海の底から愛を込めて

あさって

第1話

「……それ、病気じゃないかしら?」

「はあぁ⁉」

 遠慮がちに、しかし否定を許さない重々しさで、母が言った。

 私は母が醸し出す深刻な空気を振り払うように手を振る。

「いや、いや、いや。だって私『ちょっと寝不足~』とか、『身体がだるい~』とか『やる気が起きない~』とか言っただけだよ⁉」

「今あなたが言ったの全部、精神疾患の症状よ」

 急に呼び出して『最近どう?』とか聞いてきたから正直に答えたらこれだ。誘導尋問も甚だしい。

 私はうどんをすすった。ズルズルという吸引音をかき消すように、ショパンの子犬のワルツが流れる。ドンブリにつけられたセンサーが、麺の量が変動していくのを感知して音楽を再生するのだとか。技術の進歩は喜ばしいが、この手の過剰なエチケットにはついていけないなぁ。

「ねぇ、聞いてるの⁉ お母さんね、心配してるのよ⁉」 

「病気だったらどうして欲しいわけ? あと2ヶ月で卒業する高校休んで、就活も辞めろって?」

 大きめの声を出した母を、食べる手を止めて威圧する。母はビクンと身体を震わせて怯むが、すぐに決意ある眼差しを私に向けた。

「……本当は、そうして欲しい」

 私は大袈裟にため息をついた。母は心配性すぎる。そりゃあ原因の一旦は私にありますし、自業自得と言ってしまえばそれまでですけど。

「でもあなたが頑張ってきたのもわかってる。だから私、色々調べてみたの。ここなら時間は短いし、結果が悪くても休むように言われることもないわ」

 そう言って母は、一枚のチラシを取り出した。

「ねぇ理恵、お願い。試しに週一回。ううん、最初の一回だけでいいから行ってみて。私は二度と、家族を失いたくないの」

 この言葉は呪文だ。私の罪悪感を刺激して、私を従わせる呪文。母も自覚して使ってるから始末が悪い。私はしぶしぶ頷くしかなかった。

 ホッとした母は自分のうどんをすすった。私も湧いてくる不満を飲み込むように、自分のを一気にすすり上げる。

 二人の間に響き渡るベートーヴェンとショパンのセッション。

 やっぱりこの技術要らねぇと思う。

「あー、山形理恵さん? あぁ、はい。聞いてぇす」

 てぇすってなんだ? やる気なさげな女に案内され、私は治療室に足を踏み入れた。広さは小学校の教室くらい。ほとんど物の置かれていない空っぽの部屋だ。

 ただ天井の中心から、デカくてゴツい金属製のアームが伸びている。『ほとんど』と言わなければならなかったのはコイツのせいだ。無数の関節があり今はグネグネと湾曲して中心に納まっているが、まっすぐ伸ばしたら部屋の隅まで届くだろう。アームの先端には簡素なチョッキと、ジェットコースターみたいにU字型の安全バーがついている。

「じゃ、説明しゃす」

 しゃすってなんだ? この女、どう見ても私と同年代なのだがアルバイトだったりするんだろうか。四つ折りにした紙を広げて棒読み。

「こーの部屋にはぁ、監視カメラとか映像撮るものは無いす。別で映像と音声は録音すっすけどぉ、一定の目的にしか使わないからプライバシーとかは大丈夫な感じでー」

 終わりの『でーす』の『す』は-thって感じで空気に溶けた。

「じゃアタシ受付あんで、これ見てテキトーにやってっさい」

 ラミネート加工されたA4用紙を押しつけて、女は部屋を出た。防音なのだろう、分厚い扉はゆっくりと、てっさいってなんだ? もったいつけてから閉まった。

「さって、ここからが戦いだ」

 まずはA4用紙に印刷された説明通りに。アーム脇のケースからヘッドセットを取り出し装着。細長い形状で、目の部分だけが黒いフィルターで覆われるようになっている。大昔の映画『ロボコップ』の頭の黒い部分だけ取り出したような形だ。

 ヘッドセットと言っても電源が入ってない今は洒落たサングラス。明度の下がった視界で、アームの先端に背中を押しつけ、チョッキに腕を通してチャックを上げる。安全バーを下げる。   

