第9話 王都へ
デウスギアは、サマリア王国北部にあるレイヴァン侯爵の領地にいた。
そこは雪深く、夏が少ない雪原地帯だった…その筈だった。
「まあ、このくらいか…」
と、デウスギアは完成した新たなレイヴァン侯爵の領地、ルディン地方の未来都市を見下ろす。
隣には領主のレイヴァンがいる。
レイヴァンはデウスギアに頭を下げ
「ありがとうございました。これで…何時も…寒さで飢えていた領民達は、いなくなりました」
レイヴァンの領地の各地には、全長が10キロの円形の未来都市コロニーが幾つも設置された。
その円形機能都市は、強力な動力を生み出す反物質炉のお陰で暖かく過ごしやすい、さらにその内部で膨大な食料生産を可能として、エネルギー、資源、食料、医療、その他、人が暮らすのに十分な程の完全な循環機能都市となった。
要するに、宇宙で暮らして生ける程のコロニーを幾つも作ったのだ。
それをデウスギアは、三日でやり遂げた。
港街レイノのデータのお陰だ。
やっぱり実地で得られたデータは偉大だ。それを活用する手段を探すのに最短で行えるし、実地のデータを元に、住民達の不満の推測も可能で、素早く対応できる。
このルディン地方に出来た宇宙型コロニー都市達の全住民には、個々個人にとある端末を用意してある。
それは、無論、学習や生活向上に、様々な用件の依頼といった情報システムだが…住民が自ら領地の不満を書き込み、それに都市技術システムが対応するという、システム民主主義を組み込んだ。
これが、どのようになるかは、分からないが…。
とにかく、やってみる価値はある。
システム民主主義が成功したら、直ぐにレイノにも取り入れる。
この世界の政治は、中世レベルの貴族と王族だけによって運営されていた。
それが地球の20世紀では、投票で民の代表を選んで行う代議員システムになったが…結局は、民の意見を集約する事はできない。
この情報システムによるシステム民主主義に、王族も貴族も、代議員も要らない。
この現地に暮らす全ての人々が、政治に参加できて、色んな意見を言えて、それを分析、デウスギアの惑星を開発する程の
デウスギアは知っている。地球では、政治や宗教や、教えとった言葉だけで何とかしようとする愚かな理想主義者がいた。
残念ながら、その全員は世界を幸福にする事は無く、最悪の結果をもたらした。
ナチスのヒットラー、ロシアのスターリン、中華の毛沢東、カンボジアのポルポト。
探せば切りが無い。
結局の所、人を幸せにするには、技術や叡智を高めて、それを民に配り、使用して貰い、データを集めて向上させて、更に高めて配る。その連鎖しかないのだ。
デウスギア…中山 充は考える。
いずれ…ジャンヌのように素晴らしい子供達が誕生していき、ジャンヌのようにデウスシリーズを与えるに相応しい子供達が…この星から宇宙へ旅立つかもしれない。
養女にした娘のジャンヌからそういう期待を感じる。
そして、となりにいるレイヴァン候やリグレットのような人物達もいる。
自分の面子やプライドを殴り捨てて、民の為に尽くそうとする者達がいる。
その事実だけで、十分だ。
そして、また一人…自らを捨てても民を助けたいという者が来た。
それは最小限の護衛を連れたワイバーンの騎馬隊だった。
レイヴァン候は、ワイバーンの騎馬隊にある旗を見て
「アレは…隣国のフラドル王国の…」
デウスギアは、そのワイバーンの騎馬隊を見詰めていると、騎馬隊がデウスギアとレイヴァン候の傍に降り立ち、レイヴァン候の傍にいた護衛の騎士達が構える。
「どうか…矛を納めください」
と、フラドルの騎馬隊に守られて来る人物がいた。
フラドル王国、国王ルイである。
初老のフラドル王が、デウスギアの前に騎士達を伴って来る。配下の騎士達は警戒をしているが、フラドル王が
