第1話 未だこの背に翼はなく

 空想大陸トロイメライ。


 かつて魔王を退けたという『鎧の英雄』は、それまで名前を持たなかったこの世界をそう名付けた。


 別の世界からの来訪者だと言うその英雄は、魔王を倒す旅の最中常々こう漏らしていたという。





「この世界は美しい。私の世界から見れば、まさにこの空間こそが空想の世界だよ。それほどに神秘的だ」





 ゆえに、トロイメライ。


 まるで幼い子供の描いた夢の世界のよう……と言いたいのだろうが、事実ここに生まれ、ここで生活している私たちからすれば、何を大仰なことをと思わなくもない。


 確かに自然は豊かだし、森も海も綺麗だと思う。


 けれど世界を救った英雄様からそんなに感動されるような要素、この世界にあるんだろうか?


 私からすれば、英雄様がもともと暮らしていた世界が一体どんな場所だったのか。そちらの方が気になるというものだ。





 この世界には3つの大国が存在する。かつては魔王を退けるため共に『鎧の英雄』に協力した三国。


 現在はそんな過去も忘れ、それぞれが保有する英雄の遺産を奪い合って、一心不乱に敵国を滅ぼすことを考えている。


 もっとも互いの国境で小競り合いが起こるくらいではあるが、それでも醜い争いに変わりない。


 英雄がこんな姿を見たら、きっともう美しいだなんて言ってくれないだろう。





 まずは此処、私の暮らしている魔術聖域『イデアール』。


 国土の半分以上が森で覆われ、都市部にも木々の姿を見ることのできるこの地は、自然との調和を大切にしている。


 それはこの国を象徴する、『魔術』の存在によるところが大きい。





 『魔術』といえば不気味な老婆が山羊なんかを生贄に、派手な儀式を行って起こす超常的な現象……みたいなイメージがあると思う。


 実際、イデアールの外の国では私たちのことを非道な悪魔だと信じている者たちもいるらしい。


 確かに中には大掛かりな儀式を必要とする魔術も存在する。しかしだいたいの魔術は、自然の力を借りて行うものだ。


 植物や風、水、炎などの自然的エネルギーの源、『マナ』。私たちは『マナ』に感謝し、『マナ』の恩恵を受けることで生活しているのだ。





 次に武勇大国『ヤマト』。


 この国は私たちの国とは似て非なる文化を持っている。


 即ち自給自足だ。私たちイデアールの民が生活のほとんどをマナに依存している反面、ヤマトの人々は魔術というものを一切使わない。


 自然の恵みに感謝する姿勢は同じでも、自らの力のみで衣食住を満たしている彼らは正直尊敬に値すると思う。





 そしてこの国の特徴でもある強大な軍事力にも、彼らの精神が見て取れる。己の力と技、そして意思のみを信じ、真っ向から敵にぶつかるのが彼らのモットーだ。


 魔術も機械も必要としない。磨き上げた技と武器だけで戦う姿は敵国ながら天晴れと言えるだろう。


 その精神故か、文明は多少他に劣っているのだが。





 そして――





「……帝国要塞、『メトロポリス』か」





 そう。魔王を倒すための謂わば同士であった筈の三大国の中で、最も早く他との繋がりを絶ったのがこのメトロポリスであった。


 科学者でもあったという『鎧の英雄』はこの国に数多の技術を提供したのだという。


 昔はどうだったのか知らないが、今の状態を見るに初めて訪れた国がこの帝国だったのは英雄様にとっても不本意に違いない。





 国土全域が全方位巨大な壁で覆われ、仮に侵入を試みようものなら最後、完全武装した帝国軍人に捕縛される。


 他国との交流を徹底的に排除し、自国の利益の為の行動を最優先する姿は、敵国であっても一定の敬意を払って相対すイデアールやヤマトとは一線を画したものがあるだろう。


 英雄からもたらされた数多のオーバーテクノロジーを独占し、この戦争でも惜しむことなく投入してくる。


 その圧倒的な秘密主義から、今回の騒動でも真っ先に関係が疑われているのだ。





「ええ。『フェアレーター』……と言いましたか。件の怪物の正体。やはりメトロポリスの開発した新手の生物兵器とみるのが妥当ではないかと」





神妙な顔をして私の部下であるディランが言う。





「確かに新種の魔物、と考えるには少々不可解な点が多すぎる。高度な知能、下級魔術が一切通じない耐久力。そして最も厄介な人間への擬態。魔王が封印されて以来、種としての存続すら危うかった魔物が進化したものとは到底考えられない」





