第47話 顕現!炎魔人!

 空に巨大な魔法陣が広がる。

 魔法陣の破壊には失敗した。つまり、これから炎魔人イフリートが現れると言う事だ。


「みんな!とにかく戦闘体勢だ!次の相手は炎魔人!倒すぞ!」

「今度の相手は炎魔人か…僕もう休みたいんだけどなぁ…」


 翔太が泣き言を言っているが無視だ無視!


 空が光る。いや、魔法陣が巨大過ぎる為にまるで空が光っているように感じるのだろう。


 炎魔人。地球じゃ大精霊ってやつだけど俺のマジックハンドでぶっ倒してやる!


 そして魔法陣から、それが現れた。







 俺は慢心していたんだろう。魔法の塊であるエレメントを倒した事があったからか、それともここ最近は負けなかったからか。

 だからそれが現れた時、俺は動けなくなった。


 まず感じたのは悪寒、全身が泡立ち、冷や汗が吹き出た。


 怖い…怖い怖い怖い怖い怖い!


 目を見開いて、空を見上げ、ただ恐怖に仰いた。

 魔法陣から現れたのは燃える手、炎魔人の手なんだろう。

 だが、そのプレッシャーは尋常じゃなかった。


「あ…あぁぁぁぁ…」


 情けなくも声が漏れる。


 足に力が入らない…逃げなきゃ…今すぐに、ここから!


「海斗…ど、どうする?」


 メイアねぇさんの声も震えている。


「逃げよう、あれは人がかなう存在じゃない…」


 俺は村を出ようと後ろを振り向き、足を止めた。

 サーラが戦おうとしているのだ。


「サーラ!何やってんだ!?戦うな!逃げるぞ!」

「嫌!ここは…私の故郷…あんな奴に燃やされる訳にはいかない!」

「燃やされるって何ーー」


 ボウッ


 近くの木が燃えた。


 何が…?何で突然…


 空を見上げる、答えはすぐに分かった。

 炎魔人の手から火の粉が舞い落ちて来ているのだ。舞い落ちた火の粉はその小ささからは予想もできないほどの火炎を生んだ。触れた木が一瞬にして燃えたのだ。


「あれを…そのままにしておいたら、私の故郷が燃えちゃう…それは、やだ。みんなは逃げて。これは、私の問題だから…」

「サーラ…」


 俺は、何をしてんだ?仲間が、1人で戦おうとしている。だっていうのに、逃げるのか?俺が?……ふざけるな。約束しただろう俺!波音姉さんと、約束しただろうが!守るんだ!女子供を!弱い人を!覚悟を決めろ!俺!


 俺はもう一度空を見上げる。


「なぁ、みんな。あいつを倒すの、手伝ってくれねぇか?」

「海斗…やめて。みんなは逃げて…」


 サーラが涙目になる。


 でもサーラ、もうみんなの顔は覚悟決めてるぜ?


「全く、仕方ないわね。良いわ、任せなさい!」

「しょうがねぇな、オレが手伝ってやんよ。」

「僕に出来ることなんて無いとは思うけどなぁ。」


 火野さんも、メイアねぇさんも、翔太も、そして俺も、戦う事を決めた。


「それにさ、サーラ。仲間が守りたいって言ってんだ。俺が逃げる訳ねぇだろ?」


 サーラの頰に、一筋の水が流れた。

 それも一瞬、サーラは直ぐに涙を拭き、俺たちの横に並んだ。


「でも、どうするの?あんな高さ届かないよ?」

「どうしよう…。」


 まずい!意気込んだは良いけれどあそこまで行く手段が無い…これはかっこ悪すぎる…


「おい!小僧!サーラは無事か!?」


 遠くから声が聞こえてくる。この口調は…


「お母さん!?何でここに?」


 やっぱり、村長エルフだ。すげぇなこのプレッシャーの中で普通に動いてやがる。


「こっちの犯人が自殺したものでな。精霊召喚が発動したという事はこっちも誰か死んだのだろう?」

「えぇ、炎のレッタが犯人でしたが自殺しました。」

「む?小僧も動けたのか。しかしそうか…そうなると厄介なことになるな。」

「厄介な事ってどういうことです?」

「いや、今は良い。それよりも小僧、あれをなんとか出来るか?」


 そう言って上を見上げる。炎魔人の事だろう。


「いえ、そもそもあそこに届かないので。」

「…………………そうか。この村はもうダメだな、すぐにここから離れるぞ。」


 そんな!?まだなんにもしていないのに!?


「なんだ不満そうだな?我とてここを捨てたくは無い。だがあそこまで行く方法がーー」

「村ちょーーう!!!ご無事ですかーー!!」


 誰だ?村長エルフが来た方向とは別の方向からエルフが走ってくる。


 ある程度近づいた時、その正体に気づいた。


「あんたは!隊長エルフ!」

「ぬ?異世界人か!動けるようで何よりだ!っと村長!情けない事に動けなくなっておる者が多数おりまして、移動を手伝って貰いたいのです!」

「そうか、分かった。サーラ、お前も来い。樹空道ジ・ドーラ!」


 村長エルフが足元に魔法陣を生み出す。そこから樹木が伸び、村長エルフを上に乗せて伸びていく。


 俺はその光景を見て、閃いた。


「っ!行ける!行けるぞ!あの場所まで!」

「海斗!それは本当!?」

「ああ!ただ全員の協力が必要だ!頼む!手伝ってくれ!」

「小僧、それは本当に行けるんだな?」


 村長エルフは俺の目をじっと見つめてくる。

 俺はその目を見つめ返し、一言。


「……行けます!」

「…………フッ。そうか、移動は中止だ!今はこいつの手伝いをする!お前も手伝え!」

「はっ!」


 村長エルフは少し笑みを浮かべた後、隊長エルフに命令した。


「いいか、みんな!あそこに行く手段はまずーー」


 俺は全員に手段を話した。


 〜〜〜〜〜


 さ、流石に恥ずかしいな…


 今、俺のすぐ側には火野さんとメイアねぇさんがいる。もはや密着しているといってもいいだろう距離だ。


「海斗君、流石にこの距離は恥ずかしいんだけど…」

「俺も恥ずかしい…でもズレたら危険だからね。」


 そう、こんな体勢になっているのはちゃんと理由があるのだ。


「じゃあ翔太、頼んだよ?」

「同時にはやめてね。流石に間に合わないから。」

「まぁ、出来るだけ。」


 翔太も準備が整っているようだ。


「小僧、上手くやれよ?」

「海斗、頑張って。」

「頼むぞ、異世界人。」


 後方にいるエルフ3人が応援してくれる。


 これは失敗できねぇな…


「任せてください。それじゃあ、頼みます。」


 俺たちの足元に魔法陣が現れる。

 俺は空を見上げ、もう腕まで出てきた炎魔人を見据える。


 やれるさ、俺なら。いや、俺たちなら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る