とある小児性愛者の決意
上月 亀男
第1話 夕暮れの公園
夕暮れの公園。僕の子供の頃かある狭い児童公園。
「ガハハハハ。ジャスティスレンジャーよ。今日こそお前たちに引導を渡してくれる」
かつて所狭しとあった数々の遊具は、危険であるという町内の保護者会の訴えによりほとんどが撤去されていた。
「悪のそうとう。カオスキングめ。ぼくはおまえをたおして世界の平和をとりもどすんだ!」
砂場すら、野良猫の糞で不衛生であるとして埋め立てられた。
「ノンちゃんたちのがったいわざ、うけてみなさい!」
のっぺらな平地になってしまった公園。野球やサッカーをするには広くなったが、庭にボールが飛び込むことを鬱陶しがった隣家の住人が自治会長を怒鳴りつけ、「ボール遊び禁止」の看板を設置させた。
「ダブルファイヤ~~~クラッシャ~~キィィィィィィック!!!!!」
何一つ遊ぶことのできない児童公園。土曜日には老人会のゲートボールの会場になるのだが、それが果たして児童公園か。
「ぎゃぁ~~~~~~! や~~~~ら~~~~れ~~~~た~~~~」
子供がめっきりいなくなった公園で、僕は正義のヒーローに脛に蹴りを入れられて大きく尻餅をついた。
仰向けにひっくり返り、手足をジタバタさせる。
「まだ生きてるぞ。とどめをさすんだ!」
「ノンちゃんのこうげきはつよいわよ!」
小さな正義のヒーロー二人が、起き上がれないカナブンみたいな僕に容赦なく蹴りと平手をかましてくる。ちょっと痛い。
「おのれ、調子に乗るなよ!」
僕は立ち上がって、二人を捕まえて両脇に抱え、ぐるぐると回転した。
「キャハハハハハ!」
「めがまわっちゃう~~~~」
愉快に笑う小さな二人。
僕も目が回りそうなので早々に二人を降ろした。
何もできない公園。子供の興味を失った公園。遊ぶ方法などこれくらいしかない。
それからひとしきりじゃれつき、一汗かいた僕と兄妹は公園で唯一撤去されていないベンチに腰掛けた。
「「おじちゃん・・・・・・・・・」」
二人が同時に物欲しそうにこちらを見つめた。その瞳のなんと純粋で穢れないことか。何が欲しいかは分かっている。
「今日はピーナッツクリームだよ」
僕はバイト先のスーパーでもらった期限切れ直前の菓子パンと紙パックのジュースの入った袋を兄、ケントに渡した。
入っている菓子パンは二つともピーナッツクリームのコッペパンだ。ジュースはブドウ味とリンゴ味が一つずつ。
「どっちがいい?」
ケントが妹、ノゾミに聞いた。
「ノンちゃんはブドウ」
兄は妹にブドウジュースを渡し、二人はまさに無我夢中といった形相で粗末なおやつに貪りかかった。
この様子だと、少なくとも今日の朝から何も食べていないようだ。
隣に座る僕の鼻は、本来なら子供から漂うはずのないつんとすえたような異臭を感じ取っていた。
風呂はおそらく三週間といったところか。
服も多分同じくらい洗われていない。
肌寒い季節だというのに二人とも半袖に短パンで、袖や裾の影から多数の痣が見え隠れしていた。
顔にも打たれたような跡が幾つもある。
「・・・・・・げっふ!」
ノゾミが菓子パンを食べかけでゲップを出し、嘔吐しそうになった。
幼稚園生くらいの子にコッペパンは量が多すぎたか。
すかさずケントが背中をさする。
落ち着いたノゾミはパンを残すかに見えたが再び貪り始めた。
「晩ご飯もあるだろ。無理して食べなくてもいいんだよ」
「ばんご飯もきっとないよ。それかカビたご飯だし・・・・・・」
ケントがポソリと言った。この子も小学校上がりたてくらいの歳だが、コッペパンはすでに平らげていた。
二人の正確な年齢は分からないし、僕の知る限り、何かしらの教育機関に通っている様子もない。
夕焼けの空に、遠くから町役場のチャイムの音が聞こえた。午後五時になったようだ。
ノゾミは頬を膨らませながらパンの最後の一欠片を口に押し込んだ。
「帰ろう。ノン」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「帰らないと、またあいつに打たれるよ」
「・・・・・・おじちゃん・・・・・・バイバイ・・・・・・」
「また遊ぼうな」
先ほどまで血の通っていた顔は徐々に青くなり、兄弟は手をつなぎ合って、公園の車止めを抜けて路地へ消えていった。
ここまで条件がそろえば自明の事実だ。
この兄妹は虐待を受けている。
では、なぜ三十路を過ぎたいい年した大人である僕が、警察や児童相談所に通報してこの子たちを助けないのか。
それは僕が一ヶ月前、この兄妹を誘拐する目的で近づいた、
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