時を超えたOL
「それで、我が社の商品について何か不備がございましたでしょうか、お客様」
むこうでどたばたと一悶着した後、そこには人が変わったように真面目な対応をする電話口の彼女がいた。
「いきなりバカ丁寧にされてもこまるんですけど」
「いえいえ、最初からこの調子でしてよ? ……あのですね、真面目にやらないとまた[キルユー]で飛ばされるんですよ。合わせてくださいお願いしますぅ……」
後半はとんでもないくらいの小声だった。近くにまだ上司が徘徊しているらしい。
「で、[ラバーズ]の返品交換とかは」
「それは承ってませんねぇ。ラバーズの説明メモリに……、ってそうでした持ってないんでした。しょうがないですね、じゃあ口頭で説明いたします」
聞けば[ラバーズ]は一度その形を主人の好みに変え正式契約、つまり今朝のキス、を行うとそれ以降容姿の変更が行えないそうで。つまり返品したとしても本社の方で使うアテがあるわけでもなく。よって返品は承っていないとのこと。
「……と、いうわけですので」
「うーん……。ちなみにこれ、いくらだったんです?」
「本当は富裕層向けの高価な商品なのですけど……、その、昨日のは。……これ、聞かれるとまずいんで他言無用でお願いしますね……?」
「んん? もしかしてあたしなんかした?」
「したもなにもないですよぉ……。ほとんどもうろうとした私を引きずって四件目に突入しようとした店先で、敵対企業のアンドロイドに襲われて、足下おぼつかない私がもうだめだって諦めてたら、あなたが拳一発で退けてくれて、感動した私がなんでも持っていっていいですって往来で商品広げたら、じゃあ一番高いのって言ってそれでもってたんじゃないですかあ……」
酔っている間に随分な活躍をしていたらしい。そういえば昨晩は剛力の数珠をブレスレットにしていたのだっけ。
「いえ、私から言い出したことですし、なにより助けられた身ですから、本来的はなにもいえないんですけどね……。ただ帰って出社してからないことが部長にバレたので恨み言の一つでもと……」
「やっといてこんなこと言うのもなんだけど、その、少しぐらいなら払うよ?」
「敵対企業に襲われて紛失した、ってことにしてなんとか納めたので、むしろお金払われた方が困るんでやめてください。あー、でもそうですね、悪いと思ってるんだったら」
電話口の彼女は少しだけ言葉を区切り、小さな、だけど思い切り弾んだ声でこう言った。
「昨晩、楽しかったんで。またよければ連れってくれませんか?」
そんなことならおやすいご用だ。
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