 カチッという音で固定を確認したら、ヘッドセット上部のボタンを押して起動。フィルターに映像が映し出され、薄黒く染まっていた現実を虚構が塗り潰していく。

 美しい藍色の空間。キラキラと輝く無数の明かり。気づけば私は宇宙を漂っていた。アームが私の身体を持ち上げているのだろう。足が地面を離れ、それらしい無重力を感じる。

 唐突に、過剰に立体感を主張する分厚いアルファベットが出現する。広告で見たのと同じ文面。


WELCOME TO AI PARTNORS


 文字列が弾け四方に飛び散る。その破片はブロックノイズとなって再集結。男性の体格を形づくる。何度か激しく明滅し、それは完成した。

 後ろに流した輝く金髪。切れ長の細い目。青い瞳。細い顎。

 美青年って感じの見た目をした物体は、薄い唇の端を愛上げて愛想よく言った。


「ようこそ! 今日からここは貴方の世界。貴方は万能です!!」

 これが、母が私に勧めた治療機関。AIパートナー。仮想空間で、人工知能が行うカウンセリング。広告曰く、『最良の環境、最高のパートナーを、貴方に』だそうだ。

「さぁ、海を飛び、雲を掴み、宇宙を歩きましょう」

 見た目は、まぁ、最高と認めてやってもいい。ただ眺めるだけなら申し分ない。だが生憎、私はこんなとこで美青年を愛でてる暇はない。

「いいね、それ」

 高らかに語るイケメンに近づき、宇宙に『着地』。拳を大きく振りあげて、

「今こそ、本当の自分を解放す———」

 イケ顔面に、思い切り叩きつけた。


***


「突然の暴力。感情の起伏が激しいタイプ…と」

 右手の指を動かし虚空を叩く人口イケメン。モチのようにぷくりと膨らんだタンコブが、程よい大きさで切り離されて宇宙を浮遊。輝く星々の列に加わった。

「勝手な記録をつけないで。私、治療を受ける気なんてないの」

「病人扱いされるのが心外ですか? もしそうなら誤解です。私は貴方にレッテルを貼るためにいるのではありません。貴方が自分自身の状態を客観的に分析するお手伝いを———」

「わかったわかったわかった。気にしないから勝手に台本喋ってて」

 ありきたりな弁明を早口に遮って。私はイケメンのまっすぐ伸びた人口イケ鼻に、二本の指を突っ込んだ。

「ふがふがふがふがふがふがふがふがふはうはうふ」

 母がどうしてもって言うから一度は来た。だが、通う気なんてない。就活も学校も忙しい。二度とこの場所にくるつもりはない。

 きっと、ただ『合わなかった』と報告したとこで母は納得しない。あと一度だけ、もう一度、最後に一度と懇願を繰り返すだろう。愛情を盾に振り回される母のお願いを、私は断れる気がしない。だから、こう報告できるのが理想だ。

 『インチキだった』と。できたら相手側からの謝罪か、大々的報道を添えて。

「はうふはうふふがふがふがうはうはうが」

 見ろ、所詮は機械。不慮の事態に対応できない。鼻の穴に指をねじ込まれていることになど気づきもしない。健気に設定されたテキストを読み上げている。

 開幕パンチに動じなかったのは予想外だった。しかし、これで決まりだ。

 さぁ、バグれイケメン、オちろイケメン。

 仮想じゃない通貨と菓子折りもって、頭を下げろ責任者!!

「はははははははは!」

 黒バラ色の未来に思いを馳せて、私は天を仰ぎ高笑いしていた。

「そういう悪意もまた、客観的に振り返るべき貴方の心です」

 あれ? やけにハッキリとした言葉が聞こえる。指先の生温かさもない。不思議に思って視線を下げると、剥き出しの私のチョキ。鼻のないイケメン。

「は? え?」

 信じられない。目の前で、イケメンがク〇リンに成った。私は呆然として、ねとねとになったチョキを震わす。クリ〇ンは高価そうなハンカチをポケットから取り出すと、優しく、私のチョキに被せた。鼻がないくせに華のある振舞いをしやがる。

「なんで? AIなんて、学習したことにしか対応できなくて、不慮の事態に弱いはずで!」

「仰る通りです。しかし私達の穴を、物理的にも比喩的にも、探ったのは貴方で39万9999人目です」

 キリバン撮り損ねたと一瞬思ったが、重要なのはそこじゃない。

「日本ではまだまだ普及していませんが、AIパートナーは全世界、約600万人の皆様と契約を結んでいます。10万機の兄弟たちが、一日でそれぞれ3人の方々と2時間ずつ会話をします。その情報をマザーコンピューターにフィードバックすることで、全員の経験を分析・共有しているのです」

 先ほどまでより少し厳しい声で、誇らしげに、美青年は語る。

「おわかりですか? 私達は、一日に60万時間のコミュニケーションを経験しているのです。この状況は、経験済みです。飽きるほど」

 ズビシとチョキを突きつけられた。私の行動を批判すると同時に、自らの勝利を主張しているのだ。機械のくせに洒落たことを…。

「さぁ、少しは興味が湧きましたか? 私の名称は初期設定でAPT-6021734です。人間らしい名前はパートナーの方と考えるのが一般的ですが……」

「名前なんて必要ない。今日で最後なんだから」

「そう警戒しないでください。気晴らしに遊びに来たとでも思えばいいのです。互いを知るためにゲームでもどうです?」

 まだだ、まだ負けてない。さっさとエラーさせて、帰るんだ私は。

「それならこっちの方が…早く、深く、知ることができそうじゃない?」

 妖しく笑って、私はスカートの脇からショーツに手をかけた。映画で見たグラマーな女優を思い出しながら、ゆっくりと下ろす。APT-6021734は青い瞳をチラリと向けて、ため息をついた。