 そう返すのは、このイデアール魔術騎士団の団長であるクレア・アシュトン。


 高潔な女騎士として数々の戦場を戦い抜いた彼女も、今回ばかりはさすがに参っているようで、億劫そうにため息を吐くと私を見つめてきた。





「どうだね? 副団長殿の意見は。今回の騒動、帝国側に事情の説明でも求めてみようか?」





「無意味でしょうね。いつも通りだんまりを決め込むでしょう。責任を追及するにしても、あの怪物が帝国側の産物だという確たる証拠が必要ですね」





 団長の心底嫌そうな顔を無視して、思ったままを意見する。この人は優秀なんだが、極度の物臭なのが玉に瑕だ。





「馬鹿正直にこの化け物あんたたちが作ったの?って聞くわけにもいかないしなぁ……。どうしたものかね」





 戦争の恐怖と言ってもそれは極論、戦地で戦う騎士たちだけのものと言って間違いはない。


 大多数のこの国に生きる民にとっては、戦いによる生き死になんて現実の話とはかけ離れている。


 騎士からすれば不憫な話であるが、一応の平和を保てていることは民にとって幸せだ。


 しかし、それがここ数か月で変化を見せ始めている。





 その原因が、先ほどから私たちの話に出てくる『フェアレーター』という怪物であった。





「まず第一に確認されたのが三か月前ですね。東にある妖精の森付近の村で、薬屋を装い子供も含めた村人10人以上を拉致。調査のため派遣された騎士2名が隠れ家を発見しましたが、両名とも殺害されました。その後直ちに精鋭部隊を向かわせ、標的は仕留めましたが……その際にも部隊の約半数に死傷者が出ています」


「最前線でヤマトの連中とやりあったこともある精鋭中の精鋭だったんだがね……。この事件の後にも怪物の目撃情報は増えるばかり。……これ、この国全体の危機だと思っていいんじゃないかね?」





 ディランの話す事件は凄惨なものだった。人間への擬態能力を持っている怪物は、旅の薬屋に扮し村に紛れ込んだ。初めはよそ者だと警戒されていたらしいが、徐々に村人たちの信頼を勝ち取り、やがて正体を現す。


 昨日まで優しい村の薬屋さんだった男が突如、およそ人間とはかけ離れた異形の怪物に変貌したのだ。怪物を信じ切っていた村人たちには、どうすることもできなかったに違いない。


 その後は流れ作業だ。薬を求めて自分を訪ねてくる病人や老人、子供まで見境なく自分の餌として食らいつくした。





「人間の姿をとっている間は見分けられない以上、魔物のように発見次第始末するというわけにもいきませんしね。そのうえ我が騎士団の精鋭がここまでやられるだけの戦闘力も備えているとあっては」





「ああ、早急に何か対策を講じなければならん。そこで__」





 団長は私にいくつかの書類を手渡してきた。





「これは?」


「新たな目撃情報だ。北西の山脈地帯で行方不明者が相次いでいる。……情けない話、我々は完全に後手に回っている。こんな状況下で副団長であるお前を首都から離すのは賭けだよ。だが__」


