第116話 エボ二 of view

 「じゃあ、この穴も、脱出用に皆が掘ったやつだったんだ……」

 穴を抜け出し、外界に出た僕は、この穴の正体を知って、ガッカリしつつも、納得した。


 「元々、アンタが大きくなったら、この穴から脱出する。って、話だったしね」

 そう、呟きながら、穴を登ってくるキバナに、僕は手を差し伸べる。

 その背中には、数日過ごすには十分な食料と、ちょっとした便利道具が背負われていた。

 キバナは「ありがと」と、素直にお礼を言い。僕の手を握って、勢いよく穴を抜ける。


 「まぁ、お前がこの穴を使って、こっち側に来てたのは、暫くの間、気が付かなかったけどな」

 先に穴を抜けていたパキラが、辺りを警戒しながら、呟いた。

 その隣では、昔に描いたと言う、周辺図を広げながら、バイモが、ルートを思案している。

 やはり、兄弟たちは、僕よりも、この世界に慣れている様だ。


 「お前が言っていた、ダルと言う男は、この場所で待っているんだよな?

 バイモは図に視線を向けたまま、僕に近づいて来る。


 「…うん。集合場所は、多分、そこであってるよ」

 如何いかんせん、図と実際の風景の対比が難しい。

 普段から、意識して見ていれば違うのであろうが、突然、図を出され、どこだ。と聞かれても、確信が持てる答えが出せない。


 「良かった…。それで、同族の街があるのは、どの辺りだ?」

 いつになく真剣な雰囲気で聞いて来るバイモ。初めて、お兄さんに見えた気がした。

 「ん~…。同族の街は、その図に書いてない部分かな?多分、この辺り」

 僕は、図から見て、適当な空白位置を指差す。


 「ま、まぁ、僕が案内するし、大丈夫だよ…」

 真剣なバイモに、確信の無い位置を教える事がはばかられ、有耶無耶うやむやにしようとうする僕。

 「いや、皆が襲われ、バラバラになった時、集合場所が分からなくなっては、まずい。分かる範囲で良いから、この図に描き足してくれ」

 しかし、僕が考えていなかった場面を例に挙げられ、却下されてしまった。


 僕は、バイモは頭が良いんだな…。と、思いつつ、バイモに指示された通り、図に、特徴物や、壁等を書き足していく。


 「…こ、こんな感じかな?」

 僕は元の図に比べれば、拙いながらも、何とか納得のいく図を書き上げ、バイモに渡す。


 「…成程、そうか……。ありがとう」

 「え?…あ、うん」

 僕は突然のお礼に驚き、ぶっきら棒な返しをしてしまう。

 あのバイモが、お礼を言うなど、考えても見なかったからだ。


 「皆、集まってくれ」

 しかし、バイモはそんな僕の様子を気にした風もなく、皆を集める。

 皆も、その声を聴くと、すぐに集まり、その場に伏せるようにして、身を下ろした。


 バイモは、移動経路は勿論の事、はぐれた時や、戦闘になった場合等、様々な状況を仮定して、指示を出していく。

 それを、皆は黙って聴いていた。


 「以上。…質問はあるか?」

 「………」

 皆はその問いに、沈黙で答えると「よし」と、言って、パキラが二足歩行に戻る。


 「んじゃぁ、敵の気配がないうちに、さっさと行こうぜ。匂いで集まってこられても厄介だ」

 それに釣られて、皆も身を起こす。と、言っても、作戦通り、見張りのパキラ以外は四足歩行だが。


 道案内役は、はぐれる様な事がなければ、僕の役目だ。

 途中までは、良く知る道だが、ダルさんと合流する場所は、昼間に初めて通った道だ。不安になる。


 それ以上に、この場所に対する恐怖心を持ってしまった。

 今までは、ラッカが守ってくれていたのだろう。そうでなければ、こんな危険な場所で、あんなにも無知でいられるはずがない。

 …ラッカは………。


 「道案内お願いね。エボニ」

 母さんが、不意に声をかけてくる。

 僕を勇気付けてくれたのだろうが、別の事で頭が一杯になっていた僕は、驚いてしまった。

 いけない。今は、別の事を気にしている余裕はない。下手すれば、この場の全員が命を落とす。


 「うん。ありがと。お母さん」

 僕は母さんの応援に、笑顔で答えると、気持ちを切り替え、前に進んだ。

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