第2話 性癖の発覚

 昔から昆虫や小動物が好きだった。


 幼少期はカブトムシやクワガタムシにかぎらず見かけた昆虫はチョウチョからゴキブリまで片っ端から捕まえてプラケースに入れては餌を与え、観察していた。


 おもちゃ屋やゲームセンターではなくペットショップに入り浸り、仲良くなった店員の兄ちゃんにハムスターやインコ、熱帯魚の餌やりをよく手伝わせてもらい、店の経営者のオヤジに店を継いでくれと真顔で言われたことすらあった。


 僕は三兄弟の次男だが、三男とは年が離れていておむつ替えやミルクに風呂入れなど全て苦もなくこなしていた時期もあり、自分の特性が何かの面倒を見る、世話をするのに向いていることはかなり早くから自覚していた。


 小学校高学年にもなると、子供会のボランティアとして幼稚園生や低学年の子の引率を引き受け、中学生になってからは役場の主催する子供向けのイベントにも手伝いとして参加した。面倒を見る対象が人間の子供にレベルアップしたのだ。


 両親や近所からの評判はそれはもうすこぶる上々で、最高に面倒見の良い、すばらしく人思いの優しい子として賞賛されていた。


 絵に描いたような良い子ちゃんだった僕だが、その内面は中学校の修学旅行を期に少しずつ変容し初めて行った。


 京都のホテルで宿泊していた夜、クラスメイトがなぜか一つの部屋に集まり始め、僕もつられるようにそれについていった。


 部屋では、かつてエロ本を堂々と学校に持ち込んで授業中に読みふけり、教師に大激怒された生徒がポータブルDVDを持ち込んで映像を再生していた。


 内容は予想通りAVだった。かなりグラマスで綺麗な女優が全裸で男の逸物をしゃぶっているシーンだった。


 集まったクラスメイト一同が極度に興奮していたのに対し、僕の反応は自分でも異質だと思った。


 異様なほど気持ちが冷めていたのだ。クラスメイトがバカげた校則違反をしたことに呆れていたのではない。人生で初めて見るAVだというのに性的な興奮が全く感じられなかったのである。


 映像が進むにつれ内容は過激になっていく。クラスメイトの中にはあからさまに股間を膨らませているヤツもいたが、僕の逸物は熱を持つことはなく、結局集まりが解散するまで冷めたままだった。


 この頃から自分の性的嗜好に対する疑問が芽生え始め、最初は同性愛を疑ったが、別に同級生の側にいても興奮することなど一切なかった。


 ならば何なのか? 単にあのAVの女優が好みでなかっただけか? それとも別な要因か? 悩みは解決することはなかったが、受験期に突入したこともあり、学力に厳しい母に気圧されながら受験勉強に打ち込むうちに忘れてしまっていた。


 ただ、精通は夢精がほとんどだったが、安眠を妨害される不快感以上に、なぜか同時に見る夢の内容が子供会やイベントで子供と一緒に遊んだシーンであったことに、僕はいい知れない不安を感じていた。


 そして高校に進学して一年目で決定的な出来事が起こった。


 家庭科の授業で近所の幼稚園に校外学習に行くことになった。


 受験期の間ずっと子供とのふれあいはお預けだったので、久しぶりに子供と遊べると思うと実に気が弾んだ。


 僕の担当することになった園児は髪の毛がぼさぼさに伸びてシミだらけの汚れた園児服を着た女の子だった。目もどこか伏せがちで印象が暗い。名前はもう憶えていない。


 他のクラスメイトはその子を見てかなり退いていたが、数々の子供たちとふれあってきた僕は臆することなどなかった。


 その子と一緒に幼稚園の先生が企画したゲームを楽しみ、ダンスを踊り、やがて最後のプレゼント交換の段階になった。


 高校生側が贈るプレゼントは手作りのコースター。これは僕が企画立案したものだ。幼稚園児側がくれるのは感謝の言葉が綴られた折り紙で作ったメダルだ。


 僕が作ったハリネズミ型のコースターを見て、その子は笑った。ちょっと口元を歪めただけの微妙な笑い方だったが、出会ってから初めて笑顔を見せた。


 これこそが子供の面倒を見る醍醐味だ。最初はぎこちない子も遊んで心を通わせるうちに信頼の証拠として笑顔を見せてくれる。至福の瞬間だった。


 しかし、僕はその子の受け取った手に、見慣れないものを見つけた。ちょうどタバコの直径ほどの大きさの赤い斑点だ。数は二つ。もう片方の手には三つ。腕には六つもあった。少なくとも虫刺されではない。よく見ればうっすらとだが痣もいくつかあった。


 今まで会ったどの子供にもなかった不吉な外傷。僕はこの時からすでにその子の境遇を直感し、胸が落ち着かなくなっていた。


 いよいよ帰り際、別れの挨拶をしようとしたとき、その子は急に涙を浮かべた。どうしたのと、屈んで様子を見ようとしたら、思いっきり首に抱きつかれた。


「いかないで!」


 その子はいきなり号泣し、絞め殺さんばかりの勢いで僕の首を抱きしめた。


 瞬間、脊椎と脳を何か強烈な電流のようなものが貫いた気がした。


 驚いた幼稚園、高校双方の先生が駆けつけ、僕とその子を引き離した。


 その子はなおも泣き続け、幼稚園の教室は軽いパニックとなった。僕は喧噪に乗じて同級生や園児を押しのけ、教室を飛び出した。


 園児用の小さな大便のトイレに駆け込んだ僕はすぐにズボンを全て下ろし、股間に入れいていた力を一気に解放した。


 白い液が止めどなくほとばしり、便器に飛散した。


 虐待の痕跡を持つ園児に抱きつかれた瞬間、ただその一瞬で僕の逸物は灼熱のような熱を帯び、破裂しそうなほど硬くそそり勃ってしまったのだ。


 心臓がばくばくと激しく鼓動し、呼吸も荒い。頭はかつてないほどの悦楽に支配され、思考がうまく働かない。逸物はなおも白い液を垂らしながらびくびくと脈打っている。


 しばらくクールダウンして冷静になると最悪とも言える罪悪感が訪れた。


 そして絶望的に自覚した。僕には幼児を嗜好する性癖がある。僕は小児性愛者だ。


 だが、ただの小児性愛ではない。虐待を受けている悲劇的な立場の子に対してのみ性的な欲求が爆発するという、底辺のさらに最底辺の異常性癖保持者だ。

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