冗談じゃない!




 *



 隣の狭い部屋に響いたこの声を聴いて、新人パーク飼育員である沖倉 或人おきくら あるとは目の前のピンク髪の女性に絶望の目線を送った。

「ま、まぁまぁ。沖倉くんはまだ新人くんなんだし、それに、やってみなきゃわからないし!?ねっ?だから元気出して?」

「はい…」

 彼にできる精一杯の元気アピールはこれだった。


 沖倉或人、彼を語ってやろうとしても、普遍的であり大波の無い、中の中の人生であるがために何一つ語るべき所が無いことが、彼自身の中でも悲しいことだった。身長体重共に平均的、顔面偏差値も特段上下に振り切った訳で無く、好かれも嫌われもしない。頭脳明晰でも無ければ運動神経抜群でもない。お人好しであるくらいが彼だ。


 彼の目の前の椅子で少々困ったような顔をしているのは、先の話で登場したピンクの頭髪の女性。名をナナ、新人飼育員たちの間でのあだ名をピンク先輩という、彼の先輩である。飼育員としての腕は良く、新人教育を任される事もままある。この状況がまさにそれだ。

 嫌に冷たいパイプイスのパイプ部分が、或人の薄いズボン越しに膝の裏に触れ背筋が震えた、「大丈夫、新人くんだからきっと歓迎されるよ!」とピンク先輩が言っていた事を信じていたからだ。だが、聞こえてくるのはフレンズが自分を拒否するような言葉ばかり。・冗談じゃない・私に飼育員なんて・無理です。大体壁の向こうのフレンズが吐くセリフはこれだった。それ以外の内容が聞き取れないのも彼の心を一段と抉る要因だった。

「……あの子、自分は地味だからーって他人と距離をとる癖があるの。君が悪いわけじゃないから、安心して?他の子でもいいんだし。」

 フォローしようとピンク先輩が声をかけてくれるが、彼に向けられる瞳が書類に向き直したその横顔は確かに参った表情をしていた。ピンク先輩が困っているのには理由がある。その理由を説明するのには少々新人飼育員たちの仕事の話を整理する必要があるのでお付き合いいただこう。


 そもそもジャパリパークの飼育員というのは、何か一体、もしくは一種族のフレンズだけを相手する職業というより、一つのエリアを複数人で受け持ち、そこのフレンズの健康状態を管理する職業である。それに新人という免罪符がくっつくことで所謂飼育員、「というより」よりも前の文に該当する職務内容になる。そしてその新人の期間、彼らが仕事を覚えるのに選ばれやすい種の一つがペンギンのフレンズなのである。勿論それぞれの飼育員の得意な自然環境や種族分野に合わせて選ばれるのだが、多くの新人が期待して学んできているのは有名なイヌ科ネコ科がほとんどで、職務に慣れるまではざっくりと広く割り振られるのが基本だ。そのなかで彼女たちペンギンは基本的に温厚な性格であり、人懐っこい。その上他のフレンズに見られるような耳、羽が無く、強いて言えばしっぽが生えていること以外には大きく人の体と乖離した部分はない為に特別な技能が必要な清掃業務などは少ない。そのうえ、フレンズ化の確認された個体の半数はアイドルで人気もあるという、人に慣れている度合いが高いので、フレンズを学術的に見るというより、どう接するべきなのかという精神的あるいは内面に目を向ける練習にはもってこいなのだ。がしかし、例外というものはそれこそ例外なく発生するものであって、薄い壁一枚向こうの部屋にいるフレンズはあまり人と触れ合うのを得意としていない個体である。そして今、ペンギンで枠の空いている個体は彼女だけ。ここまで説明すれば、ピンク先輩……もといナナが困り果てているのもなんとなくでもわかるだろう。


「とにかく、私には無理ですから……」

 そう言って部屋から出て来たフレンズは、一瞬ただの少女なのではないかと見間違える程に確かに地味で、動物らしさのようなものを感じさせない。アデリーと名を呼ばれたそのペンギンは、或人の方を向くことは無かった。



 *



「冗談じゃない!…ですよ……?」


 或人は重い頭を前に投げやってそれを手で抱えた。嘆くようにピンク先輩に目をやった所で、髪をわしゃくしゃと自分で触ってみたところで、何も解決しない事は承知の上だった。彼の心を抉ったのは、担当フレンズが決まらなかった焦りよりも、フレンズに拒否された、その事実だった。普通であるが故に彼は、強く嫌われるという経験が少なく、それが人懐っこいと噂のペンギンフレンズに突き放されたという異例の事態を受け止め切れていないのだった。緑髪のベテランさん、ミライというパークガイドの、信頼されている彼女の説得があってこの反応なのだ。彼は、あのフレンズは僕を嫌ったのだ、あんなヤツが私の飼育員なんて冗談じゃない、と言ったのだとそう解釈せざるを得なかった。

 

 冗談じゃない。

 彼はあの言葉の意味の咀嚼を永遠としながら帰路についた。わかりやすく泣きそうな曇天が、心理描写としては100点の光の無さで、わかりやすく泣きそうになった。

 自分の寮の部屋に着いた。この前番号を間違えて来やがった上の階の同期は担当するフレンズに気に入られたのだろうか、そもそも担当が決まったのだろうか?静かだな。そんな事を考えながら、或人は3階立ての真ん中の2階の真ん中の205番に入った。どこまでも真ん中の自分の姿が、あのフレンズの目にはとても味気なく見えたのではないかとこんなところで思ってしまった。気晴らしにゲーム機に手を伸ばしたが、気分が優れることはなく、むしろ心が騒がしいせいか、ゲームの中のキャラクターが放つ銃弾は相手に当たらないし、それどころかアイテム運という確率にも見放されてしまった。若干狭い湯船に体を放り投げた所で特に気が晴れたような気もしなかった。口に入れた好物の焼きそばも、今日はなんとなく不味かった。やってらんなくて、布団に早めに入った。何かに沈むような感覚だった。


 早朝、外は未だ暗い。うるさいスマートホンが彼をたたき起こした。一体何だと画面を見てみるとピンク先輩からだった。慌てて体を起こして電話に出た。

「もしもし、沖倉です……」

『もしもし、沖倉くんおはよう。急で悪いんだけど、今すぐ出て来てもらってもいいかな?説明は後でするから!』

 妙だな、と或人は思った。明らかに声が焦っていなかった。緊急事態というわけではなさそうだった。となると、彼一人が対象として呼ばれているというわけであるらしかった。この時間である必要性を感じなかったが、断るわけにもならないので、行きますとだけ伝え電話を切った。


 正直、どういった内容でも彼は良かった。昨日のそれを越える絶望など、親が倒れただとか、それくらいな気がした。それほどまでに、居場所が無いような、孤独を感じていた。晴れていく空さえも、彼を置いていくようだった。持久走の授業で隣で走る約束をした友に置いていかれる女子のような、己の実体験には無い気持ちだった。


「おはようございます」

「おはよ~沖倉くん、ごめんね急で?」

 構いません、とだけ或人は言って、自分のロッカーに仕舞ってあったパーク職員の服に着替えて、新人マークの付いた名札を首からさげた。その動作をしながら、何かしらを用意する音を背中で聴いていた。

