第33話 同類?

 火野視点


 海斗君が空に飛んでっちゃった…


 私は空を見上げる。遥か上空に飛んで行ってしまった海斗君は未だに落ちてこない。


「海斗君、無事かな…」

「大丈夫だと思うぜ。何よりあいつがそんな簡単にくたばるとは思えないからな。」


 確かに…今は進もう。


 メイアさんの言葉に心の中で同意して、取り敢えず未だにウル○ラマンのポーズをしている柊君を引き上げる。

 2人がかりでようやく上げると同時に枝は止まった。


「ここが…」


 大きい…ここにエルフの村長が…


 私達は中へ入って行った。




 〜〜〜〜〜



「止まれ!」


 扉の前に立っている2人のエルフが私達を呼び止める。

 指示に従い、私達は立ち止まった。


「ここより先は村長のお宅だ!無礼の無いようにーー待て、あの化け物は何処だ?」

「海斗君ですか?あいつならこの上に飛んでいきましたよ?」

「な!?た、大変だ!このままではお嬢様が危ない!ナイン!今すぐ連絡を!お前達は少し待っていろ!」


 門番の1人が慌てて家の中に入って行った。


 海斗君、無事だといいな…


 私達はしばらく待つ事となった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 海斗視点


「狭いな…」


 四角い穴の中へと入った俺は狭い通路を進んで行く。

 通路は俺が通れるものの、少し頭を下げて進まねばならないくらいの大きさだ。


「みんなは着いたかなぁ?」

「みんなって男1人と女2人の3人組?」

「そうそう、俺の仲間で…って誰?」


 俺の独り言に返事があったので驚く。俺の独り言に答えた相手は姿を現した。


 そいつは身長が150センチほどの小さなエルフの少女だった。


「私はサーラ、貴方は?」

「お、俺は海斗。サーラちゃん、ここから出る方法を知らないかい?」


 少し動揺したが、取り敢えずここから出る方法を聞く。


「ん、私に着いてくれば出られる。来る?」

「良いのかい?ごめんね、助かるよ。」


 案内してくれるらしいのでお言葉に甘えて着いて行く。



 〜〜〜〜〜



 着いた先は一つの部屋だった。


「ここは?なんか変な人形があるみたいだけど…」

「私の部屋、それに変な人形じゃない。可愛い人形。」


 えぇ…なんか腕が4本あるし、目なんか胴体に付いてる。邪神って言っても良いんじゃないのか、これ?

 まぁそんな事は案内して貰っている分際で言えないが…ん?私の部屋?


「え?ここ、キミの部屋なの!?」

「だからそう言ってる。ここを出れば廊下から外に出られるけど、その前に案内のお礼。」


 え!?いや確かに案内してくれたのに何もなしって訳にはいか無いけれど…あげられるものなんて…


 バックやポケットを漁る。だが何も見つからない。


「別に物でなくても良い。旅の話とか聞かせて?」


 あ、それでも良いのか。お礼に渡せる物が無かったので俺がこの世界に連れて来られた所から話し出した。


「そうだなぁ、俺は最初地球というこの世界とは別の世界でーー」




 〜〜〜〜〜



 コンコン


 丁度世界転移にで飛ばされた辺りでドアが叩かれる。


「お嬢様!サーラお嬢様!ご無事ですか!?実は今、この上に化け物が飛んでいきまして!人間の男の姿をしているのですが、こちらに来ていないでしょうか!?」


 どうやら俺の事のようだ。


「あー、多分俺の事かな?話は取り敢えずここまでね。」

「もう終わり…」

「また後で続きを話すから。」


 サーラちゃんがなんとも寂しそうな顔をするもので、つい言ってしてしまった。


「ほんと!?約束ね!」

  「うん。約束だ。」


 まぁ、この子の笑顔が見れたのなら良いか…


 サーラちゃんは扉を開ける。


「その人間の男なら居るわ。外に出たいらしいから案内してーー」

「ひぃ!?化け物だ!?『ピー!』応援要請!お嬢様が危ないぞ!」


 扉を鳴らしたエルフに俺の事を言おうとしたのだが、そのエルフは笛を鳴らし、サーラちゃんを抱き抱えた。


 バタバタバタ!


