待って待ってよ待てないよ。
待って待ってよ待てないよ。
「待って~!」
公園。お昼休み午後0時。
鳥を追いかける少女が僕の足に泥を跳ね上げ、みていたであろう母親らしき女性が少々引きつった顔で僕に頭を下げる。
好物の卵焼きを頬張る。我ながら今日もいい出来栄えである。
茶色いベンチで今日もお昼ご飯。
いつも隣は空きスペース。
フィールドワークに必要なお道具が入った真っ赤な箱と、そろそろほつれが気になる探検服と錆びと塗装ハゲの部品、ゴムのブーツ、整備用の器具、本部連絡用の通信端末(LBsystem とかいうらしい)を身に付け、フレンズの生活圏内で研究者たちの欲する資料集めと、パトロールをする。
言うなれば、
僕は採取クエスト専門のハンターである。
彼女達の生活圏内であれば、サンドスター関係のみならず、毛皮に髪の毛、鱗、牙、少々コアなニーズだが排泄物も…
別に僕にそんな趣味は無い。
れっきとした仕事である。
ヘンタイなのは研究者たちである。
命の危機を感じるときもある。
そんなある意味面白い
つまらない日常を生きる僕にとって昼食は癒しの時間だ。
「待った~?」
おや、いつもの。
フンボルトペンギンのフレンズ。
昼飯を食べていると、晴れていれば絶対にここに来てじゃぱりまんをもちゃもちゃと食べる。
何処をみているのかわからない瞳が遠くの木々と目の前の僕とを混ぜる。
「やあ…こんにちは」
僕は彼女を待っていたワケでは無いが、彼女より僕が先に来ると決まって待ったかと問いてくる。
「んー…」
もっとも、
コノ会話は会話の意味をなさないが。
…普段ならば、ね。
「君ってさー…」
食べ終わったのだろうか、彼女が唐突に僕に声をかけてきた。
「いつも一人でご飯食べてるよねー?」
「そうですね、まあ」
「…友達いないの~?」
ブッ!
危うし、公共の場でお茶と唾液をぶちまける所であった。寸前で手とくちびるが防御力を持ち何とか助かった。
「失礼な…ちゃんと友達はいますよ…」
何故か今の話で顔が明るくなった。彼女はなかなかSっ気があるということだろうか。
…そのセンも捨てられないが今回は違うらしい。
「寂しそうだし、フルルがお友達になってあげるよ~」
僕はトップアイドルの彼女に、
友達になってあげると言われてしまった。
_________________
「今日もお昼一人なの~?」
相変わらず彼女は僕の隣でじゃぱりまんをもっちゃもっちゃと頬張っている。
「あなたがいるから二人ですけどね」
このやりとりはn回目である。
一方的に友人関係を結ばされた彼女の名前はフンボルトペンギンのフルル。
「そっかー」
まったく、わかっているのかいないのか。
そもそも、友人関係を持つならば僕はイヌ科が良かった。イエイヌちゃんとか、オオカミ先生とか、ニホンオオカミちゃんとかキタキツネちゃんとかさ…
もふりたかったのだ。
尻尾を、耳を、髪の毛を。
愛でたかったし甘えさせてやりたかった。
まぁそうなれるかは別として。
僕はパークを駆けずり回っては依頼をこなすという生活なので、定住はせず、研究所に許可を取ってその辺でキャンプをしている。
故に公園は中継点として優秀なのだ、今日もまた同じベンチで食事をとる。
「今日のおにぎりしょっぱい~」
「…何か文句でも?」
「おいしーい…」
クソ、この子といると気が狂いそうだ。
僕はさっさと道具を担いでいつもの道をあるいていく。
「あれ…待ってよ~…」
__________________
「うわ、空き缶に、自転車だ…
パークに報告して、それから処分だな」
やはり心無い客が捨てていくようだ。
いや、フレンズが面白がって巣に使ったりあつめたのかも知れないが、無機物は基本的に危ない。
セルリアンになる可能性がある。
それにしても…自転車…?
こんな所にあるとは珍しい。
しかも新しいし…防犯登録もしてある。
ん?名前か…挙率 影良?
