第55話 メイアの本音
メイア視点
ズシンッ
オレに襲いかかってきた黒猪をいつもの様に殴り飛ばす。今日の食料だ。
「あーくそっ!」
苛立ち混じりに倒れた黒猪にトドメをさす。
あの日、イフリートと戦って死にかけた海斗に水を飲ませる為キスをした日、あの日からどうにも海斗の顔をまともに見れない。
その上肝心の海斗は気絶していた為に何も覚えていない。
ああ〜!なんかムカつくんだよぉぉぉ!
心の中で叫びをあげる。アイツの態度が恨めしい。せめて何があったか知っていてくれればと何度も思ってしまう。
本当は何となく分かっているのだ。オレのこの心のモヤモヤが何か、アイツを、海斗の事をどう見ているのかを。
だけれどこの気持ちに素直になってはいけない。だって、オレ達はーー
「あれ?メイアさん。今日の食料取ってきてくれたのね。ありがとうございます。」
声をかけてくるのは火野美香、海斗のクラスメートらしい。
この娘は同性なら誰でも気づきそうな好意を海斗に寄せている。
ただ美香自身ヘタレなのか何度か重要な部分を小声で言っているので海斗は未だに気づけていない、見ているこっちがもどかしくなる。
それでも美香はオレにはない立派なものを持っている、今もお辞儀をした際にたゆんっと揺れた胸に嫉妬を感じてしまった。
「美香、オレ達は仲間なんだから敬語はいらねぇって言ってんだろ?」
「すいません、どうにも年上の方だとそういう扱いが抜けなくて…」
分からなくもない、オレも転生した人間だから年上の人にはそういう口調になっちまう。でもオレ達は仲間だ、いつまでもそういう呼び方は避けるべきだろう。
オレはそう思ったが同時にまだいいか、とも思う。仲間とはいえせいぜい合って1ヶ月、敬語を取るならもう少し後でもいいだろう。
「あ!そうだ!海斗君がメイアさんのこと読んでいましたよ。」
「あー、多分いつもの鍛錬だな。」
「どうでしょう?もしかしたらキスの件かもしれませんよ?」
「なななな何を言って!?」
思わぬ言葉に取り乱す。引きずっていた黒猪をついつい離してしまった。
そこで美香が足を止める。
「ねぇ、メイアさん。実の所、どう思っているんですか?海斗君のこと。」
黒猪をもう一度掴んだ体勢でオレは固まった。
聞かれるとは思わなかった。ゆっくり振り向けば美香は真剣な眼差しでオレを見つめている。
「あ、アイツの事は才能のある弟弟子だとーー」
「そんな事を聞いているんじゃ無いんです。1人の女として、海斗君をどう思っているのかを聞いているんです。」
「…………オレは…」
口ごもる、次の言葉を紡げない、美香の眼差しに無意識に足が下がる。
「私は好きです。だから彼のファーストキスを取られた事は嫉妬しています。羨ましいです。私だって欲しかった。でもあの状況なら仕方がないとも思います。ですが、貴女がモタモタしている間に私が射止めますよ?ファーストキスを貰った貴女よりも先に私に振り向かせてやります。」
オレは心のどこかで安心していたんだろう。ファーストキスを貰ったから、海斗に言えばオレに振り向いてくれると思っていた。
自分の姑息さに嫌気がさす。拳を握りしめた。
「オレだって…オレだって好きだ!アイツのひたむきな姿が!オレを守ってくれる心が!そのあり方が!好きだ!だから美香よりも先に射止めてやる!」
美香はそこで真剣な眼差しを崩し、笑みを見せた。
「やっぱりですか。…これで私達はライバルです。対等なライバルです。だから敬語も止めます。いえ、止めるわ。メイアさ、メイア!どちらが先に射止めるか、勝負よ!」
「…あぁ!勝負だ!」
美香は本当は敬語を取る為にこの話をしたんじゃないかって思う。
こうして大分回りくどいやり方だったけど、オレ達は対等なライバルになったんだ。
〜〜〜〜〜
「あ!メイアねぇさん!鍛錬しようぜ!」
「怪我した時の為に私も行くわ。」
全く、ほんとコイツは能天気な奴だ…
でも、それで良い。そんな奴だからこそ、今よりももう少しだけ、アピールができる。
「お前の為の飯を作ってからな。」
そう言って、オレは笑った。
今は、あの事は考えない。考えるのは、その時が来た時でいいや。
まだ時間はあるからと、オレは美香に勝つ為に先ずは胃袋を掴みにいった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます