幕間:リウィウス商会
リウィウス商会には多くの若者が押し寄せていた。傘下の商会の長たちも顔を出しているが、多いのはやはり若い連中が多い。ヴィーラント、ジギスヴァルトを中心とした若手たちは皆一様に金に餓えていた。野心に満ち満ちていた。だからこそ、今日という日に雁首を並べて此処にいるのだ。
この国で、おそらく最短で金持ちに成った男。いずれこの国の富を制してしまうのではないかと言われている怪物中の怪物。
「おはよう。久しぶりだな、皆。元気そうで何よりだ」
ウィリアム・フォン・リウィウスの話を聞くために。リウィウス商会では普段簡単な朝礼が行われている。本日の連絡事項、予定を軽く述べる程度のもの。しかし今日は違った。珍しく此処のボスが顔を出して話すというのだ。人も押し寄せると言うもの。
他商会の若者まで紛れ込んでいる事実。他にはウィリアムの学校に通う生徒、その中でも商への関心が高い子供たちも招待してある。
「まず、皆に質問がある。金持ちとはどういう人間を指す?」
最前を陣取っている青年が勢い良く手を挙げた。壇上のウィリアムは発言するように促す。嬉しそうに立ち上がって、
「お金をいっぱい持っている者です!」
開口一番元気良く発言した。ウィリアムは笑顔で頷く。
「その通りだ。こいつを――」
ウィリアムはポケットから一枚の金貨を取り出した。「おお!」と場がにぎわう。商会でも上の地位ならば金貨を扱うことも珍しくないが、末端の若者たちでは商売で扱うことすら稀。個人で金貨を持つことなどそうあることではない。
「たくさん持っている者が金持ち。確かにそうだ。それは間違いじゃない。なら――」
ウィリアムは金貨を青年に投げる。慌ててキャッチする青年。
「俺は今、銀貨数枚と銅貨十枚しか持っていない。対する君は金貨一枚と元々所持していた分の金を持っている。さあ、俺と君、どちらが金持ちと言える?」
「そ、それは、ウィリアム様です」
ウィリアムは驚いた顔をした。
「それは何故? 君の言うとおりならば、君の方が金持ちのはずだ」
青年は少し考え込み、おそるおそる口を開く。
「ウィリアム様にはお持ちになっている土地などの資産がございます。お金だって家に戻ればこれ以上お持ちでしょう。私はこの金貨以上のものを個人で所有しておりません。だからウィリアム様の方が金持ちであると言えます」
ウィリアムは満足げに頷いた。
「良い回答だ、座りたまえ。その金貨は勇気ある回答者への報酬としよう」
青年は驚いた顔でウィリアムと金貨を交互に見る。普通の者が一年必死に稼いでも手に入らない金を、ただの一度の回答で青年は手に入れたのだ。
「そう、俺は金持ちだ。金貨をぽんとやっても痛くないほどの、な。ただし、彼の回答には間違いがあった。俺は家に戻っても銀貨と銅貨、生活費しか置いていない。俺の家には金がないのだ。だが、金持ちだと俺は胸を張って言える。それは何故か?」
ウィリアムは自分を指差す。そして指を皆に向けていく。
「それは、この場の誰よりも、俺が多くの金を扱えるからだ」
指が全方向を指し示し、ウィリアムは手を広げた。
「金持ちかどうかを決めるのは自分じゃない。他人だ。俺は屋敷を持っている。貴族だ。でかい商会の長だ。だから金を持っているに違いない。だから物を売っても良い、買っても良い。金を貸すこと、借りることだって出来る。何故なら、他人は俺が金持ちだと信じているから。その信頼が金持ちを作る。其処に疑いがなければ、金は無限に生み出せる」
ウィリアムは銀貨を取り出した。それを指差す。
「こいつは銀貨だ。銅貨百枚でこいつが一枚、こいつ百枚で金貨一枚。そんなこと子供でもわかっている。誰もが知っていることだ。七王国に広く根付くこの概念、誰か疑問を持ったことはないか? 俺はある。ずっと思っていた。何故食えもしないこんなものを、ありがたがってりんごに換えられるのか? 不思議で仕方がなかった」
