見つけるのが恋

7.ハッピーなガール好きでしょう?



あの事件から数日経ったが、

依然として如月の、俺に対してのキツイ当たりは変わらなかった。

むしろ、もっとキツくなったような気がする。

この前なんて、昼食の誘いを断られた。


しかし、あの事件について詰め寄ると

少しキレながら



「あぁもう!ならこれで、おあいこですよ!

絶対、他の人に言わないっていう約束付きで!」


と、"あるもの"を渡して来た。

それは二枚の紙。だけど、如月の気持ちがこもっていた。


......だけど、まだ"これ"は渡すべきではないな。


俺は、財布の中にそれをしまった。






初秋の風は程よく涼しくて、それでいて少し悲しくなる。

思い出すから、いろいろと。

"あの人"の声が今にも耳元でしそうだ。


いや、駄目だ。

俺はそんなために、ここに来たわけじゃない。

元の目的を忘れそうになり、一人で焦る。



家族連れやカップル達が、こぞって行くところと言えば公園の広場だ。

話すだけ、それだけで楽しいらしい。


あ、あとはキャッチボールしたりするんだっけ?



「大夢さーん」



遠くから声がする。

いつも通り透き通っていて、鼓膜に優しい。



「あぁ、涼。やっと来れたんだな.....って、おお!?」



涼は白いブラウスに、淡いブルーのふんわりとしたスカートだった。

耳にはいつもの蒼いピアス。

その姿は、清潔で澄んだ涼にとてもよく似合っていた。


涼は少し息を切らせながら、小走りで来た。



「すみません、待ちましたか?」



「い、いや?大丈夫だ、そんなに待ってない」



涼は少し照れながら微笑んだ。

俺も少し照れる。



「じゃ、じゃあもうお昼時だし、どっかご飯でも食べに行くか」




今日は俺がリードしなくてはいけない。

いけないんだ。

俺は今日、涼が何故自殺をしようとしたのか。

それを聞き出そうと誘ったのだ。


歩き出そうとした時に、涼が俺の裾をつかんだ。



「......あの。

私お弁当を......」



女子高生の手作り弁当!

俺が高校生の頃、どれほど憧れたか。

弁当を食べる俺を、可愛い笑顔で見つめる彼女。

......まぁ、そんな願いも一生叶わないものになっちゃったけどな。



「いりませんか?」



涼が、顔を覗き込む。

まっすぐな瞳が俺を捉えた。



「そんな訳あるか!喜んで食べる!」



ご丁寧にレジャーシートまで用意をしてくれていた涼は、テキパキとしている。



「料理をしないながらに、頑張って作りました。

召し上がってください」



恐る恐る弁当箱を開ける涼。

恐る恐ると言いながら、無表情なんだけど。



中には卵焼きと、ウインナーあとは野菜炒めやおにぎりがあった。



「おぉ!美味しそうじゃん!食べていいか?」



「お口に合うか分かりませんが......」




とりあえず、おにぎりを一口食べる。



「う!?」



シャリという歯触りと共にやって来たのは、

砂糖の様な甘み。

というか、砂糖だ。



「甘い!涼、これ塩か?」



「え?塩のはずなんですけど」



涼も慌てて一口食べる。



「甘い......これ、砂糖ですね。

大夢さんすみません!」



大丈夫と、軽く返事をして

野菜炒めに手を伸ばす。




「駄目です!多分全部砂糖ですから!」



と、俺の手を慌てて握った涼。


少し間が空いてから、顔を真っ赤にして

手を離した。

顔から蒸気が出そうだ。



「ご、ごめんなさい!私......」




「大丈夫大丈夫!気にするんなって」





「ヒロちゃーん!」



自分の名前を呼ばれ、振り向いた。

その瞬間、視界がグラついて柔らかい感触が俺を包む。


かすかに見える涼は、口をパクパクさせている。




「ヒロちゃん久しぶりね!

元気してた?パパがこの前、お店に来たっていうのを聞いて探していたの!」



俺を抱えたまま、爽やかな笑顔見せてくる。

明るい髪色にツインテール。

そして、涼がいつも来ている制服と同じのを、来ている。



「え?まさか忘れちゃったの?

ヒロちゃん昔よく、遊んでくれたじゃない」



目を潤ませ、俺を見つめてくる。


......どっかで見たことあるような......




「あ!あの居酒屋の!じゃあ、舞花か!」



「そう!久しぶりね!

私ね、アメリカに留学していたの。

だから久しぶりに帰って来て、真っ先に会いたかったわ!」



「最後に会ったの、小学生くらいだったもんな。

大きくなったな!」




まぁ、いろいろとな。


あの頃から可愛さにも磨きがかかってる。

ニコニコと微笑む舞花の視線は、涼に移った。



「貴方、私と同じ高校よね!

これから友達としてよろしくね!」



と、手を出した。


涼は少し戸惑いながらも、



「よろしくお願いします。涼って言います」



と、その手を握った。



「涼ちゃんって言うのね!素敵な名前」



舞花は弾ける様な笑顔で、涼を見つめた。

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