第6話 見つかったら負けの逃走中

あれから3日が経った頃、俺は部屋で手を光らせていた。


ガチャ


「お〜い、異能について何か分かったか?」

「海斗、不憫すぎる」


ノックもせずに健二と翔太が入ってきた。


「うんにゃ、まだなーんも、手掛かりすら掴めねぇ…」


一時期は調子が戻ったが、ここまで何も分からないとナーバスになってきてしまう。


「それよか、お前らは何かしら成長したか?」

「おう!火の粉を出す魔法、[種火レグ]を覚えたぜ!」

「ん?ファイヤとかそう言う名前じゃないのか?」

「あぁ、なんでもライトは過去にいた転生者が創ったっぽい。」


驚いた、転生者が居たのか。もしかしたら今の時代にもいるかも知れないな。


「まぁ、頑張ってくれ、こっちも何とか異能を使えるようにするからさ。」

「そっか…頑張れよ」


ガチャ


精々光の強さが変えられるようになった程度の事しか進んでいないので、二人には一旦部屋から出て行ってもらった。


コンコン


「どうぞー」


練習を再開しようとした時、部屋の扉が叩かれた、入室を促すとメイドのねーちゃんが入って来た。


「そろそろ月の核となりますので、食堂へお集まり下さい。」


どうやら夕食のようだ。俺は食堂へと向かった。



〜〜〜〜〜〜



今回の食事は美味しかった。そのせいか少々食べ過ぎてしまって少し苦しい。

俺は外で風を浴びるため中庭へと出ていった。


「ふ〜、ちょっと食い過ぎたかな?風が涼しくて気持ちいい。

………ん?あれは?」


窓の外に顔を出して、風に当たっている王女さんを見つけた。


「絵になるな〜、そうだ!写真撮っとこう、まだ気づいていないみたいだし。」


城に来てから城内の写真を撮った後、電源を切っていたスマホの電源を入れる。

こう言う時のために必要な時だけ電源を入れることにしたのだ。


そして壁の死角になっていて見えていないようなのでこっそり取ることにした。


俺が撮影の準備が整った頃、話し声が聞こえた。


「ふぅ、まだ先は長いけど順調ね。」


ん?何の話だろう。聞き逃した時の為にカメラをビデオに変え、音の出る部分を抑えて撮影を開始する。


「ねぇ、貴方はどう思っているのかしら?」

「はい、今のところ誰も疑っていないようです。最初にかけた思考操作の魔法もちゃんと効いているようです。」


っ!?あれはメイドのねーちゃん!?思考操作の魔法ってどういう事だ?


隠れながらカメラを通し二人の姿を見る。何やら雲行きが怪しくなって来た。


「ねぇ思考操作の魔法、もうちょっと強くできないの?」


「出来ません。あまり強くすると傀儡騎士となる前に精神が壊れ、人形騎士になってしまいます。」

「はぁー、まぁ、それなら仕方がないわ。あんな使い勝手の悪い騎士要らないもの、多少めんどくさくてもやるしかないわね。っと、そうだわ!一人使えない奴が居たわよね。そいつにもう少し強くかけてみましょ!実験体としても丁度良いし、壊れたら色々調べるのに使っても悪くないわね。」

「あぁ、海斗の事ですか。よろしいと思われます。」

「あら?呼び捨てなんて情でも湧いた?」

「まさか、敬う必要など無いからですよ。」


何だ?こいつらは一体何をいっていやがる!?俺を壊す?みんなを傀儡騎士ってやつにする!?駄目だ、落ち着け。まず俺がすべき事は皆に伝える事。気配を殺せ!部屋に戻るまで待つんだ!


そう思い、俺は二人が部屋に戻るのを待った。だが………


「おや、すいません姫様。どうやらネズミがいた様です。始末致しますので、お先にお部屋へ戻っていて下さい。」


嘘だろ!?バレた?何で!?不味い!殺される!逃なくちゃ、今すぐ逃げなくちゃ!


だが心はそう言っているのに恐怖で体が動かない。

そして………


ヒュッ ドスッ!


「ぐあっ!」


何かが投げられ、痛みに悶える声が…………


「フゥーフゥー………?」


荒くなった俺の息が静寂を乱す。


少し遠くで誰かの悲鳴が聞こえた。どうやらネズミとは俺の事では無かったらしい。


カメラに二人の姿が無くなっていたので、バレぬよう、息を潜めて部屋まで戻ってきた。


「ぶはぁ!ハァーハァー、みんなに…伝えなくちゃヤベェ!」


そう言って俺は健二と翔太の部屋へと向かい、全員を集めてもらうように頼んだ。俺自身も男子の部屋女子の部屋関係無くノックをしてから、集まるように声をかけた。



〜〜〜〜〜〜



全員が揃った、ここはみんなで使う共同部屋だ。突然集められたので不満そうな顔をしているのが何人かいる。



「んで?何で俺たちを呼び出したんだ?突然。」

「そうそう、寝ようかと思ってたのに何だよまったく…」


健二が疑問を翔太が不満を言う。


「だ…誰も入ってきてないよな?聞き耳立てられてたりしてないよな?」

「あぁ、大丈夫、俺たち以外誰も入ってきて無いし。来る時はお前に言われた通り隠れんぼで遊びたいってお前に言われたって、メイドさんに伝えといたから。」

「…………なら良かった。先に言っておくけど、絶対に騒がないで欲しい。」


俺の真剣な表情を見てふざけて良い事では無いと皆表情を引き締めた。


「これを…」


そう言って動画を再生する。



〜〜〜〜〜〜



「一体…どう言う事だよこれ!?」

「何だよ…傀儡騎士?ぜってぇ良いもんじゃねぇだろ…」


みんな唖然としている。だがこのままいるだけでは何も変わらない。どころか本当の事を知った事に気づかれて殺されるかもしれない。


「みんな、いいか。俺は1日でも早くここを出るべきだと思う。だから今日、脱走する。」

「はぁ!?今日!?どうやって?無理だろ!」

「いや、行ける。だからこそ皆んなにはこの部屋に向かう時に隠れんぼで遊んでくるって伝えてもらったんだ。」

「どう言う事?あれに意味があったの?」

「あぁ、城を出るまでは走り回っていても隠れんぼで遊んでいると思われる。だからそこからは見つからないように、城の外へ出る。隠れていると思われているだろうから、しばらくは平気なはずだ。」


俺は計画をみんなに伝える。上手くいく確率は高くは無いだろうがやるしか無い。あまり長くいれば思考操作でそんな事も考えなくなる可能性が高い。


「……………分かった、俺はやる。」


健二が賛成してくれた。


「ふ〜、分かったよ、俺もやるさ。上手くいかなかったら笑ってやるかんな?」

「ま、今回逃したら次はないかも知んないしな。」

「あーもう!、そんならやるしかないじゃん!」


翔太も賛成してくれる。そして次々に賛成してくれる人が増えた。ここでみんなを不安にさせる訳にはいかない。だから俺はみんなに笑いかける。


「いいか!今からやるのは見つかったら負けの逃走中だ!全員で逃げ切って、自由を手にするぞ!!」


こうして、人生最大の逃走中は始まった。

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