「昨日の子さ……どう思った?」

「どう思った……、ですか。」

 会う前に写真では見たが、生では一瞬しか見ていない。それに、自分の横を、まさかこの人が担当候補だと知らないのではないか、と思うほどに静かに通り過ぎて行った彼女の姿は、今の彼の心の中ではあまり思い出したくない思い出に該当した。しかし無理もない。自分の知らない環境が襲ってくる感覚は何となくわかるものだ。

「……話が、してみたいです。」

 手をいったん止めて彼は呟いた。わからない事が多すぎる気がした、お互いにだ。

「じゃあ、おしゃべりしに行こう?」

 先輩の方を見ると、既に或人を連れ出す用意が出来ているようだった。



 *



 ガタガタと揺れるスタッフカーの中で、彼は大量に積み込まれた荷物の番をしながらピンク先輩と話していた。

「楽しみ?」

「楽しみですけど、ちょっと緊張しますね……」

 緊張という単語で済ましてやろうとしたが、実際には違った。不安、という言葉が最も適当であると感じた。大丈夫、みんなそうやって最初は言うから。そうやって言って聞かせるピンク先輩は笑っていた。きっと大丈夫だよ、とも言った。何となく自信が付く気がするのは彼女にしか出せない魔法の様な物だろう。

「さて、もうすぐだよ。準備はいい?」

「……一つだけいいですか?」

「なあに?」

「この荷物って、何に使うんですか?」

 それは着いてから説明するね、とだけ言われた。新人にはちょっと酷だろうと文句を言ってやりたくなったが、とりあえずこらえた。


 風が水面を撫でる、白く耀く波が美しく、青青と背の高い水まわりに生える草も揺れていた。段々と昇る朝日に照らされ、ナカベチホーの朝が清んだ橙色と共に訪れていた。

 ナカベチホー、PIP改めPPPのライブステージがランドマークの大水源。至る所に池があり湖があり湿地あり時に森もあり、その先の果ては大砂漠とオアシス、そして大型商業施設オデッセイのある、サンカイチホーへ続く。ライブステージのあるPPP、というのがペンギンのアイドルである。明るく可愛く目立ちまさにアイドル!とペンギンが言われる所以の50%は彼女達が占めているだろう。そしてその他全てを統合した後に余った残り10%にこれから彼らは会いに行くのである。


「あの……マジでこれ何に使うんです…?」

「何に……って言われると答え難いなぁ。」

 荷物をリュックにつめて背負い、手にジャパまん入りの紙袋を提げて歩いていく。2人の荷物の分担量は先輩3の或人7だったが、別に大きく不満は抱かなかった。というか彼はそれよりも、こんなに膨れ上がったリュックの中身が気になった。無駄に毎日全教科の教科書とノートを持って来ていた小学生の頃の同級生のランドセルでもこんな膨れ方はしていなかったとぞ、と思った。中身の確認をしようと思っていたが、思ったより揺れるスタッフカーの中でぐらつかれて散らかっても困るのでやめていたのだった。

「でも、きっと色々勉強になると思う!」

「そうですか……。信じておきますね。」

 どうやら目的地に着いたらしく、ピンク先輩の脚が止まった。道の舗装なんて勿論されておらず、それどころか人の気がしなかった。朝だから、とかでは無くて、ただただ純粋に人という文明を探すのが困難であるようだった。彼らの目の前には洞窟があった。横穴というべきであろうか。既に空の石が光りを白くし始め、その横穴の開いた岩場を照らしていた。

「とーちゃく!荷物下ろそう!」

「はいっ」

 言われるままに彼はリュックを下ろした。背中にのし掛かっていた重りが降りる、肩の荷が降りるという物を物理的感覚を持って体感したような気分だった。ふー、と声を出したピンク先輩の額にもしっかりと汗が浮かんでいた。

「覚悟はいい?すぐそこ……ここに住んでるんだってさ、フレンズってすごいよね……。」

 先の洞窟をピンク先輩は指差した。元がペンギンだったとはいえ一人の少女がここに住んでいると考えると彼には想像がつかなかった。



 *



 おはよう、という明るい声で私は目を覚ましました。今日は誰かと遊びにいく予定があったっけ?とか考えながら目を擦ります。記憶力は良いと思っている方ですが、とりあえずカレンダーを……うんうん、特に予定はありませんね。お客さんでしょうか?

「今、出ます。」

 ……そういえば、寝るときに使っているクッションを変えて欲しいってナナさんにお願いしていた気がします。それでしょうか?もうぺちゃんこなんです。フカフカがいいです。


「あ、おはよう!ごめんね、こんなに早く来て」

「大丈夫です。お陰で早起き出来ました。」

 声の主はやっぱりナナさんでした。ただ、いつもは一人で来てくださるのに、何方かと一緒のようです。

……もしかして、昨日の話、諦めて頂けて居ないのでしょうか。それだと、言い方は乱暴ですが少しやっかいです。どうしましょうか……。

「はい、クッションとそれからジャパまん。」

「ありがとうございます。嬉しいです。」

「あと…さ。昨日の話なんだけどさ……」

あ、やっぱり来ました。

「私は……大丈夫ですよ。」

「うーん、そうかも知れないけどこっちもちょっと心配なの。それに、昨日はちゃんと会って会話すらしてないし、一回候補の人とお話してみて決めない?」

「う……わ、わかりました。」

 また押しに流されてしまいました。まあ、お話し合いですもんね、そこで決めれば良いでしょう。


「始めまして、アルト、オキクラ アルトです。」

「アデリーペンギン…です。」

 ナナさんの後ろからちょっと不馴れな感じで出てきた人はアルトさん、と言うようです。この人が飼育員さんなんでしょうか……。

 そのとき、プルルルル、と少し高くうるさい音が響きました。正体はナナさんの持ち物だったようです。少し離れたあと、忙しそうに、でも嬉しそうにもどってきました。

「許可が降りたよっ沖倉くん!」

「え?なんのですか?」

 ナナさんは息をすぅっと吸い込んで言った。

「これから二人には、しばらく一緒に暮らしてもらいます!」


え。


「「……冗談じゃない!」」



 *



 隣の彼女が響びかせたこの声を聴いて、いや、自分も響かせてしまったこの声を聴いて、新人パーク飼育員である沖倉 或人おきくら あるとは目の前のピンク髪の女性に抗議の目線を送った。冗談じゃないぞ、元がペンギンだったとはいえ一人の女の子がここに住んでいるのだ、そこで共に暮らせだと?と。しかもピンク先輩は用事が他に出来てしまったから帰ると言い出した、さっきの電話の様子を見るに、本部の方で抱えている仕事に当たる為に新人教育をぶっ飛んだ実習にしてやろう、ということであるらしい。彼からしてみれば、本当にどういうつもりだ、と。

