第43話 姉との約束

 しかしどうしたものか…


 俺のマジックハンドは出来ても両手のみ。だからあの数の火球を全て弾くことなんて出来ない。


「海斗君、あれは私が相殺する。だから相殺したら突っ込んで!」


 だがそんな事を考えていた時に、火野さんが言う。


「分かった!頼んだぞ!」


 俺ではどうにも出来ないので火野さんに任せる。


 火野さんは杖を前に出し、何やら集中を始めた。その直後、前方に巨大な魔法陣が現れた。

 おそらく火野さんの魔法だろう。


「私だってねぇ!炎の魔法を使うのよ!爆火炎レグナルーバ!」


 ゴォォォォォォォ


 巨大な魔法陣から巨大な炎が噴出する。

 それは炎のレッタが打ち出した大量の火球とぶつかり合い、相殺した。

 接近するチャンスはここしか無い。


「震…脚!」


 少しの溜めをもって、震脚を使った。炎のレッタとの距離を急速に詰める。

 だがその瞬間、彼女の足元を中心に魔法陣が広がった。


「下手な突撃は身を滅ぼすわよ?火炎陣レグエスト!」


 ボウッ!


 そこから炎の柱が伸びる。だがーー


「俺には…無意味だ!」


 俺はマジックハンドを発動させた右手を炎の柱に叩きつける。多少の抵抗の後、炎の柱が露散した。


「嘘っ!?」

「これで終わりだ!発しょーー」


 驚いた様子で一瞬固まった隙を見逃さず、発衝で攻撃しようとした時、ある記憶が蘇った。




 〜3ヶ月前〜


「姉さん、姉さん!起きろよいい加減…」


 全く、母さんに頼まれて起こしに来たってのにこれだけ呼んでも起きやしねぇ…


「姉さんの分のアイス食べちゃうよ〜?」

「何!?食ったらどうなるか分かってんだろうな!?」


 はぁ、ようやく起きた。


 シャアッ


 俺は姉さんの部屋のカーテンを開ける。


「うぁ〜、やめろ〜。眩しい…」

「んな事言ってないで。今日はキオニ行くんでしょ?新しい服が欲しいんじゃないの?」


 キオニは最近この辺で出来たデパートだ。せっかくなので行ってみようということになり、今日行くこととなった。


「あ、そうだった…今着替えるわ。」


 ようやく起きた姉を横目に部屋から出て行く。

 そしてリビングに向かった。リビングには父さんと母さんが居る。今日は久しぶりに家族で出かける日だ。


「あら?海斗、波音なみねは?」

「今起こしたとこ、着替えてくるって。」

「そう。じゃあご飯食べちゃいなさい。」

「うん。頂きます。」


 俺はいつも通りの朝食を食べ出した。



 〜〜〜〜〜


 そこらじゅうからガヤガヤと聞こえてきて騒がしい。


 やはり出来たばかりとあってか人が大分多い。少しでも気を抜けば家族を見失いそうだった。


「よし!海斗、こっちだ!」

「ちょっ!姉さん!待ってよ〜!」

「遅いぞ!もしかしたら売り切れちまうかもしれねぇ!」


 俺は今あんたの荷物を大量に持っているんだ…あまり早くは動けない。


「ちょっとすいません。通ります。」


 人混みをかき分ける。少し先の、通路では無い場所で姉さんは待っていた。俺は人混みを抜け、一息ついた。


「ふぅ、人使いが荒い…こんなことなら母さん達の方へ行っとけば良かった…」


 母さん達とは現在別行動をしている。帰るときになったらスマホで連絡が来るのでそれまでは自由なのだ。


「何だよ?オレと一緒に行動できて嬉しいだろ?もう少しだから手伝っーー」

「ゔぇ〜ん。おがあざん…どごぉ…?」


 突然人混みを抜けて、ちっちゃい子供が現れた。


「え!?ま、迷子か?えっと、大丈夫、おねぇちゃん怖く無いよ〜。」


 下手くそか!?


 あまりにもベタな対応の仕方に、つい心の中でツッコミがはいった。


「姉さん…取り敢えず迷子センターまで連れて行こう。」


 近くに声を聞いて動いている親も見つからないので、迷子センターに連れて行くことにした。



 〜〜〜〜〜



 あの後、迷子センターに向かった俺達は、そこで子供を探していた親を発見。子供は無事に親の元に戻った。


「ふ〜、何とかなった……」

「いや〜、海斗が居てくれて助かった。」

「俺は弱い人の味方ってやつさ。女子供を助けてやれる人になるんだ。」

「そっか、じゃあさ。オレの事も守ってくれよな?」

「ま、姉さんも女だかんね。そりゃ守るさ。」

「おう!頼んだぜ?」


 今はもう手に入らない、平和な世界の記憶。そして、守らなければならない約束。


 〜〜〜〜〜


 ブワッ


 炎のレッタの髪が掌底の風圧で舞い上がる。

 俺は、攻撃の手を止めてしまった。

 その隙を逃さず、炎のレッタは俺から離れる。


「どういうつもり…?」

「海斗?どうした?」

「どうしたのさ?海斗。」


 炎のレッタも、メイアねぇさんも、翔太も。突然動きを止めた俺の姿に困惑する。


「悪い…俺は、女子供おんなこどもを、弱い人を助けたいんだ…だから、悪い。傷つけずに止めるのを、手伝ってくれないか?」


 ふざけている。自分でも、ハッキリとそう言える。それ程には馬鹿げた頼みだ。だがーー


「………海斗、お前…そっか、しゃあねぇな!手伝ってやるよ!」

「えぇ…難易度大分上がるなぁ…」


 2人は、それでも手伝ってくれる。


「ふ、ふざけるなぁぁぁ!!」


 しかし彼女はそれが我慢ならなかったらしい。


「私が弱い!?舐めているのでしょう!?」

「舐めてねぇよ。言ったろ?俺はあんたを認めているって。だから、復讐に取り憑かれた1人のか弱い女性として、あんたを力ずくじゃなく、助けてみせる!」


 全く、俺はこんな世界でもあの約束を守ろうとする、とんでもない馬鹿野郎だ。

 でも、力ずくで抑えようだなんて、おかしいだろう?彼女はただ苦しかったんだから。

 だから、俺が助ける。その苦しみから、解放してみせる。

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