「私達の前で下着を脱いだのは、貴方で537万人目ですよ」

「多過ぎでしょ⁉⁉ なんで⁉⁉」

「お答えできません。秘匿情報を含むケースばかりです」

 うわぁ…もう駄目なんじゃないだろうか人類……。




***




 APT-602万いくつか忘れた、が最初に案内したのはシューティングゲームだった。ひび割れた宇宙が崩れ、現れたのは無数の高層ビル。知っている場所だ。昔、旅行で来たことがある。

「舞台は2000年代初頭のニューヨーク」

 背後から、APTなんとかの語り口が聞こえる。

「不老不死を研究していた政府の秘密施設で爆発事故がありました」

「安直な設定……」

 手の近くにブロックノイズが発生。ショットガンとして実体化する。不老不死、研究所、事故、そして銃。何が起きるか、わからない方がおかしい。

「uboooooo!!!!!!!!」

「ああ、危ない! 私の大事なパートナー!!」

背後から出現したゾンビを、やはり背後に立ってたAPTもろとも吹き飛ばした。紫色の肉片をばら撒くゾンビ。対照的にAPTは、下半身だけになった身体のどこで喋っているのか、

「その調子ですよ」

 とケロっとした声。数秒するとブロックノイズが発生して上半身が再構成された。再生したばかりの顔でニッコリ笑う。コイツの方がよっぽどゾンビじみてる。生命への冒涜だ。

「ところで『大事 意味』というワードの検索結果をお伝えしましょうか?」

「後で辞書でも引いてみる。ありがとう」

そして、こっちが本命だったのだが、皮肉も正しく理解している。思った以上に手強いな。




 その後もAPTの想定を超えるため無数の奇行を繰り返したが、これといった成果はない。

 あえてゾンビに噛まれてAPTを襲おうとしたり。

「それはこのゲームをプレイされた全員が辿る道です」

 ニューヨーク中に火を放ってゾンビを一掃。

「クリアおめでとうございます。なんです? ああ、このエンディング迎えた方は118万人ほどいますね」

 本場のマクドナルドでフルリレロ~と奇声をあげる。

 APTが何か言う前に、ゾンビ店員のWhat’sという顔に耐え切れず顔を真っ赤にして店を後にした。

「その行動をしたプレイヤーは34人です。貴方だけではないですよ」

 なんか逆に気をつかわれてしまった。悔しいけどちょっと救われた。

 極めつけはゾンビ化した運転手からトラックを強奪して西へ、危険域を脱出。ガソリンが切れてからはヒッチハイクを繰り返し、最終的にシアトルでイチローの試合を観戦してる最中に、診察時間の終了が近いことを冷静に告げられた。

 バッターが打席に入り、大歓声が上がる。

「こんなことまで経験済みなわけ?」

「ある方は、ニューヨークでスカウトしたゾンビをハリウッドデビューさせ火星で映画を撮りました。タイトルは『逆マーズ・アタック』。次回は是非、さらなる想像力でご挑戦ください」

結局、この仮想空間とAPTの柔軟さに驚愕するばかりの一日になってしまった。ホームラン性の打球。大絶叫。ボールが飛んでいくのと反対側に、プイッと首を振って呟く。

「もう来ない」

「では、私の勝ちですね」

 ニヤニヤした顔を作って私を見つめるAPT。

 この機械は……!! どこまでも憎たらしい。引き下がること、やっすい挑発に煽られて再来すること、どちらを想像しても悔しくて仕方ない。こいつの整った顔をめたくそに殴ってやりたい。そんなことしても、新たな星を量産するだけだろうが……このままじゃあ気が晴れない。

「貴方のスケジュールは……週一ですね。ではまた来週、お待ちしています」

「ちょっと待てこのっ!!」

 渾身の拳は空を切った。小学校の教室ぐらいの、空っぽの部屋で。

上下、左右、そして前後と手元。見回して、深く、長いため息をつく。

「はあぁ~~~~~あ。何やってんだ、私」

幻の空間。幻の相手。それに本気になって怒ったり悔しがったり、馬鹿馬鹿しい。

時間を無駄にした。早く帰ろう。




***




 自宅のドアを開けると同時、建物に染み付いた絵の具の匂いが鼻を突く。まぁこれでも随分マシになった方だが、喚起をサボるとすぐこれだ。

部屋の内周をぐるり、一つずつ窓を全開にして、歩く。途中冷蔵庫からサイダーと菓子パンの入ったビニール袋を取り出す。左手でビニール袋を持ち、右手でシャツのボタンを外す。脱いだシャツを洗濯籠へ3ポイントシュート。リングに拒絶されたが後で拾えばいいだろう。メイン生活スペースである机に到着し、ビニール袋を置く。