「デウスギア様…ですな」
デウスギアは肯き
「そうです。エデンズ・アークが主、デウスギアです」
フラドル王が両手を地に着いて頭を下げ
「お願いします。貴方様の手腕を、我が国でも発揮して、苦しむ我が国をお救いください!」
レイヴァン候や、周辺の護衛達が青ざめ、護衛達が
「王、お立ちになってください!」
と護衛達が、王を立たそうとする。
レイヴァン候が焦り
「フラドル陛下、どうか…お立ちください。賢君とされる貴方が…そのような」
フラドル王は頭を下げて涙して
「賢君など、名ばかり…民が苦しむのを王座で見るしかないこの無能…これしか出来ません。どうか…お力を」
王としての無力さを噛み締めるルイに、デウスギアは跪き…というよりは山が下がるような感じだが、ルイの肩に腕の一つを置いて
「陛下、我らエデンズ・アークは助けを求める方を無下には扱う事は、絶対にしません。陛下の国の現状は熟知しています。是非とも…我らに陛下達の国を良くするお手伝いをさせてください」
涙する顔をルイは上げ
「ありがとうございます。ありがとうございます」
レイヴァンは驚愕する。王さえ平伏すデウスギアの返答は何時も優しく思いやりがある。
これを見て思う。デウスギアは…必ずこの世界を変えてくれる。無益な争いばかりの世界を…救ってくれる。
そんな期待を感じずにはいられなかった。
同時に自分達の国がそれに気付かない事に腹立たしくなった。
リグレットは、遠くからデウスギア達を見た。
夫であるデウスギアがレイヴァン候達と丘へ出掛けたのを追って来た。
そこで隣国のルイ王がデウスギアに土下座して頼み込んでいる。
デウスギアは、優しく共に跪きルイ王に協力を惜しまないと告げている。
きっと、夫デウスギアの隣にいれば、こういう事を目撃する機会が増えるだろう。
そう、予感させられる。
◇◆◇◆◇◆◇
デウスギアは、自前の宇宙戦艦にいた。
ルシスとミラエル、リグレットと共に、王都リュッセでリグレットの父、サマリア王ディオンと面会する為の服装を考えていた。
色んな姿の様相の立体映像をデウスギアに被せて、妻達三人は、んん…と悩んでいる。
デウスギアは顔を引き攣らせる。
マジで色々と似合わない。
全身のタキシード…却下。威厳あるギリシャ神話風の布だけの様相…却下。ハワイアンな様相…却下。
ミラエルが
「ダメねぇ…似合わない」
ルシスが
「いっそうの事…人型形態でいった方が…」
リグレットが
「それでは、威厳がないので舐められると思う」
デウスギアが顔を引き攣らせて、何となく兵装を纏った姿を被せる。
これが…似合っているんだなぁ…。
三対のロボットの腕に、巨大な金属の翼、ガンダムのモビルアーマーのようなデカい脚部と装甲の体、頭部は第三眼がある三ツ目、もう…なんか…ネオジオングの体には、本当に兵器を纏った姿が似合う。
妻達三人は微妙な顔をする。
ルシスが
「戦いに行く訳じゃあないから…武装はねぇ…」
ミラエルが
「ダイダロスと同じ機神族だから…どうしてもねぇ…」
リグレットが
「もう、いっそうの事…そのままで行きましょう」
ミラエルとルシスが同時に肯き
『そうね…』
と、リグレットに同意した。
デウスギアは微妙な顔で
「すまんな。もっとこの体に関して設計の段階で…色々と考慮すべきだった」
ルシスとミラエルが微笑み
「良いんですよ。そのままが格好良いのですから」
と、ミラエルが良いルシスも同意の肯きをする。
リグレットも肯き
「私もそう思いますから…気にしないで」
デウスギアは微笑み
「ありがとう」
王都のサマリア王城では、王座を奥に大きなホールで各地の貴族達が集まっていた。
第三王女リグレットが勝手に婚姻して、尚且つ、その人物を頼っているのが貴族達には気に入らなかった。
リグレット自身、母が市井の者故に、貴族達の反発もあるが、反感の理由はリグレットが行ってきた民達の救済が原因だ。
まあ、気に入らないのだ。
サマリア王ディオンの両脇、右には第一王女のルディンと、その左には第二王女のアディナがいた。ルディンは金髪で快活な美人で体も男勝りに大きい。第二王女のアディナは桃色の髪で女性らしい大人しい月下美人だ。王女達は共に、母親の形質を受け継いでいる。でも、雰囲気としては、ルディンは父親であり王のディオンに近い。
王座のホールにいる貴族達が
「全く、これだから…市井の血を引いた者は…常識がないというか…」
別の貴族が
「得体の知れない輩に勝手に嫁ぐなぞ…王家の恥だ」
勝手を言う貴族に長女のルディンが眉間を寄せるも、その後ろにいる従者の女性騎士リグが
「ルディン様、今、ここで声を荒げるのは後にしましょう。あの者達には…」
ルディンは堪えて
「分かっている」
末妹をバカにされて腹が立ったが、ここで声を荒げるのは後々に響くとして…怒りを貯めて堪える。
第二王女のアディナが
「お父様…良かったのですか?」
父親であるディオン王は目を閉じて沈黙していると、レイヴァン候がホールに入ってきた。
「皆様…ご到着なされました」
貴族の一人が
「時間は守るようだな…」
と、何処か偉そうだ。
レイヴァン候が
「では、外をご覧ください。デウスギア殿の船が来ます」
貴族達が窓の外を見ると、奇妙な震動でガラス窓が揺れている。
んん?と一同が訝しい顔をした次に地平の彼方から巨大な金属の大地が現れた。
全長100キロ、デウスギアが持つ宇宙戦艦の中で中の下規模レベルが出現する。
窓の外を見た貴族達が驚愕で口が開いた。
デウスギアの100キロ程度の宇宙戦艦が、王都リュッセを覆い尽くしてしまった。
それを宇宙戦艦内で見たデウスギアが
「ありゃあ…洗濯物が…乾かないなぁ…」
ルシスが
「大丈夫ですよ。この気温と風量なら、十分ですから気になさらずに」
「そ、そうか…」
と、デウスギアは安堵する。
そして、王城に降りるエレベーターが王城の庭園通路に降りる。
「さて…行くか」
と、デウスギアはリグレット共にエレベーターに乗り
「じゃあ、多分…直ぐに終わるから…」
残るミラエルとルシスは手を振って
『いってらっしゃい』
と、見送った。
デウスギアとリグレットを乗せてエレベーターが庭園に降りた。
王城の王座ホールでは、王都を覆い尽くす程の宇宙戦艦を見て驚愕する貴族と、平然としているレイヴァン候。
そして、デウスギアは自分の三メートル半の巨体幅ギリギリの通路をリグレットと共に進み、王座のホールに入る大扉、デウスギアではチョット屈まないと入れない立派なドアを潜って王座のホールに入る。
入った瞬間、貴族達が、ネオジオングのような体のデウスギアに視線を集中させる。
今までのどんな種族、人族、エルフ、魔族、龍族、オーガ族、ゴブリン族でもないデウスギアに驚きしかない。
リグレットがデウスギアの左手の一つに触れると、デウスギアは肯き、視線が集中する王座までのレッドカーペットをリグレット共に歩き、リグレットが父であり王のディオンに跪き
「父上、突然の事で申し訳ありません。そして…夫の紹介もしないで、婚姻した事をお許しください」
ディオンはリグレット共に来たデウスギアを見詰める。
その視線は鋭い。
デウスギアは何となく、父のディオン王の視線の意味を察する。
娘を取られて怒っている父親だ。
デウスギアもリグレットの隣で跪き
「ええ…申し訳ありません。色々と不手際がありすぎて、何から謝罪すれば良いのか分かりませんが…。陛下の大事な王女様を…本当に申し訳ありません」
ディオンは沈黙と鋭い目のままだ。
隣にいる第一王女ルディンも察した。
娘を取られて怒っている。
ルディンが
