第35話 手がかり
村長エルフ視点
「事が起きたのは二週間。その時我はいつものように事務仕事をしていた。」
〜二週間前〜
「おかーさん。遊びに行ってくる。」
サーラが遊ぶ準備を整えて外へ出て行った。あまり遅くならなければいいが…
我は次の書類に取り掛かった。その瞬間ーー
バァン!
扉が思い切り開かれた。
「む?何ようだ?そんなに焦って、何かあったのか?」
「はぁー、はぁー、た、大変です!村のエルフが、何者かに殺されました!」
「何だと!?」
人間ならばそう言うこともあるだろう。だがここはエルフの村。周りは迷いの霧で覆われている。その上住人はそこまで多くない。
よって、ここでエルフ殺しが起こることはほぼ無いと言っていいのだ。
「何者かは分からないのか?」
「えぇ、それがその者は黒いマントを羽織っており、顔が見えなかったそうです。」
黒いマントを羽織っていた…か…
何者だ?何故マントを羽織る必要があった?………駄目だな、分からん。
「犯人の見当は?」
「何一つ分かりません。」
「そうか…取り敢えず調査しておいてくれ。」
「はい!了解しました!」
警備のエルフは出て行った。
さて、サーラを連れ戻さなくては…
この日はサーラを連れ戻し、村に情報を流して注意を促しただけだった。
〜2日後〜
事態が変化したのはそれから2日が経った頃だった。
「何だと!?またエルフが殺された!?」
馬鹿な…いくらなんでもこの事態は異常だ。
これは只の事件では無い…
我等はすぐさま調査をした。殺された2人の共通点、犯人の痕跡、警備の強化、しかしそれでも、犯人が黒いマントを羽織って、霧の中から来る事しか分からなかった。
我はここで犯人がエルフなのかと疑問に思った。
当初は迷いの霧を抜けてくる者だからエルフだと思ったが、それにしては何故エルフを殺す必要があったのか分からなかったからだ。
そこで我は外も警戒に入れた。
更に警備を強化し、この霧に近づいてくる者を監視するように頼んだ。
何人かここに迷い込んだものの、結局は何事も無く霧から抜けたらしい…
我は警戒を続けた、サーラを部屋から出ぬよう言っておき、報告を待った。
その3日後、またしてもエルフ殺しが起こった。更に3日後も、その2日後も。
「えぇい!もう既に5人も殺された!何故何も掴めない!」
「分かりません。ですが今は、引き続き警戒をするしか無いかと。」
「分かっている。分かっているのだが…」
くそっ!どうなっている!?このままではなすすべもなくエルフは全滅してーー
バァン!
「迷いの霧に人間が!その者は不思議な力で霧を吹き飛ばしております!」
「何!?転移者か?…そいつをここへ連れて来い。何か知っているかもしらん。」
「は!」
「そして今この状況に移ると言うわけだ。」
まぁ最も、こいつの事は信用している。そもそも黒マントだとしたらこんな派手に来ることは無い、何よりも娘が預かるとまで言ったのだ、少なくとも悪いやつでは無い。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
海斗視点
成る程、確かにそんな事があれば俺たちを警戒するのは当然だろう…
どう言うわけかと信用してくれているようなので全力で犯人を見つけてみせよう。
「この事件の役割を決めよう。」
「役割?」
「あぁ、まず俺と翔太が犯人の捜査を、メイアねぇさんはここの家で待機していてくれ。」
「何?それはオレが邪魔だって事か?」
「いや、そうじゃない。メイアねぇさんなら奇襲に対応できるだろうから。今の状況でマズイのは村長が殺されてしまう事だ、だからそこをメイアねぇさんに防いで欲しい。」
今の状況でマズイのは指揮系統が殺される事、もしそれをやられたらゴタゴタの間に更にエルフが殺されるかもしれない。それは避けなくてはならない、だから超直感の異能を持つメイアねぇさんに頼みたいのだ。
「………そう、か。分かったよ。オレもわがままは言うつもりねぇ。海斗、犯人必ず見つけろよ。」
「ああ。」
メイアねぇさんに喝入れて貰っちまった、これはぜってぇ見つけねぇとな。
「翔太、行くぞ。」
「りょーかい、あ、僕は消えてるね。」
む、そうか。翔太の透明化なら犯人を見つけられるかもしれないな。
「翔太は人気の無い所を見て回ってくれ。」
「なんかあったら呼ぶね。」
「おう、んじゃな。」
「んじゃ。」
俺たちは別行動で捜査を開始した。
〜〜〜〜〜
「すいません、そこのお嬢さん。エルフ連続殺人事件について何か知りませんか?」
「いえ、すいませんがここでエルフが殺された事しか…」
「そうですか…ご協力、感謝致します。」
うーん、駄目だ、手掛かりが掴めない…
そもそも村のエルフが俺より先に聞き込んでいるだろ!馬鹿か俺は!
