王?



くぁぁっ…。



勿論わざとうるさくしている携帯のアラームを切り、僕は体を起こした。

後頭部を掻きながら足を冷えたフローリングへ付ける。


今日は休みか。


少し息を吐いた。

僕はキッチンへ向かった。


朝日が凄く美しい。

晴れてよかった。

窓から差し込む光の温かみが僕を優しく包み込み、喉を通る水が脳の隅まで冷まして覚ましていく。


僕は着替えた。


寝間着を畳んで端っこのほうに置いて、

寝室へ向かう。



寝室のドアを開いた。

まだ暗い部屋に、少し小さくも見えるベッドにもぞもぞと寝ている彼女が…いない。


「あれ…?キングコブラさん?」


「こっちだ…」


ぎゅう、

と後ろから寝惚けたキングコブラのフレンズに抱き付かれる。


「いつの間に…?」


「トイレ行ってたんだ…いつまでも寝てると思わないでくれ…ふああ」


まだまだ眠そうだ、

ぼやっとした顔がかわいい。

キングでもこんな顔するんだねって。


「ランニング行ってくるね?」


「あぁ、気をつけて…ふあ、あぁ」


水だけ飲んで

寝室へ

逆走する。


そんな彼女を見て思わず笑った。


僕は上着を着て、靴を履いて、

朝日が昇る世界に飛び出していった。




たまに彼女と一緒に行くこのランニングは凄く気分がいい。風が気持ちよくて、誰かに会うと嬉しくて、自然が映えて、物が映えて。


今日は彼女がいないので

ただ走るだけだったけど。






ただいま。


おかえりが返ってこないのできっと寝てしまったのだろう、十何分か位のランニングをして帰って来た。


上着やらを片付けて寝室へ向かう。


「すー…」


ビンゴ、寝ている。

長い髪の毛をあっちこっちへくるくる散けさせていて、人形のようである。


「ただいま~」


僕は消えるような声で言った。

言いながら布団に潜り込んだ。


「う…ぁ。おか  …えり」


彼女は僕の方を向くようゆっくり寝返った。

綺麗な目が僕を捉えた。

普段よりとろんとしているけれど。


「まだ寝てても良いからね?」


「あぁ…わかった…。」


無理やり引っ張って開いていたような瞼がこの一言で一気にストンと閉じた。

全くなんだよかわいいが過ぎるだろう?


寝顔を見つめる。

かわいいよりは美しい顔なのに、すぅ、すぅ。

その寝息を吐く彼女はとてもかわいい。

枕に顔を埋めて、

かわいい。


「ん…。」


かわいいが過ぎる…

思ったら右手が伸びていた。


「撫でていい?」


「お前の頼みなら…仕方ない…。というか許可を取る前から撫でてるじゃないか…。」


ごめんなさいと言いながら優しいコブラさんの頭を撫でた。心地よいと思ってくれているのか、少しだけ僕の手のひらに近づく。


「君には、僕の前では命令だからとか頼みだからとか言って欲しくないけど……」


「安心しろ…私…嬉しい、から。」



閉じきった瞳と、

ぽつぽつ開く唇。


ただそれだけなのに異様に可愛らしい。


「ハグしていい?」


言いながら

僕は調子に乗って彼女の体に腕を伸ばす。


「いいぞ…。私もしたいから。」


公認頂きました。


「あったかい…」


彼女は変温動物、外気に体温を左右される。

故に今は凄く清々しく涼しい風の寒い朝。

尻尾や肌が冷たい。


僕は運動した後なので、

そこそこ体が温かい。

温度差でビックリしないかな…。


「もっと、こっち来てくれよ…?

寒いじゃないか…スースーする。」


「ごめん、よいしょっと。」


ビックリどころか求められた、歓喜。

寝間着の普段よりガードの薄い彼女を抱きしめる。無理矢理体と布団の間に腕を突っ込んで、抱き寄せるんじゃない抱きしめる。

この腕のかすかな重みによる痛みさえ、凄く尊くうれしい。そこに彼女が居る証明。


彼女も腕を僕に。

大きく片手で抱いた。

顔が更に近くなる、

コブラさんは目の前に来た僕におでこを当てられる距離まで来た。

でも合わせたのは鼻だ。

つん、と。

それを合図としたように目を開いた。



「…大好きだぞ…。」(ほぼ言ってない)


急に何を言ったかと思ったら、

…何を言ったんだろう。


「なんって?ごめん、何か言った?聞こえなかった。コブラさんのこと抱きしめて夢中で…。」


「…大好きだぞ、って言ったんだ。」


「…僕もです。」


二度も言わせるな、

そう言って僕に、まるでコアラにでもなったのかと思うほど抱き付く。

尻尾はびちびちと僕を叩く。

痛いけれど、優しい。


痛いけれど、

王の攻撃は、

凄く優しい…。


___________________




王とはなんだろう。


私の長い年月の悩みだった。


けれど。


判った。

真の王はきっと、

皆と同じだ。

私がそうなんだから。

肩書きだけなんだ。

私は王だ。

私は、民に愛された

いい王サマだ。


多分。

眠いから考えるのやめる。

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