 彼の隣では、同じような反応をしているアデリーペンギンが居た。無理もないだろう、彼女のナナへ向ける瞳の中にも不信があるようだった、話し合うとは何だったのか、と。しかしピンク先輩がナナさんと呼ばれた所で、その反対であった所で、きっとこの人が諦めることは無いだろうと思った、2人ともがだ。上でもそう決まっちゃったと言われれば、吹けば飛ぶ末端の彼が言い出せる口はない。彼らは己の今の状況を受け入れ、諦めるように、ピンク色のサイドテールが揺れるのを見送ることになった。



 *



 参ったことになりました……。

 というか、話し合いって何でしたっけ、強引に知らない人と暮らすことを言うんでしたっけ?そんなハズないじゃないですかナナさん貴女って人は……。いやまあ普段私達のイロイロに振り回されているのはどっちか言うとナナさんですけど……。

 しょうがないっていうか何て言うか、あの人は必死に何か本…を読んでいますし…。

 ホント、冗談じゃないです……けど、多分、何か、進めなきゃ、話し掛けてみれば……。



 *



 彼は気が気でなかった。とりあえず事を進めなければならなかった。首筋にハッキリと汗が走ったのを感じながら、荷物大量のリュックを漁る。寝袋、アウトドアコンロ、鍋とインスタントの食料、ライターに発電機と充電器、持ち運べるバッテリー。暮らさせる気しかしない荷物で或人は笑いかけた、もうどうしろとかああしろとかどうでもいい、この先の為になるんだったらかかってきやがれ、と少々投げ槍な気分になりつつあった。そんな中で、彼は一冊の本を見付けた。

「新人飼育員とフレンズの生活マニュアル」

 ご丁寧に監修がベテランガイドミライさんとピンク先輩、それに園長も携わっているとなってなんだかもう今一番頼れる気がしてならなかった。

「あ、あの~……」

 本の中に目を通し始めたとき、彼の後ろから、おどおどとした、しかし恐らく、持てる勇気を振り絞った声を、フレンズが掛けた。

「は、はい!」

「あ、ごめんなさい!」

 お互いがお互いに距離感が掴めぬままに、声が跳ね合う。動転と錯乱、2人の脳内は今まさに地獄の茹で釜をも凌駕する沸騰具合に違いない。或人は少し間を置いた後に、その沸騰で出来上がった水蒸気にも似た言葉を発した。

「えっと、改めて、ですけど。アルトっていいます、よろしくね、っと…アデリーさん。」

 一語一句の印象をせめて柔らかくしようとしてはみるが、練習なしのぶっつけ本番スピーチのような読点の乱立になってしまう。

「あ、はい、よろしくです……。アルトさん。」

 互いに名を確認した、二度目であるという事を疑いたくなる程のたどたどしさだった。水蒸気のように、掴めもしない見えもしない正解を探す。

「あの、とりあえず、荷物を入れても…というか、おうちの中に入っても良いですか?」

 あ、はい。というアデリーの応答で彼は、横穴の奥のドアから巣の中に入った。


「なんというか…」

「あぁ、はい、すみません地味で……」

 これをフレンズの世界では地味というのか、と少し冷静さを彼は欠きかけた、意外にも電気が通っていて、ランプがぶら下がっていて明るいし、恐らく彼女のであろうスマートフォンが充電器に繋がれていた。アデリー曰く、ここは本来パークが使っている緊急避難用の拠点で、彼女にとって環境的に住み心地が良く、使われることが滅多と無い人気の無い場所でパークも持て余し気味だったのもあり貸してもらえる事になった、と。

「すごい……意外と人間的ですね。」

「すみません……ホントに。私なんかでお勉強出来ることなんて殆ど無いって、いつも断ってるのに……」

 別に…と喉は動いたのに、或人の口からは、別に人間的な生活を君が営んでいようと学べる事はたくさんあるよ、なんて気遣いができたイケたセリフは出なかった。


「とりあえず、僕は外にいますね。」

 中に荷物を置かせてもらったが、お昼ご飯を考えなくてはならなかった彼は、バッグの中身を使う方法を確認しマニュアルを読むのをついでに進めながら、袋麵を茹でていた。塩ラーメンだった。他に残っていた味がなかったのか確かではないが、塩ラーメン以外はリュックに入っていない。出来上がった麵を啜りながら、読み進める。

「フレンズと関わる時はとにかくフレンドリーに、出来るだけフレンズの願いを叶えるように動く、止めるべきなら止める……まあ当然だよな……。」

 関わり方、のページは彼が学んできたことそれだけだった。だが言うは易く行うは難しという言葉が言うように、そうやって動こうと思っても、体がイマイチ言うことを聞かないのだった。

「夜はどうしようかなぁ……。」

 今のところ彼の心は、今頃ジャパまんをかじっているであろうペンギンの心配よりも、とりあえずのところ今夜を乗り切る方法を模索していた。


「あの…」

 或人が日に当たりながらインスタントコーヒーを飲んでいると、これまた後ろから、アデリーペンギンが近寄って来た。やってる事が完全にソロキャンプだったが、彼女の姿で手に持ったマニュアルの存在理由を思い出した。

「あぁ、どうかしました?」

「えっと……。おしゃべりとかした方がいいかな……って。」

 一応彼は即座にその考えを撤回したが、一瞬確かに、意外と距離を詰めてくるな、と思ってしまった。そもそもここに来てするべきなのはキャンプで美味しいコーヒーを飲む方法を学ぶことではなくて、親睦を深めて彼女たちとの接し方を学ぶことなのだから、正しいのはアデリーの方である。何時までも踏み出せぬ一歩を足踏みしている訳にはいかなかった。

「……じゃあ、しましょうか?」

「はい。」

 彼の隣に座ったアデリーは、言葉を選んでいるようだった。小さな口が動こうとして動かない、だが少し経って切り出した。

「アルトさんは、何をするのが好きですか?私は、えと、石を集めるのが趣味なんです。」

「石を集める?」

「え、はい。そうです。」

 或人はアデリーの話に食い付きたくなった、訊かなくては、という事を思った訳では無かった。フレンズの趣味、それは教わらない話だった。

「どんなのを集めてるんですか?」

「こ、こんな感じです…!」

 彼女は自分の服のポケットに入れていた包みを取り出すと、その中身の石を手に取った。

「黒曜石…というそうです。珍しい石の、さらに珍しい綺麗な物だそうで、火山の麓の川まで遊びに出掛けた時に拾ったんです……!」

 黒曜石、オブシディアンとも言う希少な石。ガラス質のその火山岩は、丹念に磨かれていて艶やかだった。一瞬ただの石のようでありながら、その深く深くに輝く緑のような奥深い反射が、歴史のような、そんな深みを見せた。

「キレイ……。」

 或人の口からはこれしか出てこなかった。だが、アデリーは嬉しそうだった。

「キレイですよね、ホントに……。アルトさんは、石、好きですか?」

 好きか、と聞かれたら嫌いではなかった。宝石であるよりも、転がっているだけの岩石たちに、確かに太古のロマンとやらを感じることはあった。彼女を悲しませる訳にはならないということだけを念頭に置いて返答した。