 いくつもの足音が聞こえると同時に部屋の中へと沢山のエルフが入ってくる。そして、その手に持った槍を俺に向けた。


「化け物め!お嬢様を人質に取ろうとでもしたのか!?その罪、牢獄で大人しく反省しろ!」

「んだと!?ふざけた事抜かしやがって!全員ぶっ飛ばして………っくそ!」


 いわれのない罪を着せられ牢獄に送り込まれそうになったので対抗しようとした。だが俺はその考えを捨て、両手をあげる。


 ここは、サーラちゃんの部屋だ。俺が暴れてここを壊す訳には行かない。


 あれよあれよという間に俺は両手を縛られ、そのまま牢獄に連れて行かれる。だがーー


「止めなさい!その男は私が預かるわ。縄を外して。」

「しかし!何かあったらどうするおつもりですか!?」

「その場合は私が責任を取る。大丈夫、この人は今この状況になっても暴れなかった。」

「………はぁ、分かりました…今はお嬢様に預けます。お前ら!縄をほどいてやれ!」


 俺の縄が外される。俺は自由になった。

 そしてエルフ達は部屋を出て行った。


「あ、ありがとう…」

「牢獄に連れてかれたら話の続き、聞かないから。」


 まさかそれだけのために俺を助けてくれたのか?っていうか俺は情け無い…こんな女の子に助けられるなんて…


 俺が落ち込んでいると、サーラちゃんが俺の顔を覗き込んでくる。


「ねぇ、旅の話の続き、話して?」

「…は、はは。了解ですよお嬢様。」


 俺の事など関係無いとばかりのマイペースさに、落ち込んでいるのが馬鹿らしいと思った俺は、続きを話すことにした。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 火野視点


 しばらく待っていると門番の1人が出てくる。そしてもう1人に何かを話した。


「お前達!中に入る許可が出た!無礼の無いように!」


 どうやら入れてくれるらしい。私達は促され、中へと入って行った。





 〜〜〜〜〜




「こ、ここは…天国?」


 ようやく正気を取り戻したらしい柊君が周りの光景を見て天国と勘違いをする。


 まぁ、確かに。これは天国だと思うのも仕方がない…


 今、私達の周りには何人ものエルフが居る。その誰もが美男美女なのでこの世のものとは思えない。


 そして目の前にいる美女が口を開いた。


「よく来た、旅の者よ。貴公らを我等は歓迎しよう。」


 このエルフが村長のようだ。しかし気になることがある。


「ありがとうございます。それであの…一つよろしいですか?」

「なんだ?ある程度なら答えよう。」

「えっと、実はこの家の上に私達の仲間が飛んで行ってしまって…何か知りませんか?」

「あぁ、知っている。化け物の事だろう?」

「多分その人です。でも彼は、海斗君は化け物なんかじゃ無いです!」


 つい声を荒げてしまった。でも我慢出来なかった。ここの一番偉い人でも海斗君を化け物呼ばわりする事が許せなかった。


「む、そう怒るな。部下から化け物だと聞いているのでな。気を悪くしたなら謝ろう。」

「あ、いえ、言い過ぎました…すいません。」

「いや、こちらも悪かった。それでその海斗とやらは今、我が娘の部屋にいる。」




「え?」

「なんでも娘に気に入られたらしくてな、娘が預かると言って部屋から部下を追い出した。何をしているかは分からん。」


 娘?娘って、女の子だよね。そして部屋から部下が追い出されたってつまりそれは…

 海斗君が 女の子と 部屋で2人きり 何をしてるか分からない…


「か、かかか海斗君は!?海斗君は一体どこに!?娘さんの部屋の場所を教えて!」

「落ち着け、誰か連れて行ってやれ。」

「は!人間、ついて来い。」


 私は誘導に従って、急いで村長の娘の部屋へと向かった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 海斗視点


「んで、その結果俺はここに落ちて来たというわけ。」

「いいなぁ、私もそんな体験したみたい。」

「まぁ、ここまでの経験は中々珍しいと思うけどね…」

「へ〜。ねぇ、そういえばなんでその力の話が無いの?」

「へ?力?なんの話?」


 なんだよ力って、まさかサーラちゃん、俺の隠されし力に気付いたというのか!?


「ふっふふ!そうかサーラちゃん、キミは俺と同類という事か!」

「同類?私にそんな力は無い。貴方は気付いて無いの?貴方の本当の力に。」

「おっと、こちらのみのタイプか。だがそれも良し!サーラちゃん、俺の力とは何なのか、教えてくれないか?」

「突然どうしたの?なんかさっきと雰囲気違くない?」

「何を言う!?キミも同類ーー」


 バァン!!!


 突如扉が開かれた。そこには焦りの表情を浮かべた火野さんが居た。


 だがそれよりも俺は焦っていた。気付いてしまったのだ。

 今の俺は体勢がマズイ。同類を見つけた喜びでサーラちゃんの肩に手を掛けている。

 それは側から見ればサーラちゃんに襲いかかっているように見えなくも無い。


 ヤベェどうしよう…なんか火野さんの体から黒いオーラが…


 俺は、生きていられるのだろうか?

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