第32話 ジュワッチ

 門番達に近づくに連れ、顔が良く見えるようになってきた。

 門番の数は2人、やはりエルフなだけあって2人とも美形である。

 しかし、その顔の良さよりも、表情に問題があった。門番達の顔が引きつっているのだ、さっきあったエルフの男と同じように。


「あのー、すいません!ここって入っても良いんですか?」


 取り敢えず表情は無視をして聞く。


「ひっ!?本当に化け物だ…本当に村に入れるつもりか?」

「戦士隊長が良いと言ったんだ。仕方ないだろう。

 ゴホンッ!お話は伺っております。どうぞ中へ。」


 最初の方の会話が聞こえなかったが、入れてもらえるようなので良かった。


 俺たちはエルフの村の中に入る。


 そして言葉を失った。


 何故ならそこにあったのはツリーハウス。しかも木々が枝を伸ばして他の木の橋となっている。まさしくこれはエルフの村、いや、規模の大きさは街と言っても問題ないほどだ。


 しかし一つ問題があった。


「あれ?エルフ居なくね?」


 エルフの姿が見えないのだ。まさかどこかに集まっているとか?


「他のエルフは自らの家にこもっています。それよりもあなた方は村長に挨拶をしに行って下さい。村長の家はこのまま真っ直ぐ進めば着きますので。」


 成る程、一度村長に挨拶をしなくてはいけないのか。


 取り敢えず俺たちは村長の家に向かった。




 〜〜〜〜〜




 エルフを探しながら進んで行くと、巨大なツリーハウスがあった。ここが村長宅だろう。


「すいませーん!旅の者ですが、村長さんはいますかー?」

「…………の……し……だ!」


 声が遠くて聞き取れない、だがしばらくすると驚くべき事に大樹の枝が伸びてきて、俺たちの前で止まった。


「これは…乗れって事か?」

「そうじゃないかな?僕はあまり乗りたく無いけど…」

「なんで?」

「なんでって、あんなスカイダイビングを経験したら、また高い所に行けるわけ無いだろ…」


 つまり翔太はあのスカイダイビングで高所恐怖症になったと…


「なら克服しようぜ?」

「出来るもんならね。」


 任せとけと親指を立てた。


「じゃあ、火野さん、メイアねぇさん。先乗ってて。」

「分かったわ。」

「おう、分かった。」


 火野さんとメイアねぇさんが先に乗る。


 そして俺は大樹の枝に持っていたロープを巻きつける。


「翔太翔太、このロープをつければ大丈夫だって。ほれ。」


 更に翔太の腰にもロープを巻きつけた。


「嫌だ!僕は行かないぞ!止めろ!離せ!」


 嫌がる翔太を無理矢理枝の上に乗せる。更に俺も乗ると同時に枝が上昇し出した。

 速度はそれなりでこれなら行けると確信する。


「よし!アイルビーバック!」


 某映画の名台詞を言い残し、翔太と共に枝から降りた。


「へ?エグッゥ!」


 翔太は一瞬惚けた後、腰に巻きつけたロープによって停止する。

 俺は腕にロープを巻きつけて翔太の少し下の位置で止まる。


「さぁ翔太!ここで高所恐怖症を克服するんだ!」

「ジュワッチ!」


 だが翔太は俺の言葉に妙な返事で返した。


「ん?何今の返ぶほっ!?」


 笑った。あの妙な返事はその姿を見て納得した。

 今の翔太の姿は両足をピンッと伸ばし、更に片手も伸ばししている。その様はまさにウル○ラマンだった。


 今度は鳥では無く、ウル○ラマンになったのか…

 しかし…これはヤバイ!笑える!


「いひひひひ!ひはははは!」


 駄目だ、笑いが止まらない。


 その上、翔太は空中で回り出す。

 スマホが使えたら撮っておきたかった。


「海斗君!何してんの!?落ちちゃうよ!」


 上から火野さんの叫び声が聞こえる。心配してくれているようだ。


「大丈夫!ちゃんとロープでくくりつけてあるから!」

「そういう問題じゃーー」

「っ!海斗!嫌な予感がする!周り見ろ!」


 火野さんの言葉を遮り、メイアねぇさんが叫んだ。

 メイアねぇさんの嫌な予感は無視出来ない。俺はすぐさま周囲を見回した。


 だが警戒すべきは周囲では無かった。俺はもっと、近くを警戒すべきだったのだ。



 ブチッ…ブチブチ!



 何の音だ?ブチッって…ロープ!?


 慌てて翔太を見る。だが翔太のロープには変化は無かった。


「てことは…まさか俺の?」


 ブチッ!


 だが確認するよりも早く、俺のロープは千切れ、俺は落下した。



「あ?あああぁぁぁぁ……!?」









 ギシィッ



 奇跡が起きた。俺のローブに枝が引っかかったのだ。


「た、助かっーー」


 ビュン


 俺はそのまま止まる…事なく、しなった枝が俺を跳ね上げ、3人の遥か先、空の彼方へと弾き飛んで行った。




 〜〜〜〜〜



「あああぁぁぁぁぁ!?!?!!?」


 ベキベキッバギィペキ


 俺の体は今、大樹の枝によって受け止められていた。

 枝や葉が俺の衝撃を受け止めてくれたのだ。


「助かった…痛てて…取り敢えず、ここ出るか…」


 所々に切り傷を作ったものの、五体満足でいられた俺は、下へ向かう。



 〜〜〜〜〜



 しばらく歩いていると、四角い穴を見つけた。


 ここから出られるかもしんねぇな。


 俺は多少警戒して、四角い穴に入って行った。

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