「えぇ、好きです。」

「ど、どんなのが好きですか!?」

 フリフリッと隣の彼女は尾を振った。パッと彼と目が合った今一瞬、会って以来の煌めきを見せていた、それこそ奥深く白く光り燃える宝石のようだった。

「うーん、宝石ってよりも、無骨な石が好きですね。ほら、縞々とか…ピンクと白っぽいのとかの模様が入ってるの、あれが好きです。」

「わかります、いいですよね…」

 2人の会話には思ったよりも花が咲いた。太陽の下で何時間も話した。或人も自分の趣味の話をした。2人はお互いに嬉しかった、自身の趣味を興味深く聴いてくれる者はそうそう居ないものだ。自分なんかのちょっと面白いかもしれない話をして、驚いて笑って喜んでくれるなんて。お互いに、相手が嬉しそうに楽しそうに笑う顔で、外国人観光客と話してこいと無理難題を押し付けられた修学旅行生が英会話の本をガッツリ見ながら海外の人と話すような圧倒的鎖国体制だった2人の国境線の壁は、石ころへと変わっていた。

「あの……よければ明日、一緒に川に行きませんか?つまらないかも知れないですけど……石拾い、とか一緒にしてみたいです。」

「もちろんです!……いっそ、キャンプみたいな事しても良いかも知れませんね。ほら、道具はあるし。僕も色々覚えたいので、是非行きましょう!」

 気付けば日暮れだった、風が寒くなってきていた。或人は、彼女を巣の奥へ返し、塩ラーメンを湯掻き始めた。



 *



 外からいい匂いが漂ってきます、アルトさんが晩御飯を食べようとしてるみたいです。お昼にも食べていたラーメンというやつでしょうか?それとも何か別の物でしょうか。無知で地味な私の知識では割り出せません。無念です。

 新しいクッションはとってもふかふかだし、アルトさんはお話してて楽しい方だし、なんだろう…とても……。

「楽しかったな……」

 私が体験していいのかさえわからない多幸感が抱き締めてくるような気がして、なんとなくそわそわして、そのまま眠ることにしました。

「冗談……みたい。」



 *



 おはようございます、と寝袋に眠る新人パーク飼育員である沖倉 或人おきくら あるとに声を掛けたのは、アデリーペンギンだった。

「おはようございます。朝ご飯食べますね。」

 昨日は遅くまでスマホに頼っていた。ランプもあったが、手元が暗がりになるとスマホのライトがありがたかった。調べものも沢山した、ネットに転がる無数のアデリーペンギンの画像を見た、ある程度簡単な文献にも目を通した。パークのフリーWi-Fiなんて便利なものがあるのも、ここが本来人が利用する用途で設けられた場所である事を思わせた。

 彼はジャパまんに手を伸ばしてみた、フレンズが食べるイメージがあるものの、意外とこれが美味しいのである。朝食には最適で、これと水を飲み、その後綺麗な水場で体を流せば、遅くまで活字と眼力の飛ばし合いをしていたせいでまどろんだ意識も、シャキっとすると言ったものだ。


「えっと……今日なんですけど……」

「石拾いですよね?いいですよ?」

 アデリーペンギンだった、彼女もジャパまんにありついてすぐと見えた。少々不安げな声掛けだったが、或人は特に疑問も持たず、約束通りだろうと思って返答した。

「あ、……行きましょう。」

ちょっと不思議な返答だな、と思った。

アデリーは質問の答えが嬉しかった。

 彼女は二日連続で謎の早起きを達成した、その理由はきっと、彼女の中の悪魔も、天使も、天邪鬼さえもが驚いた、さらっと、本心から「会って少ししか経っていない人と出かける」算段を立てた事に寄るものだった。一体全体どうしてしまったのだ私!と思わず言った、心のなかで。心のなかで、だ。一緒に行きたいなんて言い出してしまって良かったのか、と何度も反芻はんすうして結局眠れたのは或人と変わらない位の夜だった。でも彼は、何も違和感無く行こうと言ってくれた。だから嬉しかった。そして己の今の状況に現実味を感じなかった。返答に迷ってしまったのはその為だった。


「も、持ちますよ?」

「大丈夫です、僕の仕事なので」

 ある程度の量のキャンプ道具が入った良い感じに重たいリュックを背負い、自分より少し小柄なアデリーと並んで歩く。目指す先は川原。近くにあるのだと言うので、或人は心配してくれる彼女の気遣いにちょっと喜びつつ、道案内に従う。風で白く立つ波の帰り際は青く、波の無い時の湖沼に飛び込めば、何か別の世界にでも繋がっているのではないか、と思った程に幻想的である。

 やがて森があり、それの奥へ入った所、零れ落ちた日光の雫が顔に掛かり、少し水の音が煩くなってきた。足場にも何となく石が目立つ。情景の知らせる一言一句の濃さが薄れてきたように或人は感じた、それは隣の彼女も同じだった。謎のフィルターが掛かっているような、加工された画像のような、白い枠の中のような。

 しばらくが過ぎてから、更に進んだ先。連続する波の帯が地を這う、というと大層だが、2人が辿り着いた川という物を詩的に表すならばこんなところでは無いだろうか。


 2人の目的は石拾い、だけではないがメインはそれだった。男女2人が川原でする事と言えばホラー映画の導入なんかの酒、薬、下の話とエトセトラというのは流石に偏見が過ぎるが、精々キャンプでもしているというのが常であって、石拾いとなると大学か何かでフィールドワークをしに来ているのかと予想する位しかない。そしてそういった研究に脳味噌を動かすときの人の目は真剣であり目的に相当するただ一組を探している。だが、この清流の傍で水に少し濡れながら水面の奥を見つめる彼らはあくまでも娯楽として、なんとなく気に入る物を探している。丸ならかわいい、こっちは角があって格好いい、色が、艶が、判断基準は本人たちの趣味嗜好ただ一個に限られる。

「2人だと沢山拾えて良いですね……!」

「いつもは一人なんですか?」

 えぇ、とアデリーは返した。こんな地味で淡々とした時間を相手に強要するのは嫌だし、そもそも一人の時間が楽しくてやってるので他人を誘うこともしない、と。

「ただ……。」

 彼女は付け加える。

「あなたなら何となく誘っていい気がしたんです……なんでかは、わかんないですけど。」

 持ってきたバケツの中には、沢山の石が既に入っていた。


 くつくつという音と共に気泡が立って割れる。コンロの上の鍋の中で銀の煌めきとした液体が湯気を上げ、銀の煌めきとした外皮が踊る。外皮、それの中身は所謂レトルトカレーというやつで、当然のようにパーク管轄農園の野菜が入っている。

「もうちょっと凝りたかったんですけどね~」

 或人はそんなことをぼやく。キャンプといえばカレーなんてイメージがあるが、その気分を断片的にでも味わおうというのが目的で持って来ていたのだ。あまり馴染みが無い様であるアデリーは、皿につけられた料理の匂いを興味深そうに嗅ぐ。

「私も……貰っていいんですか?」

 もちろんですよ、と或人が返すとアデリーは喜んで皿を受け取り、そのあと小さく手を合わせて食事を始めた。ちょっとかわいいな、程度の感想を彼は抱いたが、声に出すようなこともせずに食事を同じように始めた。

