第38話 教える気は、無い

「すいませんね。一つ、聞きたい事があって参りました。」


 俺たちは村長エルフの所にやって来ていた。俺の黒いオーラについて聞くためだ。


「聞きたい事か、まぁ大体の予想はついている。黒いオーラの事だろう?サーラが言ったか?」

「そう、私が言った。お母さんは彼の黒いオーラについて何か知ってる?」

「………知っている。」


 やった!これで俺は強くなれーー


「だが教える気は無い。」





「…え?」


 あれ?この人は今何て言った?


「す、すいません。もう一度聞かせてもらっても?」


 俺の頰に汗が垂れる。聞きたく無いと思いながらも理由を聞かずにはいられなかった。


「教える気は無いと、そう言ったんだ。」

「…何故?俺何か変な事しましたっけ?」

「いや、していない。」


 なんなんだ?一体なんだって教えてくれない!?教えてくれるくらいいいじゃ無いか!


「お母さん、何故教えてくれないの?」

「危険だからだ。」

「危険?」

「あぁ。サーラ、お前だって気づいているだろう?小僧のオーラが、あまりにも大きすぎる事に。」


 村長エルフはそう言った。


「俺のオーラが大きすぎる!?…いやぁ、ま、参っちゃうなぁ…」

「海斗君、顔が全然参って無いよ。」


 火野さんにツッコミを入れられる。


「な!何を言う!?俺が喜んでるとでも!?心外だ!」

「オレの直感じゃお前は嘘ついてると思うんだが?」

「メイアねぇさんまで!?」


 そんな馬鹿な!?何故こんなにも信用して貰えないんだ!


「貴方の、そのニヤついた顔を何とかしなくちゃ信用なんてして貰えないよ。」

「………………」


 一旦顔を揉み、ニヤついているらしい顔を元に戻す。そして真顔になった俺は言った。


「一体何処が喜んでいるように見えるんだ!」

「「「やり直した!?」」」


 女子3人の声は、見事にハモったのだった。


「漫才も程々にしておけ。ここはふざける場所じゃ無い。」

「す、すいません。でも漫才していた訳じゃ無いんですけどね…それよりも、何故オーラが大きすぎるからって教えてくれないんです?」


 流石にふざけ過ぎたあまり話が脱線していたが、ここでようやく話が戻った。


「小僧の力は強力だ。だがそれ故に、小僧が道を踏み外した時、どれだけの被害が出るか分からん。だから教えるわけには行かない。」


 ………思ったよりも現実的な理由だった。確かに村長エルフの懸念は最もだ。


 俺は何も言えない。ここで大丈夫ですと言えたらどんなに楽だっただろう。

 でも俺はそこまで無責任な事は言えなかった。何よりも俺自身が絶対に大丈夫だと、そう思えなかったから。


「話は終わりだ。我は次の仕事へ向かう。」


 ガチャ


 村長エルフはドアを開ける。部屋から出て行くのだろう。


「あ…お母さん待って。彼なら大丈夫だと思う。」

「えぇ、海斗君なら大丈夫です。いいじゃないですか。

「頼むぜ村長さん、海斗の力を教えてやってくれ。」


 サーラさ…サーラが、火野さんが、メイアねぇさんが、俺の事を信用してくれている。俺なら大丈夫だと言ってくれている。だがーー


「お前達の意見は聞いていない。諦めろ。」

「おい待ーー」


 バッ


 追いかけようとしたメイアねぇさんを片手を上げて止める。


「海斗!?何すんだ!オレはお前の為に…」

「待って下さい。」


 メイアねぇさんの言葉を無視し、俺は村長エルフを呼び止める。

 村長エルフは部屋から半歩出た足を止めた。


「何だ?まだ何か聞きたい事でもあったか?」

「いえ、聞きたい事はありません。

 ただ、聞いてもらいたい事があります。」

「我は聞く気はーー」

「俺は…」


 村長エルフの言葉を遮り、声を出す。

 この人は、エルフは現実的に見て言っているのだ。言っている事は何も間違ってはいない。でもーー


「俺は、自分自身でも絶対に大丈夫だと、問題なんて起こらないと、そうは言えません。だから本当は教えて貰わ無い方が正しいのでしょう。

 けれど…俺に!俺の力を教えて欲しい!確かに道を踏み外すかもしれない!力に溺れるかもしれない!

 それでも、それでも俺は!仲間を守る、力が欲しい!」


 足を折り曲げ、膝を地面につける。両手も地面につけ、頭を晒す。

 言ってしまえば土下座だ。プライドを捨て、恥を忍んで教えを請う。


「小僧………!えぇい!分かった!

 今回の件に強力してくれている例だ。教えてやらなくも無い…」

「村長!」

「だが約束だ!道を踏み外すな、踏み外しそうになったら誰かに相談しろ。そしてそのキラキラした笑顔を止めろ!」

「もちろんです!」


 やった!これで俺の力が分かる!俺は仲間を守れる。


「海斗…オレはお前の事をよく分かってなかった…すまん。」

「メイアねぇさん…さっきの俺の為にってやっぱそう言う意味?」

「そう言う意味って…なぁ!?ち、違う!そう言う意味じゃねぇ!」


 メイアねぇさんは顔が真っ赤になった。


 やっぱり貴女には笑顔が似合う。俺のせいで俯く必要なんて無いんだ。


「ちょっと!そこの兄弟弟子!イチャつかないでよ!」

「は、はぁ!?オレは別にイチャついてねぇし!」

「そうだよ、俺がからかってるだけだし。」

「側から見たらイチャついているようにしか見えないわよ!そんなの…う、羨ましいじゃない…」

「ごめん、最後小さくてよく聞こえなかった。もう一回言って?」

「ばっかじゃないの!何も言ってないわよ!」


 えぇー、なんか突然罵倒された…


「ゴホン、力について聞く気はあるのか?」


 俺が傷ついていると村長エルフがちょっと咎めるような目線を向けて聞いてくる。


「おおっとすいません!聞く気あります!」


 急いで村長エルフに向き直り、話を聞くために向き直る。

 その途中、俺はメイアねぇさんに目線を向けた。

 未だにメイアねぇさんは顔を赤くして火野さんに抗議している。


 まさか…な…


 俺は頭によぎった馬鹿な考えを振り払い、部屋の中へ戻ってきてイスに座った村長エルフの前に行く。

 他の3人もこちらの様子に気づいて集まってきた。


「そこのソファにでも座れ。」


 指されたソファに座った。ソファは思ったよりも柔らかい。ただ、ソファは4人で座れるもののようだが、俺の横に座った火野さんとメイアねぇさんによって、肩身が狭かった。


 変態扱いされそうだ…


 それに構わず村長エルフは話し出す。

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