4 中島勝
悲鳴が聞こえた。
大きな悲鳴だった。
聞き覚えがある。悲鳴が、ではなく悲鳴を発したその声が。
「猛?」
悲鳴に野球部もサッカー部も気づいていて、全員がそちらの方向を――中庭のほうを向いていた。
それでもそれが猛だと分かったのは中島勝だけだったかもしれない。
それこそ代表に選ばれた猛ほどサッカーが巧いわけではないけれど、それでも猛の雄姿をずっとディフェンスとして、後ろで見続けてきた。
だからこそ、分かった。誰の悲鳴なのか。
「猛!」
聞こえなくなった悲鳴がむしろ猛の不安を助長させた。あそこでいつもマネージャーと会っていることはサッカー部の公然の秘密だ。
猛ほどの男が悲鳴をあげるほどの事態に彼女が絡んでいるとは思えない。
そう思いながらも勝は走り出していた。全力に近い走りが、危機感か何かを感じさせたのか、勝に続いてサッカー部全員が駆けだしていく。それに釣られるように集団心理が働いたのか野球部も続いていく。伝播していく。
それが地獄の始まりだった。
勝はマネージャーの圭子が絡んでいるとは思えないと思っていたが、その実、彼女は絡んでいた。いや正確には噛んでいた。
「はっ?」
流血して倒れている猛に勝は呆然となる。圭子(?)はその上に覆いかぶさって猛を噛んでいた。
勝はすぐに逃げるべきだったのかもしれない。信じれない光景に足を止めていたから、圭子だったものが気づく。気づかれる。
圭子だったものと目が合って、やばい、勝は素直にそう感じた。感じたが動けなかった。ああ、これが身が竦んだってやつだと冷静に判断してようやく圭子だったものが自分に近づいていることに気づいた。
もう遅い。
圭子だったものの噛みつきを勝は避けれなかった。
「ああああああああああああああ!」
絶叫。
後ろから遅れてやってきたサッカー部員と野球部員が異常さにいよいよ気づいた。
どうしたらいいか分からず、それでも圭子だったものを勝から引き離そうとする。
がその近くでむくりと立ち上がるものがいた。
猛だったもの、だ。
猛だったものが野球部のひとりに噛みつき、悲鳴があがる。
次は勝だったものが他の誰かを、そうやって連鎖が始まった。
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