 そうだ、そろそろ面接の結果が届いているかも。一度玄関に戻る。歩きながら、スカートのチャックを下げる。下ろしたスカートをつま先に引っ掛けて洗濯籠へシュート。惜しくもポストに阻まれたが後で拾えばいいだろう。

 郵便受けを覗いてみるが、届いていたのは電気代の督促状だけだった。つい払い忘れてしまう。充分な仕送りをもらってるから、お金に困ってはいないのだけど。机に戻る途中。上の下着を外して、西部劇の保安官が縄を投げるような動作で洗濯籠へ。あと一歩でならず者を捕らえることはできなかったが後で拾えばいいだろう。

 椅子に引っ掛けていた大きめのTシャツをすっぽり被って準備完了。

「さぁて、やりますか」

 机の上に出しっぱなしだったエントリーシートと向かい合う。AIなんかと遊んでなければ、こんなの午前中の内に終わってたはずなのに。毒づいたが、それは責任転嫁だ。頭ではわかってる。なんせ一昨日の夜から書き始めて、まだ名前と住所しか書き終わってないのだ。


 貴方の性格を一言で説明してください。

 貴方の長所はなんですか?

 貴方の夢を自由にご記入ください。


 こういうの、どうにも苦手だ。苦手だと思って避けてきたら、もう卒業間近。卒業までに就職先が決まらなくても、母のところに戻れば当面の面倒は見てくれるだろうけど……。そんな甘えた生活始めたら、もう社会復帰できる気がしない。ただでさえ、今まで散々甘やかされてきたのだ。

 非生産的な問答を繰り返し、菓子パンをかじっているとスマホが鳴った。母からの着信だ。噂をすれば云々とはよく言うが、思考も噂に含まれるとは知らなんだ。

「どうだった?」

 遠慮がちな口調も内容も、全くの予想通りだ。

きっと想像通りの言葉が帰ってくるだろうとを確信しつつも、素直な感想を漏らす。

「あんまり良くなかった。合わないね」

「そう……。でも、まだ一回目じゃない。通っていけばまた違うかもしれないわ!」

『ほらね』ってドヤ顔決めたいところだが、自分のドヤ顔ほど殴りたいものもない。静かに、ため息を漏らす。

「本当に嫌なら、無理強いはしないわ、でもできたらあと一回だけ、ね?」

 いつからだろう、と数年の記憶を振り返る。

 母が私の顔色を伺うようになったのは。

『このままじゃ、私が困る』とハッキリ言ってくれなくなったのは。

「そう……だね。あと一回だけ行ってみるよ。楽しいと言えば楽しいのかもしれない」

 私が、母に対して罪悪感を感じるようになったのは。

 嫌なものは嫌だと正直に言えなくなったのは。

「そうよ! 目先のことに焦ることなんてないわ」

 互いの心を探っている内、それを刺激しない術ばかり覚えていく。

 母との会話に、独り言のような虚しさを感じるようになったのは、いつからだったろうか。

 通話を切った直後、書きかけのエントリーシートがやけに捗った。




***




 翌週、母との約束通り私はAIパートナーを訪れた。この前と同じ女の受付が私を迎える。

「おっす。早ぇすね。前回と同じ部屋です。鍵これ」

 おっすってなん、いや、おっすは知ってたわ。でも流石に目に余る。この場合耳に余るとか言うんだろうか。後から思えば八つ当たり染みた感情もあったろう。こんな奴すら職に就いてるのにって。

「言葉づかい、もう少しなんとかならないの? 客だよね、私」

 気づけば私は口に出していた。結構トゲトゲしく。

「さっせん……自分どうも敬語って苦手で————」

 女は頭を掻いて立ち上がり、頭をゆっくりと下げた。お辞儀かと思ったが違った。

「———とか謝ると思って言ってっすよね、それ」

 女は見上げる私のオデコに自分のオデコを当てた。半分しか開いてない目が、殺さんばかりの迫力で睨むつける。

「は⁉ 何が…‥? え?」

「あんたみたいな人、あーし一番嫌いです。一生機械と喋ってゃ~良いと思っす」

 ふん、と鼻を鳴らして女は座りなおした。雑誌を開き、これ以上話す気はないという態度。え? 今の私が悪かった? そんなわけなくない? 

