第14話 魔導動力源彼女《メインエンジンカノジョ》③
GENは突進する虎徹弐式を高周波ブレードで受け止める。ただし、GENは受け止めるだけでそれ以上の行動は取らない。未だライルは戦う決意ができていないからだ。
『……反撃しないのならっ!』
一方で、虎徹弐式は攻めの姿勢を崩さない。バーニアの出力を上げ、GENをじりじりと押していく。
GENもスタンバイモードとは言え、飛行運用ができない分だけ不利だが、機体の能力は虎徹弐式とそう変わらない。GENは虎徹弐式の突進攻撃を受けなお耐えている。そして、二体はつばぜり合いのまま、こう着状態になった。
「お前みたいな汎用機ごときに……!」
GENは受け止めた力を脇に受け流すように身をよじる。すると虎徹弐式は吹かしていたバーニアの勢いが余り、少し体制を崩しながらGENの後ろ方向へ飛んでいった。そして虎徹弐式は再び体勢を整えると再びGENへ突進を仕掛けた。
「動きが直線的で読みやすい……悪いけど、シイナがボクに勝てるわけが無い」
GENは高周波ブレードを構え、同じ様に虎徹弐式をいなそうとしていたが、シイナも馬鹿ではない。
『ELEMENT SYSTEM STANDBY』
シイナは正面の
すると虎徹弐式が持つ、槍に掘られた溝が、淡く青く光り出す。
『例え
槍からはバチバチとアークが飛び、それは虎徹弐式の全身を覆った。雷の塊となった虎徹弐式を見てライルは焦るが、シイナと戦うことを躊躇ったままでいた。
「GENが本気を出せば大したことではっ……!」
しかし、シイナとマトモに戦えば、GENの強すぎる力もあって、シイナへ危害を及ぼしかねない。更に、GENが起動すればアリスの命の減りは大幅に上がってしまう。起動させた際には戦いを早く終わらせなければ、アリスの命を無駄にしてしまう。
だから、ライルはこの戦いを終わらせる事ができない。
相手がシイナだから。アリスの命が消費されてしまうから。
しかし――
『くらえ!』
虎徹弐式はライルの心情などお構いなしに攻撃してくる。GENと虎徹弐式はぶつかり合い、GENの全身を電撃が走り回った。
「きゃああああああああ!」
ライルのすぐ後ろで悲鳴が上がる。
「大丈夫かアリスッ!!」
GENへの攻撃が動力源であるアリスへ直接伝わる。ライルは今すぐにでもアリスの元へ向かいたかったが、今は手を離せない。GENへの電撃はなお続き、アリスの苦しみの声は次第に大きくなっていった。
「……調子に……乗るなよッ!」
GENは持てる力を振り絞り、高周波ブレードに力を入れて虎徹弐式を振り払う。すると虎徹弐式は簡単にも引き離れてくれた。
アリスの悲鳴は止んで、激しい吐息に変わる。喘ぐ様なその苦しみの呼吸は、ライルの心を締め付ける。そして、GENの純白の身体には黒い焦げ跡が点々と付いていた。
悔しくて仕方なかった。
こんなにも敵は弱いのに、こんなにも敵は脆いのに……
「どうして、こんなにも苦しまなきゃいけないッ!」
そんな時に、
『ライルはいつも優しいよね……誰かが困った時に駆け付けてくれる』
虎徹弐式からではなく、ライルの頭に声が響いてくる。
「シイナ……ボクはそんな人間じゃなくて……」
『優しいかどうかは分からない。困っている誰かを見過ごせるほど器用に生きていないだけだ』
シイナの言葉に自分の答えた嘘が重なって、胸が苦しくなる。
「ボクはいいかげんで……嘘吐きで……」
すると、今度は虎徹弐式からこんな言葉が聞こえてきた。
『ライル! 私やれてるから……でもライルだったらもっとうまくやれるから……!』
それでもシイナはなお、ライルを待ち続けていた。こんな人間の為に戦いを引き延ばしてくれていた。その事が分かってライルは一層悔しくなって、自身の膝をこぶしで叩く。
「どうして……こんなボクの事がいいんだよッ……!」
その一方で、この世界の人々は好き勝手なことを口にする。
「お、おい、もしかしていけるんじゃないか……?」
「あの化け物を止められるかもしれないぞ!」
「虎徹のパイロットはシイナだって? アイツ……すげぇな!」
「シイナちゃん! 頑張って!」
「そうだ、頑張れ!」
人々のざわめきは次第に広がって、声は段々と大きくなってゆく。その様子をライルは心を穏やかにして見ていられなかった。
「……何も理解しないバカがっ! GENが本気を出したら、このコロニーを今すぐにでも制圧できるって言うのに……!」
これは魔法族を滅ぼした最終兵器だと理解してい無い事。自身の置かれた状況を楽観視しすぎている事。全てシイナへ期待をかけて、自分達は騒ぎ立てている事。何もかもが腹立たしかった。
「シイナの気持ちも考えないで……今迄お前らはシイナに何をしてきたかも忘れて……!」
ただ、言葉とは裏腹に、今まで日陰者だったシイナが周囲から応援されている姿は、見ていて胸が熱くなった。
『ありがとう、みんな……私もう、逃げないから……立ち向かうから!』
