第19話 首都侵攻

 聖堂内の空気は慌ただしく、騎士たちは皆一様に冷静さを欠いていた。

 無理もないであろう。最も恐れていた最悪の事態に、今この首都は直面しているのだから。


 首都内部にフェアレーターの出現を確認――――。

 加え、イザベラ・リード副団長、エイハクロヤ両名が死闘の末敗北したと。

 その報が騎士団に通達されてからというもの、聖堂内は混乱の極みであった。あの副団長たちが敗れ、命の危機に瀕していること……そして何よりこの首都の中にフェアレーターが現れたという事実を、皆信じたくはなかったに違いない。

 そんな中、教会付近を担当する騎士から、軍服姿の謎の二人組を目撃したとの報告が入った。これはイザベラが意識を失う前に告げた敵の特徴と一致する。場所も二人が救助された位置からそう離れていない。間違いなく奴らだろう。

 クレアはこの事件に対応出来るであろう唯一の存在、『鎧の英雄』・篠塚戒に事態の収拾を命じた。無論、今回の相手はそう易々と撃退できるような手合でないことは重々承知している。ディランも同行させたし、彼だけに負担を押し付けられぬと、首都中を巡回する騎士たちに支援を頼んだ。


(今は戒とディランに任せて、私はここで指揮を執る他ない……が)


 落ち着きなく騎士たちが走り回る堂内の通路。クレアもまた、イザベラたちが治療を受ける医務室に向かって、足早に進んで行く。その目つきはいつものような怠け者の片鱗など欠片も感じさせず、まさに冷静沈着な指揮官のそれだった。

 正直、この聖堂から動けず……何も出来ないことは歯痒い。 重傷を負ったイザベラは優秀な部下であり、深い絆で結ばれた友……姉妹のような存在だ。クロヤに関しても、騎士団を信じて協力してくれている穢威波の一族に申し訳がたたない。本来なら今すぐにでも聖堂を飛び出して、自らの剣でフェアレーターどもを討伐したかったのだ。

 実力を熟知しているがゆえに任せた任務だったが、だからこそこのような状況に陥るとは思ってもいなかった。彼らが一切歯が立たず、良いように蹂躙され尽くした……そんな受け入れがたい事実に直面することになるとは。


 目的の医務室に辿り着くと、丁度救護班の医師が出てくるところだった。ちらりと見えた医務室の中から、緊迫した空気が感じ取れる。


「……イザベラは大丈夫か」

「……騎士団長……!」


 疲れきった様子の医師は、クレアの姿を見ると慌てて姿勢を正し、彼女に向き直る。

そんな医師を片手を上げて制し、クレアは重ねて問うた。


「疲れているところ済まない。イザベラたちの容態を教えてくれ」

「……はい。先程お伝えした通り、命に関わることはないでしょうが……かなりの重傷です。直ぐに戦線に復帰、というわけにはいかないでしょう」

「そうか……」


 まずは二人の命が助かったことを喜ぶべきか。しかし、こうしている間にも戒とディランは教会に向かっていることだろう。彼らなら心配ないと信じたいが、今回ばかりはそうもいかない。

 敵は強い――――……おそらく、これまでのものとは比べ物にならないほどに。認めたくはない話だが、一介の騎士ではまるで歯が立たないだろう。クレア自身を除けば、今現場に向かっている二人と、イザベラ、クロヤぐらいしか奴らに対抗出来うる者は存在しない。


「……やはり私が」

「団長?」

「いや、何でもない。二人に会えるか?」



 扉を開け、室内に踏み込む。救護班の案内に従って歩を進めると、部屋の奥は他の患者から隔離されるように四方がカーテンで覆われていた。


「エイハクロヤは腹部に深い傷を負っており、現在も別室で処置を行っています。リード副団長に関しては、応急処置は済ませましたが……それでも長く話せるような状態では」

「わかっている。この目で無事を確かめたいだけだ」


 中を覗くと、肩に巻かれた包帯に大きく血を滲ませ、痛々しい姿で横たわるイザベラの姿が見えた。荒々しく呼吸をする部下の苦悶の表情……フェアレーターへの溢れんばかりの怒りを抑え込みつつ、クレアはイザベラに歩み寄る。