あげりつ かげりょう?
あえりつ かげりゅあ?
あェりつ かげらぁ?
アリツカゲラ?
アリツカゲラッ!そぉっれっ!
(ダッダカダカダカ)(足踏み)
コレ、アリツカゲラさん!(のチャリ)
こんなお名前、ファンタスティック!
(ほんとはきょすい えよしと読みます)
「…何処、私の自転車…アレが無いと旦那さんと一緒に物件めぐりできないのに…」
遠くに影。
…お探しなのだろうか、コレ。
__________________________________
「よぉし…出来た出来た。」
テントの中、朝の5時。
採取クエスト専門ハンター
キノコ狩りの男の朝は早い。
塩をまぶした米を手のひらで握り込む。
丁寧に、丸く、丸く。ひたすら丸く。
フライパンで卵を焼く。真ん中にとろみを残すことで得も言われぬ食感となる。チーズを忍ばせてもいい。
野菜を刻み、作り置きのソースと和える。
口にカットしたりんごを放り込む。
口内でしんわりと蜜が伸び、食感と唾液に絡む。喉ににひんやりと響いた。
「わぁここにいたーおはよ~」
それは突然の来客であった。
あのフンボルトペンギンのフルルが僕の
手には、僕が無くしたとばかり思っていたコテが握られていた。
…僕は、バターナイフを構えた。
殺す気は無い。殺されるつもりも無い。
自己防衛。この仕事じゃ基本だ。
「何の用ですか…いつものように特に無いなら帰ってください」
「え、えぇ~?
悪いことするわけじゃ無いよぉ~、忘れ物届けようと思って、それでえとぉ…」
「あぁ、移植ごてですね。ありがとうございます。それでは。」
コテを半ば強引に取り上げ、テントの入口をしめた。
「お~い、開けてよ、なんで閉めるの~」
質問に答えようとは思わなかった。
一瞬、申し訳なく思いもしたが、どうでも良くなった。
しばらくして出かける時間になったので、出かけることにした。
テントの入口の布を開き外に出ると、何かに躓いた感覚があった。
ゴミかと思ったが、どうやら違うらしい。
「…弁当箱?」
大きな丸い弁当箱に、じゃぱりまんが一つ入っていた。
ピンク色のちょっといいヤツ。
何処の誰だか知らないけれどありがとう。
僕の朝ごはんにメニューが追加されたのだ。
____________________
「まてまてー!」
晴れた空。午後0時。
いつものベンチで、いつものように遊んでいる子供(いわゆる趣味嗜好はない)をみたり、花を眺めたり。
そこまで変わらない景色。
足りない物と言えば…
いつもいるハトがいないな!
僕が勝手に緑の羽が多いから“わかば”と名付けたハトがいない。
アイツはパンをやると喜んで食べるかわいい奴で、いつかサンドスターが当たってフレンズになって、僕の所に来ないかとちょっと期待している。
まぁ別にいいか。
…今日はなんかふわふわするな。
風邪かも。早く休もう。
___________________
「はぁ~…なんでなのかな?」
フルルは考えた。
なぜ、かの人のオスに嫌われているのかと。
フルルには彼の考えがわからぬ。
などと勝手にナレーションを付けて申し訳なく存じます。マーゲイです。
内容がまるで走れゴマすりクソかわバード。
もといエロス。
いや、メロス。
それにしても最近の彼女は恋する乙女の顔をしている。いつも以上に練習に身が入っていない。いつも咥えているじゃぱりまんが無く、咥えられているのは彼女の指。
上の方をぽえ~…と眺めている。
そういえば公園に行くとお話してくれる人のオスがいるとか何とか言っていた。
それかも知れない。
昼…行ってみよう。
___________________
今日は“わかば”もいるし、濃いさつまいものような赤の入った“おいも”(命名僕)もいる。
かわいい奴らである。オスメスの関係なのか、二羽仲良くポッポ~ポッポ~言っている。
しばらくそこにいたところ、ネコ科であろうフレンズが隣に座った。
「こんにちは。」
眼鏡の奥の瞳が静かに光る。
穏やかながら鋭い目だ。
「あの…突然ですみません。フルルさんと仲の良い人のオスの方ってご存じですか?」
「…?さぁ、知りません。僕もお会いして、何度かお話させて貰ってますが僕じゃ無いでしょ?」
「そう…ですかね。フルルさんによると、ここのベンチでいつも一人でお昼ご飯を食べていると伺っているんですが…。」
んなっ…僕だというのか?
