第9話 吹き飛んだアレ…

正直に言えば怖かった、いや、今でも怖い。

体が焼ける感覚、牛肉を焼くような美味しそうな匂いではなく、焼いてはいけない物を焼いているかのような酷い匂い。


激痛が体を走り、喉から絶叫がほとばしる。


「ゔぁぁぁぉぁぁぁ!!」


熱などとうに感じず、ただ痛みだけが体を支配する。


それでも、例えそれでも、止める!止めなければならないない理由がある!


俺の背後にはもう動く事もままならないクラスメートがいる。

俺がここで止められなければ全員が死ぬ、そんな事は許されない。


ただ、そんな事を考えていた頃には小太陽にぶつかり合ってから7秒が経過していた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


小太陽に右手の鉄拳を叩き込んでからまず感じたのは強い衝撃だった。


俺はここまで全力で走り、充分に速度をつけたものの、やはりパワーが違った。

それでも足を引き、体を斜めに倒し、全力で踏ん張って、30メートルもの距離を押し込まれ、ようやく踏みとどまった。


「うっぐぅぅぅ!」


そこから感じたのは強い痛み、次に感じるのは奇妙な匂いだった。


ぐぅ!?何だ!いてぇ!


そう思った後、気づいた。自分の体が焼けているのだ。


右手は異能で守られているのか、焼けてはいない。が、他はそうもいかなかった。


一番酷いのは腕、小太陽に触れていないというのに発火している。他のところも足以外は火傷している。


ま…ずいな…これは受け止める事が出来たとしてもこの火傷じゃ俺は死ぬ…


極限状態の中、かえって冷静になった思考がそう判断する。


「く…そ……ちくしょぉぉぉ!!」


覚悟を決めたと思ってた、だけど実際にはまやかしに過ぎなかった。


怖い、怖い、死ぬのが怖い。痛みが怖い。負けるのが怖い。みんなが死ぬのが怖い。俺のせいで死んでしまう事が…怖い。


今となっては俺は死ぬ、痛みは既に感じない。それでも負けない為に戦っている。

ならばもう、みんなを守る為に命張るっきゃねぇだろ!


「ゔぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


小太陽とぶつかり合ってから10秒が経った頃、拮抗状態に変化が起きた。

自分の命の危機に、今頃になって火事場の馬鹿力が発揮されたのか小太陽を押し返していく。


「な!?…舐めるなぁぁぁぁ!」


レーゼはここに至って死力を振り絞る。少しずつではあるが高度が下がっていく。


「お前こそ…俺を!俺たちを!舐めるなぁぁぁぁ!!」

「やれぇぇ!!海斗ぉぉぉ!!」 「負けないでぇぇ!」 「いけぇぇぇぇ!!」 「負けんなぁ!勝てぇぇぇ!!」 「お願い!」 「頑張って!」 「やっちまえぇ!」 「負けんなぁぁぁぁ!!」


俺の叫びの後、背後から応援の…願いの声が響く。


「負けられ…ねぇんだ!守るべきもん背にしてんだから!だから…負けられねぇんだぁぁぁぁ!!」


みんなの応援に、俺の身体は限界を超えた。

そこから一気に状況が変わった。

押し込まれた距離を無くすかのように、小太陽が俺によって押し返される。


「食…らえぇぇぇぇぇ!!」

「馬鹿なぁぁぁ!!やめろぉぉぉぉ!!」


小太陽を殴り返す。凄まじい勢いでレーゼに突っ込む。レーゼは防壁を張っていたものの容易く破壊し、そのまま呑み込んだ。

小太陽は尚も止まる事なく直進し、そして_


ドゴォォォォォォォォォ!!













その背後にあるツブーカホロイ王国の王城を吹き飛ばした。
























「…………………………………え?」

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