「流石にこれ全部の石を持って帰るの大変ですよね……ちょっともったいないけど選ばなきゃ……」

「2人で持てば重くないと思いますよ?ほら、これとか凄い綺麗です、せっかくですし持って帰りましょう?」

「え、で、でもそれだと貴方が大変じゃ……」

 彼女が言う事はとてもありがたかった。心配してくれているのだと或人は心の底から嬉しかった。しかし、彼女が喜んでいる顔が何となく見たかったので、

「僕は大丈夫です。」

 と、答えた。

 ありがとうございます……。と静かに返ってきたので、日が暮れる手前まで水の音を2人で聞いていることにした。



 *



 アルトさんとバケツを持って、夕暮れの道を歩きます。彼は私よりちょっと背が高くて見上げないとしっかりお顔が見えません。彼は私よりも絶対に沢山の荷物で大変なはずなのに、重くないですか?って訊いて来ます。その背中の荷物に比べたらきっと、2人で持ってるこのバケツの重さなんて軽いのに、です。

 もう夕日が周りの水溜りをオレンジ色に染めて、空と水の違いを無くしています。幻想的な風景というのはこういうのをいうのでしょうか?謎のフィルターが掛かっているように見えるんです、写真として、一番美しいところを切り取った物を見ているような。時間帯のせいでしょうか、それとも天気のおかげでしょうか、サンドスターの気まぐれでしょうか?わかりません、わからないんです、私には。隣にいる人が、なんでこんなに優しくしてくれるのか、地味な私に不似合いな程丁寧で、お話も面白いこの人が私の担当をしてくれているなんて。……それが、迷惑だと思ってもいたし、不釣り合いだから無理だって言っていたのに……嬉しい、なんて。

「冗談じゃないです……」

 言ったそばから泡にでもなって、アルトさんには聞こえないでほしかったので、晩御飯も一緒に食べませんかって言ってごまかしておきました。


 夜、遅くなって、空が曇っているようでした。外の景色は一応確認できます。風も吹いているようで、雨も……しばらくしたら降りそうです。普段なら早く寝てしまおうと思うけれど、今は外にいるあの人が心配でした。きっと外よりは暖かいハズ、中に入って貰わないと……。

「アルトさん。外、寒くないですか?中……入ってきて下さい、暖かくしてありますから。」

 彼は、良いんですか?って訊いてきます。良いも何も、自分から飼育員を目指して此処にいる、といえばそこまでですが、優柔不断な私やパークの事情でここに来てくれたのに、真っ直ぐに優しい彼を邪険にするわけには行きません……、優しいのはホントだと思います。

 寝袋で床に寝ることにはなりますが、それでも彼は嬉しそうに笑ってくれました。私が退いてベッドを貸してあげよう、とか考えた方が良かったのでしょうか、わかりません、私には。



 *



 ザー……、と弾けるような音と共に、新人パーク飼育員である沖倉 或人おきくら あるとは目を覚ました。スマートフォンが朝の5時だと言っている。寝るのがちょっと早かったせいだろうか、等と考える。外は暗く、日光を少しも感じなかった。酷く、酷く、寒かった。外に居たらどうなっていたかと考えるだけでもゾッとした、アルトさん、と昨日、少し慣れたような声と共に中に入れてくれた彼女に感謝したくなっていた。

 寝袋から出たあと、とりあえず水を飲みに彼は立った。外に荷物が置きっぱなしだったので濡れていないか心配だったが、横穴の奥までは流石に無事だった。だが空は一向に晴れるような素振りもなく、いずれこの豪雨が横になるかもしれない危険を孕んだ風さえも吹いていた。湿地帯とも呼称できるここ一帯の雨は無尽蔵に供給される水蒸気で長引きやすいのを教わっていた彼は、荷物を中に静かに運び込んで、その後、部屋を見回した。特に深く意味があったわけではない、ただ暇だっただけで、ただ見回した。なんとなく早く起きてしまってやることが無かった、それだけだった。

「ほんとに石、沢山あるなぁ……」

 ふと見た部屋の隅には、小石が積まれていた。アデリーペンギンは巣を作るのに小石を集めるといわれているが、棚やバケツ、囲いの中にどっさりと積まれたそれは、巣のための、というよりもむしろ小石そのものの巣のようだった。昨日集めた石も同じようにそこに置かれていた。昨日のことを思い出すと、或人はすこし心が浮くような気がした。箇条書きのように気分を表す事象が並んでいく今のこの気分はなんだろうか?彼の心の辞書にある言葉の組み合わせでは言い表せない気がしていた。

「スゥ……スゥ……」

 遠くに感じるほど小さい寝息が、しんと静まって何も言わない部屋に響く。雨音は無形の調べを淡々と奏で続け、一定のリズムの寝息をかき消す。

「ちょっと見ててもいいかな……」

 彼は、椅子をベッドのそばまで持っていき、そこで眠るアデリーを見つめた。クッションを抱き、微かに上下している布で包まれた姿はなんとなく愛おしい。なにか夢をみているのだろうか、口元はクッションで隠れているが、それでもなんとなく楽しそうな、安心しきった様子だった。始めて会ったのはもう3日前、その時の絶望感は或人の中にはもう無かったし、見る限り幸せそうな彼女からも拒否をしてくるようなイメージは感じられなかった。尤も、或人は別に、彼女がこちらを拒否するようには初めからどうしても思えずにいたから、希望的憶測が正しいものになったというのがより近いようだった。

 ふんわりと曲線を描いた黒髪が仄暗い部屋の光を纏い艶めくのがまるで宝石のようだった。たったひとつしかこの世に無い宝石のように見える。こんな所に住んでるんだね、とピンク先輩が言っていたが、その通りだと思ってしまった、こんな可愛らしい子が?独りでここに?真意とは違うかもしれないが彼はそう思った。

「ダメだダメだ、可愛らしいのは事実だけど…」

 寝顔を見つめて、それで照れてしまっている自分に少し嫌悪感を抱いた。違うだろう自分、僕は恋を学びに来たんじゃない、尊くて儚い命を学びに来たんだ、と思い直して、とりあえず日誌を書き始めた。

「やっぱり後にしよう……」

 欲望に敗北した。幼気なその寝息が或人の心を掴んで離さなかった、仕事として日誌を提出するのは保安部の隊長職だけで、或人のは自分を律するためのツールというだけであったのでまあいいかと負けてしまった、律せていないというツッコミはごもっともである。ぎゅう、と抱かれた柔らかいクッションに一瞬なってみたくなった。誰しも金銀財宝が手の届く位置にあるのであれば、手を伸ばして触れて出来れば掴み己が物にしたくなるものだ。その姿はセキュリティOFFになった国家が守る大秘宝を盗む怪盗か、はたまた欲にまみれた人間かもしくは…普段無欲な者に差した魔か。なんにせよ後悔など後ですればいい、字がそう言っている、と荒唐無稽な支離滅裂を脳味噌の綴るまま、彼は行動に移した。

