第8話 マジックハンド

今、俺たちの目線の先には一人の姿があった。


「嘘…だろ…追いつかれんの早すぎるだろ…」


俺は、俺たちは絶望していた。必死の思いでようやく城を出れたというのにレーゼさんは…いやレーゼは空を飛び、一瞬で追いついてきた。


「全く、よくもやってくれましたね?まさか城の外に出られるとは…また出られてはかないませんので、次は部屋に閉じ込めておきましょう。」

「なんでだ!?」

「はい?」


レーゼの勝手な言葉を聞いて、俺の疑問が口をついた。


「なんで俺たちは傀儡騎士ってやつにされる!?一体なんでこの世界に呼ばれた!」

「気になりますか?まぁ、冥土の土産に教えてあげましょう。そもそも傀儡騎士とは自分で考える事が出来る命令に忠実な存在です。貴方達にはそれになって貰いたい。その力を我等の国の為に役立てるのです。」

「その為、だけに…その為だけに俺たちは呼び出されたって言うのか!?」

「貴方達にはそれ以外の価値など有りはしない!」


ふざけやがって!!!

ここで逃げきれなくては、次は無いだろう。ならば…


「ここは戦うしか無い!上空に攻撃できる奴は攻撃してくれ!」

「任せろ!飛閃!」 「ドラゴカノン!」 「空脚!」


健二が飛閃を飛ばし、腕に鱗と翼と尻尾が生えている奴が口から太い熱線を放つ、空を跳んでいく奴が攻撃に巻き込まれないよう一直線に突っ込んでいく。

恐らく下手に動いて味方の攻撃を当てられないようにする為だろう。


だが…現実は残酷だった。


空を跳んで突っ込んで行った奴は、容易に回避され、水球によって弾き飛ばされる、その直後熱線がぶち当たり落下していく…

飛閃は風の刃と思わしき魔法によって相殺。熱線は氷の柱によって押し返され、竜化していたと思われる奴に直撃した。


「あ、あぁ……無理だ、勝てっこ無い…」


その余りの実力差に男子の一人が弱音を吐く。


何つー実力だ、ただの教官役だと思っていた。それがこれ程の力を持っていようとは…


「まだだぁぁぁぁ!諦めるなぁぁぁぁ!」


健二が皆をを鼓舞する。


だがどうやって戦う?相手は遥か上空、こちらの攻撃は殆どが届かず、届いたとしても対処されてしまう。


健二はそれでも飛閃を放ち続ける。


「落ちろぉぉぉ!!」


飛閃が飛ぶ、上空では光の刃と風の刃がぶつかり合い弾け飛ぶ。


俺たちは勝てないのか?


そう、諦めが心をよぎる。

だがその瞬間、レーゼが爆発した。


「ぐぅ!?」


な、何だ!?何が起きた!?


「ご…ごめん…私のチャージで溜めていた魔力を全て使って[種火]を発動したんだけど、あまり効かなさそう…」


クラスメートの女子、溜田 京子ためだ きょうこが異能を使って攻撃したようだ。種火にしては恐ろしい威力だった、だがそれでもレーゼが周りに張った障壁を突破出来ない。

しかし、レーゼの障壁にヒビが走った。


これなら!いける!


この攻撃に希望が見えた。


いや、まて。チャージと溜田は言ったな。それはつまりあの威力はもう何発も打てるものでは無いのでは?


「溜田、アレは後どんくらい打てる?」

「ごめん、さっき言った通り溜めた魔力全て使ったからもう3日は打てない…」


つまり溜田は、異能が発現してからずっと魔力を溜め続け、その結果がアレだったわけだ…


アレで無理ならどうやって勝つんだ…俺たちは負けて、連れ戻されて、傀儡騎士とやらになるしかないのか…ちくしょう…ここまーー


「まだだぁぁぁぁ!」


け、健二?