「わかっています。必ず事態の終息につながる鍵を見つけてみせます」





 これより私、イデアール魔術騎士団副団長――――イザベラ・リードは、正体不明生物『フェアレーター』調査のため北西山脈地帯に向かう。














 『天空騎士ファルコン』


 かつて土曜の朝8時から放送されていた特撮番組。


 主人公は夢を追いかけるフリーターの青年で、地味な顔(役者はイケメンだったからおそらくメイクのせいだろう)に地味な服、地味だが人当たりの良い性格が特徴だった。


 地味なのが特徴というのは捻りが効いている言えば聞こえは良いが、実際こういう子供向け番組の主人公としてどうなのだろうという話になる。


 しかしそれが『天空騎士ファルコン』のテーマなのだ。





 かつて彼は目立ちたがり屋で、何でも自分が前に出て行動しなければ気が済まない男だった。どんなことでもそつなくこなし、劇中とは違って異性にも人気があったという。


 そんな男がある事件を機に挫折を味わい、今のような姿に変わっていく。過去の過ちや後悔を乗り越え戦い、人々を救っていく姿は紛れもないヒーローだが……


 物語冒頭での彼の姿は、率直に言ってかっこいいとか真似したいとか、見ていてそんな感情を抱くような雄々しいものではない。





 だけど――


 どんなに情けなくてもかっこ悪くても、そんな彼の序盤の姿こそが、俺をこの作品の虜にした一番の要因だ。……あの姿は、卑怯だ。


 どうしても、自分に重なって見えてしまう。


 もちろん彼の境遇が自分に似ているだとか、死んでしまいたくなるほどの挫折を味わったとか、そんなことはないのだけれど。





「憧れるよな……」





 俺だっていつかはあんな風に、誰かを守って世界を守る戦いを繰り広げることになるんじゃないのか……なんて子供じみた妄想に浸らせてくれるのはファルコンだけだから。


 俺は特段頭がいいとか、誰かに誇れるような特技とか、才能を持っているわけじゃない。


 普通、並、凡才。情けないがそんな言葉ばかりが自分でもしっくりくる。……つまり、地味。


 でもファルコンを見ていると、こんな自分も捨てたもんじゃないと思えてくる。だからこう……つい、無謀な挑戦というやつをしてみたくなったのだ。





 意を決して一時間くらい手の中にあった封筒を開封する。





「この度はご応募ありがとうございます。誠に残念ながら――」





 ああ、またか。落胆するのにもいい加減慣れてきた。落ち込み方のレパートリーはだいぶ増えた気がする。これって悲しむ場面とかがオーディションにあったらだいぶ有利だよな?





「篠塚様の今後のご健勝とご活躍を――はいはい」





 ……そう、俺は高校二年生で、将来をそろそろ真剣に考えねばならない時期だ。で、目指すことにしたのが役者。


 さすがの俺も、子供じみた夢を優先してニートになる気はさらさらない。だけどどうせならこの現実で、一番ヒーローに近づけることがしたい。俳優になれれば、いずれ自分がヒーローを演じて子供たちに夢や希望を届けることができるかもしれない。


 かつて、俺がファルコンから夢や希望をもらったように。





「けど、現実は甘くないわなぁ」





 俺が応募しているのは芸能事務所への所属オーディションの前段階である、一次審査というやつだ。この審査を突破し、さらに二次審査を勝ち抜いた上で、ようやく事務所の重役の前で芝居を披露できるわけだが。


 正直言って一次で落ちているようでは話にならない。演劇部で芝居というものを少しかじった程度では、見向きもされないことぐらいわかっている。


 卒業後どこかの養成機関に入るにしても、自分も捨てたものじゃないと思えるような経験が欲しかった。せめて最終審査まで残るとか……





 憂鬱な気持ちで自分の部屋を出てリビングへ向かう。この時間なら親父も帰ってきてるだろうし、ちょうどいい。嫌なことは一度で済ませてしまうのがベストだ。


 そうして両親に結果を報告すべくリビングの扉に手をかけた。





「戒、今回の審査はどうだったのかしら……」


「どうだろうな。何しろとんでもない数が応募している。その中の一部に残るなんて、それこそ奇跡みたいな話だろ」


「そんなことあの子もわかっているわよ。でもそれでもやりたいって言うんだから。今回も相当頑張って準備してたわよ。演劇部の活動も必死に取り組んでるし」


「俺だってあいつが頑張ってることくらいわかるさ。それでも心配しちまうだろう。もし仮に所属できるって話が聞けたとしてもだ。本当にその事務所は大丈夫なのか?悪徳に騙されちゃいないか?……親なら当然だ」





