第26話 交渉しよう!
一ヶ月の月日が経った。
もしも未だに学校に通っていたのなら、今頃は夏休みだっただろう。時はあっと言う間に流れていくものだ。
「さて、海斗よ。今日の修行は森に出て魔物を狩ってくるのじゃ。」
「おぉ!ついに実戦ですか!」
「うむ、メイアよ、付いて行って上げなさい。」
「おう!不甲斐ない弟弟子を守ってやるぜ!」
なんて事だ、まさか姉弟子に守られるなんて言われるとは…
「えー、一人で大丈夫だし。なんなら守ってあげますよ、メイアねぇさん?」
「へぇ?オレより強いってか?デカイ口叩くな?」
ぐっ!、それを言われると辛い…
実際に何度か模擬戦をしたのだが、やはり修行している期間が長い為一度も勝てた試しがない。
何故こんな事を言ったのか今更になって後悔している。
「ほっほ、相変わらず海斗はアホじゃのう。」
ガーン
まさかノア師匠に言われるなんて…
「そんな…俺は、アホだったのか?」
「アホじゃな」
「アホだな」
2人が口を揃えて言う。
もう聞きたく無いので家を飛び出し魔物を狩りに行った。
〜〜〜〜〜
『プギィィィィィ』
「見つけた…」
「あいつにすんのか?」
「うん。」
メイアねぇさんに聞かれ、肯定する。
視線の先には黒猪がいる、今回狩る相手はあいつだ。
「さーて、やりますかねぇ。」
準備運動を始める。
一ヶ月の修行の成果、見せてやる!
「震脚!」
一歩踏み込む。同時に足から衝撃を放ち体を飛ばす。
ノア師匠はこの技で10キロもの距離を詰めるが俺はまだ未熟なのでせいぜい50メートル程が限界だ。
「でも、この距離なら届く!」
黒猪との距離は40メートル。僅かな間に距離を詰め、その速度を落とさずに攻撃を加えた。
「発衝!」
足で発衝を使い蹴り飛ばす。速度を落とさず蹴りこんだ為黒猪の巨体が3メートル程吹き飛んだ。
『プギィ!?』
「よし!まずは一発!この調子でぶっ倒す!」
不意打ちとはいえ一発、このまま決める。
俺は震脚を使わずに踏み込む。
『プギィィィィィ!!!』
もう一撃加えようと思ったところに黒猪が起き上がり、俺に向かって突進してきた。
「っ!?流衝!」
すぐさま流衝で衝撃を流したが、それでも軽く吹き飛ばされた。
「あがぁ!?くっそ!痛ぇな!この野郎!」
体勢を立て直しつつも悪態を吐く。
そして突進をしてきた黒猪を迎え撃つ。
「発衝!からの侵撃!」
飛び上がり突進をかわしてから発衝を打ち込む、動きが止まったところで相手の体内に衝撃を叩き込む「侵撃」を頭に掌底で打ち込んだ。
ドスンッ!
脳を揺らされた黒猪はフラフラと僅かに進んだ後、地面に倒れる。
「………ふぃー。勝てたか…」
「お疲れ!なかなか良かったぜ。」
メイアねぇさんからお褒めの言葉を頂く。
額に浮かんだ汗を拭きつつ、我ながらよく出来たと自らを褒めた。
「んじゃ、持って帰ってこいつ食おうぜ。」
「ほいほい。あ、待って。あそこにもう一匹赤いのがいる。ちょっとあいつも狩ってくる。」
「ん?あいつは!?おい待て!海斗!」
黒猪を狩れたから、俺は慢心してしまったのだ。それを知るのはすぐ後だった。
「震脚、からの発衝!」
同じ要領で一撃を加える。だが…
『ブゴ?ブゴォォォォォ!!』
「は!?うっそだろ!効いて無がぁ!?」
怯みもせずに反撃を加えてきた。流衝でギリギリ流したが、それでも結構なダメージが入った。
「待て!海斗!そいつはオレらじゃ勝てない!逃げるぞ!」
「くっそ!やっちまった……」
『ブルルルルルル!』
俺の顔の前に赤猪の顔がきた。
「いや、ちょっと待て、俺が悪かったから、そうだ!交渉しよう!な!だから待ってぇぇぇ!!?!?」
『ブゴォォォォォ!!!』
赤猪が足を上げ、そして落としてきた。
「ちぃ!お前は本当にアホだろ!オレがいなけりゃ死んでたぞ!」
だが紙一重でメイアねぇさんに助けられた。メイアねぇさんはそのまま俺を担ぎ逃走する。
「ほんと、面目無い。言い訳のしようもありません。」
「後で説教だ!今はとにかく逃げるぞ!」
「自分で走れるから!下ろして!」
未だにメイアねぇさんは俺を担いだまま走る。
「今下ろしている時間はねぇ!」
赤猪はメイアねぇさんと俺を追ってきている。少しずつ離れてきているが確かに俺を下ろしていたらすぐに追いつかれるだろう。
そのまま俺達は逃げ続けた。
〜〜〜〜〜
「はぁはぁはぁ、なんとか…逃げ切ったか…」
「メイアねぇさん、その、ありがとう。」
まさか本当にメイアねぇさんに守られるとは。
俺は申し訳なさと不甲斐なさで縮こまる。
「へっ!これに懲りたら次は気をつけろよ。」
「うん、悪かった。ごめーー「危ねぇ!」うぁ!?」
突然メイアねぇさんに突き飛ばされた。次の瞬間、俺のいた所に電撃が走る。
「!?何が!」
「やべぇ!エレメントだ!逃げーー」
言葉は、続かなかった。
「あああぁぁぁぁぁ!!」
代わりに絶叫が聞こえた。
電撃がメイアねぇさんを攻撃したのだ。
メイアねぇさんは倒れ臥す。
「メイアねぇさん!」
「に…げろ…海斗。」
「ねぇさんを置いて逃げる訳ねぇだろ!」
「あい…つは、エレメント…魔法の塊みてぇな奴だ…オレたち…じゃあ…勝てねえ…よ…オレはいい…から逃げろ。海斗!」
魔法の、塊?
口角が上がる。
俺はメイアねぇさんに背を向け、電撃を放ってくる妖精の様な奴を見据えた。
「そりゃあ良い。今度は俺が守るよ、メイアねぇさん。」
「何…してる…止め…ろ!」
メイアねぇさんの声を無視して、俺は一歩、踏み出した。
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