「で、デウスギア殿…。今日は…何か、その…」
デウスギアは肯き
「はい、僅かなながらの手土産を…」
そう告げると、ホールの奥にある窓が開き、そこからエデンズ・アークの大天使族の彼女達が、大きな宝箱を幾つも運び込み、ホールの中に置いた。その数は40近い。
デウスギアが頭を下げ
「どうぞ、お納めください」
貴族の一人が宝箱を開けると
「ああああああああ!」
悲鳴を上げて転がり腰を落とした。
そう、満帆に入った魔導金貨、この世界での貴重な金貨や金塊が収まっていた。
「まさか!」
他の貴族達が、幅1メータサイズの大きな宝箱達を開けると、満帆に入った魔導金貨や魔導金貨の山に青ざめる程に驚愕していた。
この世界での通貨である魔導金貨は、様々な魔導具を作る際の貴重な資源だ。
それ故に、この世界の共通の通貨となった。
貴族達は驚愕する。40もの大宝箱は、このサマリア王家が持つ資産と同等の価値がある。
この魔導金貨や魔導金貨は、デウスギア達のエデンズ・アークにあるシステムで量産した。核融合でさえ簡単な、システム文明には簡単な事だ。
見た事もない魔導金塊の山に、貴族達が腰を抜かしていた。
第一王女ルディンと第二王女アディナは、驚愕する。
ルディンが
「父上、こんな凄い方の元へリグが行ったのですよ」
助け船を出してくれる。
デウスギアは、ディオン王の顔を見ると、もの凄く鋭い顔で自分をロックオンしている。
大量の魔導金貨や金塊でさえ、全く動じていない。
デウスギア、脂汗が出て来る。
そりゃあ、そうだ…。娘が知らん男と勝手に結婚して、怒らない父親はいないよね…。
金塊なんてどうでもいい!という父親にデウスギアは、悩んでいると、リグレットが
「父上、わたくしが、わたくしの意思で夫に嫁いだのです。夫を責めるのは間違いです」
リグレットが助けを出す。
ルディンが
「と、父上、リグが…申していますよ」
実はルディンとリグは、手紙のやり取りをしていて、大まかの事情を知っている。
さらに、デウスギアの手腕は、方々から響いていて、実際、未来コロニー都市となったレイヴァン候の領地にも行った。
だからこそ、リグレットが自らそうした理由を理解した。
リグレットの後押しを手伝う長女。
だが、父親であるディオンには全くの無意味だった。
王ディオンだってバカではない。ちゃんとデウスギアの事は聞かされて知っている。
隣国の魔皇国マーロリスの侵攻も防いでリグレットを救ってくれた。
さらに、魔王級の存在で苦しんでいた街を救い、飛んでも無く発展させたのも知っている。
このレールピア大陸に広がる教会の教皇さえ尊敬の念を贈る人物であると…。
凄い人物だと知っていても…やっぱり大切な娘を取られて腹が立つ。
ルディンとアディナは驚きを向ける。
何時も冷静で優しい王である父親が、感情的に怒っている姿に驚きだった。
デウスギアは、父親の頑として譲らない怒りを感じていると
「そう、腹を立てるなディオン」
と、ホールに入ってくる人物がいた。
それは正装をした王狼達だった。
レイヴァン候が跪き、貴族達も跪いた。
「これは、ようこそ先代様」
と、レイヴァンは告げる。
王狼は腹を立てる弟ディランの座る王座に近付く。
王狼とは隠れ蓑、弟ディランに王位を譲り、今もサマリア王国内にある悪と戦う現王ディランの兄にして、先代の王、正義王ディオル。サマリア王国の偉大なる先代の王である。
怒りに染まっていたディランが兄を見て
「兄上…」
と、言葉を話してくれた。
ディオルは弟が座る王座の前に来て
「そう、睨むな。コヤツ…デウスギアとの婚姻は、リグレットの言う通り…リグレットが頼み込んでなった事だ」
ディランが
「しかし、兄上…コイツは、王座を狙って娘を手駒にしたかもしれん」
ディオルはフフ…と笑み