 イザベラは既に意識を取り戻していたようで、弱々しく揺らぐ視線をクレアに向けた。


「団、長……申し訳……ありません」

「良い、喋るな。お前には何の非もない」


 そう、非があるとすればそれは私の判断が誤っていたことだ――と、クレアは思っている。このアルメスクに奴らが現れたかもしれない、だが確証はなかった。それゆえに事態を軽く捉えてイザベラ単独で調査に当たらせてしまった。部下の実力を信じたこそと言えば聞こえは良いが、その軽率な楽観が今の状況に繋がっていることは疑いようもない。

 無論、緻密な計画を立てて慎重に作戦に当たっているのは変わらない。だがここ最近の彼らが上げた戦果を理由に、僅かばかり気を抜きすぎていたのではないかと、そう思わずにはいられなかった。

 そんな考えを感じ取ったのか、イザベラはクレアの瞳を真っ直ぐ見据えて言う。


「団長にこそ、非なんてありません。全ては私の力不足が招いたこと。だから……団長は何も、気にせず……指揮を執ってください」

「だから喋るな」


 イザベラの言葉には深い後悔が滲み出ていた。報告によれば、クロヤはイザベラを庇って致命傷を負ったと聞く。彼女がそのことを気にしているのは明白だった。


「……」


 現在奴らの目撃情報があったのは、イザベラの幼馴染であるシスターがいる教会付近。しかしこのことを伝えれば、イザベラは更にショックを受けるだろう。この状況で友人が危険な目にあっていると知れば、たとえ重傷を負った身であろうとここを飛び出していくかもしれない。心身ともに深く傷ついているイザベラに、これ以上負担は掛けられなかった。


「……今、戒とディランが奴らを追っている。あいつらに任せれば、ひとまずは大丈夫だ」


 結局、クレアはそれだけをイザベラに伝えた。しかしイザベラはその報せに目を見開いて、慌てた声を上げる。


「駄目、です……奴らの狙いは、戒……『鎧の英雄』なんです」

「何?」

「奴ら、言ってました。鎧の英雄を試すって。きっと……戒を何かに利用するつもりです。もしかしたら、メトロポリスに連れ去るつもりなのかも。このまま戒が行ってしまったら、奴らの思うつぼです」


 ――――その話が真実ならば。今まさにこちらの打った手は全て敵の思い通りであると言うことか。戒は既に敵を追って行動しているのだ。

 クレアは絶句する。奴らは『鎧の英雄』……戒を、いったい何に利用するつもりなのか。


「……いや、そんなことを考えるのは後だ」


 今はとにかく、彼を守らねば。怪物に対抗できる貴重な戦力である戒を、みすみす奪い取られるわけにはいかない。


「…………私が行こう」


 本来であれば、クレアがこの場を離れることなど許されないだろう。騎士団長を聖堂から引き離し、こちらの防備を脆弱にするための誘いである可能性もあるのだ。だが、それでも得体のしれない敵国に、『鎧の英雄』を奪われるわけにはいかなかった。


「……団長」

「仕方あるまい。この状況では、私が動く他ないだろう」

「すみま、せん……私も、一刻も早く任務に戻ります」

「馬鹿を言うな。お前はしっかり休んでいろ」


 イザベラは誰かの制止がなければどこまでも無理をする性質だ。こういうところはディランと違って聞き分けが良くない。ここではっきり止めておかなければ、傷が充分に癒えぬまま戦線に復帰しかねなかった。

 しかし、何故だろうか。未だ傷はまるで癒えていないというのに、クレアを見つめるイザベラの目に光が戻り始めた。…………嫌な予感がする。まさかこの部下はこの期に及んで、とてつもなく無茶なことを言い出すのではないだろうか。