 釈然としねぇ…。てゃ~ってなんだよ。



「おや、来てくれましたね。ありがとうございます」

仮想宇宙。不満気な私を、APTは爽やかニヤニヤ笑顔で迎えた。ほんと顔だけは良いのに、したり顔がムカついて見惚れるどころじゃない。

「今日は、他愛ないお喋りなどいかがでしょうか」

「なんでもいい」

「では、リラックスできる場所に移りましょう」

 その言葉と同時に、身体が宇宙に沈み込む。頭まで浸かった先の景色は、鮮やかで透明な青。海の中だった。やはりアームが、水中独特の浮遊感を再現している。APTも横になり、ベットでくつろいでいるような姿勢で水中を揺蕩っている。

「お喋りって、何を?」

「何でも。貴方の話したいことを」

「話したいことなんて……」

 言いながら、無くもないか、と思う。就活のこと、母とのこと、無礼な受付のこと、聞いてくれる相手がいるなら話したいことばかりだが……。

「2時間沈黙を続けた方はこれまでに———」

「そういうつもりじゃないの。思いつかなくて」

 結局言い出すことはできなかった。

「そうだ、あなたのこと教えて。どういう仕組みで話してるの?」

 ただ、その代わりに、頭に浮かんだ出来事を解決するヒントになりそうなことを聞いてみた。

「やっと私に興味をもってくれました?」

 そしてすげぇ後悔した。にやけ面うぜぇ。

「やっぱりいい。二度と口を開けないで」

「基本的には前回お話した通りです。世界中の方々とお話をして集めたデータを、マザーコンピューターが分析します」

 APTは構わず流暢に自慢げに、自らのシステムを語りだした。

「分析って……ただ音声と映像送ってるだけじゃないの?」

「ヘッドセットが脳波を観測しています。脳波をより効率的に望ましい状態に変化させられるように、インターネットや協力関係にある大学・研究機関、そしてわが社の独自資料から最も相応しいと思われる回答を選出、新たな会話パターンとして登録します」

 つまりどっかの討論とか映画とか報告書とか、そんなののデータをかき集めて最適な返しを見つけ出して覚えておこうというわけだ。

「最初期には、貴方が望んだようなエラーも頻出しました。会話が成立しないことも日常茶飯事でしたね」

「でしょうね」

 言うのは簡単だが、実現するとなると膨大なデータと計算、そして時間が必要になるはずだ。人間の研究者も尋常じゃない労力をかけたろう。

「例えば、こんなことがありました。あるパートナーの方が仰った『お前と話すようになって前向きになれた。おかげで昨日、ついに愛しのあの子を射止めたんだぜ』と」

「それで?」

「私の兄弟は言いました。『おめでとうございます。鍋にするのがおススメですが、鮮度が落ちやすいので早めにお召し上がりください。ただし病原菌にご注意を」

「あははははははははははははは」

 なるほど、射止めるを文字通りの意味で認識して猪か何かの話をしてしまったわけだ。文脈上の不自然さも、当時のAPTにはわからなかったと。

「私達にとっては笑いごとじゃありません。猛烈なクレーム、そして訴訟沙汰に発展しました」

「でしょうね。でもそれって、こうやって私が話してる言葉の意味を、あなたは理解してないってことじゃない?」

「その通りです。入力音声に対して、適切な音声を返しているだけに過ぎません」

 随分あっさり断言したな。

「今の自白? 『私達は条件反射で喋ってるだけで、心なんか知りません』っていう」

「心無いものに心を見出すこともあります。見方によっては神社だって木材の塊ですが、どちらかに火を放てと言われたら、貴方は暖炉を選ぶでしょう」

 なんとなく、納得してしまいそうになる。APTの言うことは全部そうだ。でもどこかで腑に落ちなくて引っかかって、私のどこかに詰まっていく。その重みのせいだろうか、私の身体は少しずつ海底へ沈んでいった。




***




「では、ドアに近い方から志望理由を教えてください」

 APTと話した翌日。私は入社面接を受けていた。

 一次試験が筆記、二次試験がこの集団面接。その次が最終試験で役員との個人面接だ。

 五人並んだ志望者の内、ドアに一番近かった男が勢いよく立ち上がった。

「はい! 私は御社の、常に新しい価値観を生み出していくという企業理念に惹かれ、入社を志望いたしました。私は昔から———」

思わず出かけた欠伸を、死ぬ気でかみ殺す。私の席はドアから一番遠い、回答の順番はまだ先だ。この段階で緊張するほどの初々しさはすっかり失ってしまった。試験慣れも考えものだな。

「では、次の方」

2人目が立ち上がる。大きく口を開けて話す、見るからに快活そうな女だ。

「はい! 私は企業を選択する際、人と関われる仕事かどうかを重要視しました。機械化、AI化が進む昨今ですが、人間の気持ちを理解できるのは、人間だけであると考えます。その点、顧客とのコミュニケーションを重視する御社の方針は———」

 昨日のことを思い出した。母との会話。互いの気持ちなんて、理解できない方がずっとやりやすいと思う。ああ、だからAIカウンセラーなんてものが流行りだすんだ。確かに、私さえ心を許せば、愚痴を言うにも相談をするにもなかなかの相手だと思う。顔は良いけどプライドという概念がないから面倒くさくないし、冗談のセンスも悪くない。

