6.どこから恋?



「やっぱりお前、如月か!」


今まで黙っていた俺は、一気に声を荒げた、

もう俺は確信した。

女にしては高い身長だけを除けば、

本当に女の子なんだけどなあ。

そんな淡い期待さえ抱けるほど、心は冷静になっていた。



「いつから気づいた?」



俺に聞かれた涼は、ジッと女装をした如月を見た。

顎に手を置き、その姿は探偵さながらだ。



「身長、後は声とかですかね。

無理やり上げている様な声。

でも、本当にお人形さんみたいですね」



「声?俺には可愛い女の子の声にしか聞こえないんだけどな」



「ちょっとした女の勘ってやつです。

それに、大夢さんって女の人とあまり絡んでいるイメージも少ないので、

何か訳があるのかと思いました」



「本当頼れるわ、女子高生の勘」



「おい!俺の事、放っておいて何話してんだよ!」




ふと、俺と涼は振り向いた。

そこには、取り乱した如月の姿があった。

恥ずかしさと情けなさで、顔を真っ赤にしている。

少しだけだが、先程まで綺麗に着こなしていたメイド服もはだけていた。



「如月、なんでメイド喫茶で働いているんだ?」



「うるさい!クソ上司には関係のない話だ。

会社の人に言うなよ!」



「なんだ?恥ずかしいのか?

それとも、俺に弱みを握られた事が情けないのか?」



「う......どっちもだよ!」



如月は、そういうと全力疾走で俺達の横を通り過ぎた。

走る時に発生する風が、二人の間を通り抜けた。

あ、こういう走ってる姿見ると、やっぱり男だわ。



「あーあ、如月行っちゃった。

明日の出勤が楽しみだわ。なぁ、涼。

......ん?」



ふと、涼の姿が見当たらない事に気が付く。


そう思った瞬間、俺の背中に誰かが抱きついた。

柔らかいシャンプーの香りがする。



「......少し、心配しました」



涼の声だ。

透き通った切なそうな声だ。



「な......どうしたんだよ」




「だって......」




俺を抱きしめる力が少し強くなる。

涼の体温を感じる。

暖かい、いつも冷めているような涼にも温度があるんだなと、当たり前の事を考える。


涼は、少し掠れた声だった。


「見かけた時に、本当の女の人だったらどうしようかと......

そう考えたら、胸の奥が重くなって......」




はっ、俺、今、ドキドキしてる?

女子高生に胸キュンとかしてるのか?俺

そんな事は無いと、頭を左右に振る。

頭を冷やせ俺。



「りょ、涼? そっち向いていいか?」



「駄目です!絶対に見ないでください!」




涼は、俺の背中に顔を埋めた。

鼓動が早まる。




「見られたら......死にます」



「涼が言うと、妙に信憑性あるんだよ!

その言葉!」



「冗談ですよ、もう」



クスクスとした小鳥みたいな、笑い声が背中から聞こえてくる。


背中の圧迫感が消えた。


気付くと目の前に涼がいた。

耳についている、綺麗な澄んだ青のピアスを

揺らしながら。

少し微笑んでいる気さえする。



「やっぱり私、大夢さんといるとおかしくなっちゃいます。

一緒にいない時も、気付いたら考えています。

......これって恋って言うんですかね?」



この反応は、本当に恋をした事の無い子の反応だ。

純粋な疑問を俺に投げかけている。

俺だって分からない。

何が恋なのか、何が何をもって好きと言うのか。

答えの分からない質問をされても

返す言葉が無かったが、涼の性格上

答えを見つけないと気が済まないに決まっている。



「うーん、そうだな。

この数日で決まる事じゃ無いし、ゆっくり自分の気持ちと向き合っていったらいいんじゃないか?」



これが、俺の精一杯の答えだ。

今俺が出せるのは、その言葉だけ。

少しの沈黙。

そして、涼はしっかりと俺の方を見つめた。



「はい。

私、ゆっくり考えたいと思います」



恋......ね



目をシャランッと輝かせている涼を、

俺は眩しすぎて目を合わせられなかった。

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