「団長」

「…………何だ」

「頼みを、聞いてもらえませんか」






 逸る気持ちをひたすら抑えつつ、俺たちは教会への道を急いでいた。これほど状況が混乱しているのは、おそらく今までで初めてだろう。

 救助が駆けつけたときには、クロヤは血まみれで意識がなく、イザベラも多くを語ることなく気を失ったらしい。そんな状況だったため、俺たちが把握できている敵の情報は多くない。わかっていることは相手は二人組で、イザベラとクロヤが圧倒されるほどの実力の持ち主であるということだけ。その他に情報がない以上、闇雲に突っ込んだところで結果は見えている。シスター・アリシアや孤児院の子供たちのことも心配だが、冷静に対処しなければあいつらの二の舞になってしまう。


「ディラン、何か策はあるのか?」

「策、ですか……簡単に言ってくれますね。敵はあの二人を手玉に取るような相手ですよ。詳細がわからない以上は、最大以上に警戒して対処する……それ以外にないでしょう」


 隣で走るディランは、険しい顔でそう言い放った。普段であれば得意げに自分の考えた策を説明しているところなのだが、どうやら今回はそうもいかないらしい。俺みたいな馬鹿じゃとても考えつかないような作戦が飛び出すのではないか、と少しだけ期待していたのだが。


「何だ、ディランなら作戦ぐらい立ててるもんだと思ったよ」


 俺のその言葉に、ディランは深いため息をついた。そしていかにも呆れた、というような視線をこちらに向けて言う。


「向こうがどういう相手かまるで情報がないのですよ。無理があるでしょう」

「つまり、出たとこ勝負ってわけだ」

「……残念ながらね」


 それきり、俺たちは口を閉ざした。普段であれば自然な調子で軽口を叩き合う俺たちだが、今はどうにも無理をしている雰囲気が否めない。

 俺の胸は深い怒りと後悔の念で溢れていて、それはきっとディランも同じなのだろう。俺たちがその場にいても、結果は変わらなかったかもしれない。けれど――――大事な仲間が痛めつけられていたとき、共に並び立って立ち向かうことができなかった。そのことが、悔しくてたまらない。大切な仲間を傷つけられたこの状況で、呑気に会話をする気にはなれなかった。


 しばらく互いに無言で、夜の首都をひた走る。

 見慣れたはずの教会への道が、別物のように暗く悲しく感じられた。いつもならこの道の先には、賑やかで楽しく、温かみに包まれた人たちが待っている。シスターや、孤児院の子供たち。彼らまで犠牲にするわけにはいかない。


(絶対に俺が守ってやる)


 そんな決意を胸に、どれだけ走っただろうか。

 教会にかなり近づいてきたというところで、不意に周囲が騒がしくなってきた。既に夜も更けているというのに、どういうわけなのか。


「……おい、ディラン」

「ええ、嫌な胸騒ぎがします。……急ぎましょう」






 それは、悪夢のような光景だった。

 今日も普段通り、平穏な一日を送れるものだと思っていた。神に祈りを捧げ、子供たちと共に食卓を囲んで、悩める人たちの想いを聞き届ける。そんな、普段と何ら変わらぬ一日を。

 だがそんな思い込みは、こうして呆気なく崩れ去る。突然襲い掛かってきた恐ろしい軍服姿の二人組によって、全てが壊されてしまった。教会は、孤児院は、見る影もない無残な姿になり果てている。どうにか子供たちを連れて外まで逃げたものの、これ以上どこにも逃げ道などない。

 目の前で繰り広げられる凄惨な光景を、アリシアはただ茫然と眺めることしかできなかった。


「まったく、どいつもこいつも手ごたえ全然ないわねー。そんなんで本当に国を守れるとでも思っているのかしら?」


 女はそう嘲笑いつつ、立ち向かった騎士たちの頭を躊躇なく踏み潰した。そのあまりにも残虐な行動に、怯え切った子供たちは悲鳴を上げる。アリシアはその腕に抱いた女の子――ラインを、守るように強く抱きしめた。

 

 窮地の場に三人の騎士たちが駆けつけてくれたとき、どれだけ安堵したことだろう。これで子供たちは助かる。この国を守護する勇敢な騎士たちが来てくれたのだから、きっと大丈夫だろうと思った。