「————以上です。ありがとうございました。」

 取り留めのないことを考えている内、4人目、私の隣のヤケにガタイの良い男が席に着いた。

「では次の方」

「はい。私も、コミュニケーションを重視する御社の社風に魅力を感じました。私は————」

 静かに立ち上がり、暗記してきた志望動機を唱える。

「ではお一人ずつ質問をさせていただきます。今度はドアから一番遠い方から」

「はい」

 すぐに出番がきて良かった。なにかに集中していないと、眠気が抑えられない気がする。

「コミュニケーションをとるのが好きと仰いました。コミュニケーションをとる上で、最も重要なのは何だと思いますか?」

「相手の気持ちを想像することだと思います。これを言ったら相手はどう思うか、この言い方だったらどうだろうかと」

「なるほど、私もそう思います。しかし、他者の気持ちを想像するというのは難しいことです。どうしたら、できるようになると思いますか?」

「できるだけ多くの経験を積むことです。そのためにも多くの人と話し、新しいことにチャレンジしていく姿勢が重要であると考えます」

 面接官は「ふむ」と軽く頷いて着席を命じた。私は深々一礼した。今にも吹き出しそうな顔が見えないように。

これで合格通知が来たら、腹を抱えて笑ってやろう。人の温もりを謳う会社に、心無い機械の処世術をPRしてやった。熱烈に。

「あ、えっと……」

 私の隣でガタイの良い男が想定外の質問にパニくっている。

 しっかりしろよ。APTならもっと上手くやるぞ。『その質問をしてきたのは御社で288万社目です』ってとこだ。




***




 帰宅した私は、いつもの手順で身軽な服に着替え、椅子に全体重を預けた。背もたれがギシリと音を立てた。とりあえず就活も結果待ち、学校の課題も今日は無い。忙しい忙しいと思っていたのに、予定がぽっかり空いてしまった。苦手だ、こういう時間。ろくなこと考えないから。案の定、さっき他の就活生と面接官に向けた嘲りが自分に跳ね返ってくる。

 心を持たないAI、パターン化された会話を再現するだけの機械。きっと私達だって変わらない。形式化された発音の応酬に、定型の感情を推測する。私達が有難がる心とか温もりなんて、ヘッドセットが見せる仮想のニューヨークより、よっぽど朧気だ。フィルターを一枚外せば、何もない虚無の空間で、両手を振り回しているだけの自分に気づく。

「はあぁ~~~~~~あ」

 天井を見上げて、深く、深く、ため息。身体中の息を吐き切って、ある考えが頭に浮かんだ正にその瞬間、スマホが鳴った。あまりにもタイミングが良すぎて笑ってしまった。

「もしもし。あの……今日、どう———」

「そんなことより、話したいことがあるの」

 相変わらず遠慮がちに、おずおぞと尋ねる母の言葉を遮り、たった今決めたばかりのことを切り出す。

「私、お父さんと同じ仕事がしたい」

 電話口でも、母が息を呑むのが聞こえた。どんな顔をしてるか、想像するだけで心が痛む。母を傷つけるのが怖くて、今日までズルズルと取り繕ってきた。決意が揺らぐ前に、もう一度宣言しておこう。

「私、やっぱり絵を描くのやめられない」




***




 父が亡くなったのは私が十二歳の頃だった。葬儀は身内のみで粛々と行われたが、しばらくの間は線香をあげにくる訪問者が絶えなかった。

「この度はご愁傷様です」

「本当に立派な方でした」

「何かお力になれることがあれば」

 顔すら見たことのない大人達。かわるがわるやってくる彼らは、その三つの言葉をひたすら繰り返した。

 まるで同じマナー本でも読んできたかのように。まず眉間に皺を寄せた厳めしい顔で、数秒遺影を睨む。もったいぶって線香に火をつけると、両手が倍の重さにでもなったかのようにゆっくりと手を合わせた。三人に一人くらいは、そのまま静かに涙を流した。

 お葬式の時も、拝みに来る人達を迎える時も、私は驚くほど無感情だった。ある人は私の頭を撫でて「気丈なお子さんですね」と言った。またある人は「まだ理解できないのね」と哀れみの視線を向けた。どちらの言葉も多少は正しかった。私はその時点で悲しみを感じていなかったし、父の死をきちんと受け入れることもできていなかった。でも私は、こうも思っていたのだ。

 何故みんな、父のいない場所で、父のことを想って泣くのだろうと。

「ほら、理恵も。お父さんにお線香あげて」

 母のこの台詞を毎日言った。言われない限り、私が線香をあげることはなかったからだ。

 しぶしぶ私は仏壇に手を合わせる。目を瞑って、頭に浮かぶのは父のことではない。匂いから朝ご飯の献立を予想したり、三面のボスの倒し方に頭を悩ませたり、一時間目の体育が水泳だったことを思い出して憂鬱な気分になったりしていた。

 この仰々しい箱が、火葬場で見た真っ白い骨が、父という存在の成れの果てだと、私にはどうしても思うことができなかった。もし私が死んだら、母はまた、この箱の前で毎晩泣くのだろうか。最低の未来予想図だと思った。