 ――ああ、もう。行きづらいったらありゃしない。


 親父も母さんも、俺の夢を応援してくれている。正直最初は反対されてたけれど。特に母さんはそれはもう心配で心配で仕方ないって感じで、親父も表立ってやめろとは言わなかったが、それでも考え直せと思っているのが態度からはっきり伝わってきた。


 それも当然だ。この世界がどれだけ狭く厳しい門なのか、考えずともわかるものだ。さんざん喧嘩したし、家族の絆が危うくなる場面もいくつもあった。





 だとしても俺は役者に、ヒーローになりたかったから……。





「……コンビニでも行くか」





 ……情けない。ファルコンに見られたら笑われるぞ、篠塚戒。


 やれることはやったけど、今回もダメだったと胸を張って報告しろよ。これに腐らず次を探すと。


 そんな心の叫びを無視して、重い足を引きずりながら家を後にした。











 ……夜風が気持ちいい。夜の散歩が好きだ。


 日中の人通りの多い雑多な空間は、こうして思い悩んでいる間にも世界は動いていて、何もできずくすぶっている自分はダメな奴なんだと思い知らされる。


 でも夜の街は静かで、冷静に物事を整理できた。だから今のようにどうしようもない悩みを抱えているときは、よく一人で外を出歩いたりする。





「ん……美味い」





 コンビニで買った菓子パンを頬張りながら、これからのことを考える。


 次はどこに応募しようか。幾つか候補はあるが、何の勝算もなくがむしゃらに挑戦しても結果は明らかだ。いっそ今年は自分を磨くために別のことでもしてみようか。何か特技があったほうが、アピールもしやすい。





「……うん、それも一つの手ではあるな」





 いつまでも思い悩んでいたところで始まらない。何か一つ新しいことを始めて、不安を誤魔化すってのも時には大事だと思った。結局は最終的にヒーロー役を演じられたら良いんだから。


 夜の散歩のお陰か、ポジティブな思考をしようと努めることはできた。それで悩みをすぐ吹き飛ばせるかと言われたら、また別の話だけれど。





「ちょっと、そこのお兄さん」


「ん?」





 物思いに耽っていたら、突然声をかけられた。こんな夜更けに声をかけてくるなんて怪しい詐欺師とかじゃないだろうな……と思っていると。





「難しい顔をして。一つ、占っていかないかい?インチキなんかじゃないよ」





 そこには路地裏とかに居そうな汚らしい占い師がいた。それだけなら特になんとも思わない。ただ一つ驚いたのが、彼は金髪に青い瞳をもった外国人だったこと。


 顔つきからして、欧州の出だろうか。外人で、しかも日本語ペラッペラな占い師なんて初めて見たから少し面食らった。


 失礼な反応をしてしまったことを反省しながら、





「占いか……」





 結構です、と言いかけてそれを飲み込んだ。いいじゃないか、たまには占いで自分の運勢を見てみるってのも。意外とこんな何気ないところから、行き詰ったこの状況の打開策も見つかるかもしれない。


