第39話 闘気
「あれは60年前の事だ。」
そう言って村長エルフは話し出した。
「まだ若かった我は当時、この村から出て世界を回っていた。」
「…?サーラ、村長って今何歳?」
村長に聞こえないような声でサーラに聞く。今から60年前って事はサーラも生まれていない時だ。
その時既に世界を回っていたのならサーラを産んだのは結構いい年いってたんじゃ無いのだろうか?
「あ母さん?今お母さんはひゃくにじゅうろーー」
ヒュッ ドスッ
年齢を言おうとしたサーラの頬を飛んできた短刀が掠めた。
「女性に年齢を聞くとは…常識を教えてやろうか?」
「「…ごめんなさい」」
飛んできた方を見れば今にも殺さんと、鋭い視線を向けてきている村長エルフがいた。
それに気づいた俺たちは即座に謝る。
「まぁ良い、それでその当時、旅の途中で魔物に襲われてな。さて、どうしたものかと攻撃しようとしたその時、奴は現れた。」
おぉ!ラノベのシーンみたいな出会い方か!
「「お嬢さん!後は俺に任せろ!」と奴は魔物と我との間に立っち、言い放った。そして、小僧と同じ力を使ったのだ。」
「どんな風にです?」
「確か闘気集中と言ったかな?まぁそう叫ぶと同時、奴の黒いオーラが奴の体に集まって行った。そこから奴はまるで別人のような素早い動きをするようになった。」
つまり何か?俺の黒いオーラは闘気と言って、集めると身体能力が上がるとかか?
「それで、ど、どうなったんですか!?」
火野さんが目を輝かせ、話の続きをせがむ。
だが他に聞きたい事でもあるのか?
「それでか?確か奴は我に襲いかかってきた魔物に向かって行った。そしていとも容易く負けた。」
「「「「負けた!?」」」」
「あぁ、流石に目の前で死なれるのは後味が悪いからな。助けてやった。」
そいつからしたら酷い状況だっただろう。
何せ助けに行った女の前で無様に負けて、その上女に助けられたのだから。
「そいつからしたら酷い状況だっただろうな。もっとも、そいつが弱いからそうなったんだろうがよ。」
メイアねぇさんもそう思っていたようだ。
守る為には力が必要だ。それが無いのなら守れないだけの事だ。
「全くその通りだ。」
「それで!どうなったんですか!?」
「近い、少し離れろ。…それで助けられた奴は我に結婚して欲しいと言ってきた。」
「ええ!?凄い!そ、それで、オーケーしたんですか!?」
「するわけが無いだろう。我はそいつの事をよく知らんのだぞ?」
正論だ。殆どの人はよく知りもしないのに結婚して欲しいと言われたからって結婚したりしない。もしそんな事が起きたならその人は相当に婚期を気にしている人だ。
「まぁ我も少し動揺していてな。やんわりと断るつもりだったのだが、ついキツく言ってしまった…」
「どんな風に言ったんですか?」
なんか火野さんが随分グイグイ行くなぁ、なんかあったか?
「黙れ雑魚が。この状況で結婚して下さいだと?貴様はなんとも恥知らずだな?
そもそも私が受けるとでも思っていたのか?思い上がりも甚だしい。私からすれば気持ち悪いだけだ。と言ってしまってな。そのまま立ち去ったが、まぁ我も言いすぎたと思っている。」
うわぁ…このエルフ心折にいったよ…
「ん?そうだそうだ。そういえばそいつはゼンと名乗っていたな。取り敢えず当時の話はこれくらいだ。」
そう言って村長エルフの話は終わった。
成る程…もしゼンって人に出会ったら闘気をどう使うのか聞いてみよう。
「村長、ありがとうございます。俺はちょっと修行してきますんで失礼します。っとサーラも手伝ってくれない?」
「ん、良いよ。手伝ってあげる。」
俺はサーラを連れて部屋を出ていった。
「な!?おい海斗待てよ!」
「海斗君!?私達も行くわよ!」
メイアねぇさんと火野さんも部屋を出て行く。
ガチャ バタバタバタバタ…
「…全く、若いというのは良いものだな。
さて、我も事件の犯人を突き止めるとするか。禁呪だとするとマズイからな。」
村長エルフも部屋を出て行く。
後に残ったのは誰もいなくなった静かな部屋だけだった。
〜〜〜〜〜
風が気持ちいい。
サーラを連れて俺が来たのはこの家の、大樹の上だった。
「ねぇ、貴方は何でここに来たの?それに私に手伝って欲しい事って?」
「サーラ、俺を呼ぶ時の貴方ってのやめてくれよ。俺にはちゃんと海斗って名前があるんだから。」
「そう、じゃあ海斗。私に手伝って欲しいって?」
「ここに来たのは安全のため、サーラに手伝ってもらいたい事は、俺の黒いオーラ…闘気が動いているかどうかを見てもらうためだ。」
そう、俺がここに来たのは修行の為だ。
まず試す事はゼンって奴がやった闘気集中。
今の状態はただ闘気が漂っているだけの様なのでこれを集中させなくてはならない。
ただ俺一人では集まっているかも分からないのでサーラに見てもらうことにしたのだ。
「分かった、そういう事なら手伝ってあげる。でも良かった。」
「ん?何が?」
「海斗の事だから私に童貞卒業を手伝わせようとしているのかと…」
「うん、サーラが俺の事ををどう見ているのか聞きたいね。」
「変態鬼畜ロリコン野郎。」
………取り敢えずお仕置きが必要だな。
すぐさま俺は瞬身でサーラに近づき、何かあった時用に持っていたロープで手足を縛る。
「サーラ、君にはお仕置きが必要だなぁ。」
「あ、ちょっ、ちょっと待って。ふざけ過ぎた…海斗をからかうのが楽しくてつい。」
サーラは詫びれる気があるのだろうか…
芋虫の様に縛られたまま動くサーラを前に、俺は近くの枝をポキッと折り、サーラの腕を掴む。
そのまま少し力を入れ、腕を上げさせた。
「ま、待って…まさかそれでくすぐる気?」
「正解、少し人をからかい過ぎたね?」
「待って!ごめんなさい!反省してる!」
ちょっと楽しいと思いながらも手に持った枝をサーラの脇に近づける。
「ふふ、大丈夫。すぐに(くすぐったくて)呂律が回らなくさせてあげるから。」
「あ、いや。やめっーー」
「「海斗(君)?」」
その瞬間に聞こえてきた2人の声と背筋が寒くなる様な嫌な気配。
…これは殺気!?
恐ろしい殺気に青ざめながらも後ろをゆっくり振り向く。
そして2体の修羅を見た。
「弁明は聞かねぇぞ?」
「反省、してね?」
あ、やべっ。俺もう終わっーー
ゴスッ!
2体の修羅の攻撃は拳と杖というなんとも物理的なもので、されど俺の意識を一瞬で持って行く程には強烈な一撃だった。
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