3.あれだよ、あれ。シュークリームの中身がワサビのあれ
「で、どうしたらいいんだよー!」
と、叫んでいる場所は、俺の出勤先である会社のオフィスだ。
同僚の冷たい視線を浴びながら必死に考える。
「どうしたらいいんだ?
あの時はとてつもないノリで言ったはいいけど、結構ノリノリだったよな?
楽しみにしてます感バリバリだったよな?
花とかは無難だし、なんだ?
どっかのテーマパークの招待券とか?
ブツブツブツブツ......」
「青葉君......?どうしたの?」
「へ! ? 里美さん!すみません!
ちょっと考え事です!」
「そうなの?あんまり仕事に支障が出ないようにねー」
「すみません......」
いかにも優しい顔立ちと声。
俺の直属の上司である、前川 里美さん。
ほんわかした雰囲気と、持ち前のドジっ子気質が一定の男層に人気で
今日も今日とて優しげな微笑みは絶やさない。
ちなみにスイーツは、綿菓子だ。
「じゃあ今日の資料はー、うーんとね、如月君と一緒に頑張ってもらおうかな?」
如月はあからさまに身震いして、
シラけた顔で俺を見てくる。
おまけに気怠そうに、舌まで出してくるからこっちは気が悪くて仕方ない。
「え!?俺が青葉さんとやるんですか?
なーんか、やる気削がれます」
「ほう?如月は、この俺と仕事したくないって事だな?ん?」
「ピンポン、正解です。
あ、だからって景品はありませんけどね?」
如月 柚(きさらぎ ゆず)
コイツは言うまでもなくスイーツは、可愛いシュークリームに見せかけての中身はワサビでしたっていうあれだ。
顔は腹が立つことに、超絶美形。
色素の薄い瞳と髪で、長い睫毛はもう女子だ。
やる気がなくて、仕事に舐めてかかってくる所を除けば可愛がってやってもいいのに。
男にしては身長は低めだが、スマートでそれでいてエレガント。
あれ?エレガントって男に使うっけ?
きっと、使わないだろう。
「青葉さん、俺この後行かなきゃいけない所あるんでお先です」
如月は、そろりと抜け足で抜けようとする。
そんな小学生みたいな方法で俺を騙せるはずが無い。
「おいおい、それで逃げられると思うなよ?
散々毒吐いていたクセに」
本音中の本音だ。
毒を吐いた上に、会社を抜けようとする社員がどこにいる。
「もーう、二人ともダメだよ。
喧嘩は禁止!
本当は二人とも仲が良いのにー」
里美さんは悟すように、そしてなだめるように俺たちに促す。
そういうのは上手い筈だが、今の俺たちには効かない。
「「仲良くありません!」」
「ほら、二人とも被ったー」
如月は、冷めた目で俺を睨んでるし
里美さんは、ニコニコしながら二人を見つめている。
こんな状況、また怒りをぶつけた所で如月が反省をしてデスクに戻るとは到底考えにくい。
まったく、扱いにくい部下を持ったものだ。
「あぁ、もう分かった分かった!
如月、今日はもう帰れ。
その代わり明日は、しっかり働いてもらうからな」
「安心してください。
明日はしっかり働きますので」
如月はそのまま、華奢な体をバンビの様に弾ませながら会社を後にした。
あの野郎。また明日覚えておけよな。
「.......ん?なんだこれ?」
俺の足元にあったのは、一つの名刺の様な物だった。
場所的には、如月が落としたものだろう。
「メイド喫茶......セレナーデ?」
その名刺の様な物には、メイド喫茶セレナーデという文字と、文字の周りに書かれたピンクのハート達。
.......うっわ、まさかのアイツこういう趣味してんのか?
人は見かけによらずだ。
如月自身が、メイドのような顔をしているのに行かなくなるのか。
「まてよ......そうだ!
これを使えば!涼を喜ばせられるかもしれない!」
これも淡い期待だ。
分かってるけど、試してみたい。
もしかしたら涼のツボに、メイド喫茶が刺さるかも。
そうとなれば、まずは下見だ。
決して、決してまず始めに自分が一人で堪能したいとかそういう事では断じて無いけど、無いけどな。
......面白くなりそうだ。
俺は、如月を追う様にメイド喫茶セレナーデへ向かった。
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