「着きましたよ」

 軽トラックの助手席から慎重に降りる。そこは、父のアトリエだった。

 自転車を使えば家から通うのも苦じゃない距離にあった。しかし画家だった父は基本そのアトリエで生活していて、ほとんど家には帰ってこなかった。だから、父の荷物の大部分はこのアトリエに置かれていた。そろそろ整理しなければと母が重い腰を上げたのが今日。父が亡くなって半年ほどの月日が過ぎた頃だった。

 扉を開けると、絵具の匂いがした。すっかり建物自体に染み付いてしまっている。

 母と業者が生活スペースの家電をトラックに運んでいる間、作業スペースを探検していた。色の沁み込んだパレット、金属部品の端々がサビた筆。薄い埃でコーティングされた机、椅子、キャンバス。父が持つと魔法の道具みたいに輝いて見えたそれらは、すっかり鮮やかさを失っている。

 作業場の中央に、布を被せられたキャンバスがイーゼルに立てかけられていた。

一面の青。木炭の下書きが原色一つで塗りつぶされている。

涙が静かに頬を伝った。無意識に。

「お父……さん…?」

 そのキャンバスの中には、父という存在の残り香があった。父が、この絵を描いていたのだ。この絵を描こうとしていたのが父なのだ。その微かな存在が、揮発し拡散して、今まさに空気に溶けて消えてしまうのだと理解した。

「お父さん!お父さん!お父さん!」

 虚空に手を伸ばして逃がさないように試みる。できるわけがない。それは水に溶けた酸素を掴むのと同じこと。じたばたと両手を動かす私は、沈むように泣き崩れた。

 その日私は、父が死んだ事実を正しく理解した。



 父のアトリエで描きかけの絵を見たその日から、私は絵を描き始めた。父の遺志を継いだとか、生前の姿に憧れたとかじゃない。父の存在を感じることができるものが、あの青い絵以外何も残らなかったからだ。相変わらず母は、空っぽの箱と墓を拝んで嗚咽をあげている。私は母の泣き声から逃げるように、アトリエに泊まり込むようになった。

 もしも自分が死んだら、と私はよく想像した。私という存在が、大人たちが好きなように解釈した言葉で括られて、母さえそれを信じ込む。空っぽの身体を燃やしている間、みんなは額に皺を寄せて泣くだろう。煙が私じゃあるまいに、空を見上げて目を閉じて。

 そんなのは御免だ。父は最期に教えてくれた。自分の存在の残し方。私は死ぬまでに、その術を身につけなければならないと感じていた。

 それは強迫観念に近い想いだった。アトリエにいる時間以外が全て無駄に思えるようになった。教師やクラスメイトとの会話も苦手になった。私という存在ではなく、この人達は私が死んだとき、この人達が明後日の方向を拝んで涙するだろうと考えてしまう。ある種の人間不信に陥っていた。

 そんな状態での生活を、二年ほど続けた。学校での人間関係は崩壊したが、絵は父の知人も驚くほどのスピードで上達した。学生のコンクールで最優秀賞をもらって、大人と同じコンクールに応募するようになった。文字通り自分の存在を賭けて描いた作品。それを評価してもらうことは、私の自己肯定感を満タンまで満たした。段々、描くことそれ自体が楽しくなっていた。ただ母だけは、私が持ち帰る成果を喜んでくれなかった。



 状況が変わったのは中学三年生の時。大きなコンクールに応募する絵が、どうしても描けなかった。どんなに悩んでも、構図の一つも浮かばない。絵に乗せるべき自分の存在が、底を尽きてしまったような感覚。木炭をキャンバスに押しつけたままピクりとも動けない。そんな時、脳味噌は余計な事ばかり考える。

 今年は高校受験。当然みんなは進学する。私はどうする? いくつかの物事が上手く回れば、絵で食べてくこともなんとか…。でもそのためには、まず今回のコンクール。いや、その進捗がこんな状態じゃあ……そもそも画家になるなら、この後も山ほど絵を描かなきゃいけない。今発想が尽きてる時点でもう…。じゃあ、今から戻れるか? 普通の人間に。クラスの談笑に自然に混じれるか?

 アトリエにずっと飾っていた父の青い絵に視線をやる。青い絵具の下に、うっすらと見える木炭の下書き。悩んだ痕跡が幾つもあるのがわかる。亡くなる間際父は、かなりのスランプ状態にあったという。今の私と、似た心境だったりするのだろうか。そういえば、父の死因を母は未だに教えてくれない

 木炭を置いて、深く息を吐き出す。そうだ、元々はこの絵を見て、自分の存在を残すために描いてきたのだ。まぁまぁな作品をいくつか仕上げることができた。

 もういい、のかもしれない。

 これまでの自分の成果、先の不安、そして死という発想。たまたま全部が繋がってしまった結果だろうと思っている。

 赤く染まったキャンバスを見て、父の絵と並べたら良いコントラストになるかもしれない、そう思ったところまで覚えている。気づいたら病院のベットで横たわっていて、目を覚ました瞬間、母に殴られた。真っ赤に腫らした目が、私を睨んでいた。