「いいや、リグレットがデウスギアに婚姻を申し込んだ時に、コイツは、リグレットに怒ったのだぞ。自分の身を貶めるのは、父であるお前や家族達のお前達を貶めると、もっと自分を大事にしろ…となぁ…」
ディランがリグレットを見て
「本当か?」
リグレットは肯き
「はい。まるで、無鉄砲に動く私に怒る父上のようでした」
ディランがデウスギアに
「デウスギアよ」
「は」とデウスギアが答える。
「お前の目的はなんだ? 王位か? それとも支配か?」
デウスギアは立ち上がり
「残念ですが。違います。王位も要りません。支配もしません。陛下…この世界の現状をどう思いますか? 港街レイノや、レイヴァン侯爵の領地、隣国のフラドル王国の状況…どう感じますか?」
ディランは渋い顔をする。
知っている。飢える民、その為に人を殺す程で、地獄のようだ。
何時も、ディランは無力を噛み締めている。
あまつさえ、その現状があっても…ここにいる貴族達の大半は、自分の暴利を貪るだけ。それを咎められない王。
代を譲って、民を守ろうと戦う兄ディオンの方が余程、王に相応しい。
デウスギアはそれを見て察する。
「陛下、変えましょう。わたし達、エデンズ・アークの力なら可能です。陛下、わたくしもかつて、この国の民達と同じ苦しみに喘ぐ一人だった事があります。なればこそです。この国を…この世界を飢える事で苦しみ、未来の光を閉ざされるような現状を変えましょう」
貴族の一人が
「それが汝にとって何の得がある? 綺麗事を」
デウスギアは鋭い目を告げた貴族に向け
「綺麗事だと…ふざけるなぁぁぁぁ」
声を荒げるデウスギア
「キサマ等は、オレがやっている事は重々知っているはずだ! なのに…その自分のちっぽけなプライドを優先して、領民を苦しめて何が正しい! お前等のちんけな傲慢の為にどれだけの命が消えたと思っているんだーーーーーー」
怒りで、デウスギアは、ホールの床を踏み締める。
激震がホールを包む。何とか床は抜けなかったが…凹んだ。
「貴族だろうが、なんだろうが! どうでもいい! だが、上に立つ者なら、それに続いてくれる者達や、その下の者達、民を守れないで、何とする! オレはなぁ…知っている自分の欲求を満たす為に、人の命を貪る連中が数多にいたのを! お前等の為に、世の中がある訳じゃあないんだ!」
それを聞いて、レイヴァンや、隠れてバカ騒ぎから離れていた貴族の一団が頷いている。
全くのその通りだ。
それを気付く貴族の者達がどれ程いるのだろうか?
デウスギアが吼える。
「お前達が本当の貴族なら、民の為に、誰かの為に、頭を下げてプライドを投げ捨てる位の気高い事をできないでどうする! それが貴族だろうが! 王だろうが! それゆえに貴び者と言われるのではないのかーーーーーー」
貴族の三分の二が、何という失礼なヤツだ!と思っているが、他の三分の一…レイヴァン候のような本当の貴族は、デウスギアの言葉に深く感銘を受ける。
その通りだと…。
ディオンはフフ…と微笑み横で、デウスギアがハッとして
「す、すいません。失礼を…」
と、巨体を成るべく小さくして跪いた。
現王にしてリグレットの父ディランは、デウスギアの本心を聞いて視線を下げる。
デウスギアを煽った貴族、若い青年はディオンを見る。
そう、彼はデウスギアの本心を引き出す汚れ役を買ってくれた。
その青年貴族は満足だった。
これなら、デウスギアを頼っても後悔はない。
現王ディランが
「分かった。これで終わりだ。デウスギアよ。私と共にここに残れ、後は…去ってくれ」
◇◆◇◆◇◆◇
デウスギアと父王のディランだけになり、デウスギアが
「申し訳ありません。場を乱してしまって…」
ディランがデウスギアに