ウィリアムは指で銀貨を弾く。きらきらと光を反射するそれは、人を魅了する魔力を秘めているのかもしれない。古今東西、金銀財宝に価値があることは共通認識としてあった。惹かれることは否定しない。だが、それは当たり前であって真理ではないのだ。
「結論から言おう。こいつに価値はない。煮ても食えない焼いても食えない。金属だからな。同じ金属でも剣なら人を切れるし、包丁なら食い物を捌ける。これには何も出来ない。ただの、丸い、金属だ。それ以上でもそれ以下でもない」
溶かして別の形とすればそこに価値は生まれども、この状態では無価値。
「ならば何故、人はこれをありがたがる? それは信じているからだ。これに価値があることを、信じて疑わないから価値がある。いいか、俺が金持ちであることと同じ、大勢がこれに価値がある、そう信じたならば、此処に価値が生まれる」
ウィリアムは皆に銀貨が見えるよう手でつまみゆっくりと動かす。
「いいか、これは無価値だ。商人たる者、そこを誤るな。大事なのはこいつを回すことであって貯めることじゃない。売って、買って、売って、買って、ぐるぐる回してこそ意味がある。こいつは無価値と認識しろ。だが、同時に愚民どもには絶対こいつの価値を疑わせるな。こいつを信じず、信じさせろ。お前たちは商人だ。商人は金を統べるものでなければならない。こいつは武器で、お前たちは戦士だ! そしてそれをまとめる俺は王だ!」
周囲で沸き起こる「ウィリアム!」コール。ウィリアムは全身を使って場を煽る。加熱する会場をもっと、もっと、熱くなれよと煽るのだ。
「こいつをぶん回せ!」
「ウィリアム!」
「こいつでぶっ殺せ!」
「ウィリアム!」
「それが出来て初めて一人前だ。虚構で、人を支配しろ! 生かすも殺すもお前たち次第だ! こいつはそれが出来る! こいつでそれをしろ! 愚民どもをぶっ殺せ!」
ウィリアムは思いっきり銀貨をぶん投げた。人や壁にぶつかって色んな方向に飛び回る。あるものがそれを掴み放り投げる。あるものがそれを蹴ってどこかへ飛ぶ。ぐるぐる、わちゃわちゃ銀貨は回る。人ごみの中を――
最後にそれを掴んだのは、苦笑するアインハルトであった。ウィリアムは戦友の帰還に相好を崩す。アインハルトは苦笑いを浮かべながら銀貨をウィリアムに投げ返した。それをしっかりと掴み、ウィリアムは皆にそれを掲げた。
「そうすりゃ、嫌でもこいつは自分の手に戻ってくる。金は天下の回り物、金持ちの言葉だ。金持ちはこいつのまわし方を知っている。次はまわし方の話をしよう。折角、友がはるばる北方から帰還して積もる話もあるだろうが、もう少し俺に時間をくれ。いいか友よ?」
アインハルトはやれやれと首を振り、どうぞご自由にとジェスチャーで伝えた。その程度のことでも沸き上がるこの場は完全に仕上がっている。さすが白騎士の仕事。壇上に立つだけで皆が熱を帯びるのだから格が違う。
「皆静粛に、話の続きだ――」
ウィリアムは壇上でぐるりと皆を見渡す。全ての視線が熱を帯びている。全ての視線がウィリアムに集中している。仮初めの、おべんちゃらの視線ではない。本当の興味が其処にあった。
ウィリアムは足元で燃え盛る大火を前に笑う。この狂気の熱でさえ、今の己を充足させるには遠い。まるで足りない。最愛と比べるとあまりにも――
「こいつの回し方は簡単だ。現状よりも、ほんの少しで良い、大きな輪を作れ。十本の剣を売り買いしたならば、次はそれを元手に十一本買え、そして売れ。次は十二本だ」
ウィリアムは手をくるくると回す。
「剣が頭打ちとなったら次は別のことをして輪を大きくする。常に上昇だ。常に自分が扱っている全体の金を意識しろ。一時の落ち込みは構わない。十年、二十年のスパンで大きくなる見込みがあるならそれは正解だ。ないなら、新しいことをしなければならない」
