第40話 見られた!?

「さてと、まず闘気をどうやって動かすかが問題だ。」


 2体の修羅に意識を刈り取られた俺は、修羅から戻った火野さんによって意識を取り戻していた。

 その際、サーラが事情を説明したのだが、それでも二度とあんな事をするなとありがた〜い説教を食らった。


 そして今ようやく、修行を始める事となった。

 しかし、重大な問題が発生していた。


「闘気って、どうやって動かすんだ?」

「私に聞かれても分からない。」


 まぁそりゃそうだ。サーラは闘気を持ってはいない。

 取り敢えずラノベでよく使われる、血液を動かすようにやってみる。


 想像しろ。闘気が心臓によって全身を巡るように。漂っている力を体に巡らせるように。


「…どう?動いてる?」

「動いてない。そもそも何かしてたの?」


 なんという事だ…ラノベの方法は頼りにならなかった。

 ならば別の方法を考えるしかない。


「サーラ、火野さん、2人は魔力をどうやって動かしているんだ?」

「うーん、なんかこう。体の中の血を動かしているみたいな?」

「そうね。血液の流れを操る感じに近いわ。」


 なんと魔力の操り方はラノベ通りだったようだ。

 しかしそれが分かったところで俺の闘気が操れないことには変わりない。


「な、なぁ。オレにも魔法って使えるかな?」


 なんだかメイアねぇさんがそわそわしていると思ったら、どうやら魔法を使ってみたかったらしい。


「…メイアは魔法を使えない。魔力が小さ過ぎる。」

「そ、そう…か…」

「でも魔技は使えてる。だからもっと魔力操作を上手くした方が良い。」

「ま、魔技?」

「気づいてないの?メイアが使ってる身体強化フィジカルアップは魔技だよ?」

「いや、そもそも身体強化って何だよ?」


 何だ?魔技?そして身体強化だと?それってまさかーー


「身体強化は魔力を全身に素早く巡らせる事で使える魔技っていう魔法ではない技術。接近戦の戦い方をする人は大体使えるようにしてる。

 たまに無意識に使っている人がいるけど、メイアもそうだったんだね。」

「そうなのか、オレは無意識に魔技っつう技を使ってたのか。」

「うん。気づいて無かったのなら意識的にやればもっと身体能力が上がるよ?」

「本当か!?ど、どうやれば良いんた!?」


 なんか俺の修行だった筈なのにメイアねぇさんの修行になってしまった…


「ごめん、ちょっと俺トイレ行ってくる。」

「海斗君!?そっちはトイレじゃーー」


 話を聞かず、その場から離れる。



 〜〜〜〜〜



 そして結構遠くに離れた所で立ち止まった。


「よし、ここなら声は聞こえ無いだろう。」


 俺は別に逃げてきた訳ではないのだ。ただ今からやる修行は恥ずかしいので近くにいて欲しく無かった。


 その修行とは、先程の会話で思いついたのだが、魔技という技があるのなら闘気にも技があるのでは無いか?という事で闘気と似たような力を使う、名前の由来が野菜の某戦闘アニメの技を試してみる事にしたのだ。


「よし、誰も見てないな。」


 辺りを確認する。そして誰もいない事を確かめてから、中腰になった。

 そのまま両手を腰のあたりに持っていき、軽く球を作るように、ボールを持っているように手のひらを曲げる。

 後は声に出しながら動くだけ。


「ふ〜。よし!かぁーめぇーはぁーめぇーー」

「「ブフッ!!」」


 !?!?!!最後の一言を出す前に、何やら吹き出したような声が上から聞こえた。

 俺はすぐさま上を向く。


 そこには、口を手で押さえたメイアねぇさんと火野さんと、なんだかよく分からないといった表情をしているサーラの、女子3人がいた。


「な…おま…お前ら…一体いつから!?」

「海斗君がポーズを作り始めたところから。」

「さ、最初からじゃねぇか!?」

「ブフッ!いや、ほんとにおかしブフッ!」

「2人ともなんで笑ってんの?」

「地球の事だからサーラは分からないわよ。」


 あぁ、くっそ!恥ずかしぃ!


 3人はいつのまにか俺の上にあった大樹の枝の上に乗っている。おそらくサーラの魔法だろう。


「そんで?サーラに見てもらった方が良いだろ?」

「〜〜〜!!分かったよ!かぁーめぇーはぁーー」


 ヤケクソになってやってみた。


 結果はやっぱり動かなかった。





 〜〜〜〜〜




 月の核2時になった。


「今戻ったよーって、海斗どうした!?」

「いや…何でもない…」


 捜査から戻って来たらしい翔太が暗く影を落とす俺の様子を見て驚く。

 だがこれは言えないのだ。言ったら俺が死ぬ。


「今日海斗が修行中にな、こう、かーー」


 喋ろうとしたメイアねぇさんの口を塞ぐ。

 メイアねぇさんは真っ赤になって俺を引き剥がそうとして来た。

 だが口を離せば言われるかもしれない以上、手を話すわけにはいかなかった。


「んー!ふぁ、ふぁいふぉ!いっふぁんふぁなふぇ!」

「か、海斗…そろそろ話してやれよ。」

「駄目だ!言うかも知れない!だからうっぐぅ!?」


 な、殴られた…


 痛みに悶える。


「はぁーはぁー、海斗!テメェ今日は夕食抜きだかんな!」


 酷い理不尽だ…


 この日も事件の進展は無く、そして俺の夕食も無く、1日は終わった。





 〜〜〜〜〜





 しかし次の日、またしても罠で2人のエルフが殺された。

 毒を塗った矢で殺されたそうだ。


「くそっ!後手に回った!だがようやくこの事件が何を目的に行われたか分かった。兵を集めろ!最後の2人の生贄は、円の中央、又は円の右の一箇所だ!」


 村長エルフは多くの兵を集める。そして自らも出る準備をした。

 どうやら生贄は10人必要なものの様だ。黒マントが11枚あったのは予備もあったのだろう。


「小僧!お前は円の中央に行け!兵は付ける!サーラ!」

「何?お母さん。」

「お前は小僧について行ってやれ!」

「ん。分かった。」


 なんとサーラが付いて来てくれるようだ。


「いいか小僧、今回の事件は禁呪、精霊召喚の発動の為のようだ。後二箇所で生贄が捧げられれば発動してしまう。誰か殺されない様に注意しろ。」

「えぇ、分かりました。」


 精霊召喚、か…ほぼ転生者だろう。


 全く、めんどくせぇ魔法を作ったもんだ…


「みんな!殺されるなよ?」

「海斗もね。」

「もちろんよ。」

「そう易々と殺されてやる気はねぇな。」

「気をつける。」


 俺たちは戦闘準備を終えて、円の中央に向かった。


 こうして事件は終盤へと突入した。

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