 ――――けれど、アリシアが抱いた希望は一瞬で砕かれた。彼らはこの極悪非道な化け物どもには敵わなかった。無論、聖職者であるアリシアには戦いのことなどまるでわからない。だがそんな彼女でさえ、これが戦闘にすらなっていない、一方的な虐殺であることはすぐに理解できた。

 女はしばらくの間、自らが踏み潰した騎士の躯を満足そうに眺めていた。そしてそこから目を離さぬまま、アリシアに言葉を投げる。


「……さて、と。どうシスター? その子を渡してくれる気になったかしら。

 時間を稼いでくれる騎士たちもいなくなってしまったことだし、諦めるしかないわよ。

 これ以上抵抗してくれるようなら、私は喜んでその子供たちを食べちゃうけど」

「何故……こんな酷いことを! ラインをいったいどうするつもりですか!?」

「そんなこと、あなたには関係ないわ」


 アリシアの問いを、女は一蹴して笑い飛ばす。

 女はようやく躯から目を離し、アリシアに視線を寄越した。


「健気ねぇ、シスター。どこまでもその子供たちを守り通すつもりなのかしら。

 戦いの世界なんて知りもしない貴女にとっては、私たちはさぞかし恐ろしく見えるでしょうね? それでもこうして私たちに立ち向かおうとする貴女の姿……とても素敵。でも、残念ね」


 女が腕を振るう。瞬間、アリシアの視界が揺れた。

 凄まじい衝撃が空間を震わせ、目の前の地面に巨大な傷をつける。現実とはとても思えないその光景を、アリシアの瞳は今確かに映している。


「これでわかったかしら。その姿勢は勇敢ではなく無謀と言うのよ。私が優しくお願いしているうちに、その子を渡した方が身のためだと思うけど」

「――――……!」


 そのとき、アリシアの心は恐怖に砕け散る寸前だった。

 このままでは殺される。アリシアだけではなく、彼女の背を見つめ怯えている子供たちもろとも、この女の餌食になるだろう。ふと、その手に抱くラインを見ると、彼女はいつも通り感情の無い瞳で見つめ返してくる。呆、とした表情で、自分が狙われていることなどわかっていないようだった。

 ――――そうだ、この二人はどういうわけかラインを狙っている。…………もし、もしこの子を手放して、他の子達が救われるなら。


「………………いいえ」


 そんなことは許されない、何を考えている。神に仕える身であるこの私が、一瞬でもそのような考えを抱くなど、と――――アリシアは自らの考えを恥じた。


「たとえあなた方に滅ぼされようとも、私はこの子を見捨てたりはしません」

「――――……はっ」


 震えを抑え、毅然とそう言い放つ。

 そんなアリシアの返答に、女は嘲笑し、男は呆れたように目を伏せた。


「だったらここで死になさい」 


 女がアリシアたちに向かって歩み寄ってくる。その目に確かな殺意を浮かべて。

 女の言う通り、どう考えてもこの選択は無謀と言う他ないだろう。けれどアリシアにとって、ラインたち孤児院の面々は家族同然なのだ。たとえ自分が無残に殺されたとしても、誰一人……この不逞の輩に差し出すわけにはいかない。


「神様……助けてっ」

「いやぁ! 怖いよシスター!」


 子供たちが悲鳴を上げる。アリシアは彼らのその声に応えることができない。ただただ恐れを堪え、悔しさに唇を噛みしめて……必死に女を睨みつけることしかできなかった。

 女が一歩を踏み出す度、耐えられないほど重く苦しい圧力が自分の身に降りかかるのを、アリシアは感じていた。この女は人ではない、もっともっと……強く冷たく、凶悪な存在なのだ。私などが向き合っては、それだけで身も心も残さず潰されてしまうような存在なのだ、と――――。


「大丈夫、大丈夫だよ皆……! きっと、『鎧の英雄』が助けに来てくれる!」


 ――――『鎧の英雄』。誰が発した言葉かわからないが、そのフレーズが耳に響いて残った。そういえば、本当に現れたと噂になっていたっけ。

 遥か昔から伝わる御伽話の登場人物。かつて世界を恐怖に陥れた魔王すら倒した、無敵の英雄。もし、そんなものが本当にいると言うなら…………。

 縋りたい、助けて欲しい。


(どうか、この子たちを救ってください――――!)


