第7話 来たれし絶望の体現者

まずすべき事は全員が一斉に部屋の外へ出て、隠れる事だ。だが隠れたままでは動けない。隠れた後、どのようにして見つからずに動けるかが問題だ。


だから俺は皆に聞いた。


「最悪、誰かが囮になる必要が出ちまう。何か良い案がある奴は居ないか?」

「あ、そういえば翔太が透明化…透明化インビジブルが使えたんじゃなかったっけ?それで全員を透明にして通過するってのは?」

「翔太の透明化は自分の周囲30センチまでしか透明にする事が出来ないらしい…だからそれは無理だ。」

「あ、うちの異能を使うのはどうだろう?」


女子のクラスメートの鈴宮 鈴音すずみや すずねが声を上げた。


「うちの異能は認識不能の鈴って呼んでるんだけど、使えば10メートル範囲にいる人の認識が出来なくなるっつう異能なんよ。ただ、一度使えば1時間は使えなくなってしまう上、効果は20分だけなんよ。」


何つー強力な効果だ。最初から言ってくれればもっと別の作戦を立てられたかもしれないが、聞こうとしなかった以上俺の責任だ。

だが良かった、これで隠れながらの移動をしなくて済む。


「あぁ、頼む。それなら隠れずに門まで行けるだろう。ただ、どうやって門を通過するかが問題だ。通るには門の横の小さい扉を使えばバレる確率はぐっと減る。だが門番が居るのが問題だ。」

「じゃあ、どうするんだ?」


健二が聞いてきた。


「翔太、お前が門番を気絶さして来てくれ、この作戦はお前に掛かっている。最も成功する確率が高く、安全の為にもこれが一番なんだ。頼む、やってくれ。」


俺は翔太に頼み込む、これが成功しなくてはみんなが危険に晒される。この状況で、俺が能力を知っている奴で、やれる奴は翔太だけだ。


「………ま、やるだけやってみるよ。失敗したら、草生やしといてくれよ。」

「嫌だね、生やすのなら自分で生やせ。失敗は許さない。」

「っへ、最低だな!草生えるわ。」

「何で笑う!?」


これはおそらく翔太が緊張を取ろうとしているのだろう。


取り敢えず行動を開始するため、俺たちは鈴宮さんの能力範囲に集まる。そしてーー


リィン


という音と共に異能が発動した。


すぐさま城の中を駆け抜ける。すぐ近くを俺たちが通っても誰も気付かなかった。


そして程なく、門に辿り着いた。


翔太はインビジブルを発動した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翔太視点


全く、海斗の奴め、僕に何つー役割やらせんだ。失敗した時のプレッシャーでかくすんなよなぁ。


「あれか…」


正面の城門よりもふた周りほど小さい門を見つけた。門番の数は三人。下に一人、上に二人で警備をしている。


「厄介だな…笑えない…」


一応気絶させる為の道具は持っている、がそれは一人ずつだ。どうやって門の上にいる二人まとめてを気絶させるか、それが問題になってくる。


何か無いだろうか…何か…

ん?なんだ?兵士の声か?


門の上で話している二人の兵士の声が聞こえてきた。


成る程、もしかしたらこれでいけるかも知れないな。



扉の開いていた城門の部屋に入り、ある物を探す。


…見つけた。これを使えばいけるはずだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


門番の兵士視点


今日もいつも通り退屈な門番の仕事をする。


「ふぁ〜〜あ。暇だな、オゼロでもやろうぜ。」


そう言って隣の奴に話しかける。

オゼロとは過去に転生者が広めたとされる異世界の遊びだ。


「あ〜、俺もやりてぇが、誰かに見られてたらと思うとな〜。」

「見てねぇって。あんなお高くとまった城の連中だぜ。」

「止めとけって、なんかあったら後が怖えぞ。」

「ちぇっ。ん?おいおい見ろよ。やり途中のオゼロだ。前の時間の担当がやってたんじゃねぇか?」


前の時間の担当には感謝だな、有り難く使わしていただきますよっと。


「お前もやろうぜ!なぁ?」


俺はもう一人の担当に声をかける。


「なぁ?聞いてんのか?お……」


返事が聞こえないので後ろを振り返ると倒れた相方が目に飛び込んできた。


そして俺の口元に何かが触れる感覚とともに意識が暗転した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


海斗視点


しばらく経った後、門の横の小さい扉が開いた。どうやら翔太がやってくれたらしい。


そこからは早かった、全員で素早く門から抜けて門を音もなく閉める。


ついに俺たちは城から脱出した。


門の外は城下町だった。町の外に出る門は正面にある。結構遠めだ。


その城下町を走り抜ける。

夜という事もあって出歩いている人が少ない。さらに命の危機もあってか、全員が結構な速度を出さている。


「次の城下町の門を抜ければ俺たちは自由だ!」

「次も同じ様に抜けるか?」


翔太が聞いてくる。


「いや、涼宮の異能の効果が切れる。正面突破するぞ!人を殺すなよ!」

「りょーかい!」


そろそろ20経つだろう。城下町が思いのほか広かった。


速度を更に上げ、門へと突っ込んでいく。


「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!』


それぞれが持てる力を使って門をぶち破る!


バゴォォォォォン!


「な!?なんだ!何が起きた!?」 「じょ、城門が破壊されました!」


門番たちが狼狽えているがまだ涼宮の異能のお陰で俺たちには気づいていない。


そして遂に、俺たちは王都を脱出した。


「みんな、今から俺たちは森を目指す。しばらく大変な旅が続くと思うけど自由のためだ。頑張ろう!」


ようやく脱走した。他の街に行っては封鎖された時、出ることが難しくなるかもしれない以上、その選択肢は取れなかった。


だから森を目指す。皆の能力を使えば生きていくことは可能な筈だ。


「あ、みんな!うちの異能がそろそろ切れるから後50分は使えなくなる!」

「もしもの時は怖えけど、脱走出来たんだから大丈夫だって!」

「そうだよー、二人のお陰だよー。ありがとう。鈴音、翔太。」


クラスメート達が涼宮と翔太を讃える。

この二人が居なくては脱走なんて無理だった。だから俺は二人に伝える。


「ありがとう、翔太、涼宮。お前等のお陰で脱走できっ!?」


その瞬間、俺たちの後方から暴風が吹いてきた。そして、その原因は俺たちに容易に追いつき、一言。


「皆さん、まさかこのレーゼから逃げ切れるとお思いで?」


そう言って、絶望の体現者はやって来た。



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