「それ以外には何か?」
「変な道具を沢山持ってて、腕にボスを付けてて、卵焼きが好きなオトコのヒトで、若そう…だそうです。」
「僕ですねそれ」
「あっ…そうなんですか?」
「僕ですね」
「ご年齢は?」
「必要ですか?21ですね。」
「卵焼き好きなんですか?」
「好きですね」
「フルルさんに忘れ物を届けられたのは?」
「僕ですね」
「彼女のオトモダチなのは?」
「僕…なんでしょうね」
「…フルルさんを追い返したのは?」
「僕、ですね。多分。」
やっぱり~…
後ろからそう声をかけられた気がした。
気味が悪い。今日は寝られるだろうか。
____________________________
その後、数週間に渡り彼女を見なかった。
だが、今日の深夜03:32になって。
緊急の依頼が入った。
『フンボルトペンギンのフレンズの捜索』
4時にキャンプ地を、弁当箱を拾った所へ持っていった。
「あぁ~来た~。おはよ~」
…まいった。
ターゲットが自ら顔を見せに来た。
急いで報告を入れようとする僕の腕を彼女は引っ張る。
「ちょっと、お話ししよ?」
「仕事ですので。」
そうは言ったがそろそろ可哀想だ。
報告はするが、ちょいと工夫しようか。
「もしもし、捜索について報告です、早朝にごめんなさい。」
『おぉっ!?見つけたか?』
「えぇ、ですが…“帰りたくない”と。」
『何っ?』
「提案です。僕がカウンセリングしてみます。健康状態と精神的安定が認められ次第、報告します。どうでしょう。」
『…任せたぞ。』
許可は取った。
さて、しっかり話を聞いてみるか。
「じゃぱりまん、美味しかった?」
彼女の質問のじゃぱりまんは、あのピンク色のだろうか。
「アレですか?美味しかったですよ」
よかった~とつぶやく。
急に瞳が僕を捉える。
今まで木々を映していたあの瞳に、今日は僕だけしかいないように見えた。
「実はさ~…」
切り出しは、理由は。
________
最初、といっても友達の初めよりも前。
彼女はそのときから僕に好意があったらしい
友達として関わってみようと。
ただ、僕はパークを飛んで歩く上に、仕事第一の人間である。なんだかんだ楽しいからね
そんな僕を引き留めようと、お昼ご飯をねだってみたり、テントを覗きに来たり、
口実になるように僕の移植ごてを盗んだり。
______________
「でも、想像以上に怒らせちゃってたみたいでこわくて…でも、会いたくて。」
普段ならば感情の乗らない顔に、
熱い涙が伝う
「どうしたら振り向いて貰えるかとか、機嫌どうしたらなおるかな、とか…
寂しかった、ずっと。
こんなに近くにいるのに、さわれもしなくて。ハトさんとかがうらやましかった。構って貰えて良いなぁって…
ねぇ教えて。フルルのこと、嫌い?」
「逆に教えてください。
あなたは、僕のこと好きですか?」
「うん、今も好きだよ?」
お昼御飯のときに、満腹にならなかった日が
数週間続いた。
それは
きっと、あなたのせいだ。
「えっ、何?待ってまってぇ~!」
上に覆い被さるように抱いた。
「待てるわけ、無いでしょ。」
コレは
僕のお昼ご飯をつまみ食いした
僕の初めての女性の友達の枠を埋めた
僕の仕事を邪魔した
僕の道具を盗んだ
僕に本部へ頭を下げさせた
僕に悪い風邪を引かせた
僕を知らずのウチに魅了した
あなたへの報復だ。
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