くるくる回していた手を止める。
「さて、大きな流れは今言ったとおり、常に輪を大きく、そして回し続ける。簡単な話だ。しかし容易ではない。それが容易いなら誰も苦労せず金を稼げるからだ。現実はどうだ? 世の中にはびこる貧乏人どもを見てみろ。貧困、厳冬、あれだけ死んでもまだ街には溢れている。減らない、それが現実だ」
そこでウィリアムは切り替える合図のように指を鳴らした。
「彼らの多くはその日暮らしだ。現状維持の最たるもの、一日を生き抜くことしか考えていない。だから一時の落ち込みですぐに死ぬ。皆も覚えていて欲しい。現状維持とは楽なことではない。精一杯一日働き、カビの生えたパンを手に入れ食す。俺もこの国に来て、戦場に出るまではそういう暮らしだった。厳しさは理解しているつもりだ。そして理解してなお、俺は現状維持が死だと断言する。その先は滅びだ。遅かれ早かれ、な」
盛者必衰。栄えた者は必ず滅びる。それを引き伸ばすためには昇り続けるしかないのだ。立ち止まり、現状に甘んじた瞬間、必衰が待つ。
「常に上昇、そうするための具体的な方法論は、此処にいる商会の長たちの方がよくご存知だろう。若い衆はまず彼らから良く学べ。その上で俺からは二つ、鉄則を皆に伝えておく。たったの二つだ。これを本当の意味で理解し、実践したならばすぐ俺になれる」
ウィリアムの言葉に多くの者が前のめりになる。彼らの多くは、特に若い者たちは皆ウィリアムに憧れてこの場にやってきたのだ。そのウィリアムから自分になれると、その方法を彼の口から聞けるというのは、若い野心家たちにはたまらないだろう。
「ひとつ、『必要』だ。商売の基本にして原点、これがあるから商人は生まれたと言っても過言ではない。水のない地域に、水が豊富な地域から安く仕入れて、移動費、手間賃含めて高く売る。まさに基本だろう」
前のめりになった者たちの顔が一瞬曇る。そんなことこの場でわかっていないものはいない。彼らはまだまだ未熟だが皆商人である。いつだって需要には敏感であろうとするし、いつだって安く仕入れられる供給源を探している。あまりにも基本が過ぎる。
「今、君たちはこう思ったはずだ。馬鹿にしないでくれ、そんなことはわかっている、と。だが、俺の知る限りこれを実践しているのはこの場で俺のみ。他の者は残念ながら『必要』を理解していないし、実践していない」
ウィリアムは何か言い出しそうな周囲を手で押さえつけるような仕草をする。
「いいか、『必要』とは探すものじゃない。作るものだ。喉が渇いている人を見つける、それも良いだろう。たまたま見つかった。ありがたいことだ。存分に水を売ろう。だが、それは能動的じゃない。受身だ。もっと言えば運でしかない」
皆が押し黙った。ウィリアムはその様子に微笑む。
「水を売りたければ渇きを産め。剣を売りたければ人を殺さねばならない状況を作れ。それが『必要』の実践。作って、躍らせて、計画的に儲ける。この『必要』を操る奴が一番強い。そして一番儲けられる。だって、需要を自在に操っているんだぜ。最強に決まっているさ。売れるものがわかっているんだ。儲けて仕方がねえ」
ウィリアムの微笑みに、悪魔が宿っていることを気づいた者がどれほどいるだろう。多くの者は気づかずその虜になった。それほどに、悪魔の如し妖しげな魅力。
「俺が武器、鉄市場を押さえたのは、俺がその『必要』を握っていたからだ。その『必要』に確信を持っていたし、俺にはその『必要』をより大きくする力があった。此処まで言ったらわかるな、俺は戦争と言う『必要』を作っていた。これから、もっと広げるつもりだ。国は疲弊するだろう。国民の生命は脅かされるだろう。悲しい事だ。涙を流しながら武器を売ろう。其処に需要がある。商人ならば、供給しなければ。どんな手を使っても」