「まだだ!諦めるな!攻撃を当て続ければ倒せる!だから諦めるなぁぁぁ!」

「っ!そうよ!まだ佐々木くんが戦える!それに私の異能を使えば勝てるかもしれない!」

「本当か!?どんな能力だ!」

「私の異能は吸与。他から力を集め、他に与える事が出来る!それを使えば…」


クラスメートの女子、受蔵 千与うけくら ちよがこの場から逆転できるかもしれない可能性を口にする。


「もうそれしか無い!やるぞ!」

「みんな!私に魔力を集めて!」


「え?」


どうやら魔力を使うようだ。魔力の無い俺は何一つする事が出来ない。死にたくなったが戦闘中なので戦いに集中する。


「っ!これだけあれば!佐々木くん、この力を!」

「させるわけないでしょう。」


レーゼが受蔵さんを狙う。だが…


「うおぉぉぉ!守れー!受蔵がやられたら俺たちに自由は無いぞ!」 「インベントリ」 「召喚!鉄扉!」 「守って!ウォールシールド!」


飛んでくる氷柱を靄の空間に送り込み、魔法陣が現れると同時、地面から鉄の扉が現れ、風の刃を受け止める。

透明な盾が現れ炎の球を止め、爆発の余波すらも防ぎきる。

守りの能力を使える奴が全力で守りきった。そして…


「みんなの力、確かに受け取った!いくぞ!レーゼさん!」

「くっ!」


健二は集めた力で巨大な刃を生み出し、レーゼに飛ばした。


対するレーゼも巨大な風の刃を生み出しぶつける。溜田が避けようとしたレーゼに向けて手を構えた事でレーゼの注意が一瞬逸れ、その間に光の刃が、回避行動が間に合わないほどの距離を詰めたのだ。


「うぉぉぉぉぉぉ!!」

「鬱陶しいっ!!」


暴風が吹き荒れ拮抗する。そのまま…………






光の刃が押し切った。そして直撃。


「ぐあぁぁぁぁ!!」


レーゼの叫び声が聞こえた。





「……………………」

「……………………」

「……………………」


しばしの静寂が続く。


やった………のか?




更にしばらく待ってもレーゼは現れない。

俺たちは勝利したのだ。


「うぉぉぉ!やったぞー!俺たちは自由だ!」 「ありがとう!佐々木くん!」 「お前のお陰だぜ、健二!」


みんなが健二を讃える。


だが、俺は…


何も出来無かった、魔法を使ってみんなを援護したかった…でも俺には魔力が無い…

今の俺に何が出来る?異能?ただ光るだけのやつをどう使う?

考えろ…俺の異能は本当にそれだけか?まだ何か試していない事があるのでは?何か…


いや、今は逃げる事が優先だ。それよりも頑張ってくれた健二に感謝しなくちゃな。


そして健二に感謝を伝えにいく。


「健二!ありがとう!お前のお陰で逃げられそうだ!」

「そんな事ないよ、手伝ってくれたみんなのお陰ーー」

「やってくれましたね…流石に危なかった…」

「そんな!?今のでも生きているのか!?」


嘘だろ!もうみんなボロボロで魔力を使い切ってしまっている。ここからの戦闘はもう無理だ…


「流石の私も今回は怒りましたよ。私にここまでの傷を負わせるとは…許しません、許しませんよ、絶対に許しません。死んで詫びなさい![炎球レグナオーバー]」


体のあちこちから血を流す姿のレーゼはキレていた。その怒りに身を任せ、残っていると思われるそれでも膨大な魔力を全て一つの魔法に込めていく。


それはまさしく太陽、食らえば消し飛んで余りある膨大なエネルギーを感じる。


「いやぁぁぁ…」 「くそ!ここまでかよ!」


もう殆どが心折れている。

まだ戦おうとする者たちは満身創痍だ。


「死になさい!異世界人!」


ここまで…なのか?勝手に連れてこられて、洗脳されそうになって、逃げたら殺されてしまう…俺はその間何も出来ずに、ただ見ているのか?

ふざけんな!そんな事は許されない!この怒りを、この無力さを、そのままにするなんて許されない!

やるしかない!やるしかないんだ!怖くたってやるしか、もう道は無い!


俺はようやく覚悟を決めた。突っ込んで来る膨大な魔力の込められた小さな太陽に向かって走り出す。


「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「おい!海斗…何して…んだ!待…て、海斗ぉぉぉ!」

「海斗!死にたいのか!?僕らの前に出るな!」


背後から健二と翔太の制止の声が聞こえる。だが俺は止まらない。


「愚かな…貴方一人が盾になろうとしても、何ら障害になり得ませんよ。」


レーゼが俺に哀れみの視線を向けて来る。


そんな事は分かっている!だけど…一か八かだけども…俺ならば、止められるはず!


そして俺は俺の異能を右手に集中させた。


異能が発現してから、いろんな事をした。物に触ってみたり、水につけて見たり、片手に集中させて見たりもした。

だが、結果は光が強くなっただけ…こういう異能なのだと思ったが…まだ、試した事のない事があった!

俺は魔力が無かったから、試すという考えが浮かばなかった。だから…今!この場で試す!

もしも俺の予想通りなら、この異能の名は…


「マジックハンドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!」


迫り来る小太陽、突っ込む俺、そして…ぶち当たる鉄拳。

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