「リグは、市井の者が母親だ。私の力が足りなかった為に、苦労を掛けた。だからこそ、リグがやろうとする…誰かを助けようとする事を後押ししてきた」
「はい」
「なればこそだ。リグには幸せになって欲しい」
「はい」
「お前は…リグを守れるか?」
「んん…」とデウスギアは唸った後
「私はこれから後もズッとリグレットの味方です。どんな事があっても。守られるような器の彼女ではないでしょう」
父ディランはフンと笑み
「そうだな。分かった。今後ともリグを頼む」
そして、ディランは手を叩くと、王座のホールの大扉が開き、十数名の貴族達が顔を見せる。
その中にはレイヴァン候も、デウスギアを煽った青年貴族ルビッドも。
その貴族達がデウスギアの前に跪き、ルビットが
「先程の無礼、お許しください」
デウスギアが戸惑いを見せ
「いや、その…」
その貴族の最年長者が
「デウスギア様、レイヴァン候より、貴方様の手腕を聞いております。どうか…我らの領地にも貴方様の手腕を…どうか…」
民を救う為に、自分のプライドを投げ捨てて頭を下げれる貴ぶ者達、本物の貴族達がいた。
デウスギアも跪き
「皆さん、顔を上げてください。是非とも、協力させてください」
本物の貴族達が、心を打たれて涙して
『ありがとうございます』
と、感謝を告げた。
その姿を見る王ディランの隣にルディンとアディナが来て、ルディンが
「味方は、まだまだ少ないですが…」
ディランが娘達の小声で
「大丈夫だ。あの者は…王を超えた場所に立っている」
アディナが
「父上、王を超えた場所とは…」
ディランが
「かつて、古に世界に平穏をもたらした救済の11王のような気概を感じる。遙か東の大国にいる11王の生き残りの一人と似たような位を纏っておる」
ルディンとアディナは顔を見合わせる。
嘗て…ディランが若き頃、兄ディオンと共に東の果てにある大国へ行き、世界を救済した古の11王の生き残りである一人と、デウスギアは似た気概を纏っているのだ。
◇◆◇◆◇◆◇
東の大陸の一角を統治する東洋風の大和国、その帝にして不死と名高い全能帝と呼ばれる老人、帝が…魔法の力で作られた立体映像の書物に目を通している。
厳かで黒の朱色に染まった帝の部屋に、一人の青年が入る。
「父上、ただいま戻りました」
青年は和服のエルフ族だ。
帝は、書物を読みながら
「して、どうだった? 西の果てに現れた者は…」
青年エルフは微笑み
「バケモノです。信じられない程の工業生産能力と、技術力を持っています。おそらく、父上が来た世界より遙かに進んだ技能を持っていると…」
帝はフッと笑み
「ワシとて、それを越えた技術を持ち、今でも研鑽しておるが…それ以上か?」
青年エルフは困惑を浮かべ
「父上の事は尊敬しています。ですが…申し訳ありませんが…」
帝はエルフの息子の言葉を聞いて、書物を閉じ
「そうか…何れ会うことになるだろう。楽しみだ」
「はい」
と、息子のエルフが頷いた次に、エルフの息子の左腕から紫電が走り脇に飛んだ。
エルフの息子は刀を抜いて構えた先にある紫電が人の形になり、それはミカヅチになった。
ミカヅチが背筋を伸ばし
「いやはや、侵入するに骨でしたよ」
「キサマ!」とエルフの息子が吼える。
帝が
「もしや…」
ミカヅチは頭を下げ
「デウスギアが主、エデンズ・アークの守護神が一人、ミカヅチ。お初にお目に掛かる。大和国、帝…尊武王那賀壌…殿」
大和国の帝は驚きの次に笑みにして
「そうか…思い出した。あの時、我らの一番の先陣を切ってくれた三対の腕と鋼の翼を持つ機神の方の…か」
ミカヅチは目を見開き
「我が主をご存知か?」
帝は嬉しげに笑み
「その手の界隈では有名な方だったからなぁ…。そうか…その者が来たのか…」
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