではないことを。


 そして、私から彼の愛情を差し引いた時、私は自分の存在の無価値さに気が付いて、ぞっとしました。


 同時に、


 彼が私と一緒に居る時よりも、彼が他の人と一緒にいる方がキラキラして見えてしまいました。


 皆に愛される人。そんな人には見合った人が現れるに決まっている。


 これが、私が第一に考えたことでした。


 悔しさよりも、諦めの方が強かったのです。


 だけれども、


 どうしようもない私の存在は、彼によって形容された私の存在は、一体この後どうしたらいいのでしょうか。


 ……なんて、今になって思うようになりました。


 遅いことは知っている。


 それでも、私は私がなすべきことがあると思い、私は戦っている。


 今までできなかったことに挑戦して、立ち向かうと、決めたのです。


「…………」


 ――強烈な爆音がして、次に振動があった。


 その一連の出来事に巻き込まれて自分は死のだと思っていた。魔導兵器ワイズローダの制御バーニアで攻撃する。そんなものは苦肉の策だ。ただ、咄嗟に考えたには、十分だったのかもしれない。そうして最後まで考えて戦う事は、生きる喜びを感じられた。それだけで十分だった。


 だが、それもすべて終わった事だ。


 ……しかし、どうやらおかしい。自分は生きている。息があり、胸は脈を打っている。


 どうしたのだろうかと、シイナはゆっくりと目を開けて、正面に広がる光景を見て唖然とした。


「え……? 敵機が沈黙している……?」


 目の前にいる天使は目には灯りがなく、静かに沈黙していた。その姿は、荘厳そうごんささえ覚える。


 見ればGENの横腹には大穴が開き、そこから煙が上がっていた。そしてGENは虎徹弐式に覆いかぶさったまま、動かなくなっている。


 そう、GENは虎徹弐式の攻撃を受けて、敗北したのだ。


 よく見れば、コックピットの直撃は避けられた様だった。そして、コックピットのハッチがゆっくりと開き始める。そして、そこからは思いもよらない人物が現れた。それを見たシイナは息をする事さえ忘れてしまう。


「……何で、ライルが……!?」


 そこには、頭から血を流したライルが、顔を真っ青にしてうなだれるアリスを抱えて立ち尽くしていた。


 茫然として、ただ悲しい目をしながら。

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