ウィリアムは悪魔だった。そしてこの場の多くはその悪魔を是とする欲望の怪物たちだった。皆が賛同している。ウィリアムの悪魔的考えに。
「これが『必要』だ。原点にして到達点。作って見せろ、それが出来たら真の半人前だ」
ウィリアムが指をもう一本、つまり二本立てる。
「ふたつ、『付加価値』だ。この剣をただの剣より高く売る方法。此方も簡単、ルシタニアの名工が鍛えた剣ですよ、柄ごしらえには金が使われております、なんて言えば良い。事実を上手く羅列するだけで印象は変わる。そして印象の違いが価格を変える。当然、君たちは高く売ってくれると信じているぞ」
ウィリアムは指を、ゆっくり折っていく。二本から一本へ、一本から無へと。
「だが、『付加価値』とはそれだけじゃない。もっと、カタチのないものを乗せてこその『付加価値』だ。いいか、例えばこの椅子、何の変哲もないただの椅子だ。これをたいした手間もかけず、一言で価値を跳ね上げ高く売りたい。さあ、どうする?」
今度は最初の問いに反して挙手する者はいない。ああでもない、こうでもないと色々考えているのだろう。なかなか手が上がらない。すると――
小さな手が自信なさげに、されどしっかりとわかるよう上がっていた。ウィリアムはその手の主に発言を促す。おずおずと口を開く、一人の少女。
「わ、わたしなら、その椅子をウィリアム様が愛用している椅子だと言って売ります」
「ほう、それはまたどうして?」
「みんながウィリアム様にあこがれているからです。なりたいと思っています。その椅子に座ることで、そういう気分を味わえたら、少し高くても買う人はいるのかなって」
「君は買うか?」
「買いません。本質はそこにはないから。……すいません、まちがいでした」
しょんぼりと肩を落とす少女にウィリアムは笑いかけた。
「いいや、君は間違っていない。商人なら買うべきじゃない。だが、愚民には売れる。自惚れかもしれんが、その程度の好印象は与えているつもりだ。いい回答だった。メアリーはいい商人になるな。皆、小さな商人に拍手を」
見事正解した盲目の少女メアリー。イグナーツが商人に一番向いていると推していただけあって、この年にしてかなり良い目線をもっている。腐っても商会の息子、見立てに間違いはなかった。
「そう、彼女の回答が全てだ。本質じゃない、虚構を乗せるんだ。俺が愛用した、それに何の意味がある? 商人ならば無価値と思わねばならない。憧れの人が座っていた椅子、そこに価値を見出す商人は必要ない。ただし、同時にそれを見逃すものもまた商人ではない。無価値と信じながら、愚民には価値を信じさせろ。この、貨幣のように」
ウィリアムは銀貨を指で弾いた。くるくる回る銀貨。
「商の究極は詐欺に似ている。無から有を生み出すのが究極だからだ。詐欺と違うのは彼らが詐欺と思わず、むしろ満足すら得ている、という点だ。俺は彼らに『必要』を作る。目の前に敵を配置した。武器が要る。多少盛った話をして、この場で優位になる武装とセットで彼らに高くものを売った。彼らは勝利を得た。俺たちは金を得た。『必要』の準備にかかった金を引いてもあり余るほどの金を、だ」
ウィリアムは嗤う。
「いいか、俺たちが扱うものは現物じゃない。現物を通した虚構だ。金も虚ろ、価値も虚ろ、何もかもが虚構で出来ている。俺たちは虚構を扱うものだ。どれだけその虚ろを信じさせ価値を生むか、それが貴様らの価値だ」
ウィリアムの中にある大きな空洞。虚無の世界。その冷たさが彼らの心を侵食していく。引き込んでいく、彼らの熱量を。熱を持てば持つほどに覗き込みたくなってしまう虚。それを糧に王は君臨する。
「必要と付加価値。まあ大きなくくりで考えれば必要もまた付加価値だろうが。細かいことなどどうでも良い。重要なのは商売を行っていく中で、くるくる、ぐるぐる、どんどん大きくしていきゃそれで良いんだ。武器や薬品、貴金属にこだわる必要はない。とにかく金の流れを生み出せ。回転させろ。頭は俺だ。多少の無茶はケツを持ってやる」
