103 退魔腕2-11


 デートもそろそろ佳境に入ってきた。


 周囲がうっすらと暗くなっている。まだこんな時間なのに、とリサは思った。


 二人が向かったのは腑卵第二公園だ。


「まあ、デートの締めとしては悪くないんじゃなあい?」


「ふっふっふ、しかし甘いですね。この腑卵第二公園にはデートできたカップルは必ず別れるというジンクスがあるのです」


「まあ、カップルって言うにはずいぶん暗い関係だと思うけど」


 それはどうでしょうか、と不満げに言うリサの目は充血気味だ。


 ヨシカゲと女の子は二人で歩いている。いったい今、何をしているのだろか。まさかあてもなくただ二人で歩いているだけなのだろうか。そんなことリサだってやったことがない。


 ――ぐぬぬ、羨ましい。    

 

 いいなあ、いいなあと思いながらリサは物陰から二人を見ている。


「たぶんそんなに心配するような関係じゃないわよ、あれ」


「ビビさんはご主人様が好意を持つ相手にどのような態度をすると思われますか? きっとあんな態度ですよ、どれだけ好意を持っていても!」


「たしかに……でもヨシカゲちゃんがあの娘に気があるなんて、私はないと思うなあ」


 こういったことは疑ってしまえばもうその盲信にとらわれるのだ。リサもこころのどこかでヨシカゲが他人に好意をもつことなんてありえないと思っていた。だが、心配なのだ。


 別にリサはヨシカゲと正式に付き合っているわけではない。


 ただのメイドと主人の関係だ。


 だからこそ、いきなり横から現れた女がヨシカゲの隣にいることが腹立たしい。リサはクールに見えてけっこう嫉妬深い性格なのだ。


 そうこうしているうちにヨシカゲと女の子が急接近を始めた。


「ぎゃっ! ビビさん、見て下さい! あれ、キスしますよ! キス!」


「きゃーっ! え、うそうそ。マジ? ヨシカゲちゃんもやるわね!」


「だから言ったじゃないですか! やっぱり付き合ってるんですよ!」


「じゃ、じゃあどうするの?」


 さすがのビビも焦っている。


 というよりも焦っているリサにつられて正常な判断をくだせずにいるのだろう。


「えーっと、行って止めてきます!」


「キスを?」


「というか私も告白してきます!」


 リサの目が据わった。


 やる気の目だ。いままでずるずると二人の関係が続いてきたが、ここでそれを終わらせる。なにせ目の前に明らかなライバルがいるのだ、ここで遅れを取ればもう巻き返すことなどできない!


 リサは慌てて飛び出した。


 その刹那――。


「っこらぁてめえ! ユイになにしてんだあぁぁぁあああっ!」


 リサの少し後ろから、そんな叫び声が聞こえた。


 ――ユイって誰?


 リサは出鼻をくじかれて混乱した。自分でも美しくない顔をしていると思う。


 ヨシカゲがこちらを見る。その顔にはどのような感情もない。だがどこか疲れているようにも見える。


 リサは後ろを振り返った。そこには頭の悪そうな不良がいて、かなり怒っていた。

 ――誰?


 と、リサは思った。



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