King・Nothing



「ここに王はいない」



ただいるのは、

乙女だけ。


___________________








































朝、

とんでもない勢いでいっちゃいちゃした日の夜。

僕は家に持って帰ってきているレポートを書き終え飯を待つ。

なんか凄い良い匂いだ。








あれはたしか……。

3週間くらい前から、

というか一か月前くらいだろうか、やけに精力の付きそうな料理が食卓に並ぶようになったのは。

僕は詳しくないが、なんとなくそんな感じの食事だ。


「今日はカキフライだ、仲間の飼育員が美味しい所の出身らしくてな?貰ってきたんだ。レモンをかけると美味しいらしい。」

「今日は納豆なんてどうだ?山芋もあるぞ?」

「すごく美味しい餃子だ。ニンニクが効いている…」

「ちゃんぷるーというらしい。リウキウだと有名だって…」

「アボカドって知ってるか?おいしいぞ?」

「おやつにミックスナッツなんてどうだ?」


こんな調子だ。

気になってネットで調べたらどいつもこいつも精力がバチバチに元気になる食べ物ばかりだ。

カキ、ゴーヤ、アーモンド、ニンニク、アボカド…


なんなんだ、僕の顔はそんなに疲弊した顔にみえたか?

そして僕は例の仲間の飼育員とやらと仲がいいのだが、


「え?キングコブラさん?

 そーいやお願いされたわ。俺の家マシロヒのクィツ島神社の近くでさ~…」


本当らしい、

本当になんだ!?

僕は最近は元気だったぞ!?


