第54話 選ばれし者

 海斗視点


 霧が吹き飛び道が見えてくる。この森の出口だ。


「歩道はこの先かな?」

「多分そうだと思うわよ。地図にも書いてあるし。」

「ラフリオか、どんな街だろ?」

「やっぱりラノベみたいな西洋の街じゃねぇ?」


 翔太が聞いてきたので俺は答えた。

 ただ王都の城下町は急いで居た為、詳しく見ていなかったのであくまでも予想でしかない。


「2人はどう思う?」


 歩きながら後ろを振り返りメイアねぇさんとサーラに問う。


「ん、楽しみ。」

「こっち見んな。」

「いや答えになってないし…」


 ダメだこの2人、っていうかメイアねぇさんに至っては相変わらず顔背けてるし。


「しっかしなぁ、このローブ何とかしねぇと…」


 焼けて切れ端になったローブを鞄から取り出す。せっかく貰ったというのに1ヶ月も経たない内に使い物にならなくなるなんて使い方が荒いなんてもんじゃない。


「街に行ったら直して貰えるといいなぁ。」

「どうでしょうね?直せることを願いましょ?」


 そうだな、と火野さんの言葉に賛成した。


「あ、一つ良い?」


 そこでサーラが声をかけてくる。


「ん?どしたん?」

「たまには私も料理したい。良い?」


 固まった。進めていた足を止める。

 冷や汗が出てくるのが分かる、知らず体が震えている事に気付いた。


「えぇ、良いわーー」

「そそそそそれは止めてほしいな!」


 許可を出そうとした火野さんの口を手で塞ぎ被せる様にして声を出す。

 俺の言葉を聞きサーラは落ち込んだ表情をした。


「ん!?んんんんんー!」


 ペチッ


「んぶ!?」


 更に火野さんは突然口を塞がれて苦しかったのか、顔を赤くして俺を殴ってきた。

 ただ最近反射的に出来るようになってきた流衝で威力を流したお陰でダメージがほぼ無く、頰を押される様な状態になる。


「ぷはっ!海斗君!なんて事言うのよ!いいじゃない別に!」

「いや!別にそういう訳じゃ無いんだ!そ、そうだ!サーラなら分かんだろ?」


 思い出してくれ!あの日、俺に料理を食べさせた日を!その時俺がなんと言ったかを!


 サーラは考える素振りをした。思い出しているのだろう。

 しばらく経って何かに気付き、少し頰を赤らめる。


「そこまで言うなら…」

「サーラちゃん!?」


 それを見た火野さんは叫ぶ。

 俺は一旦火野さんを手で招く。火野さんは疑問の表情を浮かべてこちらに来る。

 俺はサーラに聞こえない様に小声で話し出した。


「火野さん、サーラに料理をさせちゃダメだ。あれは人を殺せる料理音痴だ。」

「え?そ、そんなに?」

「そんなに。」


 火野さんは覗く様にサーラを見る。サーラは未だに頰を赤らめたまま俯いていた。


「とにかく、サーラに料理はさせちゃダメだ。」

「え、えぇ、分かったわ。」


 俺たちはサーラの方は向き直る。


 ふぅー、何とかサーラに気付かれないですんだ。


 俺は息を吐いて安堵した。


「っ!?」


 その時、メイアねぇさんがエルフの村の方を見て険しい顔をする。


「どうかした?メイアねぇさん。」

「……いや、何でもねぇ。」


 それに俺は気づいたが、未だに険しい顔をしたメイアねぇさんは話そうとはしなかった。


「なんだか嫌な予感がする…」


 そしてその後に呟いた一言を、俺は聞いていなかった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ???


 暗闇に光が灯る。独りでに燭台に火が灯ったのだ。

 光に照らされた結果、闇の中にあった姿が見えてくる。

 そこは円卓の間、異様に大きなそのテーブルには八つもの椅子が並べられている。


 ギィィィィィ


 円卓の間の扉が開かれる。

 そこからぞろぞろと妙な姿をした者たちが入って来た。明らかに人間の見た目ではない。

 妙な姿をした者たちは7人、彼等は躊躇うことなく席に座った。


「選定者様、全員揃った次第で御座います。」


 その中の1人が空席に向かい言葉を発する。


「あぁ、集まってもらって済まないね。」


 するといつから居たのか1人のローブを被った女が既に座っており、他の者達に謝罪をした。

 女は話し出す。


「さて、今回呼んだのはね、進めていた命樹姫リーリアの捕獲作戦についてだ。」

「あの作戦ですか?何か問題があったので?」

「あぁ、作戦が失敗した。」

「なんと!?」


 場が騒がしくなる。

 彼等にとってこの作戦は足掛かりの一つだ。だが今まで失敗などした事が無かった。その為に酷く動揺している。


「落ち着け。会議が進まん。」


 これを見て女は片手を挙げて場を鎮める。妙な姿をした者たちがこれで静まるのは女に何かあるからだろうか。


「それでだ、此度の件、報告によれば2人のイレギュラーが現れたそうだ。」

「イレギュラー、ですか?」


 魚の様な鱗を持った男が聞き返した。


「あぁ、イレギュラーは2人の男女、両方とも異世界人で男の方は魔法に干渉する異能を、女の方は詳しくは不明だが話を聞く限りでは推理、ではないかと思っている。」

「…それは危険な存在ですな。下手をすればまたしても計画を潰される可能性がありますぞ。」

「そうだ、そこで此度全員を招集したのは誰がそのイレギュラーを殺すかを決めたい。幸いな事にそいつ等は人間、抹殺対象だ。」

「おぉ!それならば我等が引き受けましょう!魔法に干渉する異能持ちの男など我等からすればただの人間と変わりません!」


 人間と、その言葉を聞きトラの様な見た目をした男が嬉々として引き受けた。


「そうか、では頼むぞ。獣族ビースト鮮血爪せんけつそうガドウよ。」

「はっ!お任せ下さい!」

「期待している。ではこれにて会議を終える。全ては、選ばれし者の為に。」

「「「「「「「全ては、選ばれし者の為に!」」」」」」」


 彼等は声を揃えて女の言葉を復唱する。

 それを聞き届けた女はその姿を消した。


 そして燭台の火が消えていく。

 辺りがもう一度闇に飲まれる頃には誰も居なくなっていた。

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