第64話 メグルとじゃれ合い

「シバっ!どうして!」

 僕は薙刀なぎなたを振るい、シバに飛び掛かった。


 シバなら避けられる単調な斬撃だ。

 当然ながら、シバは身をかわす。


「何とか言ってよ!…じゃないと僕は!…僕は!」

 薙刀の先端をシバへと向ける。

 その手は酷く震えていたが、を取りこぼす事だけは絶対にしなかった。


 それをしたら、逃げたのと一緒だ。

 僕はシバと向き合わなければならない。

 親友として、兄弟として、家族として。

 その気持ちはシバも一緒だと、心の底から信じている。


 だから今は向き合わなければ!


 僕は真っすぐにシバの瞳を見据える。

 シバはそれに答えるように、真正面から飛び掛かってきた。


 それを薙刀でいで、叩き落すこともできた。

 しかし、僕はえて、その攻撃を受ける。薙刀を盾代わりに使って。


 シバは驚いたような顔をしていた。

 まさか僕が攻撃を真正面から受けるとは思わなかったからだろう。


 しかし、一度宙に浮いてしまったシバの体は、もう、僕の上に着地する他、道がなかった。


 当然、僕の体では、飛び掛かってきたシバを受け止めきる事は出来ない。

 僕は地面に押し倒されるが、シバの爪はかろうじて柄で受け、無傷だった。


「どうしたの、シバ?ほら、終わりにしなよ」

 僕は今、シバに覆いかぶさられている。

 爪を止めるために両腕で薙刀の柄を持っている為、頭はノーガードだった。


 その気になればいつでもシバは僕の頭をみつぶせるのである。

 しかし、僕の挑発的な笑みに、シバは苦虫を噛みつぶしたような顔をするばかりで、一向に動かなかった。


「いつまでもそんな事しているとっ!」

 僕は足を動かし、的確な角度で爆発を起こす。


 シバと僕は爆破に巻き込まれ、宙を舞う。

 そして、僕は勢いそのまま、シバの上に飛び乗った。


「ほら、逆転されちゃった」

 もがくシバを柄で押さえつけると、すぐに形勢は逆転した。


「ほぉ~ら。シバちゃん。脇はくすぐったいですか?」

 僕はシバの脇を足でくすぐる。

 特に意味はない、いて言うなら僕の上に飛び乗った仕返しだ。

 …いつものようなじゃれ合いだ。

 だから…。戻ろう?シバ。


「グァウ!」

 シバも負けじと、土を操り、地面から僕に向かって棒を突き出してきた。

 先を尖らせて、僕の死角から撃てば良い物を。


「おっと、危ない」

 僕はいさぎよくシバの上から退しりぞく。

 シバもそのすきに立ち上がった。


 さっきだって、今だって。

 今この瞬間だって、シバは僕を殺せる。


 なんだかんだ言ってシバは僕に甘い。

 結局、僕を殺せやしないのだ。


 それは僕も同じだが、僕はシバが引くまで何度でも食らいつく。

 初めからシバに勝ち目など無いのだ。


 そう、これはいつも通りの、じゃれ合い。

 いつものように、本気で楽しもうじゃないか。


「ほら、かかってきなよ。まだ喧嘩は終わってないでしょ?」

 まぁ、ずっと僕のターンだけどね。


 僕はニヤッリと笑うと、再び薙刀を構える。


 二人の間にだけは、いつも通りの時間が流れていた。

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