第42話 差別の被害者

 俺に矢を放ってきた人物は、その姿を現した。


「女?」

「あいつは…海斗、あいつは炎のレッタだ。」


 炎のレッタ?そういえば一昨日の夜に捜査の途中で逃がしたって言ってたな。


 確か麻薬と思わしき物を取引していたらしい。


「あんたが今回の事件の犯人か!?」

「そうとも言えるし、そうでないとも言えるわね。」

「どういう意味だ…」

「どうでも良いでしょ?これ以上は時間の無駄ね。1人でも死んでもらうわよ?」


 そう言って炎のレッタは魔法陣を展開しーー


「樹縛牢!」


 それよりも早く、炎のレッタを樹が包み込んだ。

 それを成したのは、先程の隊長エルフのようだ。


「そう易々と殺させると思うなよ?我等はこの禁呪を止めるために来たのだ。」


 この隊長エルフ、思ったよりも強いぞ…

 まさか魔法陣の展開がここまで早いなんて…隊長なだけあるって事か。


『うふふ、そうね。その通りだわ。でも、私も易々と捕まる気は無いわ。』


 樹の牢から声が聞こえる。どういうわけか余裕があるようだ。


「総員!逃げられぬように補強をせよ!」

「「「「「「「は!樹縛牢!」」」」」」」


 ドドドドドドドド


 次々と地面から樹が伸びて来て、炎のレッタを囲っていた牢を更に囲う。そしてあっという間に横幅10メートルにもなる樹の牢が完成した。


「とんでもねぇな…これがエルフの力か…」

「あまり見くびってもらっては困るぞ異世界人。偶に霧を抜けてこの村へ入ってくる実力者を3人居れば捉えることが出来るくらいには実力はある。」


 あの霧を抜けてくる実力差をか…思ったよりも強いぞこれは…


「よし、このまま捕らえてーー」


 ドォォォォン


 な、なんだ!?


「私を誰だか忘れたの?」


 そんな声と共に樹の牢獄が吹き飛んだ。吹き飛んだ樹の牢は燃えている。そういえば相手は炎のレッタと言われていたな。

 だが一つ疑問が浮かんだ。


「あれをこうも容易く吹き飛ばせるものなのか?」


 そう。いくらなんでもあれだけの拘束を、いとも容易く吹き飛ばせるものなのか疑問に思うのだ。


「出来るに決まってるじゃない。だって私は炎のレッタ。炎魔法の扱いに関しては誰にも負けないわ。それに、私を捕らえる事が出来ないのは貴方達が無能だからよ。」

「何!?樹木魔法を使えないエルフモドキの分際で!」 「やはり貴様の様な奴は捕らえておくべきだったんだ!」


 あいつらいくらなんでも言い方ってもんが…まさか、これが原因で?


「なぁあんた!炎のレッタ!」

「何?人間がなんでここにいるのよ?」


 問いかけに答えず俺の言葉を続ける。


「あんたがこの事件を起こしたのは、差別されていたからじゃないのか?」

「………えぇ、そうよ。よく分かったわね?」

「今のやり取りを見ていれば分かる!だがそれでも、あんたのやっている事は間違っている!」

「貴方も同じという事ね…なら、死んで。」

「違っ!?」


 否定しようとしたその時、炎のレッタの背後に大量の魔法陣が現れた。


火球レグナマルチ。」

「嘘っ!?マルチキャスト!?」

「火野さん、何か知っているのか!?」

「えぇ、あれはマルチキャストっていう高難度の魔法発動方。

 本来魔法は魔法陣を記憶から展開してるんだけど、あれは複数の魔法陣を記憶から展開しているの。」

「どういう事だ?そんなに難しいのか?」

「そりゃあもう。普通魔法陣は魔力で描くのだけれど、あれは一度に全て描く必要があるわ。要は見もせずに複数個の腕で同時に、かつ完璧に魔法陣を描かなくちゃならないのよ。」

「えぇそうよ。これで1人でも死んで頂戴。」


 ボボボボボボボっ!


 魔法陣から火の玉が放たれた。

 その数は多く、俺のマジックハンドでは捌き切れない。


 これは…まずい!


「「「「「樹防壁ジ・ディーギア!」」」」」


 ドドドドドドドォォォォン!


 だが俺たちに当たる前に、地面から伸びた木々が盾となった。

 そして着弾と同時に粉々に吹き飛ぶ。


「ふふふ、私1人の攻撃ですら防御するので精一杯?それでよくもまぁ無能だと呼んでくれたわね?貴方達の方が無能じゃない。」


 そうか、この人は…


「そもそも私に樹木魔法で対抗しようだなんて無理があるのよ。霧を抜けて来れる実力者を3人居れば捕らえられる?霧を抜けるのに消耗しきった相手を3人も居ないと捕られ無いんでしょう?」


 この人はただ…


「その程度の力しか持たない弱者が!私を出来損ない扱いして!ふざけるんじゃないわよ!私の方が優れたエルフでしょ!?樹木魔法が使えないから何よ!?私には炎魔法が、才能があるのよ!」


 ただ…認めてもらいたかっただけなんだ…


「黙れ!貴様の様な奴の言い分など聞かぬ!私がひっ捕らえてやーー」

「瞬身」


 バギィッ!


「ぐばぁ!?」


 気づけば俺は、そんな事を口走った1人のエルフを、殴り飛ばしていた。


「な!?貴様、何をする!?」

「分かんねぇか?俺はテメェらがムカつくんだよ!」

「やはり貴様は人の皮を被った化け物だったという事か!ここで殺してーー」

「発衝!」


 魔法陣を展開しようとした目の前のエルフを発衝で蹴り飛ばす。


「いいか!あの女がここまでになったのはお前らのせいだ!お前らが、彼女を認めてやれて居れば、変わっていたかもしれない!」


 声を張り上げて、奴らに伝える。これはお前達が招いた結果だと。差別をした結果だと。


「だけど…炎のレッタ。あんたのしようとしている事は間違っている。だから、俺が止める!エルフは手を出すな!」


 だが、俺は炎のレッタも否定する。炎のレッタに向き直り、お前を止めると宣言する。


「違うでしょ?俺がじゃなくて、俺たちが、でしょ?」

「火野…さん…」

「そうだぜ?たまには姉を頼りな?」

「メイアねぇさん…」

「僕ら親友だろ?手伝うよ。」

「私も、もう仲間。」

「翔太…サーラ…」


 …みんな。あぁ、全く。俺は良い仲間に恵まれた。


 エルフの一人を蹴り飛ばし、もしかしたら後で捕まるかもしれないーーいや、下手したら殺されるかもしれない俺に、協力をしてくれると言う仲間の姿に心が熱くなる。


「炎のレッタ!俺はお前を認めている!1人のエルフとして、その努力を、才能を!だけど、その上でこんな事をするのは間違っている!だから、俺たちが止める!」

「っ!黙れぇぇぇぇ!!仲間のいるお前なんかに、何が分かる!」

「分かる!少なくとも、あんたが苦しんでいる事は!だが!それでもこの行いは間違っているって、そう言ってんだ!」

「黙れ黙れ黙れ黙れ黙れぇぇぇぇ!!」


 またしても炎のレッタの背後に大量の魔法陣が現れる。


 俺はマジックハンドを発動させた。


「絶対に、あんたを止める!」

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