「…あったかいな。」

 さらさらとした触り心地と僅かに手に伝う温もり、後悔など後ですればいいと文字も言っていたのでその通りになった。すぐに手を引っ込めて何をやっているんだかと思ったが、それでも黒く摩訶不思議に完璧なこの髪に、頭に触れずに、撫でずにいられなかった。興味関心をひどく表した下心という言葉に似合う男になってしまった事を悔やんで彼は寒い風が吹き込む穴へ向かい湯を沸かし始めた。



 *



「あ、起きました?」

 起きました、今日の目覚めも中々悪くないです。……あぁ、天気は、悪いですけど。

 アルトさんはすでに起きていたらしく、私の分までご飯が用意されていました。こんな事は始めてです、いつもは一人で、適当にジャパまんで済ませちゃうので。

 そもそも、私の今住んでいる所に誰かを招き入れたことはあんまり無いんです。たまに一緒に遊ぶときにペンギン仲間のジェーンさんやヒゲっp…って言うと怒るから、ヒゲペンギンさんたちが来てくれるときはありますけど……。

 しかしそうとなると、今日どうしましょうかね……、彼も私も雨が降っている中喜んで外に出ていくような動物ではありませんし……。ゲーム?ビデオかボードか……?でもそれってあんまり面白くないかもしれませんし……それにフレンズの生活を学ぶのにはあまり適していないのでは?でもだからといって石磨きに付き合わせてしまうのは……。

と悶々としながらスープを飲みます。

 ん、美味しい。

守って貰うという身ですから、私の好きなようにすればいい、と言われるのはその通りです、わかっています。でも……はあ、この考え方をやめるべきなのでしょうか、何もわかりません。

「ふぅ、今日は何します?雨が酷いからなぁ…」

アルトさんがそう言います、奇遇ですね同じこと考えてましたよ。うーん。

「アルトさんは…何がしたいですか?」

「それが、生憎考え付かなくて。」

「あはは、一緒です。」

……お話するだけで、やっぱり面白いかも。とりあえずしばらくお喋りでお茶濁し……です。



 *



 今度こそ或人は自分の持ってきていた私物の鞄から筆記用具とノートを取り出し、日誌やメモ、そして個人的にしている勉強も含めて、アデリーと喋りながらそれらをし始めた。彼は特段に博学才穎はくがくさいえいなわけではなかったし、格調高雅かくちょうこうが意趣卓逸いしゅたくいつの猛虎が如き勢いのある詩が読めるわけでもなかったが、お人好しである彼は人と話す術を何となく身につけているつもりだったし、実際彼自身がその事実を知らずともアデリーは彼との話をとても楽しんでいた。雨が降り続け、その音が延々と岩に跳ねていく。無限に。その雨音に彼らは負けなかった、続く対話はいずれ互いの間にメビウスの輪を描き、呼応が途絶えなくなった。

「これは、何という意味ですか?」

 何だったか、もう或人も忘れた会話の始まりとの関連は全くない新しい話題。それは彼が机に広げた大きな本の1ページに書かれた言葉だった。

「これは…」

“She is more beautiful than any other girl.”

「彼女は他のどの女の子より美しい、ですね。」

 詳しいことはそれこそ彼の広げた本のような所謂参考書に目を通すかお手元のデバイスで調べていただくのが結構であろう、面倒だと言う方に簡単にささっと申し上げればこれは比較表現の内の1つで、本来最上級の、ここではmost、の出番であるのをany otherというのを入れてmore等の比較級で最上であると表す物、である。

 要するに彼は英語を学んでいた。ジャパリパークという国際的にも注目の集まる楽園にて、あいあむあぺんだかあいきゃんとすぴーくいんぐりっしゅだか何だと言ってられる場合じゃあないのだ、どうせしっかり勉強するなら学生が覚えるような表現から覚え直してしまおうという魂胆だった。

「へぇ~……難しいですね。」

「まぁイロイロ勉強しなきゃ辛いですよね……」

 これでも標準と書いた本を手に取ったハズだったが、単語や基本文法その他もろもろ考えることが多い。彼は外国語の難しさと、話す時はぶっちゃけここまで考えなくて良いことと、そして何より自分がいつも使う母語の回りくどさとそれを扱う人々の凄さを痛感していた。アデリーは興味深そうに覗いたあと、「よくわかんないですね……すみませんこっちから訊いておきながら」と言って別の話を探し始めた。


 ある程度勉学をしながら話を、いや話をしながら勉学をしていたが、昼食の時間になった。ひどくなる一方のこんな風と天気じゃまともに火も起こせないのではと危惧したが、とりあえずは大丈夫だった、沸かしていたお湯が沸いた。今日は少し寒いのでシチューにでもしましょうか、と或人が言うとアデリーは少し嬉しそうな顔をした。パーク監修野菜たっぷりシチュー、ホルスタイン印のミルク使用だとか書いてあるパックが鍋の中で気泡に殴られている、五分もすれば出来上がるだろう。そしてその出来上がりを待つ間は五分も無い一瞬の様であった。湯気が立つ、皿につけられた料理は彼らの体に入っていくとやがて内から温もりを送ってくれた。

「おいしいですね。」

「はい……とっても。」

 黙々と食べていたはずなのに、浮き上がる笑みの理由は、例えば英語で何といえばいいのだろうか、或人はそんなことを考えていた、考えたところでしょうがない事などわかってはいるけれど。

 二人は、満足だと鳴いている腹の虫が居座る胃という虫かごを確認した後、色んな事をした。彼女が持っている新しめのゲーム機でレースゲームをやった。コントローラーがいくつかある理由は、彼女の友達とやる時のものらしい。しかし驚いたことに。彼女がかなり上手いのだ、自分ではそこそこ好んでゲームをやっていると思っている或人でもなかなか勝てなかった、横には、尾をぱたたぱたたと振り喜ぶ彼女が居た。そのあと、二人は石を磨いた。昨日拾ってきた石だ。砂を落とし、泥を削ぎ、布で磨き上げる。形を極力変えないように、できる限りつややかに、綺麗にしていく。時間というのはあっという間に過ぎていくもので、またどうでもいい事を話したり、石の評価をしあったりしている内に、いつしか時計の数字は4ほど進んでいた。



 *



 晩御飯はクラムチャウダー、という料理でした。私の好きな海の食べ物がたくさん入っていて大満足です。おなかいっぱいであったかくて本当に幸せって感じです。

 でも、私の心と天気は違いました。ゲームをしたのでちょっと疲れちゃった私たちが寝ようとしている今でも、朝からの雨はまだ降り続いていますし、ずっと風もびゅうびゅう吹いていて、すごく暗いです。

 でもでも、今日はきっと大丈夫です。いつもはこんな風だと、お友達と話をして気を紛らわせたり音楽を聴いたりしますが、今日はアルトさんがいてくれます。きっと大丈夫です。

 ……自分でも不思議なんですけど、この妙な安心感は何なんでしょう?どうしてこんなにも安心しきっているんでしょう?アルトさんがやさしいからでしょうか?それとも何か他にあるんでしょうか?一緒にお話をするだけで、一緒にごはんを食べるだけで、ペンギン仲間といる時とは違ったワクワク?ドキドキ?があるんです。そのうえ私なんか何の取り柄も無いのに、まるでジェーンさんのような、アイドルになったような輝きが私の心の周りにモヤモヤとついてきて離れません。

「おやすみなさい……。」

わからないので、寝ます……。



 *



 ガシャアアアアアアアッ!!!!!!