ウィリアムは大きく手を広げた。彼らを抱きしめるように――
「今日は雪だな。こんな日に動いている商会はどの業種に限らず、なかなかないだろう。これはチャンスだ。こんなくそったれな日に、くそったれな日だからこそ、今日動くだけでそれは付加価値になる。こんな最高な日はない。さあ、我が精鋭たちはどうする? 今日と言う日を漫然と過ごすか?」
全員がばらばらの否定を叫んだ。
「ならば動け。王都の金を喰らいきって来い!」
全員が「応!」と声を重ねて咆哮する。熱が最高潮に達した。
「アインハルト、少し話がある。顔を貸してくれ」
商会員が物凄い士気で仕事を開始し、幾人かは勢いそのままに外へ飛び出していったので朝礼はなし崩しに終了した。そんな中、ウィリアムはアインハルトを手招く。
○
「調子はどうだ?」
「順調だ。春から一基稼動を開始できる。他もヴィーラントたちの助けもあってかなり見えてきた状況だ」
「怖いくらい順調だな。引き続き頼むぞ」
「心得た。それで、話とは何だ? こんな報告なら今する必要はなかっただろう」
アインハルトの探るような目。ウィリアムは微笑みで返した。
「たいした話じゃない。北方が安定しそうなら、お次はそろそろ別の業種にも挑戦してみようと思ってな。相談、というか報告だ」
北方の製鉄所が安定稼動すればこの商会にも莫大な金が入ってくる。鉄から武器まで全ての流れを掴むことになるのだ。しかも今の世は武器がいくらあっても困らない乱世。買い手に困ることはない。元々が勝てる案件である。安定稼動さえ出来たなら――
「金貸し業をやろうと思う」
アインハルトが驚きの目でウィリアムを見る。
「賎業だぞ? 今手を出す必要があるのか?」
金貸し業はローレンシア全体で見ても賎業とみなしている国がほとんどであった。エスタードや聖ローレンスなどでは表向きに禁じているほどである。アルカディアでも世間体はよくない。何よりも好かれる職業ではなかった。
「タネ銭があるならこれも俺に優位な業種だ。儲かるならやらない手はない」
「世間の目を気にしているんだ。金貸しが儲かることくらい俺だって知っている。お前の『力』があればとりっぱぐれを心配することもないだろう。それでも俺は反対だ」
「何故?」
「今必要じゃないからだ。生き急ぐ必要が何処にある? 今は大事な時期だ。やるにしてももう少し時機を見てで良いだろう」
「金はあって困るもんじゃない。勝てる業界がある。必要がある無しじゃない。儲かるならやるし、やれることは先にやっておく。それだけだ」
「世間からの人気は確実に落ちるぞ」
「だからどうした? それぐらいで俺が揺らぐかよ」
アインハルトは黙した。やりたければやるが良い。ただ賛成はしないと言う意思表示だろう。おそらく金貸し業をやるに際しては、商会でも真っ二つに分かれる話となる。有力者であるアインハルトを味方に付けておきたかったが、どうやら逆効果であった。
(何故、自ら薄氷を歩もうとする? たとえそれが最短であっても、ついてこれる者ばかりとは限らないんだぞ。お前の目には何が見えていると言うんだ?)
しばらくぶりの再会であったが、多少雰囲気が変化したようにも見える。どこか冷たく、他者を寄せ付けぬ雰囲気が――
(婚約者の死が、何らかの影響を与えたのか? この男に限って、そんなことがあり得るとも思えないが)
アインハルトはウィリアムの状態を見定めることが出来なかった。出来たとしても意味がない。もう、ウィリアムが揺らぐことなどないのだから。今の会話もアインハルトの意見を求めたのではない。決定事項を伝えただけなのだ。
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