ここまで言って、

それがこの飯のおかげだと気付いた。

たまに並ぶこの覇気に目覚めそうなご飯が僕の近ごろの体の強さに直結していたってわけだ、参ったな。


「今日はサバが安かったから焼きサバだ。」


ドコサヘキサエン酸…

つまりDHAという脂が健康にイイと言われるサバだ。

味噌汁に米、

サバが焼かれてのオクラのおかか和え。

なんだこのTHE和食感。


「いただきます。」

「あぁ、どうぞ。」


まぁうれしい。

かわいい彼女の手料理は美味しい。

火が使えないならIHでいいじゃない、IHコンロを思い付いた何処かの開発者にお礼を言いたい。

火の苦手なフレンズ達にとって、

料理が作れるという最高の体験を味わえる数々の電化製品はまさに希望の光なのだ。


「美味しい。」


口から転げ落ちた言葉を、

彼女は微笑んで受け止める。


「ありがとう。」


味噌汁の器の奧で、

ほそほそと言ったのは微かに

そして確かに聞こえた。


「ごちそうさま。」



________________________




「ふぃ~……。」


僕はお風呂に浸かった。

41度の、

普通に普通な温度の風呂だ。


急にどんどんッとドアを叩かれた。


「あの…入っていい、か?」


「え、は、はい。」


タオルを体の前面にふさりと被せた彼女の、普段の生活で見ることのない褐色の素肌が見える。



「久しぶりだな…?2人で、おふろなんて。」


端に寄ったら、隣に彼女が入ってきた。

0距離の柔肌。

気を利かせて最低限のガードをしてくれているが、まじまじみるのも申し訳ないので僕は彼女に背を向けて座り直した。


「おい、なんでそっち向いたんだ?一緒は嫌か?」


「いや、そうじゃないけど…」


そうか、と少し悲しそうな声をあげた。

僕の背中と己の尾を背もたれに彼女も座り直した。


漂う湯煙にお互い黙ってそのままでいた。

何も言えなかった。

恥ずかしいとか、

そういうのではなくて、

何を言おうか迷った。

彼女の尾の先の方が、

僕の腕に巻き付いた

そして黙った。

そして立ち上がって、

体を洗うことにした。



「背中、洗おうか?」


「…いいの?」


少しうれしかった。

普段こんなにグイグイ来ないから、

うれしかった。


「ふふ、お前の為だぞ。」


彼女の表情も明るかった。

可愛らしくって。素敵だ。

ゆっくりと

丁寧で

それでいて強く。

背中がゴシゴシと洗われる。

少し痛い…。

でも

「すっごい心地いい…」


「よかった…

 よければ私の背中も頼めるか?」


「いいよ、後ろ向いて?」


長いしっぽを避けて、背中を撫でるように洗う。

勿論、しっかり力を入れて痛くない程度にゴシゴシと洗ってもいる。だが、彼女の美しい肌を傷つけるわけにいかないので丁寧に、だ。


「なぁ、尻尾も洗ってくれないか?」


もちろんと答えて少しだけ後ろに下がった。

尻尾も入念に丁寧に洗う。

先の先まd…「ひゃうぅ!?」


「大丈夫!?」


「つ、つづけてくれていいぞ…」


…先の方までごs「ひぃん!?」


「すまない…」


のぼせたのかな、顔が真っ赤だ。

(すっとぼけ)



___________________






今日はいい一日だった。

朝日に守られながらいちゃいちゃして、

美味い飯をたらふく食べて、

風呂でふわふわりとして、


「お前とだと…よく寝れるんだ。」


後ろから好きな人にハグされて

眠るんだ……。


「僕もだよ?」


声をかけたら、

さらにさらに強く抱きしめられた。


「なぁ…明日、休みだったよな?」


「うん、土日休み有難いね~?」


首の後ろの彼女が言う。


「その…したい……。」


体を起こして僕に覆い被さる。

春の朝日みたいに真っ赤な頬をしたままで僕に甘い吐息を吹きかける。しゅるりしゅるりと冷たくてすべすべの触り心地の尻尾が僕の腕にいつの間にかがっちり巻き付いている。


「たまには王の頼みを聴かなきゃね?」


僕は彼女が迫ってくるのを少しだけ制して唇を奪う。

待ってたぞと言わんばかりに彼女が唇からぬるりと舌を出した。

僕もそれに答える。口を互いに合わせて口内まで入り込み、彼女の鋭い歯に舌をそのまま這わせる。


「んちゅ……んちゅ。」


ねちょっねちょ……。

口づけを繰り返す度に、

糸が引く、粘液の波が踊る。


「……どこまでするの?」


僕は抱きしめた、

そして言った、唇を離して。

すぅぅぅっと遠くに離れたようで

美しい銀の糸が引く。


「そうだな……とりあえず、寝させたくない。」


「本気で言ってますか?」


「この日のために、私はいろんなことをしてきたんだ。すこし寂しいように、最近思っていたんだ。だから、お前と二人っきり満足したい……。どうだ?」


……。





「いいよ。満足させてね?」

「お前もな、満足さてくれ?」


がばぁっと僕にもう一度覆いかぶさってきた。

今日はやけに、

やけに僕に積極的でうれしい。


さらさらの髪が、すごく美しく、

触り心地がよくて、

フードのなかに普段は隠されている、

この秘宝は僕だけのものだ。




この日のための彼女の布石を、

僕がしっかりぜんぶに引っかかるんだ。

そうしてあげて、

お互いに立てなくなればいい。









「すき…だ……」



燃える桜の色がやや熱くて、

僕らはきっといまは誰のものでもなくて

ただひとり

あなたのものになってる。


「まだ、いけるか?」


「あぁ、おかげさまでね?」


若干の疲れなど、

この興奮に勝てるわけない。


「好きだぁ!好きっ!ひぁ…ん!」


縦も横も上も下も変わりがわり、

受け止めては受け止めて貰って。


どれほど経っていたのか知らないが、

いつか僕たちは眠っていた。








___________________








さわやか朝だ、

「うぅん……あ、ぁ」



「朝からだけど…もう一戦……

 どうだ?」





僕は頷いた。



「ここに王はいない」



ただいるのは、

乙女だけ。


King・Nothing.





















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