王。



我が名はキング。

人の言葉で王を意味する。


我が名はキング。

それは民を統べる者。


我が名はキング。

決して容易でないこの名。


私はキングコブラ。

それは蛇の王。


私はキングコブラ。

どちらかと言えば女王だと。


私はキングコブラ。

それは紛れもなく奴だと。


私はキングコブラ。

民の救済こそ我が使命。

それこそが私の生きる意味。

それこそが私の生きる動力。


私はキングコブラ。

王。

我が名はキング。

それは王。


王=私だとするならば、

私は王なのだけれど、

果たして本当にそれでいいのだろうか。


私は王でありたい。

皆に頼られたい。

尊敬の眼差しを向けられたい。

暴君などと呼ばれてしまうのは御免だ。


だが。


だれか、

今の私を助けてくれる者は居ないか。


私は今、王とはかけ離れた所にいる。

私はどうやら星を見るだけで泣くようになってしまったらしい。

私はどうやら月を見るだけで泣くようになってしまったらしい。


助けて。

ねぇ。助けてよ。


我が名はキング。

厳密にはクイーンだ。


そう、


クイーンなのだ。


女王。


女性。



私はどうやら恋をしたらしい。


結果はわかっている。


どうせ叶いやしない。


わかっている。


昨日もこの道が無駄に長くて、

今日もこの道が無駄に長くて、

明日もこの道が無駄に長くて、

以前はこの道がすぐに終わったのに。


あぁ。

石を蹴った。

転がった。

跳ねた。

少し前でかつんと音を立て割れた。


目の前で全て見てきたのに。

あの石が割れるように呆気なく終わるのだと思うと、また少し泣けてしまう。



風が強い。


遠くが霞む。


月が揺れる。


体が火照って落ち着かない。


フードをとった。


強い風が体をすり抜けていく。

でも体の中の熱は消えない。

この風はいつか地を駆け唸る馬、

それに跨って感じたあの風とは違う。


月が綺麗ですね。


誰かに言われてみたい。

いや、彼に言われたかったのかも知れない。


でももういい。

私は王。

王は私。


民の幸福を喜べない王など、

それはただ暴君であるだけ。

ならば私は暴君なのではないか。

イコールという記号が仕事をしてしまう。


我が名は女王。


我が名は暴君。

ならばこの傷の血を啜ろう。

ならばこの煌びやかな皮を引き剥がそう。


解き放たれたら。

解き放たれたら。

この王という名前を捨てよう。


捨てられやしないものを捨てよう。


捨てられやしないものを。

捨てられやいいのにな。


私はうずくまった。

王って、なんなんだろうな。

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