第34話 黒マント

「ねぇ、海斗君。私には幼気な少女を襲っている様にしか見えないんだけど、どういう事かな?」

「ご、誤解だ!なぁサーラちゃん?」


 危機に陥った俺はサーラちゃんに同意を求める。

 だがどういう訳かサーラちゃんは俺をじっと見つめてきた。


「あ、あの、サーラちゃん?」

「………グスッ、この…お兄ちゃんが…突然グスッ豹変して…怖かったよぉ…」


 そして泣き出した。


 はぁぁぁぁ!?!?

 どこ行ったあのクールな子は!?


「…海斗君。」


 はっ!火野さんが凄い蔑んだ目つきで俺を見ている!


「このぉ…ロリコン変態鬼畜野郎ー!これでも食らえっ!」


 火野さんの手に魔法陣が現れる。ここで魔法を使う気だ。


炎球レグナ!」


 これはっ!レーゼが使っていたやつと同じ!?


 規模は大分小さいが、それは確かにレーゼが使っていたあの小太陽と同じものだった。


「大丈夫、ちゃんと直してあげるから。」

「ちょっ!落ち着いて!」


 マズイ!火野さんは止まる気配が無い!


 仕方なく俺はマジックハンドを発動させーー


樹縛牢ジ・プリーダ!」


 それよりも早く木の枝が伸びて火野さんを縛った。

 炎球は制御が乱れたせいか消え去る。


「っ!?な、何っ!?」


 火野さんが驚く。俺は声のした方を向いた。


「サーラ、ちゃん?」

「ごめんなさい、ちょっとふざけ過ぎた。」


 サーラちゃんが謝る。


 マジか…今のはサーラちゃんがやったのか…


「え!?これやったのってその子!?」

「貴女もごめんなさい、ふざけ過ぎた。でもここで炎はやめて。」

「あ、ごめんなさい…」


 どうやらここで炎を使う危険性に気付いていなかった様だ。


 サーラちゃんは火野さんの束縛を解いた。


「今のって何?魔法?」

「そう。エルフの特有の魔法、樹木魔法。」


 と、特有魔法だと!?


 俺は目を輝かせた。

 特有魔法、それはつまり特別な魔法。俺らの異能と同じような特別なもの。


 良いなぁ、凄い良い!


「ちょっと、海斗君が目を輝かせちゃってるんだけど…」

「それについては知らない。それよりも貴女はなんでここに?」

「え!?そ、それは…そう!迷っちゃって!」

「その割には随分迷いなく扉開けたね?」


 ジー


 そんな音が聞こえてきそうな程にサーラちゃんは火野さんを見つめる。


「………海斗君が、その、女の子と2人きりでいるって聞いたから…」


 火野さんが何かを言っていたが声が小さくて聞こえなかった。


「そう…成る程ね。」

「な、何よ…」

「いえ、健気だなぁって。」

「そ、そういうんじゃ無いわよ!?」

「うんうん、そうだね。」


 2人して小声で何か話している。流石に気になったので近づいて行った。だがーー


「きゃー、また襲われるー。」

「さ、最っ低!近寄らないで!」


 まるで犯罪者のごとき扱いを受け、俺はたじろいだ。


「な、何もそこまで言うことは無いだろ?特にサーラちゃんは本当は分かってんだろ?」

「いーやー、誰か助けてー。」


 そう言ってサーラちゃんと火野さんは逃げていった。


 …流石にちょっと傷付いた…





 〜〜〜〜〜




 あの後、廊下を歩いていたところで翔太達を発見した俺は村長エルフと向かい合っていた。


「やぁ、化けも、いや小僧。」

「どうも…何故言い直したんです?」

「何、先程お前のとこの娘が我に説教をくれてな。化け物と呼ぶなと言われたのだ。」


 まさか火野さんが?…さっきの事とは別に後で火野さんにお礼を言おう。


 そんな決心を固めていると、村長エルフが俺に質問をしてきた。


「時にお前達は旅をしているのだろう?黒マントを知らないか?」


 黒マント?さっぱり分からない。


 俺は翔太が何か知らないかと思ったが、翔太は首を横に振った。翔太も知らないようだ。


「すいません。お役に立てそうに無いです。」

「ふむ、そうか。分かった。ただしばらくこの村から出るな。」

「えっと、何故です?」


 翔太が聞く。まぁ確かに疑問だ。



「当たり前だ。お前達が嘘をついている可能性もある。」

「な!?俺達が嘘をついているって!?そもそもその黒マントってなんなんですか!?」


 なんだってこんなに疑われなくてはならないのか、全くもって意味が分からない。


「…すまんな。エルフが何人か黒マントに殺されているのだ。少しでも怪しいものは監視せねばならん。」


 っ!エルフが殺されている!?


「それは、内部のエルフの仕業では無いのですか?」

「我らも当初はそう思った。だが黒マントは決まって霧の中から現れる。それにエルフの殺されたもの達には何の規則性も無かった。」


 成る程、だから外部の存在の仕業だと…


「分かりました。しばらくここに留まります。それと、俺達も協力します。」

「海斗!?」

「すまん翔太。でも許せないんだ。俺はエルフを殺した奴をぶん殴ってやりたい。メイアねぇさんも手伝って欲しい。」

「…そうか。分かったよ、僕も手伝う。」

「仕方ねぇな。弟弟子の頼みだ、手伝ってやるよ。」


 メイアねぇさん、翔太…ほんと2人には俺のわがままに付き合わせちまって悪いと思う。


「信用はできないのだがな。まぁ、人手は足りん、手伝って貰うぞ。」


 村長エルフはそう言うが、この人はまた随分と素直じゃない。信用してなきゃ普通は手伝わしてはくれないものだが。


「えぇ、黒マント。何としてでも捕まえて見せましょう。それで、事件の経緯を教えていただけませんか?」

「うむ、事が起きたのは二週間前ーー」


 村長エルフは事件の事を話し始めた。

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