 とでも形容すべきであろうか、若干遠方ではあるようだったが、目を貫くような光と轟音が雨の中を走ってここまで響いてきた。

「雷か……はぁ、冗談じゃない……」

 部屋に響いたこの雷鳴を聴いて、新人パーク飼育員である沖倉 或人おきくら あるとは浅く眠っていた意識を覚ました。覚まされたというのがもっとも正しい表現であるのは置いておくとして、だ。

 大体10秒ほどの間隔を置いて響いてくる、青い光を放つ電撃。雲の上にいる雷様だか何だかもまあ大したことしてくれるもんである、確固たる証明の未だ為されぬ雷鳴の解明が待たれる。或人の顔をその青が定期的に濡らしに来るせいで彼の意識はもう既に晴れていた、気分としては晴れというより叩き起こされた軽いイラつきにより曇天と言った所であったが。

「うぅ……うぅっ……」

 そのとき、界雷の狭間から、磈磊かいらいの傍の声が小さく小さく響いてきた、何かしらが吹けばたちまちふっと消えてしまうような、そんな声だった。

「アデリー……さん?」

 或人はその声の主に近寄った、ベッドで横になっているアデリーの苦しそうな声は、近くに歩み寄るほど細々としていながらも鮮明に聞こえる。最初はうなされているのか、呻くような声に聞こえていた。しかし、どちらかというとむしろ、何かに脅かされているような声だった。雷鳴が丁度よく或人の声を遮った、そしてそれと同じタイミングで、目の前の毛布にくるまった小さな小さな姿は、今にも泣きだしてしまいそうな声を上げた。

「……大丈夫ですか?」

「うぅ……はぃ……。」

 明らかに大丈夫ではない返答だった、また一回の轟雷がとどろいた。青く青く光り輝いた。その轟雷は或人の中でゴングになった、なにかが彼の中で切れたような、爆ぜたような、始まったような感覚だった。後になって思い出せばきっと爆ぜるのは己の頭だろう、しかしそんなことを考える暇などなかった。寝ぼけていたからか?疲れていたからか?それとも知らぬうちにこんなにも守りたくなったのか?

「うぅ……。うぇっ……。」

「大丈夫です、僕がいますよ……。」

 彼は、震える彼女の隣に横にもぞもぞと入って、そしてゆっくりと抱き寄せて、頭を撫でた。泣いている理由が自分のせいという可能性だってあったが、それは考えていなかった。彼女の反応を見る限りでは大きな、心配も要らなさそうだった。相変わらず鳴り響く電光の隙間から声がする。段々とその声が小さくなっていく、段々と行き着く先は息つく彼女の姿だ。或人はその声が無くなり、息が長く長く続くまでずっとそこにいた。

「You are more beautiful than any other girl.」

 覚えたてのフレーズも、意外とキマる気がした。



 *



「あれ……?」

 私は、目を覚ましました。端的ですね。

 しかし、いつもは感じる光がありません。目を覚ましたら絶対に入ってくる、それこそ雨が降っていても入ってくるあの光がありません。目の前が真っ暗で、そして妙に暖かくて、とってもいいにおいがするんです。ずっとこうやって寝ていたんでしょうか?それともまだ夢の中なんでしょうか。でも参りました、暖かくて起き上がるのが辛いです。このまま寝ていたいかも。

「…………っ?」

今、気付きました。何かしらが私の体を抱き寄せるようにしています。……え。あ、アルトさん!?ですよね!?じゃなかったら怖いですけど……

「やっぱり……!?」

やっぱりそうでした……!で、でも、どうしてこんなことになっているんでしょうか……アルトさんが目を覚ましてしまいそうな程心臓がばっくばっくと音を立てます。

 あぁ……なんとなく思い出しました。夜の、それも遅い時間。酷い雷と雨で私は寝付けませんでした。どうも大きな音と光は苦手です。いつもそうなんです、いい加減慣れたいです。当分無理そうですが…、そ、それで、そうだ、アルトさんが横で寝てくれたんでした。私の頭を、撫でながら……。恥ずかしい、けど……。

「でも……嬉しかった、かも……。」

私は水浴びのために、一旦ベッドから出ました。

頭を冷やしたかったのかも、わかりません。



 *



「おはようございます……」

 新人パーク飼育員である沖倉 或人おきくら あるとは、他人、それも女の子のベッドを使って寝ていた事やその他諸々の、悶々とし尽くした脳内の記憶で案の定爆発しながら、朝食をとりに来た。妙な時間に寝て起きてまた寝たせいだろうか、頭がごうごうと痛む。変に悩んでいると余計にそうなってしまうのはよくある話だ。

「お、おはようございます。」

 アデリーが返してくれる声が、少したどたどしい。まあ無理も無い、或人だってそれは同じだ。少し申し訳ないというか、踏んではいけないラインを踏んでしまったというか、そんな気分だった。平常心を保とうと思っても、互いの体に染み着いた感覚が、匂いや触ったあの感覚が、体に焼き付いて離れない。変になりそうだった。でもその、変になってしまう事に悪い気はしなかった、お互いに、ずっとそんな捻じれたような感覚だった。


 そんな捻れた状態で昼になった頃、或人のスマートホンが鳴った。電話を掛けてきたのはピンク先輩だった。昨日の夜の雷雨暴風はどこに行ったのか、太陽が少し残った雲の間から輝いていたのを見ながら、食事中だった彼は外で電話に出た。

「どうしたんですか?」

『調子どうかなーって思ってさ。急に言ったことだから何かしら困ってないかな~って』

 今更だコノヤロー、と言ってやりたくなったが、喉の奥に引っ込めた。

『って今更か……』

「貴女のセリフでは無いと思うんですけど。」

 ふふふ、と帰ってきた。全く、勝手だと思うばかりだ。此方の気持ちなど考えてない。

『それで……どうかな、何となく慣れた?』

「おかげさまで慣れました。色々と勉強にもなりましたし。」

 そっか……。という言葉で会話のピリオドが打たれた。正直、何となく分かっていた。

『明日一日くらいで、一旦やめてみようか?』

 日数もまあそこそこだった。先輩の声のトーンも何となくそんな感じだった。察していた。

「わかりました、明日には本部に戻ります。」

 使ってない道具はそのまま物置に置いてきていいと言う。喪失感のようなものはあったが、深く落ち込みもしなかった。どうせそうなんだろうなぁ、そうだろうなと思っていた。

 ……思っていたのだが。

「何だったんですか?」

 先に昼食を食べ終えていたアデリーが、戻ってきた或人に尋ねた。

「明日になったら、一旦一緒に生活するの、終わりになります。勝手ですみません。」

「あ……はい、わかりました。」

 互いに顔を見合わせなかった、目を見てしまうとどうにかなってしまう気がした。気がしただけだろうか、でも、間違いなく気が気で無くなるとだけ妙に確信してしまった、ゆっくりとスープを飲み干せば、何かしら済ませられると思ってそうした。まるで初めて会った時のようだった、ある意味では、その方が幸せなのかもしれない、輝く太陽を見ている今この瞬間、写真一枚のようなこの淡い色をした花のような瞬間を下手に触って枯らしたくなかった。