 そう、願ったときだった。






 

 ――――あれは、流星だろうか。星一つ見えぬ暗い空に、煌めく何かが見えた。

 上空より女の頭上に真っ直ぐ向かって落ちていく一筋の影。凄まじい落下速度でここに近づいてくるそれは、目で追うのがやっとだった。

 どうにかその正体を確かめようと、必死に目を凝らす。そしてようやく視認出来たそれは、アリシアにとって見慣れた姿だった。

 

(あれは……!)


 女が背後に迫る気配に気づいて振り向く。その顔が一瞬驚きに歪んだ。

 眼前で繰り出されたを腕で払いのけ、女は大きく後ずさる。

 流星のようだった影は、そのまま宙返りして着地すると、アリシアたちを守るように女の前に立ちふさがった。その背を見つめ、アリシアは唖然とした様子で呟く。


「ワーナー……さん?」


 そう、それは紛れもなく見知った姿。よくこの孤児院にも訪れて、子供たちと遊んでくれる彼。ディランとイザベラの仲間である、魔術騎士団のカイ・ワーナーだった。だがしかし、普段の温厚で優しく、ちょっと情けない彼ではない。絶対的な信頼感、どこか頼もしさを感じる……そんな背中だった。


「……どうにか間に合ったみたいだな、サンキュー……ディラン」

「カイ……?」

「カイだ!」

「来てくれたの!?」


 状況を把握した子供たちに、徐々に笑顔が戻り始める。

 アリシアの胸にも安心感が溢れ、その場に力なく崩れ落ちた。


「ああ……大丈夫だな、お前ら」

「うん!!」


 カイは子供たちの返答を聞いて微笑むと、アリシアに目を移した。


「シスター、もう安心してくれ。俺たちが……助けに来た」

「ああ……!」


 その言葉で、アリシアの緊張の糸が解けた。これでもう大丈夫だ。今度こそ、子供たちは助かったんだと――――……。





 俺の言葉に安心したのか、シスターの目尻に涙が浮かんだ。

 本当に間一髪だった。あと少し遅ければ、あの女はシスターと子供たちを殺していただろう。上空に氷の橋で近道を作って、俺を先に行かせてくれたディランに感謝しないとな。

 ……眼前には、こちらを睨みつける軍服姿の女と、その後ろでこちらを観察するように見つめてる男の姿。


「……お前らが、イザベラとクロヤを」

「ええ、そうよ。だったらどうするのかしら、さん?」


 女のその言葉に、俺の背後から驚愕の声が上がる。俺が『鎧』を扱えるということは、騎士団の中のみでしか知られていない機密事項だ。シスターや子供たちは知るはずもない……そして当然、本来ならこいつらも知らないはずだ。


「……何でそれを」

「何でって、私たちはあなたに用があってこの首都までやってきたのよ。ここに来たのもその一環。もうちょっと遅く来てくれれば、最高のもてなしができたんだけど」


 ふざけた様子でそう言い放つ女に、俺は抑えきれない苛立ちを覚えた。

 俺に用があってこの首都に来ただと? だったらイザベラは、クロヤは、シスターたちは、…………そしてこいつらの犠牲になったであろう騎士たちは、俺が原因でこいつらに襲われたってことかよ。

 俺は拳を強く握りしめ、女を睨みつける。女はその視線を余裕の表情で見つめ返してくるが、関係ない。何を隠していようと、どんな手を使って来ようと、俺はこいつらを倒す。


「……お前ら、覚悟は良いだろうな」


 もう絶対に許さねぇ……俺のために傷ついた全員の痛みを、ここでそっくりそのままこいつらに返してやる。

 俺は右腕の腕輪に意識を注ぎ、力の限り叫んだ。


「装着! ファルコンッ!!」


 今ここに、決戦の火蓋が切って落とされた。

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