第19話 犬が襲いかかってきた!

「そういえば翔太、お前転移の時どこに居たの?」

「酷いこと言うなぁ…ずっと後ろいたろ?」

「え!?」


 あれから吐き終わった翔太に転移の時、どこに居たのか聞いてみると、ずっと後ろにいたと言う。全く分からなかった…


「フ…フフフフフフフ。いいんだ。僕の陰が薄いって知ってたんだ…」

「な、なんか悪りぃ…」


 取り敢えず謝る。


「さてと、まずここ、何処だ?」


 場所が分からない。俺たちは一体何処に来てしまったんだろう?


『グロロロォォォ…』

「おいおい、翔太。何つー腹の音だよ。」

「はぁ?海斗でしょ?」

「俺な訳ねぇだろ。ま、まさか火野さん?」

「…………………………」

「あれ?火野さん?」


 火野さんから返事が無い。不思議に思って振り向く。


『グロロロォォォ…』


 そこには3メートルもの犬がいた。


「………………………おぅふ。」

「に、逃げましょう…」

「だな。」


 火野さんの提案にのり、ゆっくりと後ろに下がって行く。だが…


『グワァァァァ!!』


「「「うわぁぁぉぁ!!」」」


 どデカイ犬は逃げた俺たちを追ってくる。


 不味い!犬の方が速い!


「くそ!迎え撃つぞ!」

「お前一人でやれ!このメンバーで勝てると思ってんならなぁ!」

「はぁ!?ちょっ!翔太待て!」


 だが翔太は逃げるつもりだ。確かにこのメンバーで攻撃系の異能を持っている奴はいない。

 納得し、俺も追いかける。


「ならどうする!」

「選択肢を三つ考えた!」

「おお!何だ!」

「選択肢1、海斗を生贄にする。」

「ふざけんな!テメェが生贄になれ!他だ!他!」


「選択肢2、このまま逃げる。」

「追いつかれるっつーの!三つ目は!?」


「選択肢3、死んだフリ。」

「それだ!よしみんな!死んだフリだ!」

「あんたらばっかじゃ無いの!?食われるに決まってんでしょ!ふざけてないで真面目に考えてよ!」


 火野さんに怒られた。だが他に方法が思いつかない。


「くそ!どうする!?」


『グワァァァァ!!』


 もはやこれまでと思ったその時、どデカイ犬が火の玉を吐いた。


「これだ!マジックハンド!」


 すぐさまマジックハンドを発動し、迎え撃つ。そしてはじき返した。


『グオ!?オオォォォォォォ!??!!」


 はじき返した火の玉はどデカイ犬に命中し、犬を焼く。

 そのまま犬は悶え苦しみ、息尽きた。


「あ…れ?」


 助かったのか?なんかちょっと呆気なかった…


 小太陽ほどの衝撃も無く、はじき返せたので拍子抜けする。


「まぁ、助かったんだしいいか。」

「死ぬかと思ったわよ…」


 本当に危なかった。今回は死ぬかと…いや、今回も死ぬかと思った。


「改めて考えてみると俺、異世界来てから酷い目に会いすぎじゃないか?」

「海斗は何かしら持ってんだよww。」

「いや、笑い事じゃねぇんだけど…」

「二人とも、話してないでこの状況をなんとかすることを考えましょうよ。」


 確かにその通りだ。取り敢えず焼けた犬を見る。


「食えるか?」

「僕はパス。」

「なんで食べる方向で考えてんのよ!」

「いや、他に食えそうなもの近くに無いし。それにもしかしたら美味いかもしれない。少なくともラノベではそうだった。」

「や、止めておきなさいよ。お腹壊すわよ…」


 確かにその通りかもしれない。だがラノベでは美味いことがほとんどだった。ならばいくしか無いでしょう!


「一口だけ、一口だけだから。」

「止めておきなされ。」

「っ!?だっ誰だ!」


 聞きなれない声に驚き反応する。


「儂はノア。村の近くを散歩していたんじゃが、お前さんらがゼルドウルフを食べようとしておるからの、臭くて食えたもんじゃ無いと注意したんじゃよ。」


 ノアと名乗る爺さんはそう答える。成る程、それなら声を掛けられたのも理解出来る。だが一つ、問題があった。


「成る程、そういうことなら納得出来るが、爺さん、あんた一体何処から現れた?」


 この爺さんは散歩といった。だがおかしい、俺たちは草原を走っていたんだ。今も近くには木が生えていない。

 だが声を掛けられた時は爺さんはここにいた。つまり爺さんは突然現れたということになる。


「ほっほ、何、ちょいと先の方からじゃよ。」

「ちょいと先?一体どの辺で?」

「何、あの先の木のあたりからの。」


 そう言って指差した方向には2キロほど先に確かに木がある。


「あそこから?爺さんボケてんのか?あの木まで2キロはあるぞ。」


 とにかくこの爺さんは得体が知れない。知らず、逃げる体制になる。だが…


「ほっほ、そう怯えなさんな。危害を加えようとは思ってないないからの。」


 俺たちが警戒していることを悟ってか、爺さんが言う。


「信じろってか?突然現れた爺さんを?」

「じゃからあの木のとこから来たと言っておるじゃろう。」

「無理があんだろ。まさかあそこからここまで一瞬で移動したとでも?」

「その通りじゃよ、このようにな。」


 俺の問いを爺さんが肯定する声が


「っ!?っらぁ!」


 瞬間、俺の体は全力で振り向き、拳を繰り出した。


「ほう?なかなかよい拳じゃ。反応もいい。どうじゃ?儂の弟子にならんか?」


 冷や汗が垂れる。俺の拳は確かに当たった。だが、音も衝撃も無く止まったのだ。


 なんだこの爺さん!?まさか魔法か!?


「マジックハンドォォ!」


 思考すると同時にマジックハンドを発動し、反対の手で拳を繰り出す。


 だが、それも同じ結果となった。


「これはさっきの奇妙な技じゃな?」


 俺は力を抜いた。そしてようやく戦闘体勢に入った翔太と火野さんに伝える。


「二人とも、戦うな。」

「な!?一体どうした!何かされたか!?」

「そうよ!なんであんたが真っ先に諦めてんのよ!」

「俺たちではこの爺さんには勝てない!この爺さんは少なくとも今は殺すつもりが無いみたいだ。それとも下手に刺激して殺されたいのか!」


 俺が言える事でもないのだが、取り敢えずまだ大丈夫そうなので2人を注意する。

 そこまで言って2人はようやく力を抜く。


「ふむ?お前さん、考え無しかと思うたがそうでもないの?面白い奴じゃ。何、悪いようにはせんよ。付いて来なさい。」


 そう言って爺さんは歩き出す。

 どのみち逃げても追いつかれるので俺たちは大人しく付いていった。

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