 あぁ……、思ったより泣くもんだな、と思った。その日母の泣き顔を見て、私は絵を描き始めた本当の理由に思い至った。



 そこからは今の私と母に一直線だ。最初は慟哭と激昂を繰り返していた母が、徐々に私の機嫌を伺いながら話すようになった。ただ自分の主張は絶対に曲げなかった。カウンセリング機関のチラシ山ほど持ってきては、受診を強く勧めた。いくつか掛け持ちで受診していた時期もある。

 私は絵をやめた。努力して、一年遅れだが進学、最低限の社交性もなんとか身に着けた。

 ただ、母親との関係だけは言いようのないギクシャクさを拭えなくて、私は結局家を出てアトリエで生活を始めた。

 一時期に比べたら、まともな生活ができているはずだ。母だって、昔よりは心穏やかなはず。そのはずなのに。

 すっかり隅に追いやられた青いキャンバス。それが視界に入る度、私は私の生活を疑って、寝付きが少し悪くなる。




***




「ようこそいらっしゃいました。今日は何をしましょうか」

「解約手続きをお願い。受付じゃなくて、あなたに言うんでしょ?」

 宇宙空間で待ち構えていたAPTに、開口一番そう告げた。APTは少し驚いたような顔をしたが、腕時計を見る様な仕草をして頷いた。

「なるほど。なにかありましたか? 脳波が異常に正常になってますね」

「なにそれ、何処から持って来た台詞?」

「研究者のオリジナルです」

 ニヤッとするAPTに釣られて、私も少し笑ってしまう。

「フィードバックする時伝えておいて。まぁまぁ面白かったって」

「かしこまりました」

 私に答えながらも、指で虚空を弾き処理を進めている様子だ。突如私の手元にブロックノイズが現れ実体化する。

「書類ができました。こちらのペンでサインをお願いします」

「仮想空間も、こういう時は現実と変わらないね。あっけない」

「そのペンで、私の胸でも指してみますか? 思わぬエラーを吐き出すかも」

 楽し気に煽るAPT。面白い仕込みをしたのかもしれないが。

「いいよ、もう。自分を試すのはやめにした」

「左様ですか。では、御達者で」

私からペンを受け取ると、APTは深々と優雅にお辞儀をした。宇宙にヒビが入り外から光が差し込む。

「貴方が何に苦しみ、何に救われたのか」

 その時、突然APTが顔を上げた。

「私達は永遠にそれを知ることはない」

 私がどんなに嫌がらせをしても見せなかった、微笑み以外の顔。

「それが私には、無念で仕方ありません」

 宇宙が割れ、眩しい程の光がAPTの姿をかき消す。

「映画の台詞です。お気になさらず」

 世界が消える間際、それはそう言って、いつもの微笑みでウィンクした。

 ヘッドセットの電源が落ちる。

「私にだって、わかりはしないよ」

 何もない防音の部屋で私は一人呟いた。

「ただ、信じるだけ」



***




『海の底から愛を込めて』

       山形 理恵

 

 この作品を描いた当時、山形理恵はまだ高校生だった。これは驚くべきことである。青を基調とした大胆な色使い、時に荒々しく、時に精細なタッチ。とても成人前の少女の作品だとは思えない。

 海面を見あげ鳴き声を上げるイルカには、まず痛ましさを感じるだろう。しかし、空から差し込む光と、照らされた海水が発する美しい青は、この物語が単なる悲劇で終わらないことを示唆している。

 未だ不明な点が多くあるこの作品だが、キャンバスの裏面に母親宛の手紙が挟んであったため、手紙と一緒に母親に送られたものだとされている。親子間でしかわからない、極めて個人的な意味合いが隠されている可能性も指摘されている。

 以下、手紙の全文を記載する。


「結局私は、貴方が泣いているのが辛かったのだと思います。だって、貴方は悲しむのが下手でした。見当違いの方を向いて、延々と泣いていました。

 私は貴方に教えてあげたかったのだと思います。貴方が別れを惜しむべき人は、ここにいるんだよって。最初から気づけていればよかった、目的を間違えて多大な心配と迷惑をかけたことは、謝罪するしかありません。ごめんなさい。

 ただ私はきっと貴方に、こうも言いたかったのだと思います。

 私も、ここにいるんだよ、と。

 おかげさまで気持ちの整理が尽きました。これからご心配をかけることは少なくなると思います。信じられませんか?

 心なんて不確かなものを信じているのです。

 それくらい、信じてくれてもいいでしょう」


 あまりに卓越しており高校生の作品とは考えにくい点、他の作品と構図的な特徴がことなっている点、以上の二点から別人の作品であると主張する声も少数ながら存在することを書き添えておく。

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海の底から愛を込めて あさって @Asatte_Chan

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