その言葉も、ライルの胸に痛く刺さる。
「……でも本当は、この光景こそがボクの望んでいた景色だったんだ」
ライルは、何だかやるせない気持ちになった。
正義が居て、悪が居て、そんな分かり易い世界など無かった。称賛など、気持ちよくとも、その場しのぎなのだ。
本当は互いに事情がある。話し合いもなく、話を聞く事も無く、ただその場に雰囲気と偏向された報道が、好き勝手に物語を創り上げていく。
こっちには責任を押し付けられた人がいる。アリス、メイス、彼女達は最たる例で、さらに言えば、目の前にいるシイナだって、ある意味GENの生贄に差し出されたようなものだ。
この戦いに携わるすべての人間には、何かしら背負うものがある。それを、知らずにいる事は愚かで、当事者からすれば切なかった。
とにかく、こんな事をしているうちに、少しづつでもアリスの命は減ってゆく。本来であれば一秒、刹那さえ過ぎる事が惜しかった。こんな事で足を止めている場合ではなかった。
そして、雷を帯びた槍を虎徹弐式は再び構えた。
「止めろ、止めてくれ。これ以上戦ったらアリスの命がっ……!」
ライルは思う。シイナは、このままGENに攻撃をして、GENが歯向かってこない保証があると思っているのか。シイナは本当に、さっきまで新型の虎徹を軽々と蹴散らした機体が旧型に負けると思っているのだろうか。
「お前はいつまでも考えなしで。本質を理解しようとしないでっ……!」
それを、教えてあげたかったのに。今すぐそれを教えてあげたいのに。
こんないい加減な称賛はどうでもいい。ボクはもっとシイナのためになることを言えるだろう。
そして、この戦いに目を背けず、立ち向かってきた姿を心から頑張っていたと、誰よりも胸を張って言えるのに。
だからこそ――
「お前の事を……助けたかったのにッ!!」
しかし、その言葉も虚しく、電撃をまとった虎徹弐式はGENへ突撃する。
GENと虎徹弐式が接触する、その、目前で、
「『
GENが、ついに目を覚ます。
顔のスリットには真紅の眼光が。背中からは純白の光の羽が。そして、周囲には白い粒子が舞う。戦場に天使が舞い降りた
次に、鈍い音がした。
それはただ武器と武器が切り結ぶだけの音だった。虎徹弐式の全身を包んでいた電撃はGENの魔法によって消え失せて、丸裸になった虎徹弐式はただ槍を構えるだけになっていた。
虎徹弐式の動きは全く止まってしまっている。先ほどの様にGENを押し出そうとする気は無いようで、突然魔法が消えた事に唖然としているようだった。
『あ……』
虎徹弐式から情けない声が漏れた。圧倒的な力を持つ天使を前に、シイナが気圧されて出したものだった。
周囲にいた人々はもう、顔を真っ青にして、黙り込んでしまっている。
そして、虎徹弐式は次の瞬間、GENにつばぜり合いで負け、そのまま後ろへ倒れこんでしまった。
「……もう、終わりだ」
GENは無抵抗になっている虎徹弐式へ高周波ブレードを向けた。ライルはふと考える。ここまでスキがあれば、虎徹弐式を殺さない様に破壊出来るはずだと。よって、GENはまず虎徹弐式の足を破壊しようとした……その時のことだった。
『私はまだ……諦めないからッ!』
ここにきて、シイナは最後の抵抗を見せるのであった。虎徹弐式は右足を上げ、真っ直ぐGENへそれを向ける。ライルは何事だと思ったが、その理由を瞬時に理解した。
脚部にある、円筒状の制御用バーニア。それは魔法に依存せず火力を出せるユニットだ。最大出力、それもほぼゼロ距離で吹かせばGENの装甲くらいは突き抜ける。つまりは、GENがやられる可能性は十分あり得ると言うことだ。
――マズイ。
安堵は一瞬にして吹き飛び、絶望へと転化した。
「馬鹿野郎! 大人しくやられていれば、お前は助かるんだぞ!」
しかし、その叫びはコックピットに響き渡るだけで、シイナには届かない。ライルは歯が砕けそうになる程に強く噛みしめる。
どうする? どうする? どうする?
このままでいればGENは敗北する。一方で虎徹弐式の攻撃を止めるには、ある方法しかないのだ。
「シイナを殺すしかッ……!」
気が付けば、虎徹弐式のバーニアは点火を始めていた。次第に筒の中では光が灯り始めている。とにかく時間がない。
「ボクは……ボクはッ……!」
ライルは今、決断を迫られている。振り下ろす前の刃は、次の運命を握っている。
貴方は
・殺しませんか?
(https://kakuyomu.jp/works/1177354054886947194/episodes/1177354054887851400)へ移動(分岐ルート)
・殺しますか?(https://kakuyomu.jp/works/1177354054886947194/episodes/1177354054888086719)へ移動
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