幕間

 回想を終えて瞼を開ける。

 結局のところ、なぜこのような状態になったのかは未だ不明だ。様々な偶然が重なり合ったのか、それともなにかしら直接的な原因が存在しているのか……。わからずじまい。なんだか歯がゆい。

 あからこそ、『クロネコ』の誘いは嬉しかった。

 生霊を統合し意識を失った私は、気が付くとお店の客間で寝かされていた。そこでこれからのことを伝えられたのだ。生霊というものを出した存在は心霊的に弱い存在となりやすいらしい。特に私の場合は自分に憑りつかせるという希少な状況。もしまた何かしら弱った状況になった場合はすぐに対処をしてくれるらしいことも伝えられたが、不安も残るところだった。そんな折に、梢さんが、『なら『黒猫』及び『クロネコ』で働かないか』と声をかけてくれたのだ。非常に驚く提案ではあったが、今回の依頼料も馬鹿にならないことを考えるとちょうどよかった。『クロネコ』側も私のような希少な存在をサンプルとして置いておきたいという下心もあったのかもしれない。それに、働いてみて分かったが、この家族三人は非常に癖が強すぎることもあるため、事務的な作業員が一人いたほうがよさそうでもある……。お互い様だ。

「そんな様々な想いと記憶、この『監獄プリズン』に閉じ込めてみない?」

「急に出てきて、物騒なことを言わないでください」

 梢さんの突如の出現には、一週間もすれば慣れることが出来た。最初は突如現われることに関して驚きもしたが、常にいつ現われてもおかしくない人物と意識をしておけば、恐怖心も沸かなくなる。予想が出来ているかが大切。なるほど。

 それにしても『監獄プリズン』をわざわざ出してまで言いたかったことなのか。こういった不可思議な道具は『黒猫』としては扱っていない。そのため、基本的に一般の人物に売買をすることもなく、大抵は古くからつきあいのある公的機関か、又は同業者とやりとりをするときだけだ。そもそも、ここ以外の同業者を見たことはないのだが。

 後は……私のように不可思議な現象を解消してもらう為に道具を使うときがあるぐらいだろう。

「あーあ、でも面白い事ってなかなか起きないわよね~」

「変な事件なんて起きない方がいいじゃないですか。『クロネコ』としての仕事がしばらく無くても、十分すぎる蓄えもあるわけですし」

 そもそも一つの仕事から引っ張れる報酬が大きい事もある。私のような一般人にも門戸を開いてはいるが、表向き処理しづらいことを裏の人間として処理を行うために、誰もが知っているような有名企業等から依頼が来ることも珍しくはないのだ。

「週刊誌 いつかばらす その夢を 心にためて 皮算用」

「大問題! というか、なぜ川柳風!?」

 こちらの考えを読んでいたかのようなセリフだが、もはやそこには突っ込まない。零くん曰く、ここ最近になって急に身に着けてきたらしい。それは霧桐家で一番霊能力の高い心ちゃんですらできないことらしいので驚きだ。ちなみに零くんが一番霊能力が薄いらしい。それでも自称霊感が強い人物の何百倍という世界なのであろうが……。

「確かに、こんな企業秘密やらを目にしたときは驚きましたよ……。それをこんなずさんな管理でやっていたことに対して」

「えー、そんなことないわよ」

「ありますよ……。電子で保存もしないで、というかできないのは分かりますけど、こんなの簡単に誰でも見れ――――ないか」

 そこでふと気づく。この人たちに気づかれずに悪さを働くことはできないだろう。

「完璧な防壁があればそれでOKなのよ」

 護りというよりは攻めな気もするが……そこはまぁいいや。この霊力てんこ盛りの存在達の前には、空き巣にすら入られない。どんな鍵よりも安全だ。

「そういえば、霊力ってどうやってはかるんですか?」

 このままこの話を続けたくもなかったため半ば強引に話をずらす。

「明確な基準があるわけでは、ないのよね~……。そうだ」

 ポンと手を打つと私が座るカウンター席から封筒を取り出す。そこは顧客名簿にもなっているのだが……。今更だがこれも大切に扱わなければならないはずなのだが、これもまた同様に理由で大丈夫ということだろう。

「これ、新しいお客さん」

「えっ? えっ!? いつの間に?」

「二日前」

「だったら私、昨日来てたんだから、昨日教えてください! 整理とかは後々になると余計厄介なんですから!!」

「あはは~。ともかく、霊力に関する疑問に解決できるかもと思ってね。どう? 行ってみない?」

「私なんかが行っても迷惑だと思いますよ?」

「うぅん、むしろ……」

 ニヤリと笑うと梢さんはどこかへと去っていった。相変わらずつかめない人だ。整理のために今回の仕事内容を確認する。依頼内容は、ポルターガイストであった。

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