 こういうのは感じ方次第なんだから、頭ごなしに否定するつもりもなかった。





「……じゃあ、お願いします」


「よし来た。じゃあ、そこに座って」





促されて、用意されてある椅子に座る。占い師は星座が何だ方角が何だと色々聞いてくるが、あまり深く踏み込んでは来ない。


 若干の怪しさは拭えなかったが、どうやら害はなさそうで安心した。人を見た目で判断するなとも言うし、このまま任せてみよう。





 それにしてもすっげー笑顔だな。しばらく会話しているうちに、どうやら気に入られてしまったらしい。


 さっきのコンビニの店員もこれくらい笑顔で接客してくれればいいんだがなぁ。





「……むむぅ、これはなかなか。深刻な悩みですね」


「わかりますか」


「ええ、わかりますとも。でも大丈夫です。腐らず精進すれば、必ずいい風がやってきますよ」


「ほほう」


「今は少し悪い時期に入ってますが、ここを乗り越えれば幸せは訪れるでしょう。良い人が見つかりますよ」


「……」





 ダメだこりゃ。わかっちゃいたがあれだけの情報で俺の悩みを正確に言い当てて適切な助言をするなんて無理だ。


 占い師はそれはもう嬉しそうな笑顔。何がそんなに幸せなんだコラ。





「わかりました。頑張ってみますよ、少し元気も出た。ありがとう」





 少し期待はずれだったかな。勝手に期待しといてあれだけどさ。


 仕方ないと、お代を払って席を立とうとして――――





「あなたの望みは叶いますよ。必ずね」


「え?」





 思わず動きが止まる。


 何だって?俺は自分の望みなんか話しちゃいない。悩んでることがあるから運勢を尋ねただけだ。





「俺の望みがわかるのか?」





 占い師は変わらず笑顔だ。変わらなすぎるほどに。





「ええ、わかりますとも。でも大丈夫です。腐らず精進すれば、必ずいい風がやってきますよ」





 占い師は先ほどとまったく同じセリフを、寸分違わず同じ呼吸、同じトーンで繰り返した。


 ……気味が悪い。





「それは、夢が叶うってこと?」


「ええ」





 やっぱり怪しい勧誘とかじゃないだろうな?芸能界デビューの話があるんだけど……とか言って騙すやつ。


 ……違う、わかってる。そうじゃない。こいつはやばい。


 顔が凍り付いたように動かない。ずっと同じ笑顔のままだ。まばたきも、してない。薬をやってるのか、それとも精神が何らかの異常をきたしてるのか。


 わからないが少なくともまともじゃない。





「役者になれるのか?」


「ある意味では」





 先ほどからまるでそういう顔の皮を張り付けたように動かない爽やかな笑顔。


 笑顔、笑顔、笑……顔が――





「……何が言いたいんですか」


「だから、なりたいんでしょう?」


「は?」





 占い師は変わらなかった満面の笑みをさらに破顔させて言った。





「ヒーローってやつにさ」





 俺は逃げ出した。








 ――――走る、走る、走る……走った。


 足が痛くて重い。息ができないほど呼吸が荒い。





「はぁ……はぁ……っく」





 頭が朦朧とする。さっきまで自分が何をしていたのか、何故かまるっきり思い出せない。どうして俺はこんなに怯えているのか。何から逃げようとしているのか。





「逃げろ……逃げろ逃げろ逃げろ」





 おそらくこっちは家とは真逆の方向だ。時刻も零時を回ろうとしていたはずだ。両親も心配して俺を探しているかもしれない。


 そんなことはわかってる。わかっているが――――





 周りの景色がわからない、理解できない。ここはどこだ。何で止まらない。


 もう俺は走るのをやめている。体を動かしていないのに呼吸はさらに荒く、痛みは強くなっていく。


 どこまで行っても晦冥だ。景色が変わらないのに進んでる。体が浮遊していく感覚。


 どうなってる?俺の頭はどうかしちまったのか。助けてくれ、もう息ができないんだ。





「あ――」





 浮遊していたと思ったら、今度は落ちた。まるで眼を閉じたままジェットコースターに乗っているよう。 


 そのまま落ちて落ちて落ちて落ちて落ちて――――――








 気づいた時には、俺は文字通り大空を舞っていた。


 ああ……こうして飛んでいると、憧れのファルコンになった気分――――





「……は?」





 何で?ちょっと待ってほしい。何故そうなる。どう考えてもおかしい。確かに俺は自分の居場所が理解できないほど混乱していたし、どこか高いところから足を踏み外しても不思議はなかったと思う。


 でも。どんなに頑張って繋げてみようとしても。絶対大空は舞わない。





「つーか……」





 人間は空を舞えない。落ちるだけだ。


 よって、あとは自明の理。俺はまた落ちた。


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