第20話 爺さんに連れられて

「さて、ここが儂のいる村、ムルドベルクじゃ。」


「ここが…」


 爺さんに連れてこられたところはそこそこの大きさの村だった。


 良かった。少なくとも俺たちを危ない所に連れて行こうとしている訳では無いようだ。


「大丈夫じゃよ、取って食おうとはしておらん。今から儂の家に向かうからの。」


 こちらの考えを見抜いたかのように語りかけて来た。


「分かりました。ただ俺たちもなかなか酷い目に遭っているんでね、そう簡単に警戒をーー」

「あー!ノア爺ちゃんだ!」

「ほんとだ!ノアお爺ちゃん!どこ行ってたのー?」

「………子供?」


 向こうから走って来た、2人の子供の姿を見て警戒を緩めた。


「おぉ!アルくん、ルナちゃん。いつも通り散歩に行ってたんじゃよ。」


 その姿は完全にお爺ちゃんの姿だった。


「翔太、火野さん。ここはこの爺さんの言っていることを信じよう。」

「りょーかい。まぁ、僕はとっくに警戒なんてしてないけどね。」

「言われなくても分かってるわよ。流石に子供の反応で分かるわ。」


 その通りだ。子供がこんな反応をしているのだ、警戒しなくても良いだろう。無論、子供が操られているだとか子供もグルだとか、そういう風に考えることもできるが、そんな事を考えていたらキリがないからだ。


「ほっほ、その様子じゃと警戒は解いてくれたようじゃな。」

「まぁな。今のを見てまだ疑ってんなら人間不信になりそうだ。今は爺さんを信じるよ。」

「そりゃあ良かったわい。アルくん、ルナちゃん、今回は余り遊べないんじゃよ。」

「えー!この兄ちゃん達のことで?」

「そうなんじゃよ、すまんのう。」

「ちぇー!仕方ないかー。じゃあノア爺ちゃん、また今度ね!」

「あぁ、また今度。」

「ノアお爺ちゃん!バイバイ!」


 そう言って子供達は走り去って行った。


「では行こうかの。」


 爺さんはそう言って立ち上がり歩き出す。

 俺たちは村の中をしばらく歩いた。


 何軒かの家を抜けてとある一軒の家に到着した。


「ここが儂の家じゃよ。」

「ここが…。デカイな、爺さんもしかして村長かなんかかよ?」

「ほっほ、そんな訳無かろう。ほれ、入りなされ。」


「「「お邪魔します。」」」


 爺さんの家は意外とデカかった。村長かと思ったがそうでもないようだ。

 俺たち3人は爺さんに促され家に入った。


「今、帰ったぞい。」


 バタバタバタバタバタ!


 何だ?走っているかのような足音が聞こえる。爺さん思いな孫でもいるのだろうか?


「おう!ようやく帰って来たかノア爺!食らいやがれ!」


 そう言って突然現れた人物は爺さんに飛び蹴りを放つ。

 爺さんはそれを受けずにかわした。

 そしてその後ろにいた俺の顔面に命中した。


「おごぉ!?」

「あ!やべ!?」


 凄まじく良い一撃を貰った俺は悶絶する。


「ほっほ…すまんかったのう。いつもの癖でつい避けてしもうた。」

「くっそ!ノア爺!包帯持ってきて!おいお前、大丈夫か!?」


 爺さんもついうっかりだったのか声に元気が無い。蹴りを入れて来た人物が焦っている声が聞こえる。だが包帯が必要な一撃だったとは恐ろしい奴だ。


「ちょっとどいて。私がやる。」


 火野さんが異能を発動させる。痛みが和らいでいく。


「あぁ、火野さん。骨も折れてないし、もう大丈夫そう。ありがとう。」

「べっ別に!私はこれしか出来ないからやっただけよ!お礼なんて要らないわ。」

「お前、面白い技使うなぁ。」


 俺は顔を上げた。そして声をかけて来た人物の顔を見る。


「………………女?」

「どういう意味だテメェ、オレは女だ!」


 口調からして男かと思ったがそれにしては声が高いので疑問に思っていたが、顔を見て女だと思う。顔つきが女の顔なのだ。それに僅かではあるが膨らみが見える。

 女は俺の言葉を侮辱と取ったのか腕を俺の首に回し、首を締めてきた。


「ギブッ!ヤバい死ぬ!?」

「うっせぇ!余裕そうじゃねえか!」


 実際まだ余裕があった。首を締められる前に腕を滑り込ませることが出来たからだ。

 だが不味い、非常に不味い事態だ。俺の首を締めている女の胸が当たっているのだ。


 ヤバい!この女、胸なんてほとんど無いかと思ったが意外とあるぞ!?


「テメェ!今何かオレのことを馬鹿にしたろ!」

「ちょ!?まっ!グエッ!?」


 この女、手で直接俺の首を締めて来やがった!首が締まる…息が…


「ほっほ、そこまでにしておきなさい。その子達には話すことがあるのでな。」

「けっ!仕方ねぇ、今回は許してやんよ。」

「ゴホッゴホッ…なんつー過激な女だ…」


「では行こうかの。」


 爺さんが歩き出したので俺たちもついて行った。

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