 *



 アルトさんは明日になったらここを去る。それを知った瞬間、すごく嫌な気分になりました。言い表す事が出来ない気分でした。ただ、行ってしまうのが嫌だとか、そんな気持ちでは無くて、もっともっと、汚い気持ちでした。

 一緒に生活していたのは、ほんとに数日だけでした。聞いたところ、他のフレンズさんも同じくらいの日数だそうです。その短い中で、私はどうやら何かおかしくなってしまったようなんです。これが本を読んで知ったり聞いたりした、恋心、なんでしょうか。あのドキドキ、キラキラの名前です。行ってほしくないというのは、勿論というか、素直に一緒に居ると一人よりなんだか楽しい人だったので、そういう気持ちはあります。だけど、それを考えた自分が、なんというか気持ち悪いんです、完璧に自分勝手で、一緒にいたいなんて事が言えてしまう私が。知らない、わからない私が。

 でも、アルトさんだって、勝手だとも思うんです。勝手に地味な私を恋なんていう新しい世界に引き込んでおきながら、勝手にいなくなるなんて、ずるい。ずるい。ずるいずるいっ……。

 勿論アルトさんが全部勝手に決めたわけなんかじゃ無いのはわかってます。でも、それでも明日行っちゃうのが、彼が勝手に言い始めた何かしらの冗談ならいいのになんて思ってしまいます。彼が、最後になっちゃうから、と手作りしてくれた焼きそばも、とってもおいしいのに。おいしいのに、美味しくない。自分の口が汚れているせいでしょうか、喉を通ったら、出るも入るも全部同じだというのに。私のこの気持ちは冗談なんかじゃないのに。


 そうしてすぐに、お別れです。次の日のお昼になってしまいました。昨日ほど、寝たくない夜は無かった気がします。ずっとずっと2人で話していたかった。でもお疲れの様子のアルトさんが私を置いて寝てしまいました。バレていない事を願って、思わずアルトさんの頭に触れて、そして思わず横に寝転んでしまいました。寝ているアルトさんになら、何を言ったって、どうしたって私もアルトさんも傷付かない。このまま終われば、きっと、きっとそれでいいんです。

「名残惜しいけど……じゃあ、さよなら。」

 さようなら、って言いたくない、いまほどそう思ったことはありません。お友達に向けて言うバイバイ、またね、を言うのも違う気がします。私はなんて辛くてなんて幸せなのでしょう。地面を見ている事しか出来ませんでした。ありがとうございましたって、お礼をするふりして、お辞儀のふりをして、深々と頭を下げて、地面だけ見ました。さようなら、だと、もう会えない気がしたから、ありがとうございました、って言いました。アルトさんはどんな顔をしていたのでしょうか、見たかった、でも、見たら私はきっと……。

「アルトさん……。」

 頭をあげると、もう彼の姿は、少し遠くの道にいます。これでよかったんでしょう。きっとそうです。きっとこれでいいんです。急に過ぎてしまった昨日のお昼からの24時間、この数日間。一緒にご飯食べたりゲームしたり石拾ったり磨いたり……たくさんお喋りしたし……。だからそれで……。

「……よくない。」

 よくない。きっと、よくない。絶対に良くない。ここで何も言わないなんて、冗談じゃないです。

彼のせいでキラキラさせられた?

違う、彼のお陰でキラキラ出来たんだ。

彼のせいでドキドキしちゃった?

違う、彼のお陰でドキドキ出来たんだ。

 彼のお陰で楽しかった、彼のお陰で幸せだった、なのにさよならもマトモに言えなくてどうするんです私!せめてしっかりと、さようならって!いかなきゃ、言わなきゃ、思ったら走ってました、足が勝手に動いて動いてしょうがないんです。

 駆け出して、一生懸命に走ります。水辺の水面はやけに静かで穏やかで、でも風は強くて空は晴れています。

「アルトさんっ!!!!!」

 私史上いっちばん大きな声で、前を歩く彼を引き留めました。急いで追い付いたのでちょっと疲れました。

「はあ、よかった。間に合った……」

 彼は驚いた表情で私を見詰めて来ます、昨日から合わなかった目が、やっと合いました。言おうか迷う暇なんて私には無かったし、言おうか迷うつもりもちっともなかったです。

「アルトさんっ。」

 彼が、何ですか?と訊いて来ます。

「えっと……まず、その、ここ数日間、本当に本当にありがとうございました!」

 さっきと同じ、ありがとうございました、でも、もっともっと気持ちを込めてです。

「それで……私、本当に、楽しかったです。貴方と一緒に色んなことが出来て。最初は、『私なんかに飼育員さんなんて』って思ってました。冗談じゃないって、一緒にいてもらうだけでも申し訳ないし、私には勿体無いって。でも、貴方と一緒に居ると、すごくすごく楽しくて、嬉しくって……!地味だからって自分で思っても、貴方は絶対私を地味だなんて言わなかったから!だから、さようならって、言いたく無かった、本当に言いたくなかったです……いかないで欲しいなって、冗談でも言いたかった。ずっと一緒にいませんか?って、言えたら言いたかった……!」

あれ、

言いたかったのは、さようならのハズなのに。

ずっと黙って聞いてくれている彼に、

もう会わなくてもいいよって、

私はとっても楽しかったですよって、

なのに。

「だから……

 言わせてください……

 言うだけでいいんです、

 私、

 ……アルトさんの事……っ。

 ……好きです。」

でもいい、言うだけでいいんです。

言わないとダメな気がしたんです。

「また、来て貰えませんか?…これを持って…」

 石を、差し出しました。私のあの黒曜石です。黒くて固い、凄く深い黒の石。この色のような気分になったとしても、私は後悔なんてしない、と決めて腕を出しました。さっきとは違います。もう決めたんです、ちょっと憧れて、でも自分は似合わないって決めつけてた恋の輝きを、目指すことだって出来るって、彼が私に、真っ直ぐに見てくれたその姿勢で教えてくれたから。今度は私がまっすぐ見る番です。

「……来ます。絶対にまた来ます。」

 そう言って、アルトさんは私の手を握ってくれました。石と一緒に、包むように握ってくれました。暖かくて、大きくて、雷から私を守ってくれたその手で。それから、少し重いそれを受け取ってくれました。

「僕だって、好きですから。石も。

 ……それよりも美しいあなたも。」

 初めてお話しした日のように、いや、もしかしたらそれ以上のたどたどしさと、それ以上の不安と、そんなの吹き飛ばすくらいの嬉しさと、恥ずかしさとで、顔が燃えるような気分でした。

「また明日……!」

「はいっ。……はは、先輩に文句言ってきます。こんなに仲良くなっちゃった僕たちを引き離すなんて冗談じゃない、って!」

結局さようならは言えませんでした。

だけど、私の心はやっとわかったみたいでした。

冗談じゃ無いって。









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