駄目だ、この調子ではいけない…何か俺だからこそできる捜査を…、そういえば迷いの霧の中から来たと言ってたな。俺なら迷いの霧を抜けられる、そこで捜査をしてみよう。
〜〜〜〜〜
ブォォォォ
マジックハンドを発動した手を振って霧を吹き飛ばす。
「…何も見つからないな。」
霧に入ってから既に30分が経っているが相変わらず霧の中からは木々しか出てこない。
「ふー、ちょっと疲れた。飯でも食うか。」
歩き疲れたのでちょっと遅いが昼飯にする事にした。
寄りかかれる木を探す。
「お、あれデケェな、樹齢何年だろう。」
一際大きい木だ。見ただけで歴史を感じる。
俺はその大木に寄り掛かり、昼食を取った。
〜〜〜〜〜
「ふー、やっぱメイアねぇさんの飯は美味いな。」
本当に作ってくれるメイアねぇさんには感謝だ。
「さーて、そろそろ行こうかね。よっとぉ!?」
立ち上がろうと大木に手を掛けた途端、俺の手が容易く木をすり抜けた。
「…これは…魔法?」
丁度俺の手は定期的に充満してくる霧を吹き飛ばす為、マジックハンドを発動していた。
その手で大木をすり抜けたと言うことは、この大木は魔法で出来たものだと言う事だ。
ん?待て、俺の異能は魔法に触れる事ができるものじゃ無いのか?
「…………………考えても分かんねぇな。」
俺1人が考えたところで何も分からない、後でみんなと相談する事にして俺はすり抜けた先を見た。
「小屋?」
そこには一軒の小屋があった。
大木にギリギリ隠れるくらいの大きさの小屋だ。
取り敢えず俺は中に入ってみる事にした。
ギィィ
小屋の扉は音を立てながら開く。
中には小さなタンスと、小さな木風呂があった。
「風呂かぁ、しばらく入れて無いなぁ。ここの家の人には悪いけどちょっと借りちゃおうかな?」
悪いとは思ったがやっぱり日本人としては風呂に入りたいのだ。風呂に入った記憶なんてノア師匠のいたムルドベルクでも数回しか入れなかった。風呂の入らない日は布で体を拭くしか無かったのだ。
「いやぁ、家主さん、ごめんなさいね。」
俺は風呂の蛇口をひねり、水を出す。これは魔道具らしく、魔力が補充されていたようでちゃんと水が出た。
そして服を脱ぎ、風呂に入ーーろうとして動きを止めた。
「おい、おいおいおいおい、おいマジか…」
すぐさま服を着直す。
「なんだって風呂の水が少し赤くなってんだよ…しかもこの鉄臭い匂い、十中八九、血だな。」
すぐさま俺はタンスを開ける。
「やっぱりここは、犯人のいたところか…」
タンスの中にあったのはーー
何枚かの